通関業法における欠格事由は、通関業の許可を受けることができない、または既に取得した資格を失う法定条件を指します。これらは主に通関業務の適正な遂行を確保するために設けられています。
欠格事由は大きく分けて「絶対的欠格事由」と「期間制限のある欠格事由」に分類できます。
絶対的欠格事由には以下のものが含まれます:
これらの条件に該当する場合、該当状態が解消されない限り、通関業の許可を受けることはできません。特に破産者の場合は、復権を得れば欠格事由に該当しなくなります。
期間制限のある欠格事由は、一定期間が経過すれば解除されるものです。主な期間別の分類は次のとおりです:
【3年を経過しない場合】
【2年を経過しない場合】
【5年を経過しない場合】
これらの期間は、刑の執行終了日や処分を受けた日から起算されます。
通関業法では、通関業者と通関士それぞれに欠格事由が定められていますが、両者には若干の違いがあります。
通関業者の欠格事由は通関業法第6条に全11号にわたって規定されており、通関士の欠格事由(確認拒否事由)は同法第31条に定められています。
主な違いとして以下の点が挙げられます:
通関士の確認拒否事由も基本的には通関業者の欠格事由と同様の内容ですが、通関士特有の事由として「通関業務に従事することを禁止された者であって、その処分を受けた日から2年を経過しないもの」があります。これは通関士に対する懲戒処分の一種で、2年間は一般従業者としても通関業務に従事できなくなるという厳しい処分です。
通関業法における欠格事由に該当した場合、既に取得している通関業の許可や通関士の資格にどのような影響があるのでしょうか。
通関業者の場合:
通関業者が欠格事由に該当した場合、財務大臣はその許可を取り消すことができます(通関業法第11条)。ただし、法人である通関業者が欠格事由に該当した役員を更迭し、変更等の届出を行った場合には、許可取消しの通知書を送付することなく許可の存続が認められることがあります(通関業法基本通達11-3)。
許可取消しの主な事由は以下の通りです:
通関士の場合:
通関士が欠格事由に該当した場合、その資格を喪失します。通関士の資格喪失事由は以下の通りです:
特に注意すべき点として、通関士に対する懲戒処分には「戒告」と「1年以内の停止処分」がありますが、これらは資格喪失には至りません。一方、「通関業務に従事することの禁止」という処分を受けた場合、2年間は通関業務に一切従事できなくなり、欠格事由にも該当します。
通関業法における欠格事由の適用において、両罰規定の解釈は重要なポイントです。両罰規定とは、従業者等が違反行為を行った場合に、行為者本人だけでなく、その所属する法人等も処罰の対象となる規定です。
通関業法基本通達6-2では、「欠格事由に該当することとなるのは、行為者としてこれらの各号に規定する罰条に該当して罰金の刑に処せられ、又は通告処分を受けた場合をいい、両罰規定(関税法第117条、法第45条)の適用により罰金の刑に処せられ、又は通告処分に付された場合は含まれない」と明確に規定されています。
これは何を意味するのでしょうか?
例えば、通関業者の従業者が関税法違反を犯し、その結果、両罰規定により通関業者自身も罰金刑に処せられた場合、その通関業者は欠格事由に該当しません。欠格事由に該当するのは、直接違反行為を行った従業者本人のみです。
この解釈は、第55回通関士試験の問題でも取り上げられており、「通関業者が、同法第117条の両罰規定の適用により通告処分を受けた」ことは、通関業者の許可の取消事由には含まれないとされています。
ただし、法人である通関業者の役員が違反行為を行った場合は異なります。通関業法第6条第10号では、「法人であって、その役員のうちに前各号のいずれかに該当する者があるもの」は欠格事由に該当するとされています。つまり、役員が欠格事由に該当する行為を行った場合、その法人自体も欠格事由に該当することになります。
この両罰規定の解釈は、通関業者と通関士の資格維持において非常に重要な意味を持ちます。
通関業法における欠格事由は、通関業者や通関士にとって常に意識しておくべき重要な事項です。実務上の注意点と対策について考えてみましょう。
1. 法人における役員管理の重要性
法人である通関業者は、役員の選任・管理に特に注意が必要です。通関業法第6条第10号により、役員の中に欠格事由に該当する者がいる場合、法人自体も欠格事由に該当します。
対策:
2. 従業者の法令遵守教育
従業者が関税法違反等を犯した場合、その従業者自身が欠格事由に該当し、通関士資格を喪失する可能性があります。
対策:
3. 欠格事由該当時の迅速な対応
法人の役員が欠格事由に該当した場合、迅速な対応が許可維持の鍵となります。
対策:
4. 通関業務の継続性確保
通関業の許可が消滅した場合でも、現に進行中の通関手続については、当該許可を受けていた者が引き続き当該許可を受けているものとみなされます(通関業法第10条第3項)。この規定を理解し、業務の継続性を確保することが重要です。
5. 独自の内部監査体制の構築
法令違反を未然に防ぐための内部監査体制の構築も効果的な対策です。
対策:
通関業法における欠格事由は、一度該当すると資格回復までに長期間を要する場合があります。特に3年間の欠格期間が設けられている「禁錮以上の刑」や「関税法違反による罰金刑・通告処分」は重大な影響を及ぼします。日頃からの法令遵守と適切な社内体制の構築が、欠格事由を回避するための最善の対策といえるでしょう。
通関業務は国際貿易の円滑化と適正な関税徴収の両立という重要な役割を担っています。その担い手である通関業者と通関士には高い倫理観と専門性が求められるため、欠格事由の規定は厳格に適用されます。常に最新の法令知識を更新し、コンプライアンス意識を高めることが、長期的な業務継続の鍵となります。