船荷証券電子化と法律の課題|通関実務で知るべき商法改正

船荷証券の電子化が商法改正で進む中、通関業務従事者が直面する法的課題とは?電子船荷証券の有効要件、準拠法の問題、実務への影響を解説。あなたの業務は変わりますか?

船荷証券電子化と法律

法改正後も準拠法次第で電子船荷証券が無効になります

この記事の3つのポイント
⚖️
商法改正と電子化の法的根拠

2025年を目途に商法改正が進行中。MLETRに準拠した法整備により電子船荷証券に法的効力が付与されるが、運送人に発行義務はない

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準拠法による効力の不確実性

国際海上運送では外国法が準拠法となる場合があり、日本法で有効な電子船荷証券でも外国で無効と判断されるリスクが存在する

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通関業務への実務的影響

電子化により書類の紛失リスクや処理時間が削減される一方、システム対応やデジタル署名など新たな技術的要件への対応が必要

船荷証券電子化の法的根拠と商法改正


船荷証券の電子化に向けて、日本では商法改正による法整備が進められています。現行の商法では船荷証券が紙であることを前提としているため、電子船荷証券(電子B/L)の法的地位が不明確な状態が続いていました。
参考)https://www.moj.go.jp/content/001373713.pdf


法務省の商事法務研究会は2022年4月に報告書を公表し、「電磁的船荷証券記録」という新たな概念を導入する方向性を示しました。これは紙の船荷証券と機能的に同等の効力を持つ電子記録として位置づけられます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e8d050141c37bb95b9d39cdf4b074fbe58673893

法改正の背景には国際的な動向があります。2017年に国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)が「電子的移転可能記録モデル法(MLETR)」を公表し、シンガポールは2021年に法整備を完了しました。日本も2025年を目途に商法改正を目指しています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/cca590fb5fb301ef0f92e826421a61f78ac02937


ただし重要な点があります。商法改正後も運送人に電子船荷証券の発行義務は認められません。運送人が荷送人の承諾を得た場合にのみ発行できる仕組みです。つまり法整備が完了しても、実務で電子化が進むかは別問題ということですね。​
電子船荷証券として認められるには技術的要件を満たす必要があります。具体的には、①唯一の原本として特定できること、②支配を有する唯一の者を特定できること、③支配の移転が可能なこと、④適法な改変を除き情報が保存できることが求められます。​
法務省「商事法の電子化に関する研究会報告書」
電子船荷証券の技術的要件や法的効力について詳細な検討内容が記載されています。

船荷証券電子化がもたらす通関業務への影響

電子船荷証券の導入は通関業務に大きな変化をもたらします。現状では紙の船荷証券が貨物より遅れて到着する「船荷証券の危機」という問題が特にアジア域内の短距離航路で頻発しています。
参考)https://www.nx-soken.co.jp/topics/logistics-2407-11

通関手続きの効率化が期待される一方で、実務上の課題も存在します。従来は紙の船荷証券を税関に提出していましたが、電子化後はシステム連携が必要です。NACCSなどの通関システムと電子船荷証券プラットフォームとのAPI連携が想定されています。
参考)https://www.jpmac.or.jp/file/1670996601640.pdf


書類処理の時間が大幅に短縮されます。紙の船荷証券では郵送やクーリエで数週間かかっていた原本の受け渡しが、電子化により即時に行えるようになります。これは資金回収の迅速化にもつながりますね。​
ただし注意点があります。電子船荷証券を利用するには関係者全員が同じプラットフォームに加入する必要があります。取引相手がシステムに未対応の場合、結局は紙の船荷証券に転換せざるを得ません。​
入力ミスや不備書類の削減も見込まれます。手入力や転記作業が不要になり、システムによる自動チェックが可能となるため、属人化の解消にもつながります。デジタル化が基本です。​

