関税ほ脱とは|通関業務の罰則と申告手続き

関税ほ脱は通関業務に携わる者なら必ず知るべき重大な犯罪です。虚偽申告による脱税は10年以下の懲役や高額な罰金を科されるリスクがあります。アンダーバリューや差額関税制度の悪用など具体的な手口を理解していますか?

関税ほ脱とは通関申告における罰則

たとえ数十万円程度のほ脱額でも告発される可能性があります。


この記事のポイント
⚖️
関税ほ脱の定義と法的位置づけ

偽りその他不正の行為により関税を免れる犯罪。関税法第110条で10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科される

📋
主な手口と摘発事例

アンダーバリュー取引、差額関税制度の悪用、原産地偽装などの手法により、数億円規模の事件も発生している

🔍
通関業務従事者が守るべき申告手続き

課税価格の正確な算出、インボイスとの整合性確認、修正申告の速やかな対応が求められる

関税ほ脱の法的定義と構成要件

関税ほ脱は関税法第110条に規定される重大な犯罪です。具体的には「偽りその他不正の行為により関税を免れる行為」を指します。


参考)https://www.customs.go.jp/kaisei/kanzeihou_2.pdf


この犯罪の成立には「故意」が必要ですが、犯人が貨物が有税品であると明確に認識していなくても、関税未納の貨物であることを認識しながら納付しない場合は犯意が認められます。税法の知識がないことは故意を否定する理由にはなりません。


参考)脱税容疑で国税局に告発を受け、逮捕された際の流れと対策


つまり故意があれば犯罪です。


罰則は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科となっています。ほ脱額が1,000万円を超える場合には、ほ脱額の10倍までの罰金が科されることもあります。


参考)https://www.customs.go.jp/shiryo/batsujo.htm

関税ほ脱の典型的な手口|アンダーバリュー取引

アンダーバリューとは、税関へ輸入申告する際に実際の価格よりも安い価格で申告し、関税や消費税を不正に安く抑える行為です。


参考)貿易におけるアンダーバリューとは 概要や注意点をわかりやすく…

具体例を見てみましょう。実際の取引価格が商品単価10ドルであるにもかかわらず、輸出者の請求書(インボイス)に8ドルと記載し、その価格で輸入申告すれば、差額の2ドル分には関税や消費税がかからないことになります。


この差額部分が関税ほ脱に該当するのです。



参考)アンダーバリュー取引は脱税です - 査察調査・脱税事件は弁護…

アンダーバリューが発覚すると、不足分の関税や消費税に加え、過少申告加算税延滞税が課されます。


延滞税は最大で年率14.6%にも達します。



参考)【eBay輸出】危険!アンダーバリューのリクエストは断ろう!…


これは使えそうです。


さらに重要な点として、輸出品の消費税還付を受ける際にもアンダーバリュー取引は問題となります。実取引と書類にズレが生じると免税要件を満たす証明ができず、消費税還付が受けられなくなる可能性があります。海外バイヤーから「インボイス金額を低くしてほしい」と依頼されても、きっぱりと断る必要があります。


参考)要注意!アンダーバリューの対処方法


関税ほ脱の悪質事例|豚肉差額関税制度の悪用

豚肉の輸入には差額関税制度という特殊な仕組みがあり、これを悪用した大規模な関税ほ脱事件が相次いで摘発されています。


参考)https://www.customs.go.jp/nagoya/mituyu/tekihatu/tekihatu2009.html


差額関税制度では、豚肉の課税価格によって3種類の税率が適用されます。従量税適用限度価格(64.53円/kg)未満なら482円/kgの関税、分岐点価格(524円/kg)以下なら基準輸入価格(546.53円)との差額が関税、分岐点価格以上なら4.3%の従価税となります。


参考)輸入豚肉に課される差額関税制度って何?

分岐点価格に近い価格で申告すれば関税額は最小限の22.53円/kgで済みます。

名古屋税関が告発した事例では、食肉仲介業者らが実際よりも高価な価格を記載した虚偽の輸入申告書を提出し、約21億6,000万円から約23億8,000万円もの関税を免れていました。平成17年から平成18年にかけて300回以上にわたり虚偽申告が繰り返されました。

千葉県の畜産物輸入業者の実質経営者ら5人が起訴された事件では、関税約61億円もの脱税が行われていました。これらの事例から、差額関税制度を利用する場合には、課税価格の申告が正確であることを厳密に確認する必要があることが分かります。


参考)ニュース「輸入豚肉脱税で起訴、差額関税制度とは」 : 企業法…

関税ほ脱における原産地偽装と少額ほ脱

原産地を偽装して特恵税率の適用を受ける行為も関税ほ脱に該当します。名古屋税関が告発した事例では、元会社経営者が北朝鮮産のサルトリイバラの葉を中国産と偽り、特恵税率無税として輸入申告を行い、納付すべき関税額275,500円を免れました。

