「過失でも行政制裁の対象になり、しかも時効がないため何年後でも輸出禁止処分を受ける可能性があります。」
無許可輸出の罰則を理解するうえで、まず外為法(外国為替及び外国貿易法)と関税法という二つの法律の役割を整理しておく必要があります。この二つは似ているようで、その目的も罰則の内容も異なります。
外為法は「何を・どこに輸出するか」を管理する法律です。安全保障上の観点から、武器や武器転用が可能な汎用品・技術の輸出をコントロールします。国際的な平和や安全維持のため、特定の国・地域への特定の貨物・技術の輸出には、経済産業大臣の許可が必要です。
一方、関税法は「税関の許可なく貨物を国外に持ち出す行為」全般を規制する法律です。輸出そのものの許可(税関長の輸出許可)を対象としており、不正な申告や無許可での持ち出しを取り締まります。つまり原則です。
外為法違反の罰則は以下のとおりです。
| 違反区分 | 刑事罰(個人) | 刑事罰(法人) |
|---|---|---|
| 大量破壊兵器関連の無許可輸出 | 懲役10年以下・罰金3,000万円以下 | 罰金10億円以下 |
| 通常兵器関連の無許可輸出 | 懲役7年以下・罰金2,000万円以下 | 罰金7億円以下 |
関税法における無許可輸出犯(関税法第111条)の罰則は「5年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいは併科」です。外為法より懲役年数は短いですが、貨物価格の5倍が1,000万円を超える場合はその5倍以下まで罰金が跳ね上がる「スライド制」が採用されています。
重要なのが両罰規定です。外為法・関税法ともに、行為者本人だけでなく、その行為者が属する法人にも罰金が科されます。つまり、担当者個人が逮捕されても、それで終わりではなく、会社にも重い罰金が別途課されるということです。これは使えそうな知識です。
参考:税関による関税法の罰条一覧(正確な条文を確認できます)
関税法の罰条 : 税関 Japan Customs
「自分の扱う商品は普通の工業製品だから、輸出規制なんて関係ない」と考えている方は少なくありません。しかしこの認識は危険です。
外為法違反の原因を経済産業省が分析したデータによると、違反の上位3原因は次のとおりです。
- 管理体制の不備・形骸化:約50%
- 該非判定のミスや未実施:約41%
- 法令知識の欠如:約26%
つまり、違反の大半は「悪意ある密輸」ではなく、知識不足や手続きの誤りによるものです。意外ですね。
外為法の条文には「無許可で輸出した者」に罰則を定めており、故意・過失を問わない要素もあります。特に行政制裁(輸出禁止処分)は過失でも対象になります。名古屋大学の輸出管理ハンドブックにも「輸出管理を知らなかった、自分とは関係ないと思っていた、というのは通用しません」と明記されています。
汎用品(民生品)でも、一定のスペックを超えると輸出令別表第1の規制品目に該当することがあります。ポンプ、工作機械、化学品、通信機器など、一見ありふれた製品でも規制対象になりうる点が見落とされがちです。これが条件です。
また、「輸入した貨物を返送するだけ」でも輸出許可が必要になる場合があります。外為法上の「輸出の時点」は「船舶または航空機に積み込んだ時点」であり、たとえ修理品の返送であっても、対象貨物がリスト規制品であれば許可が必要です。税関の保税地域に保管中の不良品を輸入元に送り返す場合でも同様の扱いになります。
和歌山大学:規制対象の技術を無許可で提供した場合、「知らなかった」では済まされないことの解説
刑事罰と並んで深刻なのが、外為法による行政制裁です。刑事罰はイメージしやすいですが、行政制裁は見落とされがちな点が多くあります。
行政制裁の内容は大きく次の二つです。
- 最大3年以内の輸出禁止処分(貨物の輸出・技術の提供の全部または一部の禁止)
- 別会社の担当役員への就任禁止
輸出禁止処分の深刻さは、数字で考えるとより実感できます。3か月の輸出禁止でも、輸出主体の企業にとっては売上が完全にゼロになる期間が続くということです。東京商工会議所の実例でも「赤外線カメラの無許可輸出(中国向け)→罰金100万円+3か月の輸出禁止」という処分が記録されています。
ここで最も見落とされやすいのが「行政制裁には時効がない」という点です。刑事罰の時効は外為法の場合、最長7年とされています。しかし行政制裁については時効の定めがなく、安全保障貿易情報センター(CISTEC)も「実際に、罰則が時効になっていても、行政制裁が科せられた事例がある」と明記しています。痛いですね。
