輸出通関手続きと貨物の申告から許可まで

輸出通関手続きの基本的な流れから特例制度まで詳しく解説します。貨物を海外に送り出す際に必要な手続きや書類、注意点を把握することで、スムーズな輸出業務が可能になります。あなたの会社の輸出業務を効率化するためのポイントとは?

輸出通関手続きの流れと申告方法

輸出通関手続きの基本
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申告から許可まで

輸出通関は貨物の申告、審査、検査を経て許可を取得するプロセスです

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必要書類

輸出申告書、インボイス、パッキングリストなどの書類が必要です

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保税地域での手続き

原則として保税地域で検査と許可の手続きが行われます

輸出通関の基本的な流れと保税地域の役割

輸出通関手続きは、内国貨物を外国に向けて送り出す際に必要な一連の手続きです。関税法第2条によれば、輸出とは内国貨物を外国に向けて送り出すことを指します。この手続きは主に以下の5つのステップで構成されています。

 

  1. 輸出申告:貨物の品目、数量、価格などを税関長に申告
  2. 輸出申告の審査:税関長による審査
  3. 保税地域への搬入:貨物を保税地域に移動
  4. 貨物の検査:税関による貨物検査
  5. 輸出の許可:問題がなければ税関長が許可

特に重要なのが保税地域の役割です。輸出許可を受けた貨物は「外国貨物」となるため、原則として保税地域以外には置くことができません。そのため、輸出許可を得る前提で予め保税地域に貨物を搬入する必要があります。保税地域での検査後、問題がなければ税関長が輸出許可を出し、所有者が保税地域から貨物を搬出して外国船へ積み込むという流れになります。

 

この一連の流れを理解することで、輸出業務をスムーズに進めることができます。特に初めて輸出業務に携わる方は、この基本的な流れをしっかり把握しておくことが重要です。

 

輸出申告書の記載内容と必要な書類

輸出申告書には、貨物に関する詳細な情報を記載する必要があります。主な記載内容は以下の4つに大別されます。

 

  1. 貨物番号・品名・数量及び価格
  2. 貨物の仕向地、仕向人の住所及び氏名
  3. 貨物を積み込む船舶(航空機)の名称または登録番号
  4. 貨物を入れる保税地域の名称、所在地

特に「数量」と「価格」の記載には注意が必要です。数量は財務大臣が貨物の種類ごとに定める単位により、正味の数量を記載します。価格については、日本の輸出港におけるFOB価格として、常に日本円で申告する必要があります。

 

FOB価格とは、単に輸出貨物だけの価格ではなく、輸出するために外国船に積み込むための輸送費や通信費など、一切の費用が含まれた価格を意味します。

 

また、無償で輸出される貨物についても、有償で輸出されるものとして価格を記載する必要があります。つまり、相手先から輸出代金を受け取らない場合でも、申告を0円とせず、もし販売した場合の価格を申告しなければなりません。

 

輸出申告書の他に必要な書類としては、インボイス(商業送り状)、パッキングリスト、船荷証券(B/L)または航空貨物運送状(AWB)などがあります。これらの書類を適切に準備することで、輸出通関手続きがスムーズに進みます。

 

輸出通関における例外的な申告方法と特例

通常の輸出申告方法には、いくつかの例外があります。これらの例外を理解しておくことで、状況に応じた適切な申告方法を選択できます。

 

主な例外的な申告方法は以下の4つです:

  1. 口頭または通関手帳による申告
    • 通関手帳:商品のサンプル品など一時的に輸入・使用される場合に適用
    • 旅客または乗組員の携帯品:口頭での輸出申告が可能
  2. Air waybill(航空貨物運送状)による申告
    • 適用条件:
      • 航空貨物であること
      • 無償の救じゅつ品や総額200万円以下の無償の商品見本
      • 経済産業大臣の輸出許可や承認を必要としないもの
      • 1品目の価格が20万円以下のもの
    • 輸出申告があったとみなされる場合
      • 例:コンテナの輸出入に関しては、「積卸コンテナ一覧表」を税関長に提出することで、輸出申告があったものと同義に扱われる
    • 輸出申告書の提出があったとみなされる場合
      • 電子情報処理組織(NACCS)を使用して輸出申告をした場合

これらの例外的な申告方法を理解し、適切に活用することで、輸出通関手続きの効率化が図れます。特に少額貨物や一時的な輸出の場合は、これらの特例を活用することで手続きの簡素化が可能です。

 

輸出通関における特定輸出申告制度のメリット

特定輸出申告制度は、コンプライアンス(法令順守)の確保を前提として、予め税関長の承認を受けた輸出者(またはその貨物)について、保税地域の外に置いたままで輸出通関手続きを行うことを可能にする制度です。この制度を利用することで、通常の輸出通関手続きと比較して大きなメリットがあります。

 

特定輸出申告制度の主なメリットは以下の通りです:

