AEO制度(Authorized Economic Operator)とは、貨物のセキュリティ管理とコンプライアンス(法令遵守)の体制が整備された事業者を税関が認定し、税関手続きの緩和・簡素化を提供する制度です。日本では2006年から順次対象事業者の範囲を拡大して導入されており、現在は輸出者・輸入者・倉庫業者・通関業者・運送業者・製造者の6区分をカバーしています。
認定製造者(AEO製造者)は、そのなかで製造業者を対象とする区分です。具体的には、貨物のセキュリティ管理とコンプライアンスの体制が整備された者として、あらかじめ税関長の認定を受けた製造者のことを指します。つまり、輸出する貨物を自社で製造している事業者が申請できる制度です。
ここで重要なのが「誰に直接的なメリットが生じるか」という点です。認定製造者になると、その製造者が作った貨物(特定製造貨物)を取得した輸出者(特定製造貨物輸出者)が輸出通関手続きを行う際に、保税地域に貨物を搬入することなく輸出許可を受けることが可能になります。つまり、製造者が認定を取ることで、取引先の輸出者にもメリットが波及するという構造になっています。
これは使えそうです。
ところが、2022年1月時点での日本のAEO製造者の認定数はなんと「0者」でした。国際的に世界97カ国以上が導入しているAEO制度の中で、日本では製造者区分の認定者が実質的にほぼ存在しない状態が長年続いてきたのです。認定通関業者が260者超・特定輸出者が230者超と活発に利用されているのと比較すると、著しいギャップがあります。
この背景には、製造業者が自社の輸出通関手続きを直接行うケースが少なく、通常は輸出者(商社や販売会社)が窓口となって輸出申告をするという商慣習が根強いことが挙げられます。認定を受けるメリットが「自社ではなく取引先輸出者に帰属する」という構造が、申請への動機を弱めている面があります。
税関 Japan Customs|認定製造者制度の概要・利用方法(公式)
認定製造者を含むAEO事業者の一覧は、財務省・税関の公式ウェブサイトで公開されています。AEO事業者一覧は管轄税関ごとに分かれており、東京税関・大阪税関・名古屋税関などの各税関のページから確認することができます。
一覧の構成はおおむね以下のとおりです。
- 事業者の名称(法人名・個人名)
- 法人番号
- 承認・認定を受けた税関名
- 事業者の種別(特定輸出者・特例輸入者・認定通関業者・認定製造者など)
ただし、認定製造者区分についてはこれまで認定数が非常に少ないため、一覧に掲載される事業者数も限られています。一覧ページを確認する際は、「認定製造者」の区分を絞り込んで検索するとスムーズです。
一覧が原則として公開されている点は重要です。なぜかというと、取引先企業がAEO事業者かどうかを確認したい場合、この一覧を使って調べることができるからです。たとえば、輸出者が取引先の製造者に「AEO製造者として認定されているか」を確認したいとき、税関のウェブサイトで照合できます。
確認は無料です。
また、輸出者側が特定製造貨物輸出申告の優遇を受けるためには、その貨物が「認定製造者が製造したもの」であることが条件となります。取引の信頼性確認という観点でも、一覧の活用は実務的な意味を持ちます。
なお、AEO事業者数の推移を見ると、2024年2月時点で全事業者数は754者(財務省関税局まとめ)に達しています。内訳は認定通関業者が最多の263者、特定輸出者230者、特定保税承認者(倉庫業者)約150者などとなっており、認定製造者はこの中でも少数にとどまっています。
税関 Japan Customs|AEO制度・AEO事業者一覧ページへのリンクも掲載(公式)
認定製造者の認定を受けるには、関税法に基づく5つの要件を満たす必要があります。申請先は、申請者の住所または居所の所在地を管轄する税関の認定製造者制度担当部門です。申請書類は「特例輸入者等 承認・認定申請書(C-9000号)」を使用します。
要件の内容は以下のとおりです。
| 番号 | 要件の概要 |
|---|---|
| ① | 関税法・輸出関連法令等への違反履歴が一定期間(2〜3年)ないこと。暴力団員等でないこと |
| ② | 製造した貨物の輸出申告に必要な「貨物確認書」の作成・交付など、輸出申告が適正に行われるよう業務を遂行する能力があること |
| ③ | 申請者の管理下で貨物を輸出しようとする者(輸出者)が法令違反・暴力団員等に該当しないこと |
| ④ | 申請者の管理下で貨物を輸出しようとする者が、NACCSを使用して輸出申告を行う能力を有すること |
| ⑤ | 輸出業務に関する「実施規則」を定めていること(責任部門・法令遵守体制・教育研修・懲罰規定などを含む) |
特に注意が必要なのが③と④です。認定製造者の要件は、自社(製造者)だけでなく、その貨物を輸出する輸出者側についても法令違反がないこと、NACCSを使える能力があることが求められます。つまり、取引先の輸出者の状況も要件に含まれるということです。これが原則です。
取引先の輸出者がNACCSを使えない場合、申請そのものが通らないリスクがあります。製造者が単独で要件を整えるだけでは不十分で、輸出者との連携が不可欠です。
