メールで顧客情報を転送しただけで営業秘密侵害になります。
不正競争防止法は、企業が持つ営業秘密を不正な手段で取得・使用・開示する行為を禁止する法律です。営業秘密として法的保護を受けるには、秘密管理性、有用性、非公知性という3つの要件をすべて満たす必要があります。これらの要件を満たさない情報は、たとえ企業にとって重要な情報であっても、不正競争防止法による保護を受けることができません。
参考)不正競争防止法における営業秘密の定義とは? 営業秘密の3要件…
通関業務従事者にとって、この法律は特に重要です。通関業務では、輸出入者の取引内容、価格情報、顧客リストなど、企業の競争力に直結する情報を日常的に扱うためです。これらの情報が適切に管理されていない場合、営業秘密として認められず、流出時に法的保護を受けられない可能性があります。
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営業秘密の不正取得や開示には、重い刑事罰が科されます。具体的には、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性があります。従業員が図利加害目的で営業秘密を持ち出した場合も、この罰則の対象となります。
参考)不正競争防止法の営業秘密とは?営業秘密の要件や侵害行為の内容…
不正競争防止法第2条第6項では、営業秘密を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。この定義から、秘密管理性、有用性、非公知性という3つの要件が導き出されます。
参考)営業秘密の3要件とは? 秘密管理性を満たすポイント
3つの要件すべてを満たす必要があるのは、営業秘密の侵害には重大なペナルティが科されるためです。社内のすべての情報を営業秘密とするのではなく、一定の重要なものに限定する必要があると考えられています。
参考)不正競争防止法の営業秘密とは?3つの要件と漏洩時の罰則を解説…
通関業務の現場では、輸入申告書類に記載された商品の原価情報や取引先情報が該当します。これらの情報は、競合他社に知られると輸出入者の競争力が損なわれる可能性があるため、営業秘密として適切に管理する必要があります。つまり、日常業務で扱う情報の重要性を認識することが基本です。
営業秘密の範囲は、技術情報だけでなく営業情報も含まれます。顧客リスト、販売マニュアル、仕入れルートなど、事業活動に有用な情報全般が対象となります。通関業務では、輸出入者の物流ルートや取引頻度なども営業秘密に該当する可能性があります。
参考)営業秘密の3要件とは? 秘密情報・機密情報との違いも解説
秘密管理性とは、社内でその情報が秘密であることがわかるように管理されていることを指します。単に企業が主観的に秘密として管理しているだけでは不十分で、客観的にみて秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要です。
参考)https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/chizai_bunkakai/document/seisakubukai-07-shiryou/shiryou_6-2.pdf
秘密管理性が認められるためには、営業秘密保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、従業員等の認識可能性が確保される必要があります。具体的には、アクセス制限、秘密表示(「社外秘」「機密」などの表示)、秘密保持契約の締結などが求められます。
裁判例では、秘密管理性の有無が争点となることが多いです。ある事例では、企業が技術情報にアクセスできる者を限定し、秘密保持契約も締結していたため、秘密管理が適切であったと判断されました。別の事例では、就業規則で顧客情報の開示等を禁止し、退職従業員にも顧客情報を漏えいしないことを誓約させるなど、規範的な管理がなされていることが評価されました。
参考)不正競争防止法(第3回)営業秘密侵害の具体例と裁判例
厳しいところですね。
通関業務の現場では、輸出入者から提供された書類に「秘密」や「社外秘」の表示がない場合でも、取引相手先と秘密保持契約を締結していれば秘密管理性が認められる可能性があります。ただし、相手方との秘密保持契約の締結がなければ、常に秘密管理が不適切となるわけではありません。
