クロスボーダーM&Aで弁護士と通関業者が連携する重要性

通関業従事者がクロスボーダーM&Aに関わる場面は意外と多い。弁護士との連携や法務DDにおける関税・許認可チェックの要点を解説。知らないと損する情報とは?

クロスボーダーM&Aと弁護士の役割を通関業従事者が知るべき理由

通関業許可は、M&Aでは原則として引き継げません。


📋 この記事の3つのポイント
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クロスボーダーM&Aとは何か

国境を越えて行われる企業の合併・買収のこと。通関業従事者が携わる輸出入企業でもM&Aの当事者になるケースが増えている。

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弁護士が果たす具体的な役割

法務デューデリジェンス・契約書作成・外為法対応など、通関業従事者の業務とも深くリンクする法的チェックを担当する。

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通関業特有のリスクと対策

通関業許可の承継問題・関税DDの落とし穴・輸出規制(外為法)対応など、通関業務に直結するリスクを弁護士視点で解説する。


クロスボーダーM&Aの基本と通関業従事者が関係する場面

クロスボーダーM&Aとは、売り手・買い手のどちらかが海外企業であるM&A(企業の合併・買収)のことです。日本企業が海外企業を買収する「IN-OUT型」と、外国企業が日本企業を買収する「OUT-IN型」の2種類があります。2024年の対日クロスボーダーM&Aは前年比24.6%増の208件(JETRO調査)に達し、件数の回復傾向が鮮明になっています。


通関業従事者にとって「M&Aは経営層の話」と感じるかもしれません。これは少し違います。


輸出入を扱う企業が売買の対象になったとき、通関業許可・HSコード管理・関税の会計処理・輸出規制対応など、通関実務に直結する要素がデューデリジェンス(DD)の対象となります。自社や顧客企業がM&Aに関わった際、現場担当者がこれらの知識を持っているかどうかが、成否に大きく影響するのです。


たとえば、ある貿易専門商社が海外企業に買収されるケースを想像してください。買収後に過去の関税申告の誤りが発覚し、追徴課税が発生すると、その費用は買収価格の調整や表明保証条項の違反問題に発展します。これは現場担当者が意識していなかったリスクが、何千万円単位の損害につながる事態です。


M&Aの種類 内容 通関業務との接点
IN-OUT型 日本企業が海外企業を買収 買収先の輸入・輸出管理体制の確認
OUT-IN型 外国企業が日本企業を買収 通関業許可の引き継ぎ・外為法届出


つまり通関業が核心です。M&Aの現場では現場の知識が法的判断を左右します。


クロスボーダーM&Aで弁護士が担う法務デューデリジェンスの全体像

法務デューデリジェンス(法務DD)とは、M&A実施前に買収対象企業の法的なリスクを洗い出す調査のことです。契約関係・知的財産・労務・訴訟リスクなど多岐にわたる項目を専門家チームが精査します。クロスボーダーM&Aにおいては、国内M&Aよりもはるかに広い範囲の法的確認が必要です。


法務DDの費用は、中小企業向けのM&Aで1件あたり50万〜300万円が相場です。大規模なクロスボーダー案件では数千万円規模になることもあります。


弁護士が確認する主な項目は以下の通りです。


  • 📄 会社組織・株式構造:設立準拠国の法令に基づいた組織の適法性、外資規制の有無
  • 📑 契約関係:大口取引先との契約にチェンジオブコントロール(COC)条項がないかの確認
  • 🏭 許認可・コンプライアンス:通関業許可や輸出許可など業種固有の許認可の承継可否
  • ⚠️ 訴訟・紛争リスク:現在進行中の係争・税関調査の有無
  • 🌍 外為法・輸出規制:安全保障上の規制対象品目を扱っているかどうか


COC条項はとくに要注意です。大口の取引先との契約に「経営権が変わったら契約解除できる」という条項が入っていた場合、M&A後に主要顧客が離れてしまうリスクがあります。実際のクロスボーダーM&Aでも頻繁に検出されている問題です。