さらに、無許可輸出が発覚すると、経産省は過去5年間の輸出実績をさかのぼって調査します。1件の違反が引き金となって、過去に遡及した調査が行われ、さらに複数の違反が発覚するケースもあります。
加えて、AEO認定(特定輸出者承認)が取り消されるリスクもあります。AEO認定を受けていると、貨物を保税地域に搬入せずに自社倉庫で輸出許可を受けられるなどのメリットがあります。これが取り消されると、通関に要するコストと時間が大幅に増加し、実質的な業務停止に近い状態になります。つまり罰金以上の経済的ダメージです。
参考:CISTECによる行政制裁・刑事罰のパターン解説(自主申告した場合の軽減についても記載あり)
自主管理で違反が見つかったら、どうする? - 安全保障貿易情報センター(CISTEC)
ここでは、実際に発生した違反事例を通じて、どんな場面でリスクが生じやすいかを確認していきます。
【事例①:納期優先による無許可輸出】
貨物の輸出が納期に間に合わない状況で、担当者が「今回だけ」と個人の判断で経済産業大臣の許可なく輸出してしまったケースです。輸出管理部門との連携を省略したことが原因でした。
【事例②:修理特例の適用誤り】
外為法には「修理特例」があり、一定条件を満たせば無償修理品の再輸出に許可が不要な場合があります。しかし、修理後の輸出先が元の輸入者と異なっていたため、特例の適用要件を満たさず無許可輸出となってしまいました。
【事例③:マトリクス表の読み間違い】
経済産業省が公開している「輸出管理マトリクス表」の読み間違いにより、規制品を非該当と誤判定して輸出してしまった事例です。ダブルチェックが機能していなかったことが直接の原因でした。
この3事例に共通するのは、悪意ではなく「うっかり」や「手続きの省略」が原因だということです。該非判定ということですね。
独自の視点でいうと、「他社の判定書を鵜呑みにした」パターンも頻出の違反原因です。メーカーや仕入先から「非該当品」と記載された判定書を受け取ると、輸出側がそのまま信用してしまうことがあります。しかし、輸出者は自らの責任で判定を再確認する義務があります。他社判定の転用は免責にならないため、最終的な責任は輸出者本人に帰属します。これが原則です。
また、違反発覚のルートも重要です。自社の内部監査で見つけた場合と、税関による事後調査で発覚した場合とでは、経産省の対応が大きく変わります。自主申告の場合は「再発防止指導を中心にする」という経産省の方針があるため、隠蔽せず速やかに報告することが長期的なリスク軽減につながります。
不正輸出をしてしまったらどうなる?実際の事例紹介 - アリババ B2B Japan
無許可輸出のリスクを下げるうえで、最も根本的な対策となるのが「輸出管理内部規程(CP)の策定と届出」です。
CPとは、自社の輸出管理ルールを文書化したものです。経済産業省への届出は任意ですが、CP届出企業は自社内で違反を未然に防ぐ仕組みが整っていると評価され、仮に違反が発覚した場合でも処分内容に差が出る可能性があります。CP未届出企業の違反割合は、届出企業の約70%を占めるという経産省データもあります。
具体的な対策として、まず取り組みたいのが「該非判定の徹底」です。自社製品がどの項番に該当するかを確認する作業で、自社製品だけでなく購入部品・ソフトウェアも含め、すべてについて実施する必要があります。チェックは1人で完結させず、ダブルチェック体制を組むことが鉄則です。
次に重要なのが「取引審査(需要者・用途の確認)」です。輸出先の企業や最終的な用途を確認することで、規制に引っかかる取引を事前に把握できます。EUC(End-Use Certificate:最終需要者証明書)の取得や取引先の事前スクリーニングが有効です。
コスト面で支援を受けたい場合、日本商工会議所・東京商工会議所・名古屋商工会議所・大阪商工会議所では、中小企業向けに無償で専門家相談ができる「中小企業等アウトリーチ事業」を実施しています。経済産業省と連携した制度なので、輸出管理体制の整備に活用できます。また、CISTEC(安全保障貿易情報センター)では無料のeラーニング教材も提供しており、社員教育のツールとして利用できます。これは問題ありません。
企業規模が小さく専任の輸出管理担当者を置けない場合でも、「まず1件ごとに該非判定書を作成・保存する」「輸出管理マトリクス表を使って定期的にチェックする」という小さな習慣から始めることが現実的なスタートになります。
CISTECによる輸出管理の基礎と重要性(無料eラーニングへのリンクもあり)
東京商工会議所:中小企業等アウトリーチ事業(無料専門家相談の詳細)