あなたが申告した20万円以下の貨物でも、品目次第で簡易税率が使えません。
通関業務で頻繁に扱う少額輸入貨物には、簡易税率という特別な関税計算方式があります。課税価格の合計額が20万円以下の一般輸入貨物および国際郵便物が対象で、一般の関税率が数千もの品目分類から税率を選ぶのに対し、簡易税率では7つの大区分で税率を判定します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/e310b76e7416b832ed51e3cb4620629eaef69298
これは通関手続きの効率化が目的です。
一般税率での申告では、HSコード(商品分類番号)を細かく特定し、該当する税率を実行関税率表から探す必要がありますが、簡易税率なら品目を大まかに分類するだけで税率が決まります。例えば、酒類なら1リットルあたり20円から70円の区分、衣類なら10%、プラスチック製品なら3%といった具合です。
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ただし、課税価格20万円という基準は貨物全体の合計額を指します。郵便物が重量制限などで2個以上に分割されている場合、それらの合計が課税価格となるため、個別の荷物が10万円ずつでも合計20万円なら簡易税率の適用範囲内です。
個人輸入の場合は課税価格の計算方法が異なります。
個人が自分の使用目的で輸入する貨物は、海外小売価格に0.6を掛けた金額が課税価格となります。商業輸入の場合は商品価格に運送費と保険料を加えた金額が課税価格です。この違いを理解していないと、課税価格の判断を誤り、簡易税率と一般税率のどちらを適用すべきか混乱することがあります。
通関業務でよくある誤解が「簡易税率に消費税が含まれている」という思い込みです。実際には、簡易税率は関税のみの税率であり、内国消費税(消費税、酒税など)および地方消費税は別途課税されます。
つまり別計算が必須です。
輸入貨物に対する消費税の計算は、関税額を確定した後に行います。具体的には「(課税価格+関税額)×消費税率10%」が消費税額となり、さらに地方消費税が課税されます。例えば、課税価格10万円の貨物に簡易税率10%が適用された場合、関税は1万円、消費税の課税標準は11万円(10万円+1万円)となり、消費税は1万1,000円です。
無税品目でも消費税は発生します。
簡易税率の第6区分(ゴム、紙、陶磁製品、鉄鋼製品、すず製品など)は関税が無税ですが、内国消費税と地方消費税は課税されます。この場合、課税価格に直接消費税率を掛けて計算します。通関士試験でも頻出のポイントなので、実務では「無税=税金がかからない」と早合点しないよう注意が必要です。
さらに、酒税やたばこ税などの個別消費税がある品目では、計算がさらに複雑になります。酒類の場合、簡易税率による関税に加え、酒税、消費税、地方消費税の3つが課税されます。課税価格1万円以下でも酒税とたばこ税は免除されないため、少額貨物でも申告漏れがないようチェックが必要です。
簡易税率は便利な制度ですが、すべての貨物に使えるわけではありません。日本の産業保護の観点から、簡易税率を適用することが適当でないとされる品目が政令で定められており、これらは課税価格が20万円以下でも一般税率での申告が必須です。
主な除外品目は22種類あります。
ミルク・クリーム等、豆類、穀物、穀粉等、落花生・こんにゃく芋、豚肉・牛肉の調製品、ココア調製品、穀物・ミルクの調製品、海草調製品、調製食料品、たばこ、精製塩、石油、メントール、原皮・革、革製品、繭・生糸、ニット製衣類、履物、身辺用模造細貨類(卑金属製以外)、革製の携帯用時計バンド、革製の腰掛けの部分品が該当します。
革製品は特に注意が必要です。
旅行用具、ハンドバッグなどの革製品は簡易税率の対象外で、一般税率が適用されます。例えば、課税価格15万円の革製ハンドバッグを輸入する場合、簡易税率の第7区分(その他のもの5%)ではなく、一般税率(革製品は8%から16%程度)で計算します。この判断を誤ると、税関から修正申告を求められることになります。
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ニット製衣類や履物も同様に除外品目です。これらは国内繊維産業や製靴産業への影響が大きいため、一般税率による保護が必要とされています。通関業務では、貨物の素材や製造方法を正確に把握し、HSコードを特定してから税率を選択する必要があります。
食品関連でも注意点があります。
穀物の調製品、ミルクの調製品、肉の調製品などは除外品目です。例えば、プロテインパウダー(乳製品の調製品)やビーフジャーキー(牛肉の調製品)は、課税価格が5万円でも簡易税率は使えません。一般税率で申告し、場合によっては輸入割当や食品衛生法の手続きも必要になります。