現地の弁護士は現地法の専門家ではあるが、クロスボーダーM&Aの専門家ではないため、日本企業の視点から見た現地法制との差異について助言できないケースがあります。そのため、日本法弁護士が全体の取りまとめ役を担い、各国の現地弁護士とコーディネートする体制が一般的です。


参考:クロスボーダーM&Aの法務DDの詳細と各国事例については以下をご参照ください。


クロスボーダーM&Aにおける法務デューデリジェンスの基本|日本M&Aセンター


通関業者の許認可とクロスボーダーM&Aにおける弁護士の確認事項

通関業従事者が最も直接的に関係するM&Aのリスクが「通関業許可の承継問題」です。通関業を営むには、関税法上の許認可(通関業許可)が必要です。この許可は、会社の同一性が保たれる株式譲渡であれば基本的に引き継がれます。しかし事業譲渡の場合は、買収側が通関業許可を保有していないと、引き継ぎができません。


これが原則です。


株式譲渡と事業譲渡では、許認可の扱いが根本的に異なります。


  • 株式譲渡:会社法人格は変わらないため、通関業許可は原則として存続
  • 事業譲渡:買収側が通関業許可を持っていない場合、新たに取得手続きが必要


M&Aのスキームを検討する段階で、弁護士はこの許認可の問題を必ず確認します。買収後に「通関業務が続けられない」という事態を防ぐための重要なチェックポイントです。許認可の引き継ぎが難しいと判断された場合は、スキームを株式譲渡に変更したり、並行して新規許可の取得手続きを進めたりするケースもあります。


実際に貿易会社のM&Aを行う際には、M&Aアドバイザーだけでなく、通関士資格を保有している弁護士を起用するケースも出てきています。通関士の資格を持つ弁護士であれば、輸入申告方法の適正判断・税関事後調査への対応・関税トラブルへのサポートを一体的に行えるため、通関業の法的リスクを包括的にチェックできます。


参考:貿易(輸出入)を行う会社のM&Aにおける特有リスクの詳細はこちら。


貿易(輸出入)を行う会社に関するM&Aを行う場合の留意点|顧問弁護士.NET


クロスボーダーM&Aにおける関税DDの落とし穴と弁護士・通関業者の連携

関税に関するデューデリジェンス(関税DD)は、従来のM&A実務では十分に実施されてこなかった盲点です。これは重大なリスクです。


2025年のニデック社における関税申告不適切会計疑惑、さらにトランプ関税の復活による関税環境の急変が重なり、クロスボーダーM&Aにおける関税リスクの重要性が急浮上しています。


関税の問題が財務DDで見落とされやすい理由は構造的です。HSコード(商品分類コード)の誤分類による関税率の差異は、たとえば対象品目が全仕入の10%を占める場合、売上原価全体への影響は0.5%程度にしかなりません。数値の傾向分析では、為替変動などに埋もれて見えにくくなるのです。


一方で、累積すると数千万〜数億円規模の追徴課税リスクに発展します。これは痛いですね。


関税DDで弁護士と通関業従事者が連携して確認すべき項目を整理すると次のようになります。


  • 🔎 HSコード分類の適正性:誤分類がある場合、過去にさかのぼって修正申告が必要になる
  • 💰 関税評価額の算定:運賃・保険料などの加算要素が漏れていないか(アンダーバリュー問題)
  • 📋 原産地規則の確認:FTA/EPAの適用を受けているか、原産地証明書が正確に管理されているか
  • 🏛️ 税関調査の履歴:過去に税関から是正指摘を受けたことがないか
  • 🔄 内部統制の評価通関業者との連携体制・HSコード分類の承認フローが機能しているか


これらの確認には、法的な判断(弁護士)と実務的な通関知識(通関士・通関業従事者)の両方が不可欠です。双方の専門知識を持つ弁護士に相談するか、弁護士と通関業のプロが連携できる体制をM&Aチームに組み込むことが現実的な対策になります。