船荷証券電子化に伴う法的リスクと対策

電子船荷証券には看過できない法的リスクが存在します。最大の問題は準拠法です。国際海上運送では契約の準拠法が日本法とは限らず、外国法が適用される場合があります。​
日本法で有効な電子船荷証券でも、外国の裁判所で争われた場合、その国の法律で無効と判断される可能性があります。電子船荷証券の法整備が遅れている国や日本とは異なる内容の法律を持つ国の法が準拠法になると、権利が保護されないリスクがあるということです。​
物権的効力の対抗に関する問題もあります。法改正により電子船荷証券に物権的効力が付与されますが、それが第三者に対抗できるかは準拠法次第です。規約型の電子式船荷証券は規約当事者以外の第三者に効力を対抗できないという限界があります。​
技術的要件を満たさない場合のリスクも重要です。電子船荷証券が事後的に不正複製され、支配を有するかのような外観を持つ者が複数現れた場合、当初から技術的要件を欠くものとして無効と判断される可能性があります。こうなると大変ですね。​
対策としては、取引開始時に準拠法を日本法とする合意を明確にすることが考えられます。また、国際P&Iグループが承認したシステム(essDOCS、Bolero、TradeLens等)を利用することで信頼性を確保できます。現在7社のシステムが承認を受けています。

船荷証券電子化のメリットと実務上の課題

電子船荷証券の導入により、年間約3,000億円のコスト削減が見込まれています。世界規模では6.8兆円のインパクトがあるとの試算もあります。これは単なる紙の削減だけでなく、業務全体の効率化によるものです。​
具体的なメリットは以下の通りです。📋紛失・盗難リスクがゼロになる、⏱️処理時間が数週間から数分に短縮される、💰郵送費や保管コストが不要になる、🔒改ざん防止機能により安全性が向上する、といった点です。
コンテナ船社は年間2,000億円から2,800億円の利益を得られるとの分析もあります。DCSAは2030年までに船荷証券を100%電子化する目標を掲げています。主要船社の強い意志が感じられますね。
参考)B/L 2030までに完全電子化|通関業務代行


しかし実務上の課題も多く残っています。法整備がされていないことへの不安、関係者全員のプラットフォーム加入が必要、プラットフォーム相互間の互換性がない、社内インフラや認知度の不足などが指摘されています。​
L/C取引での利用も課題です。信用状取引では銀行が船荷証券の原本を必要としますが、電子化への対応が進んでいない金融機関も多い状況です。金融のデジタル化も並行して進める必要があります。
現状では規約型の電子式船荷証券の利用が進んでいません。調査によると、日本のフォワーダーで規約型電子船荷証券の発行依頼を受けたことがある企業はゼロでした。船会社でも年間数十件程度に留まっています。​

船荷証券電子化における国際標準MLETRの役割

MLETRは「機能的同等性」という重要な概念を提示しています。これは紙の証券が果たしている機能と同等の機能を電子的記録が果たせば、同等の法的効果を認めるという考え方です。​
具体的には①単一性(唯一の原本の存在)、②占有の対象となること、③完全性(情報が保存されること)という3つの要素が求められます。これらは紙の船荷証券が持つ本質的な機能に対応しています。​
技術中立的なルールであることも重要です。MLETRは特定の技術や手法を要求せず、国の認証機関への登録なども不要としています。ブロックチェーンでも中央管理型システムでも、要件を満たせば認められます。
G7は2021年から電子的移転可能記録に関する協力枠組みを推進しています。2022年のG7デジタル大臣会合では、MLETRに合致する法的枠組みの実施と国際的な法改正支援が確認されました。​
日本の商法改正もMLETRに準拠した内容となっています。国際的な調和を重視し、外国で構築されたシステムも利用できるよう配慮されています。規約型電子式船荷証券の利用促進も期待されますね。​
ハーグ・ヴィスビー・ルールズとの関係も整理されています。手形と異なり、船荷証券については条約上電子化が否定されていないため、条約を破棄せずに電子化が可能です。電磁的船荷証券記録は有価証券である船荷証券とは別のものとして整理されています。​
日本海事センター「我が国における船荷証券電子化に関する法整備の意義」
MLETRの概要と日本の法整備の方向性について詳しく解説されています。
ロッテルダム・ルールズも電子化に関する規律を含んでいますが、2009年の署名式典以降、批准国は5カ国にとどまり未発効です。現時点ではMLETRが国際標準として機能しています。​




別冊NBL No.179 商事法の電子化に関する研究会報告書―船荷証券の電子化について―