輸入差止申立更新の手続きと有効期間の注意点

輸入差止申立の更新手続きを正しく理解していますか?有効期間の満了前3か月以内という更新タイミングや、様式の選び方、権利の存続期間との関係など、通関業従事者が現場で押さえておくべきポイントを解説します。

輸入差止申立の更新で通関業従事者が必ず押さえる実務知識

更新申請は無料ですが、タイミングを1日でも逃すと申立が失効し模倣品が通関されてしまいます。


この記事の3つのポイント
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更新できる期間は「満了前3か月以内」だけ

有効期間の最終日の3か月前から更新手続が可能。この期間を過ぎると申立は失効し、再申立が必要になります。

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様式は権利の種類によって3種類に分かれる

C-5860・C-5861・C-5862の3種の更新申請書があり、申立の根拠となる権利の内容によって使い分けが必要です。

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権利の存続期間が更新の上限を決める

更新後の有効期間は最長4年ですが、対象となる権利(商標権等)の登録料納付済みの期間が上限となります。


輸入差止申立の更新とは何か:制度の基本を通関業従事者向けに整理する

輸入差止申立制度は、特許権実用新案権意匠権商標権著作権・著作隣接権・育成者権・不正競争差止請求権を持つ権利者が、自己の権利を侵害すると認める貨物の輸入を差し止めるよう税関長に申し立てる制度です。関税法第69条の13を根拠とし、受理されると全国9か所(函館・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・門司・長崎・沖縄地区)の税関で効力が生じます。


通関業従事者にとって重要なのは、この申立に「有効期間」が設定されているという点です。受理された申立の有効期間は最長4年間で、申立人の希望する期間を設定することができます。ただし、差止申立の基礎となる権利の特許料または登録料が納付済みの期間が限度となります。これが原則です。


つまり、申立が受理されても「永続的に効力を持つ」わけではありません。意外と見落とされがちな点です。


そこで必要になるのが「更新手続」です。引き続き模倣品の輸入が懸念される場合、所定の手続きを行うことで有効期間を延長できます。更新後の有効期間も、最長4年間(権利の存続期間が上限)という条件は変わりません。


























項目 内容
最初の有効期間 受理日から最長4年(権利存続期間が上限)
更新後の有効期間 同様に最長4年(権利存続期間が上限)
更新申請が可能な期間 有効期間の最終日の3か月前から最終日まで
更新の費用(税関手数料 無料
更新回数の制限 なし(権利が存続する限り繰り返し可能)


なお、申立の新規提出に手数料がかからないことは広く知られていますが、更新申請も同様に無料です。これは使えそうです。弁理士等への代理費用は別途発生する場合がありますが、税関への手数料は一切不要という点は、現場担当者として把握しておきましょう。


参考リンク(税関公式:差止申立のQ&A。有効期間・更新に関する公式説明が確認できます)。
Q&A(差止申立関係):知的財産ホームページ|税関 Japan Customs


輸入差止申立の更新申請書:C-5860・C-5861・C-5862の使い分けを確認する

更新申請書は1種類ではありません。税関が定める申請書様式は3種類あり、申立の根拠となる権利の内容によって使い分けが必要です。ここは実務上のミスが起きやすいポイントです。



  • 📄 C-5860(輸入差止申立更新申請書):一般的な権利(特許権・実用新案権・意匠権・商標権・著作権・著作隣接権・育成者権・不正競争防止法上の権利等)に基づく申立の更新に使用する標準様式。

  • 📄 C-5861(還流防止措置関係):不正競争防止法第2条第1項第17号・第18号に規定する技術的制限手段(いわゆる「還流防止措置」)に関する申立の更新に使用する様式。

  • 📄 C-5862(保護対象商品等表示等関係):不正競争防止法第2条第1項第1号・第2号・第3号に規定する保護対象商品等表示等に関する申立の更新に使用する様式。


