顧問税理士に頼んでいても、税関の事後調査では税理士はその場に立てません。
税関の事後調査とは、輸入通関が許可された後に、申告内容が適正だったかどうかを税関職員が輸入者の事業所に赴いて確認する税務調査のことです。正式には「輸入事後調査」と呼ばれ、関税法第105条第1項第6号に定める「質問検査権」に基づいて行われます。
日常業務の中で輸出入に関わっている通関業従事者であっても、「事後調査=輸入者の問題」と捉えてしまい、自社の実務や荷主への影響をイメージしにくいケースがあります。しかし実際には、通関業者が代理申告した貨物が調査対象になることもあり、場合によっては通関業者自身が「補完的納税義務」(関税法第13条の3)を問われるリスクもあります。つまり、対岸の火事ではありません。
調査の対象となる期間は原則として事後調査日から遡って5年間です。これはコンビニのレシート4〜5年分を一気に確認されるようなイメージで、仮に毎月輸入取引を行っている企業であれば、60カ月分の申告書類・契約書・インボイス・帳簿が精査の対象になります。
令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の財務省発表データによると、全国で3,609者の輸入者に対して事後調査が実施され、そのうち74.5%にあたる2,690者に申告漏れ等が認められました。追徴税額は総額約157億1千万円にのぼっています。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
| 調査実施件数 | 3,576者 | 3,609者 |
| 申告漏れ等のあった輸入者 | 2,678者(74.9%) | 2,690者(74.5%) |
| 申告漏れ等の課税価格 | 約1,201億円 | 約1,390億円 |
| 追徴税額合計 | 約134億5千万円 | 約157億1千万円 |
調査結果が3社に2社以上で申告漏れというデータは衝撃的です。「うちは大丈夫」という感覚のまま準備なく臨むと、数年分の追徴課税という形で大きな損失につながる可能性があります。
参考:財務省による令和6事務年度の輸入事後調査結果(公式PDF)
財務省「令和6事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果」(PDF)
「税のことは税理士に任せれば安心」という考えは、税関の事後調査には通用しません。これが原則です。
税理士法第2条が定める税理士の業務範囲は「所得税・法人税・消費税など国税通則法が対象とする税目の代理・書類作成・相談」であり、関税・印紙税・登録免許税は明示的に除外されています。そのため、税関との交渉や事後調査への立会いは、税理士にとって職務権限の外側にある行為です。税理士が事後調査に関与することは、法律上できません。
税関公式サイトのQ&Aでも、事業の会計を担当している会計事務所の担当者が立ち会えるかという問いに対して、「調査に立ち会って、税関に対して輸入者の代わりに主張・陳述を業として行うことは通関業務に当たるため、原則として通関業者等しか行うことはできない」と明記されています。
では誰が立ち会えるのか、整理すると以下の通りです。
ただし、1つだけ例外があります。税理士や公認会計士が会社の「会計参与」という役員として就任している場合、会社の役員として税関調査に同席することはできます。ただしこれはあくまで「社内の人間として同席している」状態であり、代理人として税関と交渉する立場ではありません。
通関業従事者として荷主に説明する際、この区別を明確に伝えられるかどうかが、顧客の信頼に直結します。顧問税理士がいるから安心という荷主には、事前にこの点をきちんと確認しておくことが重要です。
参考:税関公式Q&A「調査の立会いについて(問24)」
税関「輸入事後調査手続に関するQ&A」(税関 Japan Customs公式)
申告漏れのパターンを知っておくことは、通関業従事者として荷主の申告を支援するうえで不可欠な知識です。
財務省の令和6事務年度データによると、申告漏れ等が発生した要因の約87.1%は「インボイスは正しいが、申告に誤りがあったもの」です。つまり書類が正確でも、申告内容に誤りが生じているケースが圧倒的多数を占めています。意外ですね。
典型的な申告漏れのパターンを具体的に挙げると、以下の通りです。
令和6年度に実際にあった重加算税案件として、輸入者が正規価格より低い金額に書き換えたインボイスを使って申告していたケースでは、不足課税価格1億952万円・追徴税額2,134万円(うち重加算税569万円)が課されています。別の事例では、輸入者が輸出者と通謀して虚偽インボイスを作成した件で、不足課税価格7,129万円・追徴税額960万円(うち重加算税247万円)となっています。