約27万円という比較的少額でも告発されています。


この事例は「少額だから大丈夫」という認識が誤りであることを示しています。通関業務従事者は、原産地証明書の真正性を確認し、特恵税率の適用条件を慎重に審査する必要があります。原産地が疑わしい場合には、サプライヤーに追加の証明書類を求めるか、一般税率での申告を検討すべきです。

金の密輸事件では、関税法違反で5年以下の懲役および500万円以下の罰金が科されます。消費税法地方税法違反では10年以下の懲役および1,000万円以下の罰金(脱税額が1,000万円を超える場合には脱税額まで)となります。これは無許可輸出入等の罪として処罰されるケースです。


参考)金の密輸は何罪?逮捕されたときの罰則と対処法|ベンナビ刑事事…

関税ほ脱における輸入申告価格の正確な算出方法

通関業務従事者にとって最も重要なのは、課税価格を正確に算出することです。輸入貨物のほとんどは従価税品であり、輸入申告価格に関税率を乗じて関税を算出します。


参考)関税評価 - 輸入申告価格の決定方法

輸入申告価格の原則的な決定方法は「取引価格」を用います。


具体的には以下の計算式です。



輸入申告価格(課税価格)= 現実支払価格 + 加算要素
現実支払価格とは、輸入取引に関し買手により売手に対して当該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格を指します。加算要素には、運賃、保険料、容器代、手数料などが含まれます。

輸入者は自らの責任で算出します。

この計算を誤ると、意図せずとも過少申告となり関税ほ脱の疑いをかけられる可能性があります。特にインボイス価格と実際の支払価格が異なる場合、後払い条件や値引き、リベートなどが含まれる場合には、加算漏れが発生しやすいため注意が必要です。


個人輸入の場合は「商品価格×0.6」で課税価格を算出し、課税価格の合計が10,000円以下なら関税・消費税が免除されます。つまり実質16,666円以下の商品なら免税となるわけですが、革製品や衣類など一部商品は例外規定があり免税されない場合もあります。


参考)個人輸入関税 免除の条件と計算方法

関税ほ脱が発覚した際の修正申告と告発の実態

アンダーバリューなど不正な申告が発覚した場合、速やかに修正申告を行うことが重要です。自主的に修正申告をすれば、告発を回避できる可能性が高まります。


参考)【脱税行為】輸入ビジネスでアンダーバリューに気を付けよう

税関の通関審査には3つの区分があります。簡易審査扱いは輸入申告後直ちに輸入許可されますが、書類審査扱いでは税関に通関書類を提出して審査を受けます。審査の過程で課税価格の不整合が発見されることもあるため、申告前に社内でダブルチェック体制を整えることが推奨されます。

統計上、脱税事件で起訴されると100%有罪になっています。


参考)脱税事件において刑事告発されても不起訴となる場合について -…

起訴を避けるには不起訴を勝ち取る必要がありますが、検察統計によれば租税に関する犯罪の起訴率は約70%とされています。納税義務者が不起訴となることはまずありません。不起訴となる可能性があるのは、経理担当者として脱税に協力したものの特別な利益を得ておらず納税義務者の指示に従っただけの者、あるいは領収書や請求書等を偽造して脱税に協力しただけの幇助犯にとどまる者です。


参考)脱税で起訴される基準と流れ、起訴後の流れ


国税局から告発を受けた場合、検察でさらに捜査が行われます。脱税した所得金額が数千万円程度に留まる場合や、共犯者で関与の度合いが小さい場合には、不起訴となる可能性もあります。起訴されないためには、検察に意見書を提出するなど積極的に働きかけることが有効です。

関税ほ脱を防ぐための通関業務チェック体制

通関業務従事者が関税ほ脱を未然に防ぐには、申告前のチェック体制を強化することが不可欠です。まずインボイス価格と契約書、送金記録を照合し、価格の整合性を確認します。値引きやリベート、ロイヤリティなど後から発生する費用が課税価格に加算されているかも確認が必要です。


原産地証明書の確認も重要です。特恵税率を適用する場合、原産地証明書が正規の機関から発行されたものか、有効期限内かを確認します。サプライヤーが変更された場合には、新たに原産地の確認を行うべきです。


厳しいところですね。


税関の事後調査(AEO制度における特例輸入者の場合を除く)に備えて、輸入関連書類を法定期間保存することも義務です。関税法では輸入許可の日から5年間、帳簿書類の保存が義務付けられています。電子データで保存する場合には、改ざん防止措置を講じる必要があります。


社内研修で関税ほ脱の事例を共有し、リスク意識を高めることも効果的です。通関士資格を持つ従業員を増やすことで、専門知識を組織全体に浸透させることができます。


税関公式サイトの関税法罰条ページでは、関税ほ脱犯の詳細な法的要件と罰則が確認できます
税関の摘発事件発表ページでは、過去の関税ほ脱事件の具体的な手口と処分内容が公開されており、リスク管理の参考になります