評価申告書を100万円以下だからと提出しなかったのに、後から追徴課税と延滞税が同時に請求されることがあります。
輸入申告において関税と消費税の計算の土台となるのが「課税価格」です。この課税価格は、単純にインボイス(仕入書)に記載された金額と同じではありません。関税定率法第4条には「課税価格=現実支払価格+加算要素」と規定されており、インボイス価格以外にも課税対象に含まれる費用が存在します。
課税価格の基本的な構成要素は次の3つです。
- インボイス価格(現実支払価格):買手から売手に対して実際に支払われる、または支払われるべき価格のこと
- 輸入港までの運賃・保険料:Arrival Noticeに記載される海上運賃や、外航貨物海上保険の保険料(付保していない場合は不要)
- 加算要素:インボイスに記載されていないが課税対象となる費用群
つまり「CIF価格がそのまま課税価格になる」というのが基本的な理解ですが、それだけでは足りないケースが実務では頻繁に発生します。たとえば、海外メーカーに対して日本側が金型を無償提供している場合や、ライセンス契約に基づいてロイヤルティを支払っている場合は、それらの費用も課税価格に加算しなければなりません。加算要素が生じていてインボイスに反映されていないとき、その補正手続きとして必要になるのが「評価申告」です。
評価申告が必要なケースを把握しておくことが、記入例を正しく理解する第一歩です。
参考:評価申告制度の概要と提出要件について(税関 Japan Customs 公式)
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1408_jr.htm
評価申告書には2種類あり、どちらを使うかは課税価格の計算方法によって決まります。間違えて提出すると税関から訂正を求められることがあるため、使い分けは必須です。
📄 評価申告書Ⅰ(税関様式C第5300号)の使用場面と記入例
評価申告書Ⅰは、関税評価の原則(関税定率法第4条)に基づいて課税価格を計算する場合に使います。つまり、通常の輸入取引で加算・控除の調整が必要なケースが対象です。記入例として押さえておきたい主な記載欄は以下のとおりです。
| 記入欄 | 記入内容の例 |
|---|---|
| 申告貨物の品名・税番 | 「プラスチック成形品 / 税番3926.90」のように具体的に記載 |
| 輸入者住所氏名 | 自社の正式名称と住所(通関業者が代理する場合は代理人欄に記載) |
| 調整項目①現実支払価格のうち仕入書価格以外の額 | 前払金など、インボイス記載額に含まれない金額を記入 |
| 調整項目②加算要素 | 運賃・仲介料・容器費用・金型費用・ロイヤルティ・売手帰属収益など該当する項目の金額 |
| 調整項目③控除すべき費用 | 輸入港到着後の国内運送費用、据付費用、延払金利など |
| 合計欄 | 調整後の課税価格の総額 |
加算要素の欄(②)は細かく分かれており、「④材料・部品等の費用」「⑤工具・鋳型等の費用」「⑧ロイヤルティ・ライセンス料」「⑨売手に帰属する収益」など9項目が設けられています。それぞれ金額と計算式の根拠を記入します。
📄 評価申告書Ⅱ(税関様式C第5310号)の使用場面
評価申告書Ⅱは、関税評価の原則によらない方法(関税定率法第4条の2〜6)で課税価格を計算する場合に使います。具体的には「売手と買手の特殊関係が価格に影響している場合」「通常の計算方法では課税価格を算出できない場合」などが該当します。
つまり申告書Ⅱが必要です。親子会社間での輸入取引や、コミッション(成果報酬型)で販売収益の一部が売手に帰属するケースなどが代表的な場面です。
なお、無償取引や航空便貨物に船便運賃を適用する特例措置の場合は、申告書ⅠとⅡの両方が必要になることもあります。
参考:税関公式の評価申告書Ⅰ(PDF)様式と記載要領
https://www.customs.go.jp/kaisei/youshiki/form_C/C5300.pdf
実務で評価申告書を作成するうえで、加算要素の記入は最も間違いが起きやすいポイントです。以下に代表的な5つの加算要素について、記入の考え方を具体的に整理します。
🔧 ①金型を無償提供した場合
海外メーカーに製品を製造させるために日本側が金型を無償提供しているケースは、アパレルや家電部品の輸入でよく見られます。金型費用は「工具・鋳型等の費用」として課税価格に加算が必要です。たとえば、金型代100万円を製造予定数量10,000個で按分する場合、1個あたり100円を輸入申告価格に加算することになります。金型を日本から現地に送った際の海上運賃・保険料も提供費用として加算対象になることも忘れてはなりません。
🤝 ②仲介手数料(セリング・コミッション)
注意が必要な点として、「買付手数料(バイイング・コミッション)」は加算不要ですが、「仲介手数料(セリング・コミッション)」は加算が必要です。買付手数料とは買手のみのために働いたエージェントへの報酬であり、仲介手数料は売手・買手の双方のために働いた第三者への報酬です。記入欄では「②仲介料その他の手数料」に記入し、その根拠書類(契約書や送金証跡)を添付します。
©️ ③ロイヤルティ・ライセンス料
商標権や特許権のライセンスを受けて輸入している場合、そのロイヤルティが「輸入取引の条件として支払われるもの」であれば加算要素となります。「⑧ロイヤルティ・ライセンス料」欄に金額を記入し、ライセンス契約書の写しを添付するのが基本です。ロイヤルティが売上高の一定割合(例:純売上の3%)で設定されている場合は、金額確定後に修正申告が必要になることもあります。
📦 ④容器・包装費用
輸入貨物の梱包に使用するコンテナや特殊パッケージの費用がインボイスに含まれていない場合は、「③容器・包装の費用」として加算します。一般的な段ボールや緩衝材は通常インボイスに含まれていますが、繰り返し使用する専用容器(リターナブルコンテナなど)の費用は要確認です。
