計算価格と予定価格を正しく理解して関税コストを抑える方法

輸入時の課税価格(計算価格)と予定価格の違いを理解していますか?申告ミスで過少申告加算税が課されるリスクから、EPAを使って関税をゼロにできるチャンスまで、知らないと損する情報をわかりやすく解説します。

計算価格と予定価格が関税コストを左右する仕組み

インボイス価格で申告すればOKと思っていると、過少申告加算税10%が追加で請求されます。


この記事のポイント3選
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課税価格(計算価格)はインボイス額とは別物

関税の計算根拠となる「課税価格」は、インボイス価格+運賃+保険料などを加算したCIF価格が基本。インボイスの金額だけで申告すると申告漏れになるケースがあります。

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為替レートは「申告日のレート」ではない

課税価格の円換算には、税関の「公示レート(申告日が属する週の前々週の週間平均値)」が使われます。契約時レートや当日レートとは異なるため注意が必要です。

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EPA・FTA活用で課税価格への税率をゼロにできる

適切な原産地証明書を用意することで、EPA特恵税率の適用が可能に。同じ課税価格でも関税額が大幅に変わります。手続きを知っているかどうかで損得が決まります。


計算価格(課税価格)とは何か:関税計算の出発点


課税価格」とは、輸入貨物に対して関税を計算するときの基礎となる価格のことです。関税定率法第3条に基づき、従価税品(価格を基準に課税する品目)の場合は「輸入申告時の貨物価格+加算要素」がこれにあたります。多くの人は「インボイスに書いてある価格=課税価格」と誤解していますが、実際には違います。


課税価格の計算式は、次のように整理できます。


> 課税価格 = 現実支払価格(インボイス価格) + 加算要素


加算要素の代表的なものは以下の通りです。


- 輸入港までの運賃・保険料(Ocean Freight、BAF/EBSなどの燃油サーチャージ海上保険料)
- 仲介手数料(買付手数料は除く)
- 買手が無償提供した材料・金型・設計費用
- ロイヤリティ・特許使用料
- 売手に帰属する処分収益


つまり「CIF価格(商品代+運賃+保険料)」がほぼイコール課税価格になると理解しておけば大丈夫です。取引条件がFOB建て(運賃・保険料は買手負担)であっても、申告時には通関業者がこれらを加算してCIF相当額に変換してくれています。




一方で「予定価格」という概念は、輸入原価管理のシーンでよく使われます。実際の輸入申告前に、関税・消費税込みの輸入総コストを見積もるために設定する価格がこれです。予定価格を正確に立てるには、課税価格の計算方法を正しく理解していることが前提になります。この2つの価格の関係性を把握することが、コスト管理の第一歩です。


税関公式の課税価格の計算フロー(フローチャート)はこちらで確認できます。


税関 Japan Customs|課税価格の計算方法


計算価格の具体的な算出例:FOB建てインボイスの場合

「FOBで仕入れているから運賃や保険料は自分で払っている」という方は多いです。ただ、自分で払っているからこそ、それらも課税価格に含める必要があります。これが基本です。


実際の計算例で確認してみましょう。


項目 金額 備考
インボイス金額(FOB) USD 2,500 現実支払価格
海上運賃(Ocean Freight) USD 200 加算要素①
燃油サーチャージ(BAF) USD 50 加算要素①
海上保険料 USD 10 加算要素①
課税価格(CIF合計) USD 2,760 ←これが計算の基礎




ここで見落とされがちなのが、円への換算レートです。多くの輸入者が「申告日のTTSレート(銀行の対顧客売り相場)で計算すればいい」と考えていますが、実際は違います。税関が使うのは「公示レート」であり、これは輸入申告日が属する週の前々週の、実勢外国為替相場の週間平均値です。毎週火曜日に更新され、翌週月曜日から適用されます。


たとえばUSD 2,760に、公示レートで1USD=155.00円が適用されると、課税価格は以下のようになります。


$$課税価格 = 2{,}760 \times 155.00 = 427{,}800円 \Rightarrow 千円未満切捨て = 427{,}000円$$


この427,000円に関税率をかけたものが関税額です。さらに(427,000円+関税額)×10%が消費税となります。公示レートと当日レートのズレが大きい時期には、予定価格と実際の課税価格に差が出やすいため、為替の動向には注意が必要です。


JETRO|輸入税額の計算方法:日本(関税・消費税の算定方法を詳解)


