輸出してはならない貨物の認定手続きと通関実務の注意点

輸出してはならない貨物に係る認定手続きは、関税法第69条の3に基づく重要な実務プロセスです。通関業従事者が見落としやすいポイントや法的リスクを詳しく解説します。実務でどんなミスが起きているでしょうか?

輸出してはならない貨物の認定手続きと通関実務の対応

認定手続き開始の通知を受け取っても、10日間(行政機関の休日を除く)何も対応しないと、貨物は没収・廃棄されます。


この記事の3ポイントまとめ
📦
輸出してはならない貨物は4カテゴリ

関税法第69条の2では、①麻薬・覚醒剤、②児童ポルノ、③知的財産権侵害物品、④不正競争防止法違反物品の4種類が輸出禁制品として定められています。

⚖️
認定手続きは③④にのみ発動する

麻薬や児童ポルノは認定手続きなく即・没収廃棄が原則です。認定手続き(侵害か否かを判断するプロセス)は、知的財産権・不正競争防止法絡みの貨物に限って適用されます。

⏱️
輸出者の意見提出は開始通知から10日が期限

認定手続き開始通知を受けた輸出者が意見書・証拠を提出できる期間は原則10日(行政機関の休日を含まない)。この期限を逃すと、権利者側の主張だけで認定が進む可能性があります。


輸出してはならない貨物とは:関税法第69条の2の4カテゴリ



関税法第69条の2では、輸出してはならない貨物として4つのカテゴリが定められています。 通関業に携わる方なら基本知識ですが、実務でどのカテゴリに認定手続きが絡むかを把握していないと、対応が後手に回ります。 gtconsultant(https://gtconsultant.net/export-ban/)


  • ① 麻薬・向精神薬・大麻・あへん・けしがら・覚醒剤(覚醒剤原料を含む)
  • ② 児童ポルノ
  • 特許権実用新案権意匠権商標権著作権・著作隣接権・育成者権を侵害する物品
  • ④ 不正競争防止法第2条第1項第1号〜第3号・第10号・第17号・第18号に掲げる行為を組成する物品


①と②は「輸出してはならない貨物」と判断された時点で、認定手続きを経ることなく没収・廃棄の対象になります。 重要なのは③と④です。これらの知的財産権侵害物品および不正競争防止法違反物品については、「侵害しているか否かの判断が難しい」という理由から、関税法第69条の3により税関長が認定手続きを執ることが義務付けられています。 つまり認定手続きが発動するのは③と④のみです。 foresight(https://www.foresight.jp/tsukanshi/column/export-prohibited-items/)


①と②は認定手続きなしで処理されます。この区別が原則です。


通関実務の現場では、荷主から「これは普通の商品なのに止められた」という連絡が入ることがあります。こういった場面で真っ先に確認すべきは、止められた根拠が①②なのか③④なのかです。根拠が違えば、対応の手順も大きく変わります。


税関カスタムスアンサー「輸出してはならない貨物」(関税法の4カテゴリ一覧と説明)


輸出してはならない貨物の認定手続きの流れと各当事者の役割

認定手続きは、税関長が「この貨物は③または④に該当するかもしれない」と思料した時点でスタートします。 手続きの流れを整理すると、実務対応のポイントが見えてきます。 customs.go(https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_001.htm)


  1. 税関が輸出申告された貨物のなかに疑義貨物を発見
  2. 税関長が認定手続きの開始を決定し、権利者(特許権者等)と輸出者の双方に通知を送付
  3. 権利者・輸出者それぞれが意見書と証拠を提出(期限:原則10日、行政機関の休日を含まない)
  4. 特許権・実用新案権・意匠権に関しては、権利者または輸出者が税関長に対し特許庁長官の意見を聴くことを求めることができる
  5. 税関長が侵害か否かを認定し、結果を通知
  6. 侵害と認定された場合 → 没収・廃棄(または積戻し命令)


意見提出の期限は「10日」です。 これはカレンダー上の10日間ではなく、行政機関の休日(土日・祝日・年末年始)を含まない10日間です。年末年始をまたぐ場合などは実質的にかなり余裕があるように見えますが、書類準備に想定外の時間がかかるケースも多いです。期限内に申し出があれば最大20日まで延長できる場合があります。 jpo.go(https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/document/sinpan-binran/58-12.pdf)


また、特許庁長官が意見を述べる期限は、照会日から30日以内とされています。 権利者側にも輸出者側にも、それぞれ一定の機会が与えられている構造です。 jpo.go(https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/document/sinpan-binran/58-12.pdf)


特許庁「税関長からの意見照会」(認定手続きにおける特許庁長官への意見照会の手続き詳細)


輸出してはならない貨物と認定された後の処理:没収・廃棄と積戻し

認定手続きを経て、貨物が「輸出してはならない貨物に該当する」と認定された場合、税関長は当該貨物を没収して廃棄できます。 ここで通関業従事者が見落としがちな点があります。 itsumo365.co(https://itsumo365.co.jp/blog/global-business-trade-ban/)


没収・廃棄の対象には、回路配置利用権を侵害する物品は含まれません。
回路配置利用権侵害物品は、没収・廃棄ではなく積戻し命令の対象となるという違いがあります。専門的な内容ですが、通関士試験でも問われるポイントです。 itsumo365.co(https://itsumo365.co.jp/blog/global-business-trade-ban/)


また、商標権・著作権・著作隣接権を侵害すると認定された貨物については、外為法に基づく経済産業大臣の輸出承認は「原則として承認しない」とされています。 貨物を積み戻して海外に戻すことも、実質的にできなくなるということです。これは通関業者にとって大きなリスクです。 meti.go(https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/15_tokkyo/chizai.html)