⑤の「実施規則」は書類量が多く、責任者の氏名・職名から法令遵守監査部門の設置、財務状況の記載まで、11項目にわたる事項を盛り込む必要があります。中小規模の製造業者にとって、この書類整備の工数は相当な負担になることがあります。
こうした準備を整えるうえで、実際に申請を経験した通関士やAEO制度に詳しい行政書士・貿易コンサルタントに事前相談しておくことが、スムーズな申請への近道になります。
税関 Japan Customs|認定製造者の認定要件(詳細・公式FAQ)
認定製造者を取得した場合の主なメリットは、大きく3つに分けられます。
① 保税地域への搬入なしに輸出許可が取れる
通常の輸出手続きでは、貨物はいったん港や空港近くの保税地域(保税倉庫など)に搬入され、そこで税関の審査・検査を経てから輸出許可が下りる流れになっています。この工程には時間もコストもかかります。工場から港まで貨物を移送し、保税倉庫に預け入れ、許可が下りてから本船に積み込む、という複数のステップが必要です。
認定製造者が製造した貨物(特定製造貨物)については、その貨物を取得した輸出者が「特定製造貨物輸出申告」という特例を使えるようになります。これにより、保税地域に貨物を入れることなく輸出許可を受けることが可能になり、工場から直接船積みするルートを取れます。リードタイムと物流コストの削減が期待できます。
リードタイムの削減は、特に納期管理が厳しい製造業においては大きな競争優位になります。
② 申告官署の自由化
特定製造貨物輸出申告を行う輸出者は、貨物の蔵置場所にかかわらず、全国どこの税関長に対しても輸出申告を行うことが可能になります。これにより、輸出者が複数拠点を持つ場合や、申告処理を集約したい場合に業務効率化ができます。
③ 相互承認(MRA)による海外での税関手続き軽減
日本は2025年10月時点で、ニュージーランド・米国・カナダ・EU・韓国・シンガポール・マレーシア・香港・中国・台湾・オーストラリア・英国・タイ・インド・インドネシアの15カ国・地域とAEO相互承認を締結しています。
相互承認とは、日本のAEO事業者のステータスが相手国の税関にも認知され、その国における輸出入の書類審査・検査の負担が軽減される仕組みです。認定製造者(AEO製造者)についても相互承認の対象になっており、米国・韓国のAEO制度のバリデーション(検証)の際に認定製造者の資格が考慮されます。
これは意外ですね。
AEO事業者に雇用された従業員は、外務省が発行する「APEC・ビジネス・トラベル・カード(ABTC)」の申請書類の一部が省略されるというメリットも付随しています。海外出張が多い貿易担当者にとっては、小さいが実用的な特典です。
税関 Japan Customs|AEO制度 各制度のメリット一覧(公式)
冒頭で触れた通り、2022年時点でAEO製造者の認定数は「0者」という状況でした。世界97カ国以上がAEO制度を導入し、グローバルなサプライチェーンセキュリティの重要性が高まる中で、日本の認定製造者が実質的に存在しないというのは際立った特徴です。
その背景には、日本独自の商慣行があります。日本の製造業では、製品を商社・代理店・販売子会社などを通じて輸出するケースが多く、製造者が自ら輸出申告に関与することが少ない傾向があります。このため、「認定製造者になっても自社で直接使えるメリットが見えにくい」という声が現場から上がっています。
また、日本関税協会が実施したアンケート調査(2020年)では、AEO事業者全体の約40%が「維持コストの方が便益より大きい」と回答しています。認定を取得・維持するためには、物理的セキュリティ・人的セキュリティ・情報セキュリティの3分野にわたる体制整備が求められ、中小製造業者には担当者の配置や書類管理に伴う人件費・工数が重くのしかかります。
厳しいところですね。
一方で見逃せない動きもあります。近年、製造業のグローバル化が加速し、自社工場から直接海外顧客へ輸出するダイレクト輸出モデルを採用する中堅・中小製造業者が増えています。このような輸出形態をとる場合、認定製造者制度の恩恵はより実感しやすくなります。自社が輸出者を兼ねる形で特定輸出者(AEO輸出者)を申請するルートと組み合わせることで、保税地域を完全にスキップした工場直送の輸出フローを構築できます。
さらに、日本のAEO制度では「AEO事業者であることがサプライチェーンの取引条件になるか」という調査に対し、通関業者の36.5%が「AEO取得が取引条件とされた経験がある」と回答しています。今後、グローバルサプライチェーンのセキュリティ基準が厳格化される流れの中で、認定製造者の取得が取引先からの信頼獲得に直結するケースが増える可能性があります。社会的信用の向上が目的です。
貿易管理の実務においては、製造段階からのセキュリティ管理記録の整備や輸出管理体制の見直しをする際に、AEO制度の申請プロセスを「社内コンプライアンス強化の機会」として活用する企業も出てきています。外部の通関士や行政書士などの専門家と連携しながら体制を整えることで、認定取得のハードルを下げることができます。
公益財団法人日本関税協会|AEO制度の活用と効果(アンケート調査分析・PDF)