保証条項が入った契約書にサインするだけで、個人として数百万円の連帯保証債務を負わされるケースがあります。
契約書における「保証条項」とは、主たる債務者が債務を履行しない場合に、第三者である「保証人」が代わりに履行義務を引き受けることを定めた条項のことです。貿易取引や輸出入ビジネスに関心を持つ方の多くは、関税率や通関手続きに目が向きがちですが、取引の根幹を支える「契約書の保証条項」を見落とすと、思わぬ債務を個人で抱えるリスクがあります。
保証人は主債務者に代わって支払義務を負うため、債権者にとっては信用補完の重要な手段となります。民法において保証契約は、①主たる債務の存在、②保証契約に対する合意、③書面または電磁的記録による締結、という3つの要件を満たすことが求められています(民法第446条)。これが条件です。
実務上、保証条項が盛り込まれる典型的な契約類型は、売買契約(取引基本契約)、賃貸借契約、金銭消費貸借契約(借入契約)の3種類です。たとえば、貿易事業者が倉庫や事務所を借りるときの賃貸借契約でも、代表者が個人保証人として署名を求められるケースは珍しくありません。そのまま署名してしまうと、会社が倉庫賃料を支払えなくなった場合に、代表者個人が肩代わりする義務が生じます。
とくに注意が必要なのが「連帯保証」との記載がある場合です。連帯保証人は通常の保証人と異なり、「まず主債務者に請求してくれ(催告の抗弁権)」や「主債務者の財産から先に回収してくれ(検索の抗弁権)」といった権利が一切認められません。連帯保証は要注意です。
また、商行為に基づく債務や商人が保証人となる場合は、黙示的に連帯保証となるケースもあります(商法第511条第2項)。契約書に「連帯」という文字がなくても、法的には連帯保証として扱われる場合があるため、貿易事業者が取引基本契約に個人保証条項を入れる際は、文言を細部まで確認することが不可欠です。
契約書の保証条項とは?(弁護士法人直法律事務所)|保証条項の基本・民法改正後の実務対応を詳細に解説しています
2020年4月1日の民法改正(債権法改正)により、保証契約に関するルールは大幅に強化されました。なかでも輸出入事業者を含む多くのビジネスパーソンが見落としやすいのが「極度額」の規定です。
極度額とは、保証人が負担する保証債務の上限金額のことです。個人が保証人となる「根保証契約」においては、極度額の明記が必須とされています(民法第465条の2)。根保証契約とは、将来発生する可能性のある不特定多数の債務を包括的に保証する契約形態で、取引基本契約や継続的な賃貸借契約がこれに当たります。つまり根保証には極度額が必須です。
極度額の定めがない個人根保証契約は、無効となります。貿易取引では、継続的な売買契約における代金債務を個人保証するシーンが存在しますが、「取引先が信頼できるから」という理由で、極度額の定めなしに代表者個人に連帯保証させている企業はいまだに少なくありません。これは痛いですね。
金額の定め方にも注意が必要です。「月額賃料の10か月分」「総取引額の20%」のような計算式で極度額を定めた場合、金額が契約時点で特定されていないため、保証契約が無効と判断されるリスクがあります。「〇〇万円」と確定した金額で明記することが原則です。
さらに、2020年4月1日以降に更新・締結された個人根保証契約には改正法が適用されます。古い書式をそのまま流用して契約書を更新している場合、極度額の記載が抜けたまま無効な保証契約を締結し続けているリスクがあります。
| 保証の種類 | 極度額の必要性 | 対象 |
|---|---|---|
| 個人根保証(取引基本契約・賃貸借など) | ✅ 必須(記載なしで無効) | 個人保証人 |
| 法人根保証 | ❌ 不要 | 法人保証人 |
| 個人の特定債務保証(1回限り) | ❌ 不要 | 個人保証人 |
改正民法と保証制度の詳細については、法務省が公開している以下の資料が権威性の高い情報源です。