加算税について整理しておきましょう。税関からの調査通知の後に修正申告した場合は「過少申告加算税5%」、修正申告せずに更正処分を受けると「10%」、隠蔽・仮装があった場合には「重加算税35%」が課されます。さらに、過去に重加算税の対象となった行為があれば税率は45%に跳ね上がります。一度「加算漏れ」が認定されると、調査官は過去5年分の同種取引をすべて遡って再計算します。これが追徴税額が膨らむ最大の要因です。
参考:輸入事後調査で最も指摘される申告漏れのパターン(弁護士・通関士事務所)
「輸入税関事後調査で最も指摘される点−関税評価(加算要素)の申告漏れ」(AOGパートナーズ)
通関業者が立会権限を持っていることは事実ですが、それが「全面的に任せれば安心」という意味にはなりません。厳しいところですね。
通関業者の本来の業務は、荷主から提供された情報をもとに適正な申告書を作成することです。税関から許可を受けて営業している立場上、税関との関係悪化を極端に恐れる傾向があり、事後調査で税関から厳しい指摘を受けた際に「税関の言う通りにしておきましょう」と、荷主側の主張を十分に検討せずに修正申告を勧めるケースがあることも業界内では知られています。
これに対して弁護士は、依頼者の権利と利益を守ることが本来の役割です。税関の指摘が法的に正しいかどうかをゼロから検討し、解釈に疑義があれば法的根拠に基づいて反論します。また、弁護士には守秘義務があるため、相談内容が外部に漏れる心配がありません。
では通関業者と弁護士の役割を比較すると、以下のように整理できます。
| 比較項目 | 通関業者(通関士) | 弁護士(通関士資格保有者) |
|---|---|---|
| 立会・主張・陳述の権限 | あり(通関業務として) | あり(法律事務として) |
| 法的争点の検討・反論 | 限定的(税関との関係に配慮が必要) | 得意(依頼者利益の最大化が使命) |
| 重加算税・刑事リスクへの対応 | 対応困難 | 対応可能(刑事弁護含む) |
| HSコード・通関実務知識 | 豊富 | 通関士資格保有者は対応可 |
理想的なのは「通関業者の現場知識」と「弁護士の法的知識」を組み合わせたチームでの対応です。特に、税関から重加算税を示唆された場合や関税法違反の疑いがかかった場合は、弁護士に相談することが不可欠です。通関業従事者として荷主に適切なアドバイスを行うためにも、この使い分けをしっかり理解しておく必要があります。
参考:通関業者と弁護士の役割の違いについての詳細解説
「税関事後調査における弁護士と通関業者の役割の違い」(AOGパートナーズ)
事後調査が来てから慌てるより、日常の実務の中で準備しておくことが損失を防ぐ最善策です。
まず、事後調査では以下の書類の精査が行われることを念頭に置いてください。
関税法上、輸入者は帳簿書類を「輸入の許可を受けた日から5年間」保存する義務があります。この5年というのは事後調査の遡及期間と一致しており、書類が揃っていなければ調査が長期化・不利な方向に進むリスクがあります。日常の記帳管理が原則です。
次に、事前通知について知っておくことも重要です。通常、税関は事後調査を行う前に「事前通知」として調査日時・対象貨物・目的を電話等で連絡してきます。ただし、悪質な申告が疑われる場合には事前通知なしで突然臨場することも法令上認められています。事前通知があったとしても、調査日の変更が可能なケースもあるため、準備期間を確保することを優先的に考えましょう。
また、実は通関業従事者が意識しておくべき独自の論点として「通関業者の補完的納税義務」があります。関税法第13条の3により、通関業者が代理申告した貨物において関税の納付不足が生じた場合、一定の要件(輸入者の住所不明・廃業・財産不足など)に該当するときは、通関業者が輸入者と連帯して納税義務を負う可能性があります。荷主の申告内容に不審点を感じたとき、または課税価格に算入すべき費用が見落とされていると気づいたときは、その場で確認・修正を促すことが自社リスクの回避にもつながります。
事後調査を受けた後の対応として、修正申告の勧奨に応じるかどうかは輸入者の任意です。勧奨を断っても直ちに不利な扱いを受けることはありませんが、更正処分に切り替わります。修正申告を行った場合は不服申立てができなくなる一方、更正の請求(申告から5年以内)は可能です。この区別だけは覚えておけばOKです。
日常業務の中で荷主からの問い合わせに対応できる知識として、課税価格の計算に関するガイドラインをブックマークしておくことを勧めます。
参考:関税評価制度と課税価格の計算方法(税関公式)
「課税価格の計算方法」(税関 Japan Customs)