外部のクラウドを利用して営業秘密を保管・管理する場合も、秘密として管理されていれば、秘密管理性が失われるわけではありません。通関業者が輸出入者の情報をクラウド上で管理する際も、適切なアクセス制限を設けることで秘密管理性を維持できます。階層制限などの技術的措置を導入すれば問題ありません。
参考)https://businessandlaw.jp/articles/a20251031-1/
有用性とは、事業活動のために有用な情報であることを意味します。生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報が該当します。
ありふれたノウハウや、社内の人員配置に関する情報などは、事業活動のために有用な情報とはいえず、不正競争防止法の営業秘密にはあたりません。有用性が認められるためには、その情報が企業の競争力向上やコスト削減など、具体的な経済的価値をもたらすものである必要があります。
通関業務では、輸出入者の取引先情報や価格情報が有用性の要件を満たします。これらの情報は、新規顧客の獲得や既存顧客との関係維持に不可欠であり、企業の収益に直結するためです。また、輸出入に関する独自のノウハウ(効率的な通関手続きの方法など)も有用性を持つ情報といえます。
有用性の判断は、その情報が現在利用されているか、または将来利用される可能性があるかで決まります。過去に使用されていたが現在は使われていない情報や、実験段階で失敗したデータなども、将来の研究開発に役立つ可能性があれば有用性が認められる場合があります。これは使えそうです。
非公知性とは、一般に知られている情報でないことを指します。その情報が、保有者以外には知られておらず、一般の公開情報などから簡単に取得することができないことが必要です。
非公知性の判断基準は、その情報が「公然と知られていない」ことです。公然と知られているとは、刊行物に記載されている、インターネット上で公開されている、展示会で公開されているなど、不特定多数の者が知ることができる状態にあることを意味します。
参考)営業の秘密の3つの要件
通関業務の文脈では、輸出入者の具体的な取引内容や価格は、通常、一般には公開されていないため非公知性を満たします。ただし、業界内で広く知られている情報や、公開されている統計データから推測できる情報は、非公知性を満たさない可能性があります。意外ですね。
一部の関係者に情報が共有されている場合でも、秘密保持契約を締結して情報を開示していれば、非公知性は維持されます。通関業者が輸出入者から情報を受け取る際に秘密保持契約を締結することで、非公知性が保たれる仕組みです。したがって、適切な契約管理が原則です。
平成28年の関税法改正により、営業秘密侵害品(営業秘密の不正使用行為により生じた物)が輸出入禁止物品に追加されました。これにより、税関においても、営業秘密侵害品の輸出入を差し止めることが可能になりました。
参考)営業秘密侵害品の輸出入差止(水際対策)の新設 –…
営業秘密侵害品の輸入差止にあたっては、営業秘密侵害品であること及び輸入者の悪意について、経済産業大臣による認定手続きを経る必要があります。権利者は、侵害品が輸入されようとする場合に税関長が認定手続きを執るべきことを申し立てることができます。
参考)https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_003_3.htm
通関業務従事者は、この水際対策の存在を知っておく必要があります。輸出入禁止物品に該当する可能性がある貨物を取り扱う際には、慎重な確認が求められます。税関長は、侵害品に該当する貨物があると思料するときは、侵害品に該当するか否かを認定手続きをとらなければなりません。
輸出入を差し止めるのは容易ではないものの、今後営業秘密が流出した場合に採り得る手段の一つになるものと思われます。通関業者としては、依頼者の営業秘密を保護することで、水際での差止リスクを回避できます。これだけは例外です。
経済産業大臣による意見照会制度も整備されており、税関が判断に迷う場合に専門的な見解を得ることができます。通関業務では、こうした制度の存在を理解し、必要に応じて適切な対応を取ることが求められます。
経済産業省の「営業秘密管理指針」では、秘密管理性の具体的な判断基準が示されています。
経済産業省の不正競争防止法テキスト