法務省|2020年4月1日から保証に関する民法のルールが変わります(PDF)|極度額の設定義務など改正の全体像をわかりやすくまとめた公式資料
民法改正では、個人保証人を守るための「情報提供義務」も新設されました(民法第465条の10)。これは、事業目的の債務について個人を保証人とする根保証契約を締結する際に、主債務者が保証人に対して一定の情報を開示しなければならないという義務です。
開示が必要な情報は3つです。①主たる債務者の財産および収支の状況、②主たる債務以外に負担している債務の有無・額・履行状況、③主たる債務に関連して提供されている担保の有無とその内容——これらを保証人に伝えることが求められます。
この情報提供が不十分であった場合、保証人が情報の不開示や虚偽を理由に保証契約を取り消せる可能性があります。つまり、情報提供の欠落が後から保証契約の取消につながるリスクがあるということです。
実務上のリスク対策として有効なのが、契約書上に「表明保証条項」を設けることです。表明保証条項とは、当事者がある事実が真実かつ正確であると契約上明示する条項を指します。保証契約における表明保証条項では、主債務者が「必要な情報を保証人に正確に提供したこと」を表明し、保証人も「その情報を受け取ったこと」を確認する内容を記載します。
このような条項を盛り込んでおくことで、情報提供義務違反に基づく契約取消の主張をされにくくなり、契約の安定性が高まります。これは使えそうです。
貿易取引においても、表明保証条項は非常に重要な役割を果たします。JETRO(日本貿易振興機構)が公開している経済安全保障セミナー資料によれば、輸出入に関わる企業が取引相手と契約を結ぶ際には「経済制裁の対象者でないことの表明保証条項」を入れることが推奨されています。もし取引相手がSDNリスト(米国財務省・OFAC制裁対象リスト)に掲載されていた場合、取引継続が制裁違反となり、民事制裁金や刑事罰(最大100万ドル以下+20年の懲役)のリスクが生じるためです。
個人保証をとる場合に注意するべきポイント(Business Lawyers)|保証意思の確認方法・情報提供義務の実務対応を弁護士が詳説しています
貿易・輸出入ビジネスに関心を持つ方にとって、見落とされがちなのが「関税リスクへの契約書上の対応」です。国際売買契約における保証条項と価格条件の設計は、関税の突然の変化によって事業全体の採算を左右することがあります。
2025年以降、米国によるいわゆる「トランプ関税」が相次いで発動され、中国産製品への25〜60%の追加関税、カナダ・メキシコ産製品への25%追加関税、鉄鋼・アルミへの25%追加関税などが適用されています。こうした場合、契約書に価格調整条項が設けられていなければ、突然の関税増加分をサプライヤー側が丸抱えするリスクが生じます。
多くの国際売買契約では、価格を「固定価格(fixed price)」として定めています。固定価格が基本です。この場合、一方的に価格改定を主張しても、相手方はこれを拒否できる立場になります。
ここで重要なのが、関税変動への対応条項(Price Adjustment Clause)と保証条項の設計です。たとえば以下のような文言を英文契約書に盛り込むことが、実務的なトラブル予防策として有効です。
"If any change in applicable laws, including the imposition of new tariffs or duties, results in a material increase in the cost of performing this Agreement, the Parties shall negotiate in good faith an appropriate adjustment to the price or other relevant terms."