💹 ⑤売手帰属収益(バイバックアレンジメント)
輸入した貨物を国内で販売した際の収益の一部が売手に戻る契約になっている場合は、「⑨売手に帰属する収益」として加算が必要です。この収益の額が不明な場合は評価申告書ⅡまたはⅠとⅡの両方が必要になります。
これらすべてをチェックするのが原則です。
参考:税関 関税評価 質疑応答事例(加算要素の各論)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/kanzeihyouka/hyokajirei/jireishu.htm
評価申告書の提出が不要なケースとして広く知られているのが「課税価格の総額が100万円以下の場合」です。しかし、この条件には見落とされがちな重要な例外があります。
提出が不要になる条件は以下の3つです:
- 関税が無税(免税)または従量税のみの場合
- 仕入書ごとの課税価格の総額が100万円以下の場合
- ただし、同一人との間に継続して行われる輸入取引は100万円以下でも除外(提出必要)
3番目が特に注意が必要です。同じ取引先から定期的に輸入している場合、1回の輸入が100万円以下であっても「継続取引」に該当するため、評価申告書の提出が必要になることがあります。
さらに重要なのが、「評価申告書の提出を省略できる」と「加算要素の申告を省略できる」は別の話だという点です。たとえば課税価格100万円以下で申告書の提出を省略した場合でも、加算要素がある場合は課税価格に正しく加算して輸入申告をしなければなりません。申告書の提出を省略しただけで加算まで省略してしまうと、後の事後調査で過少申告と判定されます。
これが原則です。この誤解をしている輸入者は実務上非常に多く、税関の事後調査で最も指摘を受けやすいポイントの一つとされています。
参考:JETRO 包括評価申告の条件とメリット(日本)
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000A52.html
評価申告には「個別評価申告」と「包括評価申告」の2種類があり、どちらを選ぶかによって実務上の手間とリスクが大きく変わります。
📋 個別評価申告とは
輸入申告のたびに評価申告書を作成・提出する方法です。毎回提出が必要なため手間はかかりますが、適用期間の管理が不要で、スポット輸入や初めての取引先への発注では使いやすい方法です。記入例としては、輸入申告番号を記入した上で、B欄「輸入申告価格について」に調整項目と金額を記入します。
📋 包括評価申告とは
同一の内容の輸入取引が継続して行われる場合に、事前に評価申告書(包括申告書)を税関に提出しておく方法です。税関から「包括評価申告受理番号」が発行され、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)でその番号を入力することで個々の輸入申告時の評価申告書提出を省略できます。適用期間は最長2年間です。
ただし、包括評価申告の大きな落とし穴があります。包括評価申告書を提出して税関から受理番号をもらうと、手続きが完了したと思いがちですが、実際には輸入申告のたびに包括申告書に基づいた課税価格の加算計算を行う義務が引き続き残ります。受理番号があっても加算を忘れると、事後調査で修正申告を求められることがあります。
痛いですね。包括評価申告には「JASTPROから輸出入者コード(輸出入者符号)を取得していること」という前提条件もあるため、事前に確認が必要です。
令和7年(2025年)10月からはNACCSの第7次更改により「包括評価申告(HOC)業務」が新設されました。令和8年3月31日までに旧来の「汎用申請(HYS)」経由での提出から切り替えが必要になっているため、継続的に輸入している方は最新の対応状況を確認しておく必要があります。
参考:税関リーフレット「ご存じですか?評価申告」(令和7年7月版)
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/hyokashinkoku_leaflet.pdf
税関は輸入許可が下りた後も、関税法に基づく事後調査を実施する権限を持っています。調査のタイミングは輸入許可日から原則3年または5年後とされており、申告内容に不備があった場合は追加の税額が徴収されます。
事後調査で最も多く指摘を受けるのが「加算要素の申告漏れ」です。金型費用・ロイヤルティ・仲介手数料などがインボイスとは別の送金として行われており、通関業者から見えないところで処理されているケースが多いことが原因です。通関業者は受け取った書類の範囲でしか課税価格を判断できないため、輸入者自身がインボイス外の費用を把握・開示することが必要です。
申告漏れが発覚した場合に発生する追加負担:
- 不足税額:本来支払うべきだった関税・消費税の差額
- 過少申告加算税:不足税額の10%(税関の調査前に自主的に修正申告した場合は5%に軽減)
- 延滞税:本来の納期限の翌日から納付日まで課される利息的な税金
たとえば不足関税額が50万円の場合、過少申告加算税が5万円(自主修正なら2.5万円)、さらに延滞税が数年分加わると合計の追加負担は相当な額になります。これは避けたいですね。
自分でミスに気づいた場合は、速やかに修正申告を行うことが重要です。修正申告は自社が取引している通関業者に依頼し、加算金額の根拠書類(請求書・送金証跡・契約書など)を提出します。税関から調査通知を受けた後に修正申告をすると加算税率が上がるため、自主発見・自主申告が原則です。
参考:税関カスタムスアンサー「納税申告に誤りがあった場合(修正申告、更正の請求)」
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1305_jr.htm