紙の購入者誓約書をまだ保管している免税店は、7年間義務を果たしたつもりで税務調査に引っかかるリスクがあります。
購入者誓約書とは、非居住者が免税物品を購入する際に「購入後、必ず国外へ持ち出す」ことを誓約するために免税店に提出する書類です。消費税法の輸出免税制度に基づくもので、旧制度では免税販売を成立させるための重要書類として機能していました。
具体的には、旅券(パスポート)の種類と番号、販売事業者の名称と所在地、品名・数量・価格、そして「購入後に輸出することを誓約する旨」の記載が義務付けられていました。消耗品の場合は「購入日から30日以内に輸出する」という特別な誓約文言も必要でした。
誓約書そのものは、購入者が自筆でサインする形式でした。つまり、外国語対応も求められ、免税店スタッフが購入者に記入方法を説明しながら作業を進めるため、繁忙期は1人あたり数分の時間ロスが生じることも珍しくありませんでした。
旧制度での保存義務は7年間です。課税期間末日の翌日から2ヶ月を経過した日を起点に、7年間の保存が義務付けられていました。書類量が膨大になる点も、現場の大きな負担でした。
つまり、購入者誓約書は「免税販売の正当性を証明する根拠書類」だったということですね。
法的な位置づけとしては、消費税法第8条の輸出物品販売場制度に根拠を持ちます。非居住者への免税販売は実質的に輸出と同等とみなされるため、その証拠として購入者誓約書が機能していました。免税販売が後から否認された場合、この書類の不備が直接的な追徴課税の根拠になるケースがありました。
国税庁タックスアンサーNo.6559「輸出物品販売場における免税販売の手続」(免税要件・手続の法的根拠を確認できる)
2021年10月1日より、購入者誓約書は正式に廃止されました。電子化義務化によって、紙の誓約書・購入記録票・パスポートの写しという3点セットがすべて不要になり、代わりに「購入記録情報」の電子送信が義務付けられたためです。
これが基本です。
電子化後の流れを整理すると次のようになります。
| 旧制度(〜2021年9月) | 現行制度(2021年10月〜) |
|---|---|
| 紙の購入者誓約書を作成・保存(7年) | 電子的な購入記録情報を国税庁へ送信 |
| 紙の購入記録票を旅券に貼付・割印 | パスポートリーダー等で情報を電子取得 |
| パスポートの写しを提出・保管 | 写しの提出・保管は不要 |
| 書面で購入者に必要事項を案内(任意) | 書面または口頭で必要事項の説明が義務 |
特に注意したいのは、電子化後に新たな義務が生まれている点です。店舗は購入者に対して、日本語および外国語で「免税物品は国内で消費できないこと」「出国時に旅券提示が必要なこと」「持ち出さなかった場合の追徴リスク」を説明する義務を負うことになりました。
厳しいところですね。
説明方法は書面の交付・掲示、または口頭でも認められていますが、記録として残しておくことが実務上は重要です。税務調査時に「説明を行ったか」が問われることがあるためです。
また、購入記録情報の送信には、所轄税務署への「購入記録情報の提供方法等の届出書」の提出が必要で、国税庁から販売場ごとの「識別符号」が付与されます。この識別符号を送信データに含めることが必須要件となっています。届出を忘れると免税販売を継続できなくなるため注意が必要です。
国税庁「輸出物品販売場における免税販売手続を行う際の留意点」(電子化後の手続き義務・説明義務の詳細)
購入者誓約書が正式に提出されていても、免税販売が否認されるケースがあります。これは通関業従事者が見落としがちな重要ポイントです。
最も典型的なのが「転売目的が疑われる購入」への免税販売です。2024年1月に報道された東武百貨店の事例では、転売疑いの客に対して不適切な免税販売を行った結果、消費税約9,000万円を追徴課税されています。不適切な免税取引は計約8億円分に上ったとされました。
痛いですね。
さらに、2024年4月に報道された別の事例では、SNSで募集した「買い子」を使って転売目的で免税品を大量購入させた業者に対し、2年間の消費税計約2億3,000万円が追徴課税されています。
重要なのは、免税要件の根拠として機能してきた購入者誓約書があっても、「転売目的であることが明らか」と判断された場合には免税は認められないという点です。消費税法上、事業用・販売用として購入される物品は免税対象外とされているためです。
