特定重要物資の「一覧」は11品目からスタートしたと思っていませんか?実は2025年12月時点で16品目に拡大し、関税コストや輸入規制と深く絡み合っています。
「特定重要物資」という言葉を最初に耳にしたとき、多くの人は軍事や防衛に関係する話だと思うかもしれません。しかし実際は、私たちの日常生活や企業活動に直結する物資が対象です。
2022年5月に成立した経済安全保障推進法(通称「経済安保法」)は、4つの柱から構成されています。その第一の柱が「重要物資の安定的な供給の確保に関する制度」であり、ここで指定されるのが「特定重要物資」です。
指定の要件は、以下の4つの条件すべてを満たすことが基本とされています。
- 国民の生存に必要不可欠、または広く国民生活・経済活動が依拠している物資であること
- 外部依存性が高く、特定の国・地域への供給が集中していること
- 供給途絶のリスクが現実的に存在すること
- 本制度による支援措置の必要性があること
この4つの条件が揃って初めて、政令で特定重要物資として指定されます。言い換えると、「なくなると国民生活が大打撃を受けるのに、調達先が一国に集中している」という物資が主な対象です。
つまり指定=リスクの高い物資ということです。
関税に興味のある方にとって特に重要なポイントがあります。特定重要物資の多くは、輸入に関税・輸出規制・通関上の制約が絡む物資です。国際情勢の変化によって輸入コストが上昇したり、突然の輸出規制で調達が止まったりするリスクが高いからこそ、政府が「指定」して支援する仕組みになっています。
参考:内閣府が提供する特定重要物資制度の公式ページ(全指定物資の一覧と支援措置を確認できます)
特定重要物資は3度にわたる政令指定で現在16品目に達しています。これは法律成立からわずか約3年半の出来事です。
以下が2025年12月24日時点の最新全品目一覧です。
| No. | 特定重要物資名 | 所管省庁 |
|---|---|---|
| 1 | 抗菌性物質製剤(抗生剤など) | 厚生労働省 |
| 2 | 肥料 | 農林水産省 |
| 3 | 永久磁石 | 経済産業省 |
| 4 | 工作機械・産業用ロボット | 経済産業省 |
| 5 | 航空機の部品 | 経済産業省 |
| 6 | 半導体 | 経済産業省 |
| 7 | 蓄電池 | 経済産業省 |
| 8 | クラウドプログラム | 経済産業省 |
| 9 | 可燃性天然ガス(LNG) | 経済産業省(資源エネルギー庁) |
| 10 | 重要鉱物(レアアース・ウランを含む) | 経済産業省 |
| 11 | 船舶の部品(船体を含む) | 国土交通省 |
| 12 | 先端電子部品(コンデンサー・ろ波器・磁気センサー) | 経済産業省 |
| 13 | 人工呼吸器 | 厚生労働省 |
| 14 | 無人航空機(ドローン) | 内閣府など複数省庁 |
| 15 | 人工衛星 | 内閣府など複数省庁 |
| 16 | ロケットの部品 | 内閣府など複数省庁 |
16品目が原則です。
第1回指定(2022年12月)では11品目が一気に指定されました。第2回指定(2024年2月)では先端電子部品が追加され、重要鉱物にウランが加わりました。第3回指定(2025年12月)では人工呼吸器・ドローン・人工衛星・ロケット部品の4品目が追加され、船舶の部品に「船体」が、先端電子部品に「磁気センサー」が追加されました。
意外ですね。
ドローン(無人航空機)が指定された背景には、軍民両用(デュアルユース)の観点があります。軍事転用が可能であり、かつ現在の国産ドローンの部品の多くが海外製(特に中国製)に依存していることが問題視されました。一方、人工呼吸器の指定理由は明確で、新型コロナウイルス禍で国内医療機関が導入した機器の多くが2028年頃に耐用年数を迎え、供給が途絶した場合の医療崩壊リスクが指摘されています。
参考:2025年12月の追加指定に関する報道(読売新聞)
特定重要物資にドローン・人工呼吸器・人工衛星など4物資を追加(読売新聞、2025年12月24日)
関税に関わるビジネスをしている方にとって、特定重要物資の一覧は「関税リスクマップ」として読み解けます。