実務の現場では「更新申請書=C-5860」と思い込んで対応してしまうケースがあります。権利の種類を改めて確認してから様式を選択することが条件です。


各様式は税関の公式ホームページからWordファイルで無償ダウンロードできます。更新申請書には「当初申立て年月日」「当初申立書整理No.」「認定手続を執るべき税関長」「申立の有効期間」などを記載する欄があり、当初申立時の書類を手元に用意してから記入するとスムーズです。


また、更新申請書の記載欄には「輸入差止申立て更新に係る物品の追加情報」および「その他参考となるべき事項」という欄があります。当初申立書に記載した事柄以外の事柄があれば記載することが求められており、記載事項が多い場合は別紙も使用可能です。模倣品の傾向が変化した場合や、新しい侵害事例が確認されている場合には、積極的に追記することが取締りの実効性を高めます。


参考リンク(税関公式:更新申請書(C-5860)のPDF。様式の構成・記載箇所が確認できます)。
輸入差止申立更新申請書(C-5860)|税関 Japan Customs


参考リンク(税関公式:各種様式一覧。C-5860・C-5861・C-5862のダウンロードリンクあり)。
各種様式:知的財産ホームページ|税関 Japan Customs


輸入差止申立の更新タイミングと権利の存続期間:見落としやすい2つの落とし穴

更新手続において、通関業従事者が現場で意識しておきたい「2つの落とし穴」があります。


落とし穴①:更新申請の受付開始は「最終日の3か月前から」


更新申請を行える期間は、有効期間の最終日の3か月前から最終日までの間に限られます。この期間より前に申請しても受け付けてもらえません。逆に言えば、最終日を1日でも過ぎてしまうと更新は認められず、申立は失効します。


失効後に模倣品対策を継続したい場合は、再度「新規の差止申立」として最初からやり直す必要があります。再申立では受理審査のプロセスが再び発生するため、審査が終了するまでの間(通常1か月程度、専門委員への意見照会が入れば最長5か月)は申立としての効力が生じていない空白期間ができてしまいます。痛いですね。


有効期間の満了日を確実に把握し、3か月前にリマインダーを設定するなど、更新の失念を防ぐ管理体制を整えることが大切です。


落とし穴②:対象となる権利の更新時期と申立の有効期間がずれるケース


商標権の有効期間は設定登録から10年ですが、10年ごとの更新登録が可能です。ここで注意が必要なのは、商標権の登録料が納付されている期間が、申立有効期間の上限になるという点です。


たとえば、商標権の更新登録の期限が差止申立の有効期間中に到来する場合、申立の有効期間は商標権の存続期間の最終日に制限されます。つまり差止申立を最長4年で設定していても、商標権の登録料が2年分しか納付されていなければ、申立の有効期間も実質2年となります。これが条件です。


さらに複雑な状況として、1件の差止申立を複数の登録商標(たとえばカタカナ商標と欧文字商標)に基づいて行っている場合、それぞれの商標権の更新期限が異なることがあります。この場合、期限が早い方の商標権の存続期間に合わせて申立の有効期間が短くなる可能性があり、その都度更新手続が必要です。


















状況 申立の有効期間
差止申立から4年以内に権利満了なし 最長4年間(申立人が希望する期間)
差止申立から2年後に商標権の登録料期限が到来 最長2年間(権利存続期間が上限)
複数商標権に基づく申立で、各権利の更新時期が異なる 権利ごとに個別対応が必要


つまり、申立の有効期間だけでなく、「申立の基礎となる権利そのもの」の維持状況を並行して管理することが必要です。権利管理と申立管理を一元的に把握できる台帳を整備することが、実務上の対応として有効です。


参考リンク(弁理士法人による実務解説。商標権の更新時期と差止申立の有効期間の関係が詳しく説明されています)。
税関における輸入差止申立制度の活用|日本弁理士会


輸入差止申立の更新と識別ポイントのアップデート:更新時に見直すべき添付資料

更新申請は単なる「期限延長の手続き」ではありません。更新のタイミングは、識別ポイントに係る資料を見直す絶好の機会でもあります。


識別ポイントとは、税関の現場職員が実際に模倣品を見分けるための情報であり、申立の実効性を大きく左右する重要資料です。真正品と模倣品を左右に対比して、どの特徴が異なるかを明確に示す必要があります。「わずかに」「少し」などの曖昧な表現は認識されにくいため、箇条書きで1文を短く端的に書くことが求められます。