侵害した権利の種類 認定後の処理 積戻し(輸出承認)
特許権・実用新案権・意匠権 没収・廃棄 権利者の同意があれば可
商標権・著作権・著作隣接権 没収・廃棄 承認しない(不可)
育成者権 没収・廃棄 経済産業大臣の承認が必要
回路配置利用権 積戻し命令 積戻し対象(別扱い)


これを整理すると、権利の種類によって出口戦略が全く異なります。 商標権侵害と認定された場合は積戻しも不可なので、貨物の価値はゼロになると考えるべきです。 meti.go(https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/15_tokkyo/chizai.html)


経済産業省「関税法第69条の12第1項の認定手続が執られた貨物の輸出について」(認定後の外為法上の承認手続きと承認基準)


輸出してはならない貨物に関する認定手続きで通関業者が対応を誤りやすい3つのポイント

実務の現場では、法令知識の欠如や社内連携のミスが違反の原因の上位を占めています。 経済産業省の調査(2013年4月〜2018年3月)によると、輸出法令違反の原因として「法令知識の欠如」が26%、「社内連携ミス等の過失による見落とし」が14%、「法令・運用の解釈誤認」が12%となっています。 この3つで全体の5割超を占めています。 b2b.alibaba.co(https://www.b2b.alibaba.co.jp/blog/5jgxDfablaDpVBYwyZsEut/)


通関業従事者が特に誤りやすいポイントは以下の3点です。


  • 🔴 誤り①「通知は権利者側だけに届く」という思い込み
    認定手続きの開始通知は、権利者と輸出者の双方に送られます。輸出者(荷主)が「税関から何か来ている」と気づかないまま放置するケースがあります。通関業者として、荷主への連絡確認を仕組み化しておくことが重要です。
  • 🔴 誤り②「特許庁長官への意見照会は税関が勝手にやる」という思い込み
    特許庁長官への意見照会は、権利者または輸出者が税関長に「求める」ことで動く手続きです。 税関長が自動的に照会するわけではありません。期限内に求めなければ、この機会を失います。
  • ss722076.stars.ne(https://ss722076.stars.ne.jp/toi/57C/Q5795.html)

  • 🔴 誤り③「認定手続き中でも通常どおり貨物を動かせる」という思い込み
    認定手続き中の貨物を保税地域から輸出しようとする場合、輸出貿易管理令第12条第2号に基づき税関長の承認が必要です。 無断で動かすと外為法違反になります。
  • meti.go(https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/15_tokkyo/chizai.html)


誤り③が特に深刻です。 認定手続き中に貨物を動かしてしまうと、外為法違反として刑事罰の対象になる可能性があります。法人の場合は10億円以下の罰金という非常に重い制裁です。通関業者がこのリスクを荷主に明示することが、信頼確保につながります。 b2b.alibaba.co(https://www.b2b.alibaba.co.jp/blog/5jgxDfablaDpVBYwyZsEut/)


税関「認定手続の流れ」(税関知的財産ホームページ・認定手続の開始から終了までのフロー)


輸出してはならない貨物の認定手続き:通関業者だけが知る「簡素化手続き」の活用

2023年10月1日に施行された関税法施行令改正(令和5年政令第158号)により、侵害物品認定手続きの「簡素化手続き」の対象が大幅に拡大されました。 以前は商標権・著作権・著作隣接権に限定されていたものが、特許権・実用新案権・意匠権・保護対象営業秘密にも拡大され、全ての知的財産に関する輸入差止申立に係る貨物が対象となりました。 asamura(https://www.asamura.jp/blog/2023/10/10/simplification-of-procedures-for-recognition-of-infringing-goods/)


簡素化手続きとは何でしょうか?


通常の認定手続きでは、税関が輸出者・権利者の双方から意見を聴いた上で判断するため、一定の時間がかかります。簡素化手続きでは、権利者が「侵害品である」と認め、輸出者が異議を申し立てない(または一定期間内に応答しない)場合に、手続きを短縮して早期に差止め・廃棄ができる仕組みです。 meilin-law(https://www.meilin-law.jp/%E7%A8%8E%E9%96%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%9F%A5%E7%9A%84%E8%B2%A1%E7%94%A3%E6%A8%A9%E4%BE%B5%E5%AE%B3%E7%89%A9%E5%93%81%E3%81%AE%E5%B7%AE%E6%AD%A2%E3%82%81/)


これは通関業者にとって何を意味するでしょうか。荷主(輸出者)が「異議なし」の姿勢を示すと、あっという間に廃棄が確定します。荷主への十分な説明と意思確認が、通関業者の重要な職務となります。荷主が内容を理解しないまま署名してしまい、貨物が廃棄されるトラブルは実際に起きています。


項目 通常の認定手続き 簡素化手続き
対象貨物 全ての疑義貨物 輸入差止申立に係る貨物(全知財)
手続き期間 数週間〜数ヶ月 大幅短縮
輸出者の関与 意見書提出の機会あり 異議申立なしで廃棄確定
拡大施行日 2023年10月1日〜


2023年の改正は通関実務に直結します。 対象範囲の拡大を把握していない通関業者は、荷主に適切なアドバイスができない状態になっています。社内の法令アップデートは定期的に行うことが必須です。 asamura(https://www.asamura.jp/blog/2023/10/10/simplification-of-procedures-for-recognition-of-infringing-goods/)


浅村特許事務所「税関における侵害物品認定手続の簡素化対象を拡大」(2023年10月施行の改正内容と実務への影響)


明倫国際法律事務所「税関における知的財産権侵害物品の差止め」(差止め申立から認定手続・簡素化手続きの解説)






週刊文春 2026年6月4日号[雑誌]