  1. 保税地域への搬入が不要
    • 通常の輸出通関では保税地域での手続きが必要ですが、この制度では自社倉庫などから直接輸出できます
    • 保税地域への搬入・搬出にかかる時間とコストを削減できます
  2. 輸出申告先の税関長が異なる
    • 当該貨物が置かれている場所または外国船舶に積み込もうとする開港(空港)もしくは不開港の所在地を所轄する税関長に対して申告可能
  3. 国内移動時の保税運送承認が不要
    • 保税地域外で輸出申告した貨物を国内移動する際に保税運送の承認が不要になります
  4. 輸出許可取り消し手続きの簡素化
    • 輸出許可を受ける必要がなくなった場合、新たに輸入申告をする代わりに取り消し申請だけで済みます

この制度を利用するためには、「特定輸出者」または「認定製造者」として税関長の承認を受ける必要があります。承認要件としては、法令順守規則の整備や電子情報処理組織を適切に利用できる能力などが求められます。

 

特定輸出申告制度は、輸出業務の効率化を図りたい企業にとって大きなメリットがあります。特に輸出量が多い企業や定期的に輸出を行う企業は、この制度の活用を検討する価値があるでしょう。

 

輸出通関における電子化とNACCSシステムの活用法

輸出通関手続きの電子化は、業務効率化の重要な要素となっています。特に電子情報処理組織(NACCS:Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)の活用は、通関業務の迅速化と正確性向上に大きく貢献しています。

 

NACCSシステムの主な特徴と活用法は以下の通りです:

  1. ペーパーレス化の実現
    • 従来の紙ベースの申告書類をPDFファイル等の電子データとして提出可能
    • 書類作成・保管コストの削減と環境負荷の軽減につながります
  2. 24時間365日の申告受付
    • システムは常時稼働しているため、時間を選ばず申告可能
    • 時差のある海外取引先とのビジネスがスムーズになります
  3. 申告から許可までの時間短縮
    • 電子申告により審査プロセスが効率化され、許可までの時間が短縮
    • 特に簡易審査扱いとなる案件では、ほぼリアルタイムで許可が下りることも
  4. データの再利用性
    • 一度入力したデータを保存・再利用できるため、定期的な輸出では入力作業が大幅に軽減
    • テンプレート機能を活用することで、類似案件の申告作業が効率化
  5. エラーチェック機能
    • システムが入力内容の整合性をチェックするため、申告ミスを減少させることが可能
    • コード入力などの標準化により、人為的ミスを防止

NACCSシステムを最大限に活用するためには、システムの操作方法を習得するだけでなく、輸出通関に関する基本的な知識も必要です。また、システムのアップデート情報にも常に注意を払い、最新の機能や変更点を把握しておくことが重要です。

 

輸出業務の電子化は今後さらに進展すると予想されます。NACCSシステムの活用は、単なる業務効率化だけでなく、グローバルなサプライチェーンの中での競争力強化にもつながるでしょう。

 

輸出通関で注意すべき禁制品と特殊な貨物の取扱い

輸出通関において、法律で輸出が禁止されている貨物や特別な取扱いが必要な貨物があります。これらを正しく理解し、適切に対応することは、通関業務従事者にとって非常に重要です。

 

関税法第69条では、以下の貨物は輸出してはならないと規定されています:

  1. 麻薬および向精神薬、大麻、あへん及びけしがら、並びに覚せい剤
    • これらの物質は国際的に厳しく規制されており、原則として輸出が禁止されています
  2. 児童ポルノ
    • 児童の権利を保護する観点から、輸出が禁止されています
    • 税関長が輸出不可と認める相当の理由がある場合は「輸出者への通知」という処理となります
  3. 知的財産権侵害物品
    • 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、または育成者権を侵害する物品
    • 偽ブランド品や海賊版などが該当します
  4. 不正競争防止法違反物品
    • 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号までに掲げる行為を組成する物品

これらの禁制品が発見された場合、税関長はそれらを没収して破棄することができます。ただし、児童ポルノについては憲法上保障されている思想・表現の自由という基本的人権の問題に関わるため、没収や破棄という処分はできず、「輸出は許可しない」という立場にとどまります。

 

また、特殊な貨物として「外国貨物の積み戻し」(シップバック)があります。これは、例えば商品を輸入しようとして輸入通関前の保税地域での内容点検時に商品の欠陥が発覚し、送り返す場合などを指します。この場合も通常の輸出手続きが準用され、積み戻し申告、検査、許可という流れになります。

 

さらに、輸出貨物の中には経済産業大臣の輸出許可が必要なものもあります。例えば、武器や軍事転用可能な高度技術製品(デュアルユース品)などは、安全保障貿易管理の観点から特別な許可が必要です。これらの貨物を輸出する際は、税関の検査前に経済産業大臣の輸出許可を得て、その証明を税関長に提示する必要があります。

 

これらの禁制品や特殊貨物の取扱いを正しく理解し、適切に対応することで、法令違反や輸出許可の遅延などのリスクを回避することができます。通関業務従事者は、常に最新の規制情報を把握しておくことが重要です。

 

以上が輸出通関手続きに関する基本的な知識です。これらを理解し、適切に対応することで、スムーズな輸出業務が可能になります。特に初めて輸出業務に携わる方は、これらの基本をしっかり押さえておくことをお勧めします。