差止申立が受理されてから数年が経過すると、以下のような状況変化が起きることが多く見られます。



  • ✅ 商品のデザインやパッケージ、ロゴマークが変更された(特にスマートフォンケースなど機種対応が必要な商品は頻繁に変化)

  • ✅ 新しいタイプの模倣品が市場に流通し始めた(従来とは異なる形状・仕様)

  • ✅ 模倣品の精巧さが増し、従来の識別ポイントだけでは見分けが難しくなった

  • ✅ 真正品の仕様変更により、当初の識別ポイントと現在の真正品の間にずれが生じた


識別ポイントが古い状態のままだと、差止申立が受理されていても現場での差止が機能しない事態になりかねません。更新申請書の「物品の追加情報」欄を活用し、識別ポイントの現状との乖離がないかを必ず確認してください。これが基本です。


また、更新のタイミングで、申立対象貨物の品目を追加することも検討する価値があります。当初申立では想定していなかった品目で模倣品が確認されている場合、申立対象貨物を増やすことで、簡素化手続(輸入者が争う意思を示さなければ権利者による追加の証拠・意見提出が不要になる制度)の適用範囲も広がります。


参考リンク(模倣品対策と識別ポイントの実務的な作成ポイントを解説した専門家記事)。
税関の輸入差止申立申請のご紹介|弁理士法人HARAKENZO


通関業従事者が知らないと損する:輸入差止申立の更新がもたらす簡素化手続のメリット

通関業従事者の立場から「なぜ申立の更新を適切に維持することが重要か」をあらためて整理しておきます。


差止申立が有効に受理されている場合と、そうでない場合とでは、認定手続の進み方が大きく変わります。この差は、業務の効率や対応コストに直結するため、見逃せません。


「簡素化手続」が使えるのは受理申立が有効な場合のみ


令和5年10月1日の関税法施行令改正以降、特許権・実用新案権・意匠権・保護対象営業秘密についても簡素化手続の対象が拡大されました。これにより、ほぼすべての権利種別で簡素化手続が利用可能になっています。


簡素化手続の流れはシンプルです。税関が侵害疑義物品を発見すると、輸入者に「侵害の該否を争う旨の申出書」の提出機会を与えます。輸入者が所定の期間(原則10執務日以内)に申出書を提出しなければ、権利者側はあらためて証拠や意見を提出する必要がなく、税関は輸入差止申立書の内容に基づいて侵害の該否を認定します。


この手続きが使えることは、権利者・代理人の対応コストを大幅に削減します。



  • 🔷 通常の認定手続:権利者・輸入者の双方が意見書・証拠を提出し、反論もできる。認定まで最大1か月以上かかるケースも。

  • 🔷 簡素化手続:輸入者が争わない場合、権利者の追加提出が不要。迅速な認定が可能。


つまり、差止申立が失効している期間中に疑義貨物が発見された場合は、通常の認定手続しか利用できなくなります。更新を適切に維持することは、「取締りの継続」だけでなく「手続きの効率化」という観点でも重要なのです。


さらに、差止申立が受理されている場合は、権利者が「点検」(疑義貨物の外観確認)や「見本検査」(分析・分解も可能)を申請できるというメリットもあります。これらは受理申立がない場合には利用できない手段です。



























対応内容 申立受理あり(有効) 申立なし・失効後
簡素化手続の適用 ✅ 適用可能 ❌ 不可(通常手続のみ)
点検・見本検査の申請 ✅ 申請可能 ❌ 不可
疑義貨物発見時の権利者通知 ✅ 通知あり ⚠️ 税関の職権判断のみ
輸入者情報の開示 ✅ 認定手続通知書で開示 ⚠️ 手続次第


参考リンク(税関差止申立の手順と実務上のコツ。簡素化手続の拡充内容(令和5年改正)が解説されています)。
税関差止申立ての手順とコツ—模倣品を水際で止める最新実務|井上国際特許商標事務所