このテキストでは、営業秘密管理指針や秘密情報の保護ハンドブックなど、実務に役立つ資料が掲載されています。通関業務で営業秘密管理体制を構築する際の参考資料として活用できます。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/unfaircompetition_textbook.pdf
通関業務では、輸出入者から提供される書類に多くの機密情報が含まれます。インボイス、パッキングリスト、契約書などには、商品の原価、取引条件、取引相手などの情報が記載されており、これらは営業秘密に該当する可能性が高いです。
通関業者は、これらの情報を適切に管理するための体制を構築する必要があります。具体的には、以下のような対策が考えられます。まず、輸出入者との間で秘密保持契約を締結することです。契約書には、どの情報が秘密情報に該当するか、秘密情報の使用目的、保管方法、返却または廃棄の方法などを明記します。
次に、社内での情報管理体制を整備することです。従業員に対して、営業秘密の取扱いに関する教育を実施し、就業規則や社内規程で秘密情報の開示等を禁止します。また、顧客情報にアクセスできる従業員を限定し、パスワード管理やアクセスログの記録などの技術的措置を講じます。
参考)https://iplaw-net.com/doc/2021/tradesecret-mailmagazine-column_58.pdf
電子データの管理には特に注意が必要です。クラウドサービスを利用する場合でも、階層制限などのアクセス制御を設定し、秘密として管理されている状態を維持します。メールで顧客情報を送信する際には、暗号化やパスワード保護を行うなどの対策が求められます。結論は適切な管理体制の構築です。
退職する従業員への対応も重要です。退職時に秘密情報を漏えいしないことを誓約させる、業務用パソコンやUSBメモリなどの返却を確認する、アクセス権限を速やかに削除するなどの措置を取ります。これらの対策により、退職後の情報漏えいリスクを低減できます。
万が一、営業秘密の漏えいや不正使用が発覚した場合には、速やかに法的措置を検討する必要があります。不正競争防止法に基づく差止請求や損害賠償請求のほか、刑事告訴も可能です。通関業者としては、こうした事態を未然に防ぐための予防策を講じることが最も重要です。
参考)営業秘密|コンプライアンス|弁護士法人 法律事務所ホームワン
人事労務管理の観点からも、営業秘密管理は重要なテーマです。従業員との雇用契約や就業規則に、営業秘密の保護に関する条項を盛り込むことで、法的な保護を強化できます。競業避止義務や秘密保持義務を明確にすることが条件です。
通関業務の特性として、複数の輸出入者の情報を同時に扱う点があります。このため、情報の混同や誤った開示を防ぐための仕組みも必要です。案件ごとにフォルダを分ける、アクセス権限を案件単位で設定するなどの工夫が有効です。痛いですね。
定期的な監査やチェック体制の構築も、営業秘密管理には欠かせません。年に1回程度、情報管理の状況を点検し、問題点があれば改善策を講じます。外部の専門家(弁護士や情報セキュリティコンサルタント)に相談することも検討すべきです。どういうことでしょうか?
具体的には、情報管理の現状を診断してもらい、法的リスクや改善点を指摘してもらうことで、より強固な管理体制を構築できます。特に、秘密管理性の要件を満たすための具体的な措置について、専門家の助言を得ることは有益です。これにより、万が一の訴訟リスクにも備えることができます。
通関業界では、業界団体が提供する研修やセミナーに参加することで、最新の法改正情報や実務上の注意点を学ぶことができます。日本通関業連合会などの団体が提供する教育プログラムを活用すれば、従業員の意識向上にもつながります。
ビジネスロイヤーズの営業秘密解説
このサイトでは、営業秘密の3要件について、管理指針に従った詳しい解説が掲載されています。通関業務での具体的な適用例を考える際の参考になります。
参考)営業秘密とは?3要件を管理指針に従ってわかりやすく解説 - …
通関業務における営業秘密管理は、単なる法令遵守の問題ではなく、顧客との信頼関係を維持するためにも重要です。適切な情報管理体制を構築することで、顧客からの信頼を獲得し、長期的なビジネス関係を築くことができます。〇〇に注意すれば大丈夫です。
具体的な注意点としては、情報の取扱いについて顧客と事前に合意を取ること、社内での情報共有範囲を必要最小限に留めること、情報の保管期間や廃棄方法を明確にすることなどが挙げられます。これらの対策により、営業秘密としての要件を満たしつつ、業務効率も維持できます。