基本税率と協定税率の優先順位は条件付き・暫定税率との比較で判断せよ

通関業務で関税率を決定する際、基本税率・協定税率・暫定税率の優先順位を正しく理解していますか?誤った適用は追徴課税のリスクを招き、実務に深刻な影響を与えます。あなたは正しく判断できていますか?

基本税率と協定税率の優先

協定税率は基本税率より常に優先されるわけではありません。

📋 この記事の3つのポイント
⚖️
協定税率は条件付き優先

協定税率は基本税率・暫定税率より低い場合のみ適用される特殊なルール

📊
税率適用の優先順位

特恵税率→EPA税率→暫定税率→協定税率→基本税率の順で比較判断

⚠️
誤適用のリスク

協定税率の誤適用は追徴課税の対象となり、数百万円規模の追徴事例も存在

基本税率と協定税率の基本的な違い


基本税率は関税定率法で定められた日本の標準的な関税率です。すべての輸入貨物に適用できる基本となる税率で、国内産業保護や財政収入確保の目的で設定されています。
参考)貿易時に覚えておきたい関税率の主な種類


一方、協定税率はWTO加盟国から輸入される特定商品に対して適用される税率です。WTO協定で定められた譲許税率であり、MFN税率(最恵国待遇税率)とも呼ばれます。この税率は国際協定に基づくため、基本税率とは異なる法的根拠を持っています。
両者の最も重要な違いは適用条件にあります。基本税率は原則としてすべての国からの輸入に適用可能ですが、協定税率はWTO加盟国の産品に限定されます。
ただし、WTO非加盟国であっても、相互主義に基づいて協定税率と同率の関税率を適用する「便益関税」という制度が存在します。実質的に最恵国待遇と同様の扱いを受けられる国・地域については、この仕組みが活用されています。​

協定税率が基本税率より優先されない条件

協定税率が基本税率より優先されるのは、協定税率の方が低い場合に限られます。具体的には、基本税率が20%で協定税率が15%の場合、協定税率の15%が適用されます。
逆に協定税率が基本税率と同じか高い場合には、協定税率は適用されません。例えば基本税率が10%で協定税率が15%であれば、低い方の基本税率10%が選ばれます。つまり協定税率が高ければ無視されるということですね。
参考)【関税の算出方法🧮】関税率の種類と適用される優先順位について…


この比較判断は暫定税率が設定されている場合にも適用されます。暫定税率は基本税率より常に優先されるため、まず基本税率と暫定税率のどちらを使うか決定し、その後に協定税率と比較する流れになります。
参考)関税の知識ABC


暫定税率4%、基本税率5%、協定税率5%という設定の場合を考えてみましょう。まず暫定税率4%が基本税率5%より優先され、次に暫定税率4%と協定税率5%を比較します。結果として最も低い暫定税率4%が適用されます。​

暫定税率と基本税率の優先関係

暫定税率は輸出入国で大きな状況変化があった際、基本税率を修正するために一定期間暫定的に採用される関税率です。関税暫定措置法で定められており、基本税率より常に優先して適用されます。
暫定税率が設定されている品目は412品目存在します。これらの品目については、暫定税率の設定がある限り、基本税率は実質的に適用されることがありません。暫定税率が優先です。​
両方の税率が設定されている場合、必ず暫定税率が選ばれます。例えば基本税率が10%、暫定税率が5%と設定されていれば、無条件で暫定税率5%が国定税率として採用されます。
参考)【通関士試験対策】関税定率法の定義・基礎をわかりやすく解説!…


暫定税率は時限的な措置であるため、期限が切れると自動的に基本税率に戻ります。通関業務従事者は、暫定税率の適用期限を常に確認しておく必要があります。期限切れに気づかず暫定税率で申告すると、修正申告が必要になる場合があります。​

特恵税率とEPA税率の優先順位

特恵税率は開発途上国から輸入する物品のみに適用できる特別な関税率です。一般特恵制度(GSP)に基づき、対象国の原産品であるなどの条件を満たす場合に限り適用され、原則として最も優先度が高い税率となります。
EPA税率は経済連携協定を締結した相手国からの産品のみを対象とした税率です。EPA税率は特恵税率を除く他のすべての税率より優先されますが、特恵税率との関係では例外が存在します。
EPAとGSPの両方に税率設定がある場合、原則としてEPA税率が優先され、GSP税率は適用できません。しかし例外として、GSP税率の方がEPA税率より低い場合には、両方の適用が可能になります。​
具体例で見てみましょう。基本税率20%、協定税率15%、EPA税率5%、特恵税率10%の貨物を特恵税率適用対象国から輸入する場合、最も低いEPA税率5%が適用されます。ただしEPA税率の適用条件を満たさない場合には、次に低い特恵税率10%が選ばれます。​

