先端半導体を使えば通関は不要と思っている方、HSコード確認だけで輸出許可申請を判断していませんか。
米国が2022年10月に発表した「10・7規制」を起点として、対中半導体輸出規制は日本、オランダ、韓国を巻き込んだ多国間の枠組みへと拡大しています。この規制は単なる製品の輸出制限にとどまらず、米国人技術者の関与禁止、外国直接製品規則(FDPR)による第三国経由の輸出制限など、包括的な内容となっています。
参考)https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2304/25/news042.html
日本は2023年7月23日に半導体製造装置23品目を輸出管理対象に追加しました。対象品目は洗浄3品目、成膜11品目、熱処理1品目、露光4品目、エッチング3品目、検査1品目で構成されています。これらの設計・製造技術やプログラムも規制対象です。
参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2305/25/news061.html
米国は2024年12月にさらなる規制強化を発表し、140の中国事業体をエンティティーリスト(EL)へ追加しました。新たなFDPルールも制定され、米国技術を含む半導体が組み込まれているだけで輸出規制の対象となる可能性があります。
参考)米商務省、半導体製造装置を中心とした新たな対中輸出規制を発表…
これは多層的な規制ですね。
通関業務従事者は、自国の規制だけでなく米国のEARやFDPルールも理解する必要があります。規制対象品目に該当する場合、米国やオランダなど「輸出管理を厳格に実施している国」への輸出は包括申請が可能ですが、中国やロシアへは個別許可が必要です。事前に安全保障貿易管理のウェブサイトで手続きフローを確認し、該非証明書を作成しておくことが推奨されます。
参考)電子部品の現地輸入規則および留意点:中国向け輸出
経済産業省の安全保障貿易管理の説明資料には、リスト規制とキャッチオール規制の詳細が記載されています。
中国商務部が公表したQ&Aによると、「両用品目輸出管理リスト」が両用品目の範囲確定の基本根拠であり、HSコードは両用品目の該否判定の根拠とはならないと明記されています。つまり、HSコードだけを確認して規制非該当と判断するのは危険です。
参考)中国商務部、両用品目輸出に関するQ&A公表(中国)
実際の判定では「両用品目輸出管理コード」が商務部による分類・審査認可の根拠となります。2025年12月31日に中国商務部と税関総署が発表した2026年版『両用物項目及び技術輸出入許可証管理目録』では、HSコードが2026年関税率に基づき更新され、技術パラメータや範囲も微調整されています。
参考)HSコード変更など含む2026年版『両用物項目及び技術輸出入…
電子部品の輸入では、税関監督管理条件のチェックが必須です。自由輸入品目でも「輸入自動許可証」の取得が求められる場合があり、データ処理装置用定電圧電源(HSコード8504.4013)のように法定検査が必要な品目も存在します。
つまり多段階の確認が必要です。
規制該否の判断ミスを防ぐには、HSコード、両用品目輸出管理コード、税関監督管理条件の3つを確認する必要があります。特に半導体製造装置の部品やコンポーネントについては、最終的に中国の半導体製造装置に組み込まれる場合、最初の輸出時点でBISからの輸出許可が必要となるため、エンドユーザーと最終用途の把握が不可欠です。該非判定に迷う場合は、CISTECなどの専門機関に相談するのが安全策です。
参考)米商務省、中国向け半導体関連の輸出管理規則を明確化する暫定最…
CISTECの米中の新輸出規制等の動向ページでは、最新の規制情報が継続的に更新されています。
米国司法省は2025年7月、半導体設計自動化(EDA)製品大手のケイデンス・デザイン・システムズに対し、輸出管理規則違反を理由に1.4億ドル(約210億円)の罰金を科しました。これは半導体関連企業への輸出規制違反罰金として高額な事例です。
参考)米政府、半導体設計技術企業に1.4億ドルの罰金、輸出管理規則…
別の事例では、米国の半導体ファウンドリー大手グローバルファウンドリーズ(GF)が、2021年2月から2022年10月にかけて、エンティティーリストに掲載された中国のSJセミコンダクター向けに、許可を得ずに約1,710万ドル相当の半導体ウェハーを74回出荷し、50万ドル(約7,646万円)の罰金を科されています。
