通関業法は、輸出入における通関手続きを規制する法律であり、通関業者の業務内容や料金に関する規定も含まれています。通関業者が輸出入者の代理として通関手続きを行う場合、通関業法によって料金を明示することが義務付けられています。
かつては料金の上限が設定されていましたが、2018年10月の法改正によってこの上限は撤廃されました。しかし、現在でも多くの通関代行業者は、旧来の上限額をそのまま踏襲している傾向があります。これにより、業界内での料金相場が形成されています。
通関業務は専門的な知識と経験を要する業務であり、自社で行うよりも通関代行業者に委託するケースが多くなっています。その際に発生する費用は、輸出入ビジネスにおける重要なコスト要素となるため、正確な理解が必要です。
通関業法における料金規定は、時代とともに変化してきました。かつては「通関業法の基本通達」によって料金の上限が明確に定められていました。具体的には、輸入通関料については商品総額が201,000円以上の場合は11,800円、201,000円未満の場合は8,600円という上限が設定されていました。
2018年10月の法改正により、この料金上限規制は撤廃されました。これにより、理論上は通関業者が自由に料金を設定できるようになりましたが、実際には多くの業者が従来の上限額を踏襲しています。この背景には、急激な料金変更による顧客離れを防ぐ意図や、業界内での価格競争を避ける傾向があると考えられます。
通関業法では、通関業者に対して料金の明示を義務付けています。これは、輸出入者が通関手続きにかかる費用を事前に把握し、適切な業者選択ができるようにするための重要な規定です。料金明示の義務により、通関業務における透明性が確保されています。
通関業法に基づく輸入通関料は、商品の課税価格(商品価格)によって計算方法が異なります。主な区分は以下の通りです:
この料金体系は、かつて通関業法の基本通達で定められていた上限額に基づいています。法改正後も多くの通関業者がこの料金設定を継続しているため、業界の標準的な料金相場となっています。
輸入通関料の計算において重要なのは「1件」の定義です。輸入申告書1枚に記載できる品目数によって「件数」が決まります:
HSコード数 | 必要な輸入申告書の枚数 |
---|---|
1欄〜2欄 | 1枚(1件) |
3欄〜6欄 | 2枚(2件) |
7欄〜10欄 | 3枚(3件) |
つまり、3品目以上の商品を輸入する場合は、輸入通関料が2件分以上必要になることがあります。この点は、輸入コストを計算する際に見落としがちなポイントです。
また、輸入通関料には、輸出者が発行する各種書類のチェック、関税・消費税の計算、税関への申告などの業務が含まれています。これらの専門的な業務の対価として料金が設定されています。
通関業法に基づく通関手続きにかかる主な手数料項目と相場は以下の通りです:
手数料項目 | 費用相場 |
---|---|
輸入通関料(大額) | 11,800円 |
輸入通関料(少額) | 8,600円 |
輸入取扱料金 | 10,000〜30,000円/件 |
税関検査料 | 5,000〜10,000円 |
税関検査立会料 | 5,000円/時間 |
輸入許可前貨物引取申請料 | 5,100円/件 |
蔵置期間に関する申請料 | 7,000円/件 |
輸入取扱料金は、通関申告1件あたりに必要な手数料で、重量に関係なく一律に定められています。この料金は業者によって差が生じやすく、10,000円から30,000円程度の幅があります。取引量や実績によっても変動する傾向があります。
税関検査料は、税関検査の際に必須となる通関代行業者やフォワーダーの立会費用です。基本的な立会費用は5,000円から10,000円程度ですが、検査内容によっては追加費用が発生することがあります。例えば、貨物の開封や修復が必要な場合の作業料、検査場まで貨物を持ち込む運搬料、コンテナヤードや倉庫からの搬出入費用などが追加されることがあります。
輸入許可前貨物引取申請料は、輸入許可を待たずに貨物を引き取る必要がある場合に発生する手数料で、1件あたり5,100円が相場となっています。
通関業界では、通関業者が荷主(輸入者)に代わって関税・消費税を立替払いする慣行が広く存在しています。業界団体の調査によると、通関業者の約90%が立替払いを行っており、その理由の92.4%が「荷主からの立替払いの要請」によるものです。
この立替払いは通関業法上で明確に規定されているわけではなく、商慣習として定着したものです。しかし、この慣行は通関業者にとって大きな経済的負担となっています。特に消費税の増税により、立替金額が増加し、資金繰りの悪化を招いているケースもあります。中小通関業者の中には、売上の倍に相当するような高額の立替払いを行っている例もあります。
