輸出通関手続きは、内国貨物を外国に向けて送り出す際に必要な一連の手続きです。関税法第2条によれば、輸出とは内国貨物を外国に向けて送り出すことを指します。この手続きは主に以下の5つのステップで構成されています。
特に重要なのが保税地域の役割です。輸出許可を受けた貨物は「外国貨物」となるため、原則として保税地域以外には置くことができません。そのため、輸出許可を得る前提で予め保税地域に貨物を搬入する必要があります。保税地域での検査後、問題がなければ税関長が輸出許可を出し、所有者が保税地域から貨物を搬出して外国船へ積み込むという流れになります。
この一連の流れを理解することで、輸出業務をスムーズに進めることができます。特に初めて輸出業務に携わる方は、この基本的な流れをしっかり把握しておくことが重要です。
輸出申告書には、貨物に関する詳細な情報を記載する必要があります。主な記載内容は以下の4つに大別されます。
特に「数量」と「価格」の記載には注意が必要です。数量は財務大臣が貨物の種類ごとに定める単位により、正味の数量を記載します。価格については、日本の輸出港におけるFOB価格として、常に日本円で申告する必要があります。
FOB価格とは、単に輸出貨物だけの価格ではなく、輸出するために外国船に積み込むための輸送費や通信費など、一切の費用が含まれた価格を意味します。
また、無償で輸出される貨物についても、有償で輸出されるものとして価格を記載する必要があります。つまり、相手先から輸出代金を受け取らない場合でも、申告を0円とせず、もし販売した場合の価格を申告しなければなりません。
輸出申告書の他に必要な書類としては、インボイス(商業送り状)、パッキングリスト、船荷証券(B/L)または航空貨物運送状(AWB)などがあります。これらの書類を適切に準備することで、輸出通関手続きがスムーズに進みます。
通常の輸出申告方法には、いくつかの例外があります。これらの例外を理解しておくことで、状況に応じた適切な申告方法を選択できます。
主な例外的な申告方法は以下の4つです:
これらの例外的な申告方法を理解し、適切に活用することで、輸出通関手続きの効率化が図れます。特に少額貨物や一時的な輸出の場合は、これらの特例を活用することで手続きの簡素化が可能です。
特定輸出申告制度は、コンプライアンス(法令順守)の確保を前提として、予め税関長の承認を受けた輸出者(またはその貨物)について、保税地域の外に置いたままで輸出通関手続きを行うことを可能にする制度です。この制度を利用することで、通常の輸出通関手続きと比較して大きなメリットがあります。
特定輸出申告制度の主なメリットは以下の通りです:
この制度を利用するためには、「特定輸出者」または「認定製造者」として税関長の承認を受ける必要があります。承認要件としては、法令順守規則の整備や電子情報処理組織を適切に利用できる能力などが求められます。
特定輸出申告制度は、輸出業務の効率化を図りたい企業にとって大きなメリットがあります。特に輸出量が多い企業や定期的に輸出を行う企業は、この制度の活用を検討する価値があるでしょう。
輸出通関手続きの電子化は、業務効率化の重要な要素となっています。特に電子情報処理組織(NACCS:Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)の活用は、通関業務の迅速化と正確性向上に大きく貢献しています。
NACCSシステムの主な特徴と活用法は以下の通りです:
NACCSシステムを最大限に活用するためには、システムの操作方法を習得するだけでなく、輸出通関に関する基本的な知識も必要です。また、システムのアップデート情報にも常に注意を払い、最新の機能や変更点を把握しておくことが重要です。
輸出業務の電子化は今後さらに進展すると予想されます。NACCSシステムの活用は、単なる業務効率化だけでなく、グローバルなサプライチェーンの中での競争力強化にもつながるでしょう。
輸出通関において、法律で輸出が禁止されている貨物や特別な取扱いが必要な貨物があります。これらを正しく理解し、適切に対応することは、通関業務従事者にとって非常に重要です。
関税法第69条では、以下の貨物は輸出してはならないと規定されています:
これらの禁制品が発見された場合、税関長はそれらを没収して破棄することができます。ただし、児童ポルノについては憲法上保障されている思想・表現の自由という基本的人権の問題に関わるため、没収や破棄という処分はできず、「輸出は許可しない」という立場にとどまります。
また、特殊な貨物として「外国貨物の積み戻し」(シップバック)があります。これは、例えば商品を輸入しようとして輸入通関前の保税地域での内容点検時に商品の欠陥が発覚し、送り返す場合などを指します。この場合も通常の輸出手続きが準用され、積み戻し申告、検査、許可という流れになります。
さらに、輸出貨物の中には経済産業大臣の輸出許可が必要なものもあります。例えば、武器や軍事転用可能な高度技術製品(デュアルユース品)などは、安全保障貿易管理の観点から特別な許可が必要です。これらの貨物を輸出する際は、税関の検査前に経済産業大臣の輸出許可を得て、その証明を税関長に提示する必要があります。
これらの禁制品や特殊貨物の取扱いを正しく理解し、適切に対応することで、法令違反や輸出許可の遅延などのリスクを回避することができます。通関業務従事者は、常に最新の規制情報を把握しておくことが重要です。
以上が輸出通関手続きに関する基本的な知識です。これらを理解し、適切に対応することで、スムーズな輸出業務が可能になります。特に初めて輸出業務に携わる方は、これらの基本をしっかり押さえておくことをお勧めします。