古い法令日付の該非判定書を使い続けると、外為法違反で10年以下の懲役を問われることがあります。
実務に慣れてくると「経産省のWordファイルをそのまま使えばいい」という感覚になりがちです。しかし、東京商工会議所の解説でも明記されているとおり、該非判定書に決まった書式は存在しません。これは意外に知られていない重要な前提です。
そもそも該非判定書とは、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が、輸出貿易管理令別表第1(1項〜15項)のリスト規制に該当するか否かを判定した結果を記した書面のこと。フォーマットは自由裁量ですが、記載すべき内容は実務上ほぼ固定化されています。
必要な記載項目は次のとおりです。
- 製品名・型式・型番:どの貨物に関する判定かを特定するため
- スペック情報:規制値との比較判断の根拠となる技術的数値
- 対象項番:輸出令別表第1・外為令別表のいずれの項で照合したか
- 判定結果:「非該当」「該当」の別
- 判定根拠:なぜその結論に至ったかの説明
- 判定日:法令改正との整合を確認するための日付
- 判定責任者の氏名・所属・捺印
判定日の記載が特に重要です。法令改正後も古い判定日のまま書類を使い回すと、改正後に規制対象となった貨物を見落とすリスクが生じます。これが税関でチェックされる大きなポイントになります。
経産省の公式ページでは、「該非判定書(参考様式)」としてWordファイルが公開されています。自社フォーマットを一から作るより、この参考様式をベースに社内仕様へカスタマイズするのが現実的な進め方です。
経産省の安全保障貿易管理(申請書類)ページ。非該当証明書の参考様式・発行における要点が掲載されています。
「最新フォーマット」という言葉は、印刷物の見た目だけを指すわけではありません。実務上「最新」が意味するのは、現在施行中の政省令に対応した法令バージョンで判定されているかという点です。
直近でいえば、2025年11月14日に公布され、2026年2月14日に施行された輸出貿易管理令の改正が該当します。この改正では国際輸出管理レジーム会合の合意を受け、輸出令別表第1への新規貨物の追加が行われました。各メーカーはこの施行日に合わせて「輸出貿易管理令該非判定報告書」を更新し、ホームページでの公開を続けています。
2026年施行の改正前に発行された判定書は、施行後の規制品目追加に対応していない可能性があります。つまり、数カ月前に入手した判定書であっても「古い」と判断されることがあるということです。
法令改正が行われるタイミングは、おおむね年1〜2回です。改正情報の確認先として信頼性が高いのはCISTEC(安全保障貿易情報センター)のウェブサイトです。
CISTECの改正情報ページ。政省令改正の内容と施行スケジュールが随時掲載されています。
政省令改正情報 – CISTEC(安全保障貿易情報センター)
改正情報を追うのが手間に感じる場合は、CISTECが発行するパラメータシートや項目別対比表を活用する方法も有効です。これらには施行日が明記されており、どの法令バージョンに対応した書類かがひと目でわかります。最新対応版かどうかを施行日で確認する、という習慣が実務では重要です。
該非判定を進めるうえで活用できる公的なフォーマットは複数存在します。それぞれ性格が異なるため、目的に合ったものを選ぶことが大切です。
まず整理しておきたいのが、「該非判定書」「非該当証明書」「パラメータシート(項目別対比表)」の3種類の違いです。実務の現場では同じ意味合いで使われることも多いですが、厳密には異なります。
| 書類名 | 性格 | 主な使用場面 |
|---|---|---|
| 該非判定書 | 判定結果全体を記した書面(広義) | 輸出者・メーカーが作成し税関へ提出 |
| パラメータシート(項目別対比表) | スペックと規制値を対比した詳細書類 | リスト規制に「非該当」の場合にその根拠として添付 |
| 非該当証明書 | 規制品目に「一切該当しない」旨を証明 | 輸出令1〜15項に完全対象外の貨物を輸出する場合 |
CISTECの「総合データベース」では、契約者向けに全品目のパラメータシート(Excel・PDF形式)がダウンロード可能です。未記入の「項目別対比表」も取得でき、自社製品の数値を埋めるだけで判定書として活用できます。これは使えそうです。
経産省のマトリクス表は、輸出令別表第1・外為令別表の規制品目を一覧化したExcelファイルです。文字列検索機能を使えば、輸出しようとする貨物がどの項番に関係するかを絞り込めます。検索する際は「炭素繊維」ではなく法令表記に合わせた用語を使う必要があるため、読替語リストも合わせて参照することをお勧めします。
CISTECの該非判定コーナー・パラメータシートのサンプルが確認できるページです。
経産省のマトリクス表(貨物・技術)が入手できるページです。最新施行対応版のExcelファイルをダウンロードできます。
「去年作ったからそのまま使えばいい」という感覚は危険です。