参考)中国企業への「禁輸違反」で、米半導体大手に罰金 「エンティテ…
さらに2025年8月には、中国籍者2名がエヌビディア社製AI用半導体等を脱法目的で中国へ無許可迂回輸出した容疑で逮捕・刑事告訴されました。これは個人レベルでの違反も厳格に取り締まられることを示しています。
厳しい執行体制ですね。
違反のリスクを避けるには、輸出前の十分な確認体制の構築が重要です。具体的には、取引先がエンティティーリストに掲載されていないか定期的にチェックし、疑わしい取引については社内のコンプライアンス部門や外部専門家に相談する体制を整えます。米国商務省産業安全保障局(BIS)は執行能力強化のため予算と人員を拡大しており、今後さらに摘発が増える可能性があります。過去の違反事例は社内教育の資料として活用し、同様のミスを防ぐことが有効です。
参考)米下院中国特別委、米国などの半導体製造装置企業と中国の関係を…
CISTECの違反事例ページには、違反原因の分析と教訓が掲載されており、社内教育に最適です。
米国の規制では、16/14nm以下のロジック、ハーフピッチ(HP)18nm以下のDRAM、128層以上のNAND向け装置が輸出規制の対象となっています。さらに2024年12月の規制強化では、高帯域幅メモリー(HBM)が新たに規制対象に追加され、韓国SKハイニックスやサムスン電子の製品が大きな影響を受けています。
参考)米政府が中国向け半導体関連輸出規制を強化:バイデン政権とトラ…
中国に対する規制は、中国のスーパーコンピューターやAIに使われる高性能半導体の輸出を禁止する内容も含んでいます。対象には米NVIDIAのGPUや米AMDのCPUはもちろん、米国外で米国の設計技術や装置を使って製造された高性能半導体も含まれます。
加えて、半導体成膜装置に規制の網がかかっており、先端半導体メーカー向けか非先端メーカー向けかは関係なく、輸出時に米政府の許可が必要となっています。中国にある外資系半導体メーカー、具体的にはTSMCの南京工場、サムスンの西安工場、SKハイニックスの大連工場および無錫工場にも規制が適用されます。
範囲が非常に広いですね。
技術パラメータの判定では、製品仕様書だけでなく、実際の性能データも確認する必要があります。例えば半導体製造装置の場合、プロセスノード、成膜精度、エッチング深度などの技術パラメータが規制基準を超えるかを慎重に判断します。判定が困難な場合は、経済産業省の安全保障貿易審査課に事前相談を行い、書面での回答を得ておくことで、後のトラブルを回避できます。また、顧客から提供される該非判定書の内容も精査し、疑問点があれば確認を求める姿勢が重要です。
多くの通関業務従事者は規制対象品目の判定に注力しますが、見落としがちなのが「民生用途の例外措置」です。2025年11月、中国商務省は民生用途のネクスペリア製半導体に対する輸出規制に例外を認めました。これは自動車メーカーや部品サプライヤーが直面する供給不足の緩和を目的としています。
参考)中国、ネクスペリア半導体輸出規制で民生用途に例外措置
つまり、規制対象品目であっても、エンドユーザーと用途によっては輸出可能なケースがあるということです。ただし、この例外措置の適用には厳格な審査があり、申請書類には最終用途の詳細な説明、エンドユーザーの事業内容証明、民生用途であることの保証書などが求められます。
また、中国は2025年10月にレアアース輸出管理を強化し、海外の防衛関連企業には輸出許可を与えず、先端半導体関連の申請は個別審査とする方針を明確にしました。これは中国から日本への半導体材料輸入にも影響する可能性があり、双方向の規制を理解する必要があることを示しています。
参考)中国、レアアース輸出管理を強化 防衛企業や半導体ユーザー対象…
双方向の視点が必要です。
実務上のポイントは、輸出と輸入の両面から規制を把握することです。中国への半導体製造装置輸出だけでなく、中国からの半導体材料や部品の輸入時にも、中国側の輸出管理規則に抵触しないか確認します。特にレアアースやガリウム、ゲルマニウムなどの戦略物資については、中国商務部の最新の輸出管理政策をチェックし、必要な許可証を取得しているか取引先に確認することが重要です。JETROの最新ビジネスニュースを定期購読し、規制変更の情報をタイムリーに把握する体制を整えましょう。
JETROビジネス短信では、中国を含む各国の輸出入規制の最新情報が日本語で提供されています。