関税DDの具体的な実務アプローチについては、以下のページが詳しいです。


【クロスボーダーM&A】関税リスクを見抜く財務DDの実務ポイント|TGO Partners


外為法・経済安全保障と通関業従事者が押さえるべき弁護士の役割

クロスボーダーM&Aでは、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく規制対応が欠かせません。外資が日本の重要業種に投資する場合、または日本企業が特定国の企業を買収する場合、事前届出が必要になるケースがあります。届出なしに取引を実行した場合、財務大臣から取引の中止・変更命令が出される可能性があります。


外為法は通関業務とも深くつながっています。


輸出規制の対象品目(ハイテク製品・デュアルユース品目)を扱う企業をM&Aで取得した場合、買収後の輸出管理体制の継続的な適法性が問われます。規制対象品目の輸出手続きを適切に行っていなかった事実がDD後に発覚すると、罰金刑や業務停止のリスクを引き継ぐことになります。


弁護士がM&Aの局面で外為法・経済安全保障に関して担う主な業務は次の通りです。


  • 🌐 投資規制の確認:対象会社が外為法上の「重要業種(安全保障上の重要インフラや技術)」に該当するかの調査
  • 📬 事前届出の手続きサポート財務省・関係省庁への届出書類の作成と審査対応
  • 🔐 輸出管理体制の評価安全保障貿易管理(Security Export Control)の社内体制が整備されているかのDD
  • 経済安全保障法への対応:特定重要技術・特定重要物資に関わるリスクの精査


2020年以降、外為法の改正により対内直接投資規制の対象業種が大幅に拡大されました。IT・通信・物流・エネルギーなど、通関業と隣接する業種も対象に含まれています。知らないと大きなリスクです。


アンダーソン・毛利・友常法律事務所や長島・大野・常松法律事務所、森・濱田松本法律事務所など大手法律事務所が経済安全保障チームを強化しているのも、こうした需要の高まりを反映しています。


参考:日本の輸出管理規制と経済安全保障の最新動向については以下が参考になります。


日本輸出管理規制の動向−安全保障貿易管理小委員会「中間報告」解説|TMI総合法律事務所


通関業従事者の視点から見たクロスボーダーM&A弁護士の正しい選び方

クロスボーダーM&Aに対応できる弁護士を選ぶ際、「英語が話せる」「海外案件の経験がある」だけでは不十分です。通関業・貿易実務を絡めたM&Aでは、さらに踏み込んだ専門性が求められます。


弁護士選びが成否を分けます。


重要な選定基準を整理します。


  • 🗾 日本法+現地国の法規制に精通しているか:日本の弁護士が現地法弁護士を統括できる体制(コーディネート機能)があるか
  • 📦 通関・貿易分野の専門知識があるか:通関士資格を持つ弁護士、または通関士と連携できるネットワークがあるか
  • 🔒 外為法・輸出規制の実績があるか:経済安全保障・安全保障貿易管理の案件経験があるか
  • 💴 費用の透明性があるか:着手金・成功報酬の内訳、法務DDの費用見積もりを明示してくれるか


現地弁護士は現地法のプロですが、クロスボーダーM&A全体のプロではありません。日本企業の意思決定の特性や陥りやすい誤りを知っているのは、日本法弁護士です。この役割分担を理解した上で弁護士チームを構成することが重要です。


また、弁護士費用の最低報酬金額が「1,000万円」と定めている大手事務所もあります。中小規模の貿易会社のM&Aであれば、ブティック型の専門法律事務所や、M&Aアドバイザーとの連携実績がある中規模法律事務所を選ぶことで、コストを適切にコントロールできます。


現地の弁護士ネットワークを持つM&Aアドバイザリー会社(GSJなど)を経由すれば、各国の現地情報を精度高く入手しつつ、弁護士費用の全体最適を図ることも可能です。まず1社、無料相談から始めてみることをお勧めします。


参考:クロスボーダーM&Aにおける弁護士の役割とスキームの詳細はこちら。


クロスボーダーM&Aの解説|吉崎法律事務所