通関業法改正と申告官署自由化で営業区域制限廃止

通関業法の改正により申告官署の自由化が実現し、通関業界に大きな変革をもたらしています。AEO通関業者の増加や営業所の集約など業界構造が変化する中、今後の展望とは?

通関業法改正と申告官署自由化の影響

通関業法改正のポイント
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営業区域制限の廃止

2017年の通関業法改正により、50年ぶりに通関業の営業区域制限が廃止され、AEO通関業者は貨物の蔵置場所や通関営業所の所在地に関わらず自由に通関手続きが可能になりました。

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申告官署の自由化

輸出入申告官署の自由化により、通関業者は柔軟に申告先を変更・集約できるようになり、業務効率化が進んでいます。

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通関営業所の減少

改正後3年間で全国の通関営業所数は約70ヶ所減少し、業界の再編が進んでいます。

通関業法改正の背景と2017年の主要変更点

2017年10月8日、約50年ぶりとなる通関業法の大幅な改正が実施されました。この改正は、グローバル化が進む貿易環境に対応し、通関業務の効率化と競争力強化を目的としたものです。

 

改正の最大のポイントは「営業区域制限の廃止」です。従来、通関業者は特定の税関の管轄区域内でしか営業できませんでしたが、改正後はこの制限が撤廃されました。特にAEO(Authorized Economic Operator)認定を受けた通関業者については、貨物の蔵置場所や通関営業所の所在地に関わらず、全国どこでも通関手続きが可能になる「オールフリー」の体制が整いました。

 

同時に実施された「輸出入申告官署の自由化」も重要な変更点です。これにより、通関業者は自社の利便性や取扱貨物に合わせて柔軟に申告先を変更・集約できるようになりました。例えば、東京の通関業者が大阪に蔵置されている貨物の通関手続きを東京税関で行うことが可能になったのです。

 

この改正は、2018年9月に関西国際空港が台風21号で被災した際にその効果を発揮しました。申告官署の自由化を活用して柔軟な通関手続き体制をとることができ、通関業者の事業継続に大きく貢献したことが報告されています。

 

AEO通関業者の増加と通関営業所数の変化

通関業法改正後、AEO通関業者の数は着実に増加しています。2020年10月1日時点でのAEO通関業者数は226者となり、AEO輸出者(231者)に迫る勢いで増加しています。これはAEO通関業者がオールフリーの通関手続きという大きなメリットを享受できることが主な理由と考えられます。

 

全国の通関業者(法人)におけるAEO通関業者の割合は既に2割を超えており、AEO事業者の中核を占めるようになってきています。ただし、AEO通関業者の新規認定数については、2017年に過去最高を記録した後は減少傾向にあります。2019年の認定数は12者で、2018年の32者と比べて6割減少しています。これは、AEO取得のメリットを感じる通関業者の多くが既に認定を受けたことを示唆しています。

 

一方、通関営業所の数は減少傾向にあります。申告官署の自由化前の2017年4月時点では2,131ヶ所だった全国の通関営業所数は、2020年4月時点では2,065ヶ所に減少しました。この3年間で約70ヶ所が減少したことになります。

 

これは、申告官署の自由化により、通関業者が人員配置の効率化を図るために通関営業所の集約・統合を進めた結果と考えられます。特にAEO通関業者は、地理的制約なく通関手続きができるため、営業所の統廃合を積極的に進めることが可能になりました。

 

通関業法基本通達改正と在宅通関の推進

通関業務の働き方に大きな変革をもたらしたのが、2017年10月8日の通関業法基本通達改正です。この改正により、通関業務の在宅勤務が新たに可能になりました。しかし、当初はほとんど浸透していませんでした。

 

大阪通関業会が実施したアンケートによると、コロナ禍以前は「在宅勤務を導入している」と回答した業者はわずか2%、「導入について検討中」も3%にとどまり、「現在、導入は考えていない」が67%と大多数を占めていました。

 

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて状況は一変します。財務省関税局は2020年3月上旬から、コロナ感染対策として通関業務の在宅勤務等の開始について、税関への申請に必要な就業規則や社内管理規定の準備が難しいことを考慮し、これらの要件を緩和する弾力的な運用を実施しました。自宅だけでなく、サテライトオフィスについての申請も認められるようになりました。

 

これを機に申請数は増加を続け、2020年10月1日時点で4,045人について在宅勤務の申請が行われています。ただし、これはあくまで「申請」の数であり、実際に「実施」されている割合は不明です。関係者によると、感染拡大により出勤不可能になった場合のBCP(事業継続計画)対策として申請しておくケースが多いとのことです。

