汎用申請(HYS)で包括評価申告を続けると、2026年4月1日以降は申告自体が受け付けられなくなります。
輸入申告において「課税価格」を正確に算出するには、インボイス価格だけでなく、仲介手数料や金型代・材料費など複数の加算要素を含めた申告が必要です。これらを毎回の輸入申告のたびに評価申告書として提出するのが「個別評価申告」ですが、同一内容の取引を継続的に行う輸入者にとっては非常に手間がかかります。
包括評価申告が基本です。
この制度は、同一の内容の輸入取引が継続して行われる場合に、輸入(納税)申告に先立って課税価格の計算方法を税関に申告するものです。包括申告書を提出すれば、最長2年間の適用期間内は個々の輸入申告における評価申告書の提出を省略できます。これは通関業者にとっても輸入者にとっても、毎回書類を作成・提出する負担が大きく減るというメリットがあります。
NACCSとは、「Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System」の略で、輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社が運営する日本の貿易における基幹システムです。税関手続き、入出港手続き、輸出入申告などをオンラインで処理でき、通関の電子化を支える根幹インフラとして機能しています。
令和7年10月12日のNACCS更改(第7次NACCS)にともない、包括評価申告の専用業務「HOC(包括評価申告)」が新設されました。これにより、これまで「汎用申請(HYS)」という汎用的な業務コードで対応していた包括評価申告が、専用の個別業務として独立したかたちになりました。これは使えそうです。
包括評価申告に関する税関公式の詳細情報(財務省・税関)。
NACCSにおける「包括評価申告」業務の新設及びAEO事業者向けの簡素化について(財務省・税関)
HOC業務を使いこなすには、関連する業務コードの関係を理解することが重要です。包括評価申告の一連の手続きは、主に4つの業務で構成されています。
まず「HOA(包括評価申告事項登録)」は、新規申告や申告変更、撤回などを行う業務です。ここで入力した情報が申告の基礎データとなります。HOAを行った段階でNACCSにより「包括評価申告受理番号」が自動的に払い出されるのが大きなポイントです。つまり、税関の審査終了を待たずに受理番号を把握できるため、次の輸入申告にすぐ利用できます。
次に「HOC(包括評価申告)」が本体の申告業務です。HOCを実施した後、税関が審査終了するまでの間はNACCS上で申告内容の訂正が可能です。また税関による審査終了後はNACCSに即時反映されるため、輸入申告に遅滞なく利用できます。HOCは税関の開庁時間に関わらず送信できる点も実務上の利便性として評価されています。
「HOB(包括評価申告呼出し)」は、HOAやHOCで申告した情報をNACCS上で呼び出す業務です。過去の申告内容を引用して新規申告や変更届を作成できるため、毎回ゼロから入力し直す必要がなくなります。これが基本です。
最後に「IHO(包括評価申告照会)」は、申告済み内容を確認するための照会業務です。適用期間終了後7年間、申告情報が保存されるため、事後調査や社内管理にも活用できます。
全体の流れとしては「HOAで事項登録 → HOCで申告送信 → HOBで引用しながら変更届 → IHOで照会・確認」という順序になります。
NACCS掲示板のHOC業務仕様(入力項目・処理フロー)。
5083 HOC 包括評価申告 業務仕様(NACCS掲示板)
令和8年4月1日以降、汎用申請(HYS)業務を利用した包括評価申告の提出は完全に終了します。これは現在すでに汎用申請で包括評価申告を運用している通関業者・輸入者にとって、見逃せない対応期限です。
移行が必要なのは期限前です。
税関も「お早めに『包括評価申告(HOC)』業務へ切り替えることをお勧めいたします」と明記しており、令和7年10月12日のNACCS更改以降は切り替えが実際に可能な状態となっています。特に「汎用申請(HYS)業務を利用して継続的に変更届を提出している場合は、変更に係る手続きが従来に比べて簡素化される」と案内されており、切り替えに積極的なメリットがある点が強調されています。
では、令和8年3月以前に汎用申請で提出済みの包括申告はどうなるのでしょうか?
