うっかり海外にメールを1通送るだけで、懲役10年の対象になることがあります。
外為法(外国為替及び外国貿易法)違反の罰則は、大きく「刑事罰」「行政制裁」「行政指導」の3段階に分かれています。まずこの全体像を頭に入れておくことが基本です。
刑事罰の内容は違反の種類によって異なります。最も重い「大量破壊兵器関連の無許可輸出」では、個人に対して懲役10年以下・罰金3,000万円以下(またはその両方)、法人に対しては罰金10億円以下が科される可能性があります。通常兵器に関連する無許可輸出は、懲役7年以下・法人罰金7億円以下と若干軽くなりますが、それでも非常に重大なペナルティです。
さらに注目すべきポイントがあります。罰金額は「輸出した貨物の価格の5倍以下」というスライド制が適用されるため、高額な貨物を輸出していた場合は上限を大きく超えることもあり得ます。これが実務上の大きなリスクです。
| 違反の種類 | 懲役(個人) | 罰金(個人) | 罰金(法人) |
|---|---|---|---|
| 大量破壊兵器関連の無許可輸出 | 10年以下 | 3,000万円以下 | 10億円以下 |
| 通常兵器関連の無許可輸出 | 7年以下 | 2,000万円以下 | 7億円以下 |
| その他の無許可輸出等 | 7年以下 | 2,000万円以下 | 7億円以下 |
※罰金は貨物の価格の5倍を超える場合、その5倍以下のスライド制が適用されます。
刑事罰とは別に、行政制裁も存在します。経済産業大臣は違反者に対し、最長3年間、一切の輸出・技術提供・仲介貿易取引を禁止する命令を出せます。輸出で生計を立てている企業や個人にとって、3年の輸出禁止は事業の廃止に直結するリスクがあります。つまり「お金より怖いペナルティ」になりかねないということです。
さらに悪質な違反が認定された場合には、経済産業省から「警告」が出され、原則として企業名が公表されます。企業名の公表は取引先への信用失墜、既存契約の解除リスクにつながり、金銭的なペナルティとは別次元の打撃を受けることになります。
参考:外為法上の罰則の詳細と行政制裁の仕組みについて
自主管理で違反が見つかったら、どうする? | CISTEC(安全保障貿易情報センター)
関税に興味がある方の多くは「関税法を守れば問題ない」と考えがちです。しかし実際には、関税法と外為法は別の法律であり、両方を同時に守る必要があります。これは要注意です。
関税法は「輸出手続き・関税の申告・納付」を規律するもので、主に税関が管轄します。一方、外為法は「何を・どこに・どうやって輸出するか(安全保障の観点から)」を規律するもので、経済産業省が主に管轄します。この2つはまったくの別制度なのです。
実は、税関から輸出許可(関税法上の許可)を受けた貨物であっても、外為法上の輸出許可を取得していなければ外為法違反になることがあります。「税関を通過したから合法」とはならない点が、実務上の大きな落とし穴です。
| 比較項目 | 関税法 | 外為法 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 関税の賦課・徴収、輸出入手続き | 安全保障・経済秩序の維持 |
| 管轄 | 財務省(税関) | 経済産業省(一部財務省) |
| 主な罰則(無許可輸出入) | 10年以下の懲役/3,000万円以下の罰金 | 10年以下の懲役/3,000万円〜10億円の罰金 |
| 未遂罪 | あり | あり(貨物の輸出違反に適用) |
関税法と外為法の違いを理解しないまま輸出業務を進めると、二重の違反リスクを抱えることになります。具体的には、外為法違反では10億円以下の法人罰金が課される可能性があり、これは中小企業であれば経営が傾くレベルです。外為法に基づく罰則の方が、金額規模では関税法を上回るケースもある点は覚えておくべきです。
また、外為法では「未遂罪」も処罰の対象になります。輸出しようとした段階で発覚した場合でも、刑事責任を問われるケースがある点は、関税に絡む輸出実務を行う方には特に重要な知識です。
参考:関税法と外為法の罰則・手続きの違いを整理したい方向けの情報
無許可輸出のペナルティ(外為法・関税法)| HANA(貿易)- note
外為法違反のリスクは「悪意ある違法業者」だけの話ではありません。経済産業省が公表した分析データによると、違反の原因の約6割が「該非判定」プロセスの不備によるものです。つまり大半は「うっかりミス」や「知識不足」が原因なのです。
