税関の輸出許可が下りても、外為法違反として最大10億円の罰金が成立することがあります。
2025年(令和7年)11月14日、経済産業省は「輸出貿易管理令の一部を改正する政令」を公布しました。そのうち最も影響範囲が広いリスト規制の改正は、3か月後の2026年(令和8年)2月14日に施行されました。今回の改正は「国際輸出管理レジーム会合における合意等」を国内法に反映したもので、毎年行われる定例改正の位置づけです。
施行によって、輸出貿易管理令別表第一に以下の3品目が追加されました。
| 追加品目 | 該当する項番 | 概要 |
|---|---|---|
| ペプチドの合成を行うための装置 | 3の2の項(2)10の追加 | 生物・化学兵器への転用懸念から追加 |
| 高エントロピー合金の粉 等 | 5の項(20)の追加 | 耐火性のある金属の粉・合金の粉も対象 |
| FPLDを組み込んだモジュール・組立品・装置 | 7の項(10の2)の追加 | 再構成可能な半導体チップを含む出荷形態全般 |
これらは追加ですが、規制強化の目的は明確です。特にFPLD(フィールドプログラマブルロジックデバイス)に関しては、ユーザーが回路構成を何度でも書き換えられる「再構成可能性」を軸に規制が設計されており、従来の「性能基準だけで判断する」という発想とは異なる考え方が導入されています。
なお、同時に施行された改正としては、技術管理強化のための官民対話スキームに係る対象技術の追加(2026年1月14日施行)もあります。また、別の施行日(2025年12月1日)でうなぎの稚魚が別表第二から削除された改正や、警察庁の要人警護に使う防弾衣等の一時的な輸出の特例化(2025年11月15日施行)もセットで公布されており、改正は多岐にわたります。
通関業従事者として最低限押さえておくべきは、2026年2月14日を境に「リスト規制の対象品目が増えた」という事実と、「それにともない最新版の該非判定書類が必要になる」という2点です。
参考情報:2026年2月14日施行の改正の概要について(経済産業省 公式プレスリリース)
輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました(経済産業省)
今回の改正の中で、現場への影響が最も大きいとされているのがFPLD(フィールドプログラマブルロジックデバイス)の規制追加です。
FPLDは一言でいうと「出荷後でもユーザーが回路構成を自由に書き換えられる半導体チップ」です。製造後の変更ができない通常のASIC(特定用途向け集積回路)とは異なり、高い汎用性と柔軟性を持ちます。そのため、民生用の評価ボードや通信モジュールとして出荷されたFPLD搭載品が、後から軍事転用されるリスクが国際的に懸念されてきました。
重要なのは、今回の追加が「FPLD単体デバイス」ではなく「FPLDを組み込んだモジュール、組立品又は装置」を対象にしている点です。これが実務に大きく影響します。つまり、FPLDを部品として内蔵した評価ボード、加速カード、インターフェースカードなども、出荷形態によっては規制対象になりうるということです。
「部品として内蔵しているから大丈夫」とはなりません。
経済産業省が2026年1月16日に公表したQ&Aでは、部品規定(いわゆる10%ルールの考え方)についての解釈も整理されています。FPLDが搭載された装置が、その回路構成を固定した状態で特定機能のみに使用される場合は、部分品規定が適用できる可能性があります。一方、ユーザーが再書き込みできる状態で出荷される場合は、その装置ごと規制対象として扱われることになります。
また、Q&AではGPU・TPU・ニューラルプロセッサ・コプロセッサ・アクセラレータ・FPLD・ASICなどを「集積回路」の具体例として例示しています。これらを組み込んだモジュールや装置を扱う場合は、判定の入口となる「集積回路に当たるか」という確認から始める必要があります。この整理は解釈変更ではなく確認・明確化という位置づけですが、実務者として見落としてはなりません。
該非判定の際は、「デバイス名」ではなく「機能と出荷形態」で判断することが求められています。これが基本です。
参考情報:FPLDを組み込んだモジュール等の追加と、Q&Aによる解釈整理について
政省令・通達改正で「再構成可能デバイス」がリスト規制に追加(semicon.today、2026年3月)
輸出申告の現場では、改正内容そのものと同じくらい重要な実務上の注意点があります。それが「該非判定に使う書類のバージョン更新」です。
通関時に使用される「項目別対比表(パラメータシート)」は、輸出令別表第一の各項目について貨物のスペックを照合し、リスト規制に該当するかどうかを判定するための様式です。この様式には、施行日が印字されており、2026年2月14日の改正施行後に輸出申告する場合は「2026.2.14施行省令対応」と記載された最新版を使用する必要があります。
旧版の書類では、税関から差し戻しを受けるケースがあります。これは日常の通関業務に直結する問題です。
CISTECが提供する項目別対比表やパラメータシートは、改正のたびに最新版が発行されます。2026年2月14日施行分に対応した改訂版は、JMCTIやCISTECのウェブサイトで入手可能です。施行日前後で申告作業がある場合は、手元の書類が最新版かどうかを必ず確認する必要があります。
なお、CISTEC自身がホームページで認めているように、「改正箇所を修正して使い回す方法も問題はないが、修正は容易な作業ではなく法令を熟知していないと難しい」とされています。現実的には、最新版をダウンロードして差し替える対応が確実です。
