割当申請を輸入後にしても、一次税率は一切適用されません。
関税の世界には、同じ商品でも「いくら輸入したか」によって税率がまったく変わる仕組みがあります。それが関税割当制度(TQ:Tariff Quota)であり、この制度の中心にあるのが一次税率と二次税率という2つの税率です。
一次税率とは、一定の輸入数量(割当枠)内に限り適用される、無税または低い税率のことです。消費者に安価な輸入品を届けることを目的として設けられています。対して二次税率は、その割当枠を超えて輸入する場合に課される高い税率で、国内の生産者を守ることを主な目的としています。
ここで重要な点があります。二次税率が適用されても「輸入できない」わけではないということです。あくまでコストが大きく上がるだけで、輸入そのものは可能です。輸入数量を直接制限する「輸入割当制度(IQ)」と根本的に異なるのはこの点です。
| 区分 | 概要 | 目的 |
|---|---|---|
| 一次税率(枠内税率) | 割当枠内の輸入に適用される低税率・無税 | 消費者への安価な輸入品供給 |
| 二次税率(枠外税率) | 割当枠を超えた輸入に適用される高税率 | 国内生産者の保護 |
二次税率で輸入数量に制限はない、というのが原則です。WTO(世界貿易機関)はもともと数量制限を禁じていますが、関税割当制度については「特定の国に差別的に適用しない」条件を満たせば認められています。1961年(昭和36年)の貿易自由化に際して急激な国内産業へのダメージを緩和するために導入されたのが日本における関税割当制度の出発点であり、今日まで一貫して食料安全保障の観点から運用されています。
参考:関税割当制度の位置づけや税率種類の体系については、税関の公式資料が最も権威があります。
2025年現在、関税割当制度の対象となっている品目は19品目28枠です。その大多数は農林水産物で、所管省庁は農林水産省(17品目24枠)と経済産業省(2品目4枠)に分かれています。具体的には以下の品目が含まれます。
農林水産省が所管する品目としては、ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用)、とうもろこし(コーンスターチ用など複数枠)、麦芽、バター及びバターオイル、脱脂粉乳、ホエイ、こんにゃく芋、落花生、豆類、でん粉などです。そして経済産業省が所管する品目が皮革(牛馬革・羊革など3枠)と革靴の計4枠です。
| 品目 | 所管省庁 | 一次税率(枠内) | 二次税率(枠外) |
|---|---|---|---|
| 米 | 農林水産省 | 無税(ミニマムアクセス枠77万トン) | 341円/kg |
| バター・バターオイル | 農林水産省 | 35%(枠内低税率) | 29.8%+985円/kg等 |
| ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用) | 農林水産省 | 無税(49,900トン以内) | 29.8% |
| 革靴 | 経済産業省 | 24%・21.6%・17.3% | 30%または4,300円/足の高い方 |
| 牛馬革(染着色等したもの) | 経済産業省 | 13.3% | 30% |
この中で特に注目すべきなのが革靴です。輸入される商品の中でも関税率が高いことで知られており、二次税率である「30%または4,300円/足のいずれか高い方」というのは、単価の安い靴ほど実質的に重い負担となります。一方、一次税率の割当枠内(2025年度は約1,200万足)であれば17~24%程度の税率で輸入でき、コスト差は実際の利益率に直結します。
これは大きな差です。たとえば1足あたりのCIF価格が3,000円の革靴を100足輸入するとします。一次税率(24%)なら関税は72,000円ですが、二次税率(30%または4,300円/足の高い方)では4,300円×100足=430,000円と約6倍の差が生じます。
参考:農林水産省が所管する関税割当品目の制度概要と対象品目の一覧です。
一次税率を活用するためには、輸入よりも前に割当申請を完了させることが絶対条件です。多くの輸入ビジネスの初心者が「輸入してから申請する」という誤解をしがちですが、これでは一次税率は使えません。申請のタイミングが命取りになります。
申請窓口は所管省庁によって異なります。農林水産物については農林水産省、皮革・革靴については経済産業省が窓口です。いずれも毎年度ごとに「関税割当公表」という形で申請期間・割当数量・要件を公表しており、この公表を見落とすと申請すること自体できません。
申請期間は品目によって異なりますが、年度の開始直後である4月上旬に「4月1日から4月9日まで」といった形で設定されることが多く、約1週間と非常に短い場合もあります。また上半期・下半期で分けて申請を受け付ける品目では、上期は4月上旬、下期は10月上旬に申請期間が設けられるのが一般的です。
割当が承認されると「関税割当証明書」が交付されます。注意が必要なのは、この証明書にも通関期限(有効期限)があるという点です。年度単位で管理される品目であれば原則として3月31日まで、上期分なら9月30日までが通関期限です。期限内に輸入通関を完了させなければ、証明書を持っていても一次税率は適用されません。