(適用される法律の変更により、本契約の履行コストに重大な増加が生じた場合、当事者は誠意をもって価格またはその他の関連条項の適切な調整について協議するものとする。)
また、関税措置のような制度変更を「不可抗力(Force Majeure)条項」でカバーしようとする相談も実務では多く寄せられます。しかし、不可抗力条項は「契約履行が不可能となった場合に免責される」ことを目的とした条項です。「価格が高くなったから採算が合わない」という理由では免責が認められないのが通常の法的解釈であり、Force Majeure 条項だけでは対応できないということです。価格調整条項とは別物と理解しておく必要があります。
さらに、貿易取引における表明保証条項として、輸出管理法規の遵守(EAR・関税法コンプライアンス)を保証する内容を盛り込むことも有効です。GEヘルスケアやエマソンなど多くのグローバル企業の購買約款には「売主は輸出管理、関税及び輸入に関するすべての適用ある法令について豊富な知識を有し、これを遵守することを表明および保証する」旨の条項が含まれています。この条項に違反した場合は補償義務が発生します。
トランプ関税による価格調整の可否(木菊法律事務所)|価格調整条項の具体的な英文例・Force Majeureとの違いを実務的に解説しています
一般的な契約書レビュー記事では「極度額の有無を確認しよう」「情報提供義務を守ろう」といった内容が中心ですが、貿易・輸出入事業に携わる方には、それに加えてチェックすべきポイントがあります。ここでは一般的な解説記事には出てこない実践的な視点を5つ整理します。
① 保証条項の書面要件が電磁的記録でも成立するかを確認する
改正民法では、保証契約は「書面または電磁的記録」で締結することが必要です(民法第446条第2項・第3項)。これは、メールやPDFによる電子署名でも有効に成立することを意味します。ただし、メールのやり取りだけで保証意思を確認しようとした場合や、明確な署名欄がない電磁的記録は「保証意思が確認できない」として無効となるリスクがあります。電子契約ツールを使う際は、保証人の署名欄が独立して明示されているか必ず確認しましょう。
② 英文契約書の Warranty 条項と日本法の保証条項は別物と理解する
海外取引で頻繁に使われる英文契約書の「Warranty(ワランティ)」は、日本法の「保証条項」とは法的性質が異なります。英文契約における Warranty は主に「製品・サービスの品質・性能保証」を意味することが多く、日本法の「保証人が債務を肩代わりする」保証契約とは別物です。これだけ覚えておけばOKです。英文契約書を日本語に翻訳する際に混同しやすいポイントなので、取引形態に合わせて正確に整理しておきましょう。
③ 表明保証条項に「経済制裁対象者でないこと」を必ず含める
貿易取引における表明保証条項は、単に財務状況や許認可の保証にとどまらず、取引相手が米国OFAC・EUのSDNリストなどに掲載されていないことを保証する内容が必要です。この条項を欠くと、制裁違反に巻き込まれた際に損害賠償を求めることも、責任を相手方に転嫁することも困難になります。JETRO主催セミナーでも「経済制裁対象者でないことの表明保証条項を契約上に入れること」が明確に推奨されています。
④ 関税コンプライアンスの表明保証は「知り得る限り」まで範囲を広げるべきか検討する
英文契約書での表明保証の知識基準として「知る限り(to the best of knowledge)」と「知り得る限り(to the best of knowledge and belief after due inquiry)」の2つがあります。前者では知らなければ免責されますが、後者では調査不足があった場合には免責されません。関税法・輸出入規制の遵守を表明保証する場合、買い手側の立場から見れば「知り得る限り」まで範囲を広げることでリスク移転が有利になります。これが条件です。
⑤ 契約更新時に保証条項を再確認・再締結する体制を整える
2020年以前に締結した取引基本契約に附随する個人根保証契約を、そのまま更新なしに継続使用している企業があります。しかし、契約を実質的に更新した時点で改正民法の適用を受けると判断されるリスクがあるため、契約更新のタイミングで保証条項に極度額が明記されているかどうかを必ずチェックする必要があります。古い書式を使い回している場合は特に注意が必要ですね。
なお、契約書のリーガルチェックを弁護士に依頼することも重要なリスク対策です。保証条項のチェックを専門家に委託する際は、「貿易・輸出入取引の実務に詳しいかどうか」を確認したうえで依頼先を選ぶと、より実践的なアドバイスを得やすくなります。
| チェックポイント | 見落とした場合のリスク |
|---|---|
| 極度額の明記 | 個人根保証契約が丸ごと無効に |
| 書面・電磁的記録の確認 | 保証契約が口頭扱いとなり無効 |
| 経済制裁対象者でない旨の表明保証 | 制裁違反に巻き込まれ損害賠償・取引停止 |
| 価格調整条項の有無 | 追加関税分をサプライヤーが丸抱え |
| 契約更新時の保証条項再締結 | 改正民法適用によりひな形が無効化 |
【民法改正(2020年4月施行)に対応】保証契約のレビューポイント(契約ウォッチ)|極度額・情報提供義務など改正対応の実務チェックを網羅的に解説しています