 

2021年7月には通関業法基本通達のさらなる改正が行われ、在宅通関の環境整備が進められています。日本通関業連合会では、最新の情報を盛り込んだガイドラインを提供するなど、会員企業の在宅通関をサポートする取り組みを強化しています。

 

通関業法改正後のデジタル化とAI-OCR技術導入

通関業界の働き方改革では、デジタル化の推進も重要なテーマとなっています。特に大手物流会社では、AI-OCR(光学文字認識)技術を通関業務の帳票処理などに導入する動きが活発化しています。

 

AI-OCR技術の導入により、手入力ミスの削減や処理時間の短縮などのメリットが報告されています。これは将来的な人手不足への対応策としても期待されています。

 

税関の中長期ビジョン「スマート税関構想2020」では、通関手続きの一層のデジタル化が掲げられており、通関業者もこれに合わせた業務の革新が求められています。具体的には、以下のような取り組みが進められています:

  • 電子申告システム(NACCS)の機能強化
  • ペーパーレス化の推進
  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用
  • ブロックチェーン技術の実証実験

特に注目されているのが、AI技術を活用した通関書類の自動チェックシステムです。これにより、通関士の業務負担軽減と正確性向上が期待されています。

 

NACCSセンター:次期NACCSの開発計画について
また、2023年には「輸入申告項目・税関事務管理人制度の見直し」に関する改正も行われ、通関手続きの効率化が進められています。

 

通関業法改正と経済連携協定の影響による業務複雑化

通関業務を取り巻く環境変化として、経済連携協定(EPA/FTA)の拡大による手続きの複雑化も挙げられます。2018年12月のTPP11(米国を除く11ヵ国による環太平洋経済連携協定)、2019年2月の日EU・EPAなど大型EPAが発効し、2020年8月時点で日本は21ヵ国・地域と19のEPA/FTA等が発効済み・署名済みとなっています。

 

これらの協定の発効により、通関手続きにおいてはEPA原産地規則の習熟が求められるようになりました。日本通関業連合会では、この状況に対応するため専門研修の充実を図っています。

 

特にTPP11や日EU・EPAなどで導入されている「自己申告制度」では、「原産品申告書」を通関業者が代理作成する新たな業務が期待されていました。しかし、荷主への説明の負担や、業務の対価の面で課題があり、積極的には進んでいないのが現状です。

 

EPA/FTAの拡大に伴い、通関業者には従来以上に高度な専門知識が求められるようになっています。特に原産地規則は協定ごとに異なるため、複数の協定に精通する必要があります。

 

また、2025年1月からはサウジアラビアで通関業務に関する手数料規則の改正が実施される予定です。輸出通関手数料の免除や、輸入通関手数料の新計算方法の導入など、国際的にも通関業務の効率化と透明性向上が進められています。

 

通関業法改正と模倣品対策の強化

通関業法の改正に関連して、知的財産権侵害物品の水際対策も強化されています。2023年の関税法改正では、海外事業者に注文した模倣品(意匠権及び商標権侵害物品)が郵送等により国内に持ち込まれた場合、買手側が個人使用目的で購入する場合であっても、当該物品は関税法69条の11第1項9号の2の意匠権侵害物品・商標権侵害物品として「輸入してはならない貨物」となることが追加されました。

 

従来は、意匠権侵害物品や商標権侵害物品は、輸入者が業として輸入する場合にのみ「輸入してはならない貨物」となり、個人使用の場合は該当しなかったため、水際で取り締まることができませんでした。この改正により、個人使用目的であっても模倣品の輸入が禁止され、税関での取締りが強化されています。

 

この改正は、近年のインターネット通販の普及により、海外から個人向けに模倣品が直接輸入されるケースが増加していることへの対応策です。通関業者にとっては、こうした法改正の動向を常に把握し、適切な通関手続きを行うことが求められています。

 

また、令和7年(2025年)1月1日からは、輸出統計品目表及び輸入統計品目表の改正も予定されています。これにより、統計品目番号が変更されるため、通関業者は最新の情報を把握し、適切な申告を行う必要があります。

 

通関業法の改正は、グローバル化やデジタル化が進む中で、通関業務の効率化と高度化を促進するものです。通関業者には、こうした変化に対応するための継続的な学習と業務改善が求められています。日本通関業連合会会長の岡藤正策氏も、通関士の専門性向上やダイバーシティ推進に注力していくと述べています。

 

今後も、通関業法や関連法規の改正は続くと予想されます。通関業者は、これらの動向を注視し、適切に対応していくことが重要です。