施行日以降に輸出申告する場合は、最新の該非判定書の確認を怠らないことが原則です。
また、みなし輸出への対応も忘れてはいけません。今回の改正に伴い、対象となる技術情報の提供についてもみなし輸出として輸出管理令の判定が求められます。サンプル輸出やクレーム返品などの無償輸出も通常の輸出と同じく管理対象です。あわせてチェックリストに加えておくべき項目です。
参考情報:改正に対応した項目別対比表・パラメータシートの改訂版発行時期について
政省令改正に伴う項目別対比表・各種パラメータシートの改訂版発行時期について(JMCTI、PDF)
今回の2026年2月14日施行に際して、最も注意が必要だった(そして今後の改正でも常に問題になる)のが「施行日前後の輸出案件における外為法の既遂タイミング」です。
多くの通関業従事者は、税関から輸出許可が下りれば安全だと考えています。この認識が誤りです。
関税法と外為法は、犯罪が成立する「既遂」の時点が異なります。
| 法令 | 既遂のタイミング | 根拠 |
|---|---|---|
| 関税法 | 輸出申告の時点 | 関税法第70条 |
| 外為法 | 船舶または航空機に積み込んだ時 | 運用通達 0-2「輸出の時点」 |
この違いによって、次のような事態が起きます。
2026年2月14日は土曜日でした。「金曜日(2月13日)までに通関許可を取ればセーフ」と考えていた担当者も少なくなかったはずです。しかし実際には、船積みが施行日以降にずれ込んだ場合、外為法違反のリスクは消えません。港湾の混雑、天候による本船スケジュールの遅れ、コンテナヤードでの滞留など、船積みが1日ずれることは現場では珍しくありません。
経済産業省が公表した「事後審査事案の傾向・事例(令和7年5月)」には、まさにこの事態に関連する違反事例が掲載されています。「規制対象外の産業機械部品を輸出申告して輸出許可を受けたが、天候不良により本船への積み込みが遅れた。その間に法令改正が行われ当該部品が規制対象に変更となったが、既に通関手続を完了していたため、該非の再確認を実施せず輸出した」という事例で、「税関から輸出許可を受けていた場合でも、法令改正の施行日以降に船積みを行った場合、外為法違反(無承認輸出)となります」と明示されています。
不可抗力の遅延であっても、船積みが施行日以降なら既遂が成立するのが現行の法解釈です。
この法的リスクを回避するための実務上の対策は明確で、「施行日前後のETD(出発予定日)でBookingしない」ことです。施行日をまたぐ輸出案件は、あらかじめ荷主や営業部門に状況を共有し、施行後の該非判定を改めて実施するか、スケジュールを調整する判断が求められます。
通関業従事者にできることは、「船積み日が施行日以降にずれる可能性がある案件では、必ず改正後の該非判定書を確認する」というフローを社内手順に組み込むことです。これを実行に移しているかどうかで、リスクの差は大きく変わります。
参考情報:外為法における既遂タイミングの解釈と事後審査事例について
税関許可が下りても外為法違反(2026/2/14施行政省令対応)(note)
ここまで見てきた内容を踏まえ、今回の改正を受けて通関業従事者が実際に取るべき行動を整理します。知識は行動に移してこそ意味があります。
① 扱い品目のFPLD搭載確認
自社や顧客企業が取り扱う貨物の中に、FPLDを搭載したモジュール・組立品・装置が含まれていないかを棚卸しします。FPLDの「再書き込み可能」という機能的特性を確認するには、製品仕様書や設計担当者への確認が必要です。製品名や部品番号だけでは判断できません。製造メーカーへの照会が必要な場合もあります。
これは一度確認して終わりではありません。
② 高エントロピー合金・ペプチド合成装置の扱い品目確認
化学品・金属素材・研究機器を扱う荷主企業を顧客に持つ場合は、5の項(20)および3の2の項(2)10への該当可能性を確認します。これらは一般的な製造・研究現場で流通する品目であるため、該非判定を依頼された際に見落とすリスクがあります。
③ 項目別対比表・パラメータシートの更新
手元にある該非判定書類(項目別対比表、パラメータシート等)が「2026.2.14施行省令対応」以降のバージョンになっているかを確認します。CISTECのウェブサイトで最新版が公開されています。
④ 施行日前後の船積みスケジュール管理
今後の定例改正においても、施行日前後のETDを持つ案件には特別注意フラグを立てる運用を整えておくと安心です。荷主企業に対して「施行日前後の輸出は、許可取得後も船積み日の管理が必要」と周知しておくことも、通関業従事者のリスク管理として有効です。
⑤ みなし輸出対応の再確認
顧客の社内で技術情報の提供が行われているケースでも、みなし輸出として輸出管理が必要な場合があります。通関業務に直接関係しない部分ですが、荷主企業が気づいていない場合もあるため、情報として共有しておく価値があります。
外為法違反の罰則は個人で最大10年以下の懲役・3,000万円以下の罰金、法人では最大10億円の罰金です。行政制裁として最大3年間の輸出禁止処分が下れば、事業継続に直接影響します。法令改正をきっかけにした「気づかぬ違反」を防ぐには、現場単位でのフロー見直しが最も確実な対策です。
参考情報:安全保障貿易管理の全体像と罰則・ICP整備のポイント
【2026年最新】輸出管理(安全保障貿易管理)とは?リスト規制・キャッチオール規制・違反罰則まで解説(Digima〜出島〜)