これらの兆候に気づいていながら免税販売を続けると、免税店側が消費税を全額負担するリスクが生じます。国税庁は「不正な免税110番」という通報窓口を設置しており、監視体制も強化されています。
通関業従事者としては、輸出申告に付随する書類確認の場面でも、免税購入の経緯に不自然な点がないかをチェックする視点が求められます。
国税庁「不正な免税110番〜STOP!免税店制度の不正利用〜」(不正事例・通報窓口の情報)
2023年4月1日以降、免税購入できる対象者の要件が大幅に絞り込まれました。これ以前は「非居住者」であれば幅広く対象でしたが、改正後は在留資格が「短期滞在」「外交」「公用」の者等に限定されています。
外国籍を持ちながら日本に長期滞在している「留学」「家族滞在」「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格保持者は、2023年4月以降は免税対象外です。つまり、外国人だからといって自動的に免税適用できるわけではありません。
意外ですね。
この点で誓約書が機能しなかった典型例が、過去の百貨店事件です。外国人客3人が計約3億6,000万円の買い物をした際に免税扱いにしたところ、大阪国税局が「購入者は定住者であり非居住者に該当しない」と判断。消費税約1,700万円の申告漏れが指摘されました。形式上は購入者誓約書が作成されていたにもかかわらず、です。
日本人の一時帰国者についても要件があります。海外在住期間が2年以上継続していることが条件で、かつ証明書類として「在留証明」または「戸籍の附票の写し」の原本提示が必要です。写真やコピーは不可とされています。
購入者誓約書の提出・署名があっても、対象者の資格確認が不十分であれば免税販売は無効になります。対象者確認が条件です。
国税庁「免税購入できる対象者の見直し」(2023年4月以降の免税対象者要件の詳細)
2026年11月1日から、日本の免税制度は現行の「購入時免税方式(ダイレクトタックスフリー)」から「リファンド方式(ポストリファンド)」へ完全移行します。これは購入者誓約書の廃止に続く、免税制度の最大級の構造変更です。
現行方式では購入時に消費税を支払わず免税で購入しますが、リファンド方式では、旅行者が一度税込価格を支払い、出国時に税関での持ち出し確認を受けた後、消費税相当額が還付される仕組みです。出国日から90日以内に税関承認を得ることが免税確定の条件です。
これは使えそうです。
主な変更点を整理すると次のとおりです。
| 変更項目 | 現行(〜2026年10月) | 新方式(2026年11月〜) |
|---|---|---|
| 販売時の消費税 | 即時免除(税抜で販売) | 税込で販売、後日還付 |
| 消耗品の特殊包装 | 必要 | 廃止 |
| 一般物品・消耗品の区分 | 必要 | 廃止 |
| 消耗品の購入上限額(50万円) | あり | 廃止 |
| 100万円超高額品の特定情報 | 不要 | シリアル番号等の付記が必要 |
| 免税確定のタイミング | 購入時点 | 出国時の税関承認後 |
通関業従事者にとって特に影響が大きいのは、税関での免税確認業務が大きく変わることです。従来は出国時に購入記録票(旅券貼付書類)を税関が確認していましたが、新方式ではKIOSK(無人端末)による自動照合が中心となります。国税庁の免税販売管理システムと税関データが連携し、購入日から90日以内の出国確認が電子的に完結します。
なお、2025年3月31日をもって「別送の取り扱い」も廃止されています。従来は出国時に税関で輸出証明を受ければ別送品でも免税が適用されていましたが、現在は免税対象は携行品のみに限定されました。これも通関実務で混乱しやすいポイントです。
リファンド方式への対応として、免税店は次の点を2026年11月までに整備する必要があります。
免税販売管理システムの「識別符号」登録など、届出書類の更新も求められます。これらの対応に漏れがあると、2026年11月1日以降に免税販売ができなくなるリスクがあるため、早めの準備が不可欠です。
国土交通省・観光庁「外国人旅行者向け免税制度の見直し(案)について」(リファンド方式の制度設計の詳細)
国税庁「免税販売手続の電子化に対応する必要があります」(電子化対応の公式リーフレット)