| 手続きの流れ | ポイント |
|---|---|
| ①申請期間の確認 | 4月上旬が多い(約1週間)。農水省・経産省の公表を必ずチェック |
| ②割当申請の提出 | 輸入する前に提出。使用目的・設備・製造実績の証明書類が必要 |
| ③割当証明書の受領 | 申請数量どおりに割り当てられないケースもある。抽選や調整あり |
| ④輸入通関時に証明書を提示 | 通関期限(3月31日など)内に完了させること |
| ⑤使用実績の報告 | 割当後に使用実績を報告する義務がある品目もある |
申請できるのは実需者が原則です。関税割当制度は「実際にその原材料を使用して製品を製造・加工する事業者」を対象とした制度であり、転売目的や在庫積み上げ目的では要件を満たしません。設備の保有状況や製造実績の資料提出を求められる品目も多く、初めての申請では準備に時間がかかります。
参考:経済産業省が管轄する革靴・皮革の関税割当に関する申請様式や手続き詳細はこちらで確認できます。
一次税率と二次税率の差がどれほど大きいか、具体的な数字で確認してみましょう。税率の差を「なんとなく高い・低い」で把握するのと、実際の金額感覚で理解するのとでは、意思決定のスピードと精度がまったく変わってきます。
まず米(コメ)を例にとります。WTO協定に基づくミニマムアクセス枠(年間77万玄米トン)の範囲内で輸入される場合、一次税率は無税です。この77万トンは、日本国内の主食用コメの年間需要(約700万トン)の約11%に相当します。ところが民間業者がこの枠を超えて輸入しようとすると、二次税率として341円/kgの関税がかかります。
イメージしやすく言うと、コメ10kgを枠外で輸入した場合に関税だけで3,410円がかかる計算です。スーパーで売られる国産米10kgの平均小売価格が3,000〜5,000円程度であることを考えると、関税だけでその金額と同等か上回ることになります。これが輸入コメが市場に大量流通しない主な理由のひとつです。
次に乳製品です。ナチュラルチーズ(プロセスチーズ原料用)の場合、49,900トン以内の割当枠内では一次税率が無税です。しかしこの枠を超えると二次税率として29.8%が課されます。バター・バターオイルでは枠外税率が「29.8%+985円/kg(または1,159円/kg)」という複合税となり、輸入コストが一気に跳ね上がります。
革靴については先述のとおりですが、枠内での一次税率(17.3〜24%)と枠外の二次税率(30%または4,300円/足の高い方)の差は、輸入ビジネス全体の採算性を大きく左右します。1足2,000円の商品ならCIF価格の30%でも600円の関税ですが、4,300円/足ルールが適用されるとその7倍以上の負担になります。
参考:実際の関税率の詳細は税関の実行関税率表から品目ごとに確認できます。
ここで多くの解説記事では触れられていない重要なポイントを紹介します。一次税率・二次税率という概念は「関税割当制度の中での話」であり、日本の関税体系にはそれ以外にも複数の税率種類が存在します。これらの優先順位と関税割当制度の関係を理解することが、実際の輸入コスト最小化につながります。
日本の関税率の適用順位は原則として次のとおりです。
EPA税率が最優先で適用されるという点に注目してください。たとえば革靴を輸入する際、マレーシア原産品であれば日本とマレーシアの経済連携協定(JMEPA)に基づいて無税が適用されます。この場合、関税割当制度(一次税率・二次税率)の枠組みとはまた別に、EPA税率として「無税」が実現するわけです。
ここで実務上の注意点があります。EPA税率を使うためには、原産地証明書の提出が必須です。輸出者から証明書を発行してもらい、輸入申告時に税関へ提出しなければなりません。これを怠ると、EPA税率は適用されず、一般の協定税率(例:革靴では30%または4,300円/足)が課されることになります。知っているか知らないかで関税がゼロか高額かの差が生じます。
またEPA税率と関税割当制度はどちらが優先されるかという疑問も生まれますが、EPA税率の方が有利な場合はEPA税率を選択するという判断が現実的です。
| 輸入国 | 品目 | EPA税率 | 関税割当の二次税率 |
|---|---|---|---|
| マレーシア | 革靴 | 無税(JMEPA) | 30%または4,300円/足の高い方 |
| インドネシア | 乳児用手袋 | 無税(JIEPA) | 7.4%(暫定税率) |
| EU加盟国 | ナチュラルチーズ(一般) | 段階的削減・最終的に無税へ | 29.8% |
EPA税率は条件次第で劇的にコストを下げる武器です。ただし原産地証明書の準備など輸出者側の協力が必要なため、商流設計の段階からの確認が肝心です。輸入を検討している品目についてジェトロ(JETRO)の「FTA/EPA税率照会サービス」や税関の「ウェブタリフ」で事前確認するのが最も確実な方法です。
参考:EPA税率を含む関税率の総合的な照会に役立つジェトロのページです。