該非判定とは、輸出しようとする貨物や技術が「リスト規制」に該当するかどうかを事前に確認する作業のことです。この判定を誤ったり、そもそも実施しなかったりすると、外為法違反になってしまいます。
特に見落としやすいケースを整理します。
違反が発覚したきっかけのデータも重要です。経産省の分析によれば、CP(輸出管理内部規程)の届出をしていない企業では、違反の約6割が「税関による事後調査」や「経済産業省の指摘」で発覚しています。自社で気づくことなく行政側に発見されるケースの方が多いのです。
これは痛いですね。
自社で違反を発見して自主申告した場合には、経産省も基本的には「再発防止指導」を中心に対応する方針をとっています。しかし、自主申告なしに行政に発覚した場合は、より厳しい処分になる可能性が高くなります。自主管理・自主申告の仕組みを社内に持つことが、リスク軽減の重要な条件です。
参考:外為法違反の原因分析データ(経産省2022年度発表)
外為法違反はなぜ起きるのか?違反事例から学ぶ原因と適切な輸出管理 | Thomson Reuters
外為法の罰則で最も見落とされやすいのが、行政制裁における「時効の扱い」です。刑事罰には時効があります。外為法違反(無許可輸出)の刑事罰の公訴時効は最長7年です。しかし、行政制裁(輸出禁止命令など)については時効の規定がありません。
刑事罰が時効を迎えた後でも、行政制裁は科されることがある。
これはCISTECが実際の事例として公表している内容です。また、刑事罰で「不起訴」になったケースでも、行政制裁が別途科された事例が存在します。つまり、「不起訴になったから安心」「時効になったから大丈夫」と思っていても、事業活動に対する制裁を受けるリスクは残り続けるのです。
さらに注意が必要な点が加わります。2017年5月の外為法改正により、罰金の上限が全般的に引き上げられ、法人重科(法人に対して個人より高い罰金を科す制度)が導入されました。以前の最高水準から大幅に厳格化されています。具体的には法人の最高罰金が「1億円以下」から「10億円以下」へと10倍に引き上げられました。
行政制裁として輸出禁止命令を受けた場合、その間は事業継続が実質的に不可能になる企業も少なくありません。輸出業を主力とする中小企業にとって、「3年間の輸出禁止」は廃業に等しいリスクです。10億円の罰金と同等かそれ以上のダメージになり得ます。
また、行政制裁の発動とは別に、AEO制度(税関が認定する優良輸出者の認定制度)の取り消しも起こり得ます。AEO認定を失うと、通関の迅速化・簡略化などのメリットが一切失われ、コスト面・時間面で甚大なデメリットが発生します。刑事罰・行政制裁・AEO取消の三重リスクが同時に発生する可能性があるのが外為法違反の怖さです。
参考:外為法の行政制裁の詳細と時効なしの根拠について
輸出管理の基礎 | 安全保障貿易情報センター(CISTEC)
外為法違反の罰則を回避するための第一歩は、自社の輸出管理体制を整えることです。体制の有無は処分の重さに直接影響するため、単なる義務以上の意味を持ちます。
まず抑えておきたいのが「CP(コンプライアンスプログラム)」の届出制度です。CPとは、経済産業省に対して輸出管理の内部規程を届け出た企業が受けられる優遇措置で、包括許可(個別許可不要の一括許可)の取得が可能になります。CP届出企業であれば、自主申告を前提に違反が発覚しても過剰な処分を受けにくいのが原則です。
CP届出企業が条件です。
ただし、CP届出企業かどうかにかかわらず、以下のポイントは全輸出事業者に共通して重要です。
違反を発見したときの行動も重要です。自社の社内監査で無許可輸出などの違反が発覚した場合は、速やかに経済産業省の安全保障貿易検査官室(安検室)に自主申告することが推奨されています。自主申告した案件については、基本的に再発防止指導にとどまる方針が公表されており、隠蔽よりも自主申告の方が処分を軽減できることが確認されています。
輸出管理の体制構築や該非判定の正確性を高めたい場合には、CISTEC(安全保障貿易情報センター)が提供する無料のeラーニングや、JETROが提供する早わかりガイドが活用できます。これらは費用をかけずに実務知識を補える有用なリソースです。
参考:経済産業省による安全保障貿易管理の基礎資料(無料)
「安全保障貿易管理」早わかりガイド(最新版)| JETRO