協定税率の誤適用による追徴リスク

協定税率の適用を誤ると、税関の事後調査で追徴課税の対象となります。実際の非違事例では、本来協定税率の適用を受けることができない貨物に対して協定税率を適用していたケースがあり、関税及び消費税の追徴税額が1,900万円に達しました。​
追徴課税は申告時の税額との差額だけでなく、延滞税や加算税も含まれます。税率の誤適用が悪質と判断されれば、重加算税の対象となる可能性もあります。1,900万円という金額は約2,000万円、つまり一般的な輸入業者の年間利益を大きく圧迫する規模です。
税率適用の誤りは輸入者の信用リスクにも直結します。税関から「要注意輸入者」として認識されれば、以降の通関審査が厳格化され、通関リードタイムが延びる可能性があります。これは業務効率の低下を意味します。​
誤適用を防ぐには、協定税率と国定税率(基本税率・暫定税率)を必ず比較し、より低い税率を選択するルールを徹底することが必要です。実行関税率表(税関のウェブサイトで公開)を確認し、複数の税率が併記されている場合は慎重に判断しましょう。
参考)関税率の適用順位について |貿易コラム|株式会社HPS CO…


基本税率の適用が必要となる独自ケース

協定税率が存在しない品目については、基本税率が直接適用されます。すべての品目にWTO協定税率が設定されているわけではなく、一部の品目では基本税率のみが設定されています。​
WTO非加盟国からの輸入では、原則として協定税率を適用できません。このような場合、基本税率が適用されることになります。ただし前述の便益関税制度により、実質的に協定税率と同率が適用される場合もあります。
暫定税率の適用期限が切れた直後のタイミングでは、基本税率が復活します。暫定税率は一定期間のみ有効な措置であるため、期限終了後は基本税率に戻ります。この切り替わり時期には特に注意が必要です。​
靴の輸入を例に見てみましょう。台湾から婦人用の靴を輸入する際、「甲が合皮製の靴」として関税率表番号6402・99-010(関税率8%)で申告したが、実際には「甲が革製の靴」で正しい関税率表番号は6403・99-016(関税率30%)だったという非違事例があります。品目分類の誤りにより、基本税率の適用が変わるケースです。​
税関のカスタムスアンサー「関税率の種類」
上記リンクでは、基本税率・暫定税率・協定税率の定義と適用順位が税関公式に解説されています。実務で迷った際の参考資料として活用できます。

実務での税率判断フローチャート

税率判断は以下のステップで行います。

ステップ 確認内容 判断基準
1️⃣ 特恵税率の適用可否​ 対象国の原産品で条件を満たすか
2️⃣ EPA税率の適用可否​ EPA締約国からの輸入で原産地規則を満たすか
3️⃣ 暫定税率の有無​ 該当品目に暫定税率の設定があるか
4️⃣ 協定税率との比較​ 協定税率が国定税率より低いか
5️⃣ 最終適用税率の決定​ 最も低い税率を選択


まず特恵税率とEPA税率の適用可能性を確認します。これらは最も優先度が高く、適用できれば大幅な関税削減が可能です。特恵税率は無税または大幅に低い税率が設定されています。
次に国定税率を確認します。基本税率と暫定税率の両方が設定されている場合は、暫定税率を選びます。暫定税率が設定されている場合、基本税率は無視してOKです。
その後、国定税率と協定税率を比較します。協定税率が国定税率より低ければ協定税率を適用し、同じか高ければ国定税率を適用します。この比較が最も誤りやすいポイントですね。
実務では実行関税率表を参照し、該当品目のすべての税率を横並びで確認することが重要です。税関のウェブサイトで公開されている実行関税率表には、すべての税率が一覧表示されているため、比較判断がしやすくなっています。​
税関の実行関税率表
このリンク先では品目ごとのすべての税率(基本税率・暫定税率・協定税率・特恵税率・EPA税率)が一覧で確認できます。通関業務で税率を調べる際の必須ツールです。




消費税 1-1/最終的に輸出となる物品の消費税免税購入についての購入者誓約書(一般物品用) A6 30組