法令改正後も古い判定書を使い続けた場合、税関から「最新の法令に基づいた判定書を出してほしい」と差し戻されるケースがあります。これだけなら書類の差し替えで済みますが、問題はそれだけではありません。
改正によって新たに規制品目に追加された貨物を、古いフォーマットで「非該当」と判定したまま輸出してしまった場合は、無許可輸出として外為法第48条違反になり得ます。外為法違反が問われると、個人は3,000万円以下の罰金または10年以下の懲役、法人は10億円以下の罰金という非常に重い刑事罰が待っています。金額だけでなく、輸出禁止処置という行政制裁も科される可能性があります。痛いですね。
実際に関係するヒヤリハット事例として、部品の代替品を手配した際に「前回と同じ品物」と思い込み、改正前の該非判定書をそのまま流用したケースが知られています。代替品はスペックが異なる場合があるため、経産省のガイダンスでも「代替品については最新の該非判定書の入手が必要」と明示されています。
外為法違反に対する刑事罰・行政制裁の概要と、違反事例が掲載されているジェトロのガイドです。
更新漏れを防ぐ実務的な対策として、自社の輸出管理カレンダーに「CISTEC政省令改正情報の確認」を年2回以上の定期イベントとして組み込む方法があります。改正情報が出た際に使用中の判定書リストと照合する運用を作ると、見落としを大幅に減らせます。
該非判定書の作成は、自社で対応するか外部に依頼するかで手間とコストが大きく変わります。それぞれの特徴を整理しておきます。
① 自社作成(経産省参考様式またはCISTECパラメータシートを使用)
コスト:ゼロ〜CISTECデータベースの利用料のみ
メリット:迅速に対応可能、社内ノウハウの蓄積につながる
注意点:担当者の法令読解スキルが求められる。判定ミスのリスクを輸出者が全責任で負う
CISTECの「確認該非判定書」を参照しながら作業すると精度が上がります。また、判定に疑問があればCISTECの対面相談サービス(有料)を活用する選択肢があります。
② CISTECの該非判定支援サービス
CISTECでは、自社で作成した判定書を第三者が確認するサービスと、一緒に作成する「フルサポート」サービスを提供しています。慣れない品目の判定時に特に有効です。
③ 行政書士への外注
相場としては、1件あたり22,000円〜77,000円程度が目安とされています(田中行政書士事務所の報酬額表より)。品目の複雑さや品数によって大きく変動します。1件ごとの依頼では割高になる場面もあるため、定型品目が多い場合は自社対応の方が経済的です。
コスト感を日常スケールで置き換えると、外注1件分で社内担当者が丸半日〜1日かけて自社対応しても十分に採算が取れる計算になります。品目ごとに選択を使い分けるのが現実的です。
輸出者が負う責任については、経済産業省が明確に示しています。「製造者から該非判定書を入手し使用しても構わないが、判定結果を確認し、輸出者が責任をもって判定した結果とすること」とされています。責任の所在を明確にする仕組みが必要です。
最新フォーマットへの対応だけに目が向きがちですが、実際の現場では別の場面でも注意が必要です。
保存義務を知らないケースは珍しくない
該非判定書は輸出許可の日の翌日から起算して5年間の保存が義務付けられています(関税法に基づく輸出者の帳簿書類保存義務)。該非判定書そのものだけでなく、その根拠となる「項目別対比表」「パラメータシート」も保存対象に含まれます。輸出が終わったからといって書類を廃棄してしまうと、税関の事後調査や安全保障貿易検査官室の立入検査の際に問題になります。保存は電子データでも可能で、電子帳簿保存法の要件を満たす形で管理すれば紙の原本は不要です。
「誤送品の返送」でも該非判定は必要
CISTECのFAQに載っている見落とされがちなポイントです。注文したものと違う貨物が届いて輸入元に送り返す場合でも、外為法上は「輸出」に該当します。誤送品の返送に使える特例は現時点では存在しないため、通常の輸出貨物と同様に該非判定を行う必要があります。「返送するだけだから判定不要」は通用しません。
国内取引でも判定書の提供を求められることがある
国内の取引先に販売した後に、その先が輸出する場合も注意が必要です。外為法第48条の対象は「輸出をしようとする者」であり、国内取引のみを行ったメーカーは義務の対象外ですが、経産省通達では機微度の高い貨物の場合、国内販売先が輸出することが明らかであれば、該非判定書の提供を含む慎重な対応が求められると規定されています。
16項(キャッチオール規制)の記載を忘れない
食品・木材以外のほぼ全ての貨物はキャッチオール規制(輸出令別表第1・16項)の対象です。リスト規制(1〜15項)の判定が「非該当」であっても、16項の確認結果を非該当証明書に記載しておくことで、税関での確認がスムーズになります。16項への言及がない書類は差し戻しを受けるケースもあります。これだけ覚えておけばOKです。
CISTECが公開する輸出管理FAQ。「誤送品の返送」「国内取引」に関する解説も含まれています。
外為法違反の事例と背景が掲載されており、どのようなケースでリスクが生じるか参考になります。
外国為替及び外国貿易法(外為法)の概要と違反事例 – 東京商工会議所