さらに深刻な問題として、荷主が倒産した場合に立替金を回収できなくなるリスクがあります。大手物流会社でも立替金の未回収を経験した「苦い経験」を持つケースが報告されています。
この問題に対して、公正取引委員会は2022年5月に、荷主が通関業者に立替払いをさせる行為を「不当な経済上の利益の提供要請」として、「問題につながるおそれがある」と注意喚起を行いました。財務省関税局も2021年2月に、通関業者との取引に関する配慮を求める文書を発出し、立替払いが「輸入者の優越的な地位を利用した不公正な取引となる場合がある」との見解を示しています。
解決策として、輸入者が税金を直接納付する「リアルタイム・オンライン口座振替方式」の普及が期待されていますが、「登録・稼働に時間がかかる」「個人の顧客は口座をつくれない」などの課題もあり、完全な解決には至っていません。
通関業法における料金体系と消費税には密接な関係があります。通関業者が提供するサービスには消費税が課税されますが、それ以上に重要なのは、輸入品に課される消費税の立替払いの問題です。
輸入品には、関税だけでなく日本の消費税も課税されます。消費税率は1989年の導入時は3%でしたが、その後5%、8%と段階的に引き上げられ、2019年10月からは10%となっています。この消費税率の引き上げは、通関業者による立替払いの負担を大きく増加させる要因となっています。
例えば、1,000万円の商品を輸入する場合、消費税率3%時代は30万円の立替でしたが、現在は100万円の立替が必要となります。約3倍の資金が必要となるため、通関業者の資金繰りに大きな影響を与えています。
また、消費税の課税対象となる「課税価格」の計算方法も重要です。輸入品の課税価格は、商品価格(CIF価格)に関税等を加えた金額となります。つまり、関税が高い商品ほど、消費税の課税ベースも大きくなり、立替払いの負担も増加します。
輸入通関料や輸入取扱料金などの通関業者のサービス料金にも消費税が課税されます。これらの料金に対する消費税は、通関業者から輸入者に請求される際に上乗せされます。
消費税の増税は、通関業者の立替払い負担を増加させるだけでなく、輸入者のコスト増加にもつながります。特に、消費税の還付を受けられない個人輸入者や免税事業者にとっては、直接的なコスト増となります。
通関業法に基づく通関手続きの料金以外にも、輸出入には様々なコストがかかります。これらのコストを理解することは、総合的な輸出入コストの把握に不可欠です。
1. 関税・消費税
輸入時には、商品の種類や原産国によって異なる関税率が適用されます。関税率は、商品総額が201,000円以上か未満かでも計算方法が異なります:
また、輸入品には日本の消費税(10%)も課されます。これらの税金は、通関代行業者が計算を代行してくれますが、最終的には輸入者が負担するコストです。
2. 他法令申請にかかる費用
商品によっては、輸出入に際して特別な申請書類が必要な場合があります。例えば:
これらの他法令申請にかかる費用は、商品の種類や申請内容によって異なります。事前に確認しておくことで、予想外の出費を避けることができます。
3. 貨物の配送費用
通関手続き完了後、保税倉庫から各納品先への国内配送にも費用が発生します。配送方法には以下のような選択肢があります:
通関代行業者の中には、物流会社と提携しているケースもあり、通関から配送までをワンストップで依頼できる場合もあります。
4. 保管料・蔵置料
輸入貨物は、輸入許可を受けるまで保税地域で保管する必要があります。保管期間が長くなると、追加の保管料が発生します。特に、搬入から3ヶ月を超える場合は、蔵置期間に関する申請(7,000円程度)が必要になります。
これらの追加コストを考慮することで、より正確な輸出入コストの見積もりが可能になります。特に初めて輸出入を行う場合は、通関業法に基づく料金だけでなく、これらの追加コストも含めた総合的な費用計算が重要です。
通関業法に基づく料金を最適化し、輸出入コストを削減するためのポイントをご紹介します。
1. 品目数の最適化
輸入通関料は申告書1枚につき2品目までが基本単位です。3品目以上になると、追加の申告書が必要となり、通関料も増加します。そのため、以下の対策が有効です:
2. 通関業者の選定基準
通関業者選びは、単に料金の安さだけでなく、以下の点も考慮すべきです:
3. リアルタイム・オンライン口座振替方式の活用
通関業者による立替払いを避けるため、輸入者自身が関税・消費税を直接納付する「リアルタイム・オンライン口座振替方式」の活用を検討しましょう。この方式のメリットは:
ただし、口座開設や稼働に時間がかかるため、継続的に輸入を行う事業者に適しています。
4. 税関検査対策
税関検査が実施されると、検査料や立会料などの追加コストが発生します。検査リスクを低減する