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除外品目に該当するか判断が難しい場合は、事前教示制度を活用しましょう。税関に対して貨物の分類や税率について照会し、文書で回答を得ることで、通関時のトラブルを防げます。この制度を使えば、輸入前に正確な関税額を把握でき、見積もりの精度も向上します。
簡易税率は7つの区分に分かれており、それぞれ異なる税率が設定されています。通関業務では、輸入貨物がどの区分に該当するかを正しく判定することが重要です。
第1区分は酒類で、細分化されています。
ワインは70円/リットル、焼酎等の蒸留酒は20円/リットル、清酒やりんご酒等は30円/リットルです。これらは従量税で、価格に関係なく容量で課税されます。例えば、5,000円のワイン1リットルでも、2万円のワイン1リットルでも、関税は70円です。高額なワインほど実質的な税率は低くなります。
第2区分は20%の税率です。
トマトソース、氷菓、なめした毛皮(ドロップスキン)、毛皮製品が該当します。アイスクリームなどの氷菓は意外とこの区分に入るため、課税価格10万円なら関税2万円がかかります。これに消費税が加わるため、トータルの税負担は結構大きくなります。
第3区分は15%で、コーヒー、茶(紅茶を除く)、なめした毛皮(ドロップスキンを除く)などが該当します。煎ったコーヒー豆の輸入では、課税価格が20万円なら関税は3万円です。一般税率では20%なので、簡易税率のほうが有利になります。
第4区分は10%です。
動物(生きているもの)、肉、魚、酪農品、食用の野菜・果実、ナット、食用海藻、各種調製食料品、絹織物、メリヤス編物、衣類(メリヤス編み又はクロセ編みのものを除く)など、幅広い品目が含まれます。ただし、前述の除外品目に該当する場合は一般税率となるため、品目リストを照合する必要があります。
第5区分は3%で、プラスチック製品、ガラス製品、卑金属(銅、アルミニウム等)製品、家具などです。この区分は比較的低税率で、プラスチック製の日用品や家具の輸入では税負担が軽くなります。課税価格15万円なら関税は4,500円です。
第6区分は無税です。
ゴム、紙、陶磁製品、鉄鋼製品、すず製品が該当します。関税はかかりませんが、前述のとおり消費税と地方消費税は課税されます。事務用品や工業用部品の輸入では、この区分に該当するものが多く、関税負担を気にせず輸入できるのがメリットです。
第7区分は5%で、前各号に掲げる品目以外のものすべてが該当します。この区分は「その他」の位置づけで、明確に区分できない雑貨や新しい商品などが含まれます。判断に迷った場合は税関に確認するのが確実です。
輸入者は、簡易税率と一般税率のどちらを適用するか選択できます。課税価格が20万円以下でも、輸入者が希望すれば輸入貨物の全部について一般税率を適用できます。
どちらが有利か計算するのが鉄則です。
例えば、煎ったコーヒー豆の輸入では、簡易税率15%に対し一般税率は20%なので、簡易税率のほうが有利です。逆に、一部の電子機器や工業製品では、一般税率のほうが低い場合があります。特に、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の特恵税率を利用できる場合、一般税率を選択したほうが関税がゼロまたは大幅に減額されることがあります。
計算の手間も考慮しましょう。
簡易税率は計算が簡単で、通関手続きの時間短縮になります。一方、一般税率では正確なHSコードの特定が必要で、書類の準備や原産地証明書の取得など、事務負担が増えます。輸入頻度が高い場合や、少額貨物を大量に扱う場合は、簡易税率を活用することで業務効率が向上します。
還付を受けたい場合は一般税率です。
輸入後に国内で加工して輸出する場合や、免税店への納品など、関税の還付を受ける可能性がある場合は、最初から一般税率で申告しておくほうがスムーズです。簡易税率で申告した場合でも還付は可能ですが、手続きが複雑になることがあります。事業計画に応じて税率を選択することが重要です。
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通関業者に相談するのも一つの方法です。
経験豊富な通関士なら、貨物の内容や輸入目的に応じて、最も有利な税率を提案してくれます。特に、初めて輸入する品目や、課税価格が20万円前後で一般税率と簡易税率の境界線にある場合は、専門家のアドバイスを受けることで、税負担を最小化できます。
税関の公式ページで簡易税率の詳細な品目分類と税率表を確認できます