税関の公式Q&Aによれば、NACCSで変更の届出を行いたい場合は、まず汎用申請業務で提出された包括申告を「撤回」し、改めて「HOC業務」で新規申告を行えば、以降はHOC業務による変更届が可能になります。旧申告番号の申告内容を引用して新規申告することも可能なので、内容を入力し直す手間は最小限に抑えられます。
また、変更届の回数制限にも注意が必要です。HOC業務では、審査終了(登録)後の変更届の受理回数が最大8回まで、申告添付訂正が最大9回までという上限が設けられています。この回数を超えると新規申告が必要になり、その際には旧番号の申告内容を引用して新規申告を行う手順になります。
単純なミスの訂正や輸出者名の変更であっても変更回数としてカウントされる点には注意が必要です。回数を消耗しやすいので、変更届の数を事前に見積もってから申告方法を選ぶことが重要です。
税関が案内する実務向け解説資料(横浜税関)。
包括評価申告のNACCS個別業務化について(横浜税関)
包括評価申告を利用するためには、いくつかの前提条件を満たしている必要があります。条件が整っていないと、包括申告そのものが認められません。
まず最初の条件は「同一の内容の輸入取引が継続して行われること」です。たとえば、同じ海外サプライヤーから同じ品目を定期的に繰り返し輸入しており、課税価格の計算方法が毎回同じケースが対象となります。逆に言えば、単発または散発的な輸入取引については包括評価申告の対象外です。
次に重要な条件として、JASTPRO(一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会)が発給する「輸出入者符号(輸出入者コード)」を取得していることが必要です。JASTPROコードは先頭が「P」から始まる識別コードで、NACCSの輸出入申告書の輸出入者符号欄に入力して使用します。
JASTPROコードは有料です。
新規登録手数料は7,700円(税込)で、有効期間は3年間。更新が必要なほか、1法人(または1個人)に対して1コードのみが発給されます。税関が発給する「税関輸出入者コード」は無料ですが、包括評価申告のためにはJASTPROコードが必要になるという点を見落としがちなので注意してください。
申告書の様式については、関税定率法第4条第1項の規定により課税価格を計算する場合は「輸入貨物の評価(個別・包括)申告書Ⅰ(C-5300号)」を、第4条の2以下の規定による場合は「申告書Ⅱ(C-5310号)」を使用します。これが条件です。
また、包括申告を行う際は、必要事項を記載した評価申告書2通(原本および交付用)を、輸入貨物の主要な輸入予定地を管轄する税関へ提出することになります。
JASTPROコードの概要・登録案内(JASTPRO公式)。
コードの新規登録|日本輸出入者標準コード(JASTPROコード)(JASTPRO)
AEO(Authorized Economic Operator)制度の認定を受けた輸入者・通関業者は、NACCS上でHOC業務を利用した包括評価申告において、通常よりも大幅に手続きが簡素化されます。この特典は、非AEO事業者との差が非常に大きいため、知っておく価値があります。
通常の包括評価申告では、課税価格の計算の基礎を明らかにする書類(契約書、請求書、価格表など)を申告のたびに添付しなければなりません。しかしAEO輸入者(特例輸入者)またはAEO通関業者(認定通関業者)がHOC業務を利用して申告する場合は、以下の2つの条件を同時に満たせば、添付書類の提出を省略できます。
- 適用期間中の包括申告(HOC業務によるもの)の添付書類から、全ての添付書類の内容について変更がないこと
- NACCSの「HOC(包括評価申告)」業務を利用していること
この簡素化を適用するには、HOCの備考欄に「TENPUSYORYAKU」と入力し、旧包括評価申告受理番号を「旧包括評価申告受理番号」欄に入力する必要があります。
厳しいところですね。
ただし、添付書類を省略した場合でも、その書類自体を廃棄してよいわけではありません。省略した関係書類は自社で適切に保管する義務があり、税関から求められた場合には提出できる状態にしておく必要があります。また、適用にあたって「事前に税関へ相談しなくとも差し支えありません」と公式に案内されており、いちいち税関に確認しなくても自社判断で適用を開始できます。
なお、この簡素化の対象となるのはHOC業務による包括申告のみです。汎用申請(HYS)や書面による包括申告は、たとえAEO事業者であっても対象外となる点は要注意です。これが原則です。
この条件を満たせているかどうかを一度チェックしておくことが、申告のたびに書類を準備する手間を大きく減らすことにつながります。
添付書類省略に関する税関公式Q&A。
関税評価に係る包括申告の添付書類に係る簡素化に関する質問及び回答(財務省・税関)
包括評価申告を正しく行っていても、そもそも課税価格に加算すべき費用を見落としているケースが少なくありません。税関の事後調査によって発覚する「評価加算漏れ」は、追徴課税の対象になるため、注意が必要です。
関税定率法第4条により、課税価格は「現実支払価格(インボイス価格)+加算要素」で構成されます。加算要素として代表的なものには次のようなものがあります。
- 輸入者から輸出者へ無償提供した材料・部品・金型代(製造コストとして加算が必要)
- 売手と買手の取引を仲介した第三者への仲介手数料(買付手数料は除く)
- 輸入貨物に係る特許権・商標権などの知的財産権の使用料(取引の条件として支払われるもの)
逆に課税価格から控除できる費用もあります。輸入港到着後の国内運送費・据え付け費用・本邦で課される関税や消費税・延払い金利などが該当します。ただし控除するためには金額が明確に証明できることが条件です。
なお、関税が無税(免税)の場合や、仕入書ごとの課税価格の総額が100万円以下の場合は評価申告書の提出を省略できます。評価申告書の提出は不要ですが、課税価格への加算計算自体は適切に行わなければなりません。これは忘れがちです。
評価加算漏れが事後調査で発覚した場合には、不足税額に加えて「過少申告加算税」と「延滞税」が発生します。過少申告加算税は、税関の調査通知前に自主的に修正申告すれば課税を回避できますが、調査通知後に修正申告した場合は増加税額の5%、更正予知後は10%が課されます。延滞税は不足税額に対して日割りで発生するため、発覚が遅れるほど負担が増えます。
早期の自主点検が条件です。
評価申告の加算要素を自社で定期的にチェックしておくことが重要です。特に取引条件や支払い構造が変わったタイミングでは、通関業者や税関の評価担当窓口に相談することをお勧めします。
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