並行輸入品でも特許権侵害になります。
特許権は、発明を独占的に実施できる権利として特許法で保護されています。通関業務において特許権侵害物品は、関税法第69条の2に基づき税関が輸入を差し止める対象となります。特許権侵害物品は商標権侵害品に比べて数は少ないものの、技術的な判断が求められるため通関業務従事者にとって見極めが難しい分野です。
参考)税関における知的財産権侵害物品の差止め - 明倫国際法律事務…
令和6年の統計では、税関における知的財産侵害物品の輸入差止件数は33,019件で、そのうち特許権侵害物品は535件(構成比1.6%)でした。点数ベースでは37,802点が差し止められています。1日平均で約1.5件、103点の特許権侵害物品が水際で阻止されている計算です。
参考)令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況(詳細) :…
令和6年に税関が実際に輸入を差し止めた特許権侵害物品の例として、ゲームコントローラが挙げられています。これは見た目では判断しにくい内部構造や機能に関する特許を侵害していたケースです。特許権侵害品は外観だけでは真贋判定が困難なため、商標権侵害品よりも専門的な知識が必要になります。
税関での差止申立制度では、令和6年末時点で特許権の申立てが36件受理されており、前年比5.9%増加しました。つまり、発明を保護したい権利者が増えているということですね。申立件数は商標権(503件)や意匠権(144件)と比べると少ないものの、技術革新が進む分野では今後増加する可能性があります。
特許権侵害物品の輸入差止価額(推計)は全体で約282億円に達し、知的財産権の保護が経済的にも重要な意味を持つことを示しています。通関業務では、申告された貨物が特許権を侵害する可能性がある場合、税関から権利者に通知され、認定手続きが開始されます。
並行輸入とは、真正品を正規ルート以外から輸入する行為です。どういうことでしょうか?
商標権では一定条件下で並行輸入が認められますが、特許権では状況が異なります。最高裁判所のBBS事件判決では、日本の特許権者が海外(ドイツ)で製造販売した製品であっても、第三者がそれを日本に並行輸入する行為は日本の特許権を侵害すると判断されました。これは各国の特許権が独立した権利であるという「属地主義」の原則に基づいています。
参考)https://lex.juris.hokudai.ac.jp/coe/articles/tamura/casenote97c.pdf
ただし、並行輸入が適法となる例外的なケースもあります。具体的には、①日本の特許権者が海外での販売時に日本市場への流通を制限していない、②特許権者と海外販売者の間に実質的な同一性がある、③日本の特許権者が二重利得を得ない、という3要件を満たす場合です。通関業務では、これらの要件を満たすかどうかの判断が求められることがあります。
特許製品の並行輸入に関する争いは、権利者による税関への通関保留要請から始まることが多いです。韓国の事例では、特許権者が侵害被疑品に対して通関保留要請をし、取引先に警告状を発送した行為について、侵害被疑者が損害賠償請求をした裁判がありました。結果的には、特許審判院の審決を得た後の行為であったため違法とは認められませんでしたが、通関保留による経済的損失は大きいことが示されています。
参考)https://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/ip/case/2025/_549174.html?_previewDate_=nullamp;_previewToken_=amp;revision=0amp;viewForce=1
税関における特許権侵害物品の認定は、技術的判断を伴うため慎重な手続きが必要です。特許権者は、自己の権利を侵害すると認める貨物が輸入されようとする場合、税関長に対し輸入差止申立をすることができます。この申立により、税関は該当する貨物の通関時に認定手続きを開始します。
認定手続きでは、輸入者に意見陳述の機会が与えられます。輸入者は「特許権の対象ではない」「特許権者から実施許諾を得ている」などの反論ができます。税関は双方の主張を検討し、必要に応じて専門家の意見を求めながら侵害の有無を判断します。
特許権侵害と認定された場合、輸入者には3つの選択肢があります。①貨物を任意放棄する、②貨物を積み戻す(再輸出)、③不服がある場合は訴訟を提起する、という対応が可能です。通関業務従事者は、これらの手続きについて輸入者に適切に説明する必要があります。
万が一、知りながら特許権侵害物品を輸入した場合、関税法違反で刑事告発される可能性があります。令和6年には商標権侵害物品の密輸入で複数の告発事例がありましたが、特許権侵害についても同様のリスクがあることを認識すべきです。10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその併科という重い罰則が定められています。
税関による差止を回避するための隠匿工作も確認されています。商標権侵害品の事例では、本の中に腕時計を隠したり、他のイヤホンの外箱の中に侵害品を入れたりする手口が報告されています。特許権侵害品でも同様の隠匿が行われる可能性があります。
具体的な隠匿手口としては、①本を糊付けして開けないようにし内部に商品を隠す、②正規品の外箱に侵害品を入れ替える、③標章部分をシールや布で覆い隠す、といった方法があります。これらは全て税関の検査で発見されました。厳しいところですね。
通関業務従事者は、不自然な梱包や申告内容と実物の不一致に注意を払う必要があります。特に、技術的に高度な製品(電子機器、精密機械など)は特許権侵害のリスクが高いため、慎重な確認が求められます。疑わしい場合は、税関の知的財産担当部署に相談するのが基本です。
令和6年の差止実績では、中国からの輸入が件数ベースで80.6%(26,604件)、点数ベースで71.8%(931,082点)と大半を占めています。次いでベトナム、マレーシア、韓国からの侵害物品が多く、これらの国からの貨物には特に注意が必要です。輸送形態別では、郵便物が件数ベースで87.7%を占めており、小口貨物での侵害品流入が多いことがわかります。
通関業務で特許権侵害の疑いがある貨物に遭遇した場合、まず税関への速やかな報告が必要です。特許権侵害かどうかの判断は専門的な技術知識を要するため、通関業務従事者が独自に判断することは避けるべきです。それで大丈夫でしょうか?
税関に輸入差止申立が行われている品目については、税関のウェブサイトで公開されている情報を事前に確認できます。令和6年末時点で36件の特許権申立が受理されており、これらの情報を業務に活用することで、侵害品の流入を未然に防ぐことができます。定期的に最新情報をチェックする習慣をつけることが有効です。
輸入者から「真正品の並行輸入だから問題ない」と主張された場合でも、特許権については商標権と異なる判断基準が適用されることを理解しておく必要があります。前述のBBS事件判決の基準を満たさない限り、真正品であっても特許権侵害となる可能性があります。このような場合は、輸入者に対して専門家(弁護士や弁理士)への相談を勧めることが適切です。
特許権侵害物品の認定には時間がかかることがあり、その間貨物は税関に留め置かれます。輸入者にとっては納期遅延や保管料の発生などの経済的損失につながるため、通関業務従事者は早期の状況把握と適切な情報提供が求められます。通関保留が長期化する場合は、輸入者と密に連絡を取り、手続きの進捗状況を共有することが重要です。
税関のウェブサイトでは、特許権の輸入差止申立情報を検索できるシステムが提供されています。このシステムを活用することで、特定の商品が申立対象かどうかを事前に確認できます。通関業務の効率化とリスク管理のために、定期的にアクセスすることをお勧めします。