計算価格に加算漏れが起きやすい「評価申告」の落とし穴

通常の輸入では、インボイス価格+運賃+保険料で課税価格は確定します。しかし、加算要素が発生しているのにインボイスに記載されていないケースがあり、これを見落とすと申告漏れにつながります。これが評価申告が必要な場面です。


評価申告が必要になる主なケースは以下の通りです。


- 輸入者が製造のために原材料や金型を無償で海外工場に提供している(加算要素③)
- 国内の仲介業者に仲介手数料を支払っている(加算要素②)
- ブランドやパテントのロイヤリティを別途支払っている(加算要素④)


たとえば、金型代30万円を中国の製造工場に無償提供している場合、この30万円は課税価格に加算しなければなりません。さらに、金型を日本から中国へ送る際の海上運賃・保険料まで加算対象になる点は、あまり知られていません。


評価申告書の提出を省略できる条件も覚えておきましょう。関税がFREEの場合、または課税価格の総額が100万円以下の場合は、評価申告書の提出自体は省略可能です。ただし、省略できるのはあくまで「書類の提出」だけです。課税価格への金額の加算は必ず行わなければなりません。




継続的に同じ取引がある場合は「包括評価申告」の活用が効率的です。適用期間内であれば、個々の輸入申告のたびに評価申告書を提出しなくて済みます。通関業者に一度相談してみる価値があります。


丸一海運株式会社|評価申告の基本と加算漏れ防止のポイント


計算価格を過少申告したときのリスクと追徴コスト

課税価格(計算価格)を誤って低く申告してしまった場合、後から税関の事後調査で発覚するリスクがあります。厳しいところですね。税関の事後調査は、輸入許可後でも実施されます。


発覚した場合に発生する追加コストは次の通りです。


| ペナルティの種類 | 税率・内容 |
|---|---|
| 過少申告加算税修正申告の場合) | 増加税額の10%(税関調査後は15%) |
| 延滞税 | 法定納期限翌日から納付日まで(年2.4〜8.7%程度) |
| 重加算税(意図的な場合) | 増加税額の35% |




財務省の公表データによると、申告漏れに係る課税価格は年間630億円規模に及ぶ年もあります。これは大企業の話だけではなく、中小の輸入事業者でも加算要素の見落としが原因で追徴税額が発生するケースが多数報告されています。


具体例で考えてみましょう。課税価格が本来100万円であるところを80万円で申告し、関税率を10%と仮定した場合を見てみます。


$$不足関税 = (1{,}000{,}000 - 800{,}000) \times 10\% = 20{,}000円$$


$$過少申告加算税 = 20{,}000 \times 10\% = 2{,}000円(自主発見・修正申告の場合は5\%)$$


さらに延滞税が日割りで加算されます。申告ミスに気づいた時点で、なるべく早く修正申告を行うことが、追加コストを最小化する唯一の手段です。税関に調査通知を受けてからでは加算税率が上がってしまいます。


税関 Japan Customs|納税申告に誤りがあった場合(修正申告・更正の請求)


EPA・FTA活用で課税価格への税率を大幅に引き下げる方法

課税価格の計算が正確にできたとしても、そこにかかる関税率次第で納税額は大きく変わります。同じ課税価格であれば、関税率を下げることが最も直接的なコスト削減策です。これが原則です。


日本が締結しているEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を活用することで、特定の相手国からの原産品には「EPA税率(特恵税率)」が適用されます。WTO協定税率や基本税率より大幅に低い、場合によっては0%になる品目も少なくありません。


EPA税率を適用するための手続きは次の通りです。


- ① 輸入貨物が対象EPAの「原産品」の要件を満たしているか確認する
- ② 輸出国で原産地証明書(特定原産地証明書)を取得する
- ③ 輸入申告時に税関へ原産地証明書を提出する(課税価格の総額が20万円以下の場合は省略可)


注意点として、原産地証明書の取得コストがかかります。たとえば日本商工会議所発給の特定原産地証明書は、1件あたり基本料2,000円+産品数に応じた加算額が必要です。少額の取引では費用対効果を計算してから判断するのが賢明です。




一方、農林水産省や経済産業省が管理する「関税割当制度」も見逃せません。米・小麦・乳製品・皮革・革靴などの品目では、割当枠内であれば低い「一次税率」が適用されます。枠を超えた分には高い「二次税率」がかかるため、輸入前に割当申請の手続きが必要です。予定価格を立てる際には、一次・二次どちらの税率が適用されるかを事前に確認しておくことが重要です。


税関 Japan Customs|経済連携協定の通関手続について(原産地証明書の提出方法)




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