特定重要物資に指定された物資のほとんどは、特定国への輸入依存度が非常に高い状態にあります。たとえばレアアース(重要鉱物)は、日本の輸入のうち中国産が長年にわたり6割超を占めてきました。半導体の製造に欠かせないレアメタルは中国・コンゴなど特定国への依存が深刻です。肥料の原料となるリン酸アンモニウムは、輸入の約99%を中国産が占めていた時期もあります。
これは使えそうです。
関税との直接的な関係で注意が必要なのは、特定重要物資の多くが「輸入関税の変動リスク」「輸出規制による供給途絶リスク」「通関遅延リスク」の3つにさらされている点です。2025年以降、トランプ政権による相互関税の導入(日本製品には最終的に15%の相互関税が適用)が現実になったように、国際的な関税環境が急変する状況では、特定重要物資を扱う企業のコスト構造がわずかな政策変更で大きく揺れます。
実際、経済産業省の通商白書(2025年版)でも、特定重要物資に含まれるEV・蓄電池・重要鉱物・半導体について、関税や補助金・政府調達などの手段を活用したサプライチェーン強靭化の必要性が明記されています。
サプライチェーンが原則です。
輸入実務の観点では、特定重要物資に指定されている品目を扱う企業は、原産地証明・輸出入許可証・デュアルユース規制(安全保障貿易管理)にも同時に注意を払う必要があります。たとえば半導体や工作機械・産業用ロボットは、輸出貿易管理令・外国為替及び外国貿易法(外為法)の規制対象品目とも重複しています。通関時に追加書類の提出を求められたり、輸出許可取得に時間がかかったりするケースがあり、コスト面・スケジュール面の両方に影響します。
参考:経済産業省・通商白書2025年版(サプライチェーン強靱化と関税政策の関係を詳述)
第3節 サプライチェーン強靱化に向けた対外経済政策(経済産業省・通商白書2025)
特定重要物資に指定された品目の供給確保に取り組む企業は、国から手厚い支援を受けられます。これを知らずにいると、本来受け取れたはずの資金支援を見逃すことになります。
支援の入口は「供給確保計画の認定」です。まず物資所管省庁に申請し、認定を受けることで以下の支援が利用可能になります。
- 助成金:生産設備への投資や研究開発費に対して助成(NEDOや日本医薬基盤・健康・栄養研究所などが窓口)
- ツーステップローン:日本政策投資銀行(DBJ)を通じた長期・低利の融資
- 株式等引受け:中小企業向けに東京・名古屋・大阪の中小企業投資育成株式会社が対応
- 信用保証:信用保証協会による保証(中小企業向け)
総予算は約2兆5,518億円に上ります。2026年2月時点で143件の供給確保計画が認定済みで、最大助成額の合計は約1兆4,800億円に達しています。
痛いですね、知らないと損です。
重要なのは、「特定重要物資を扱っているだけでは支援は受けられない」という点です。①物資所管省庁への事前相談→②供給確保計画の作成と提出→③認定→④各支援機関への申請、というステップを踏む必要があります。まず所管省庁の担当課に問い合わせることが条件です。
また、経済安全保障推進法の認定がなくても、日本政策投資銀行・国際協力銀行・日本貿易保険(NEXI)によるサプライチェーン強靱化支援も利用可能です。こちらは計画認定を必要としないため、まず使い勝手が良い場合があります。
参考:内閣府が公開する支援措置の詳細PDF(助成金・融資・株式引受・信用保証の各スキームを網羅)
特定重要物資の安定供給確保のための支援措置(事業者向け・内閣府PDF)
特定重要物資の一覧を見て、多くの人が違和感を持つのが「クラウドプログラム」の存在です。半導体や肥料はわかる、でもクラウドが物資? と思うかもしれません。
これが実は、一覧全体を理解するうえで最も重要なヒントです。
経済産業省がクラウドプログラムを特定重要物資に指定した背景には、デジタルインフラの基盤がAmazon(AWS)・Microsoft(Azure)・Google(GCP)という米国巨大企業3社に事実上集中している現実があります。有事や外交的摩擦が生じた場合、日本の金融・医療・物流・行政システムが機能不全に陥るリスクを政府は正面から認識したわけです。
これは有形の「モノ」を対象としてきた従来の「物資」概念を大きく超えています。ソフトウェアやサービス基盤も「物資」として扱う、という発想の転換が起きています。この視点は関税実務に直接影響します。クラウドは関税の課税対象にはなりませんが、特定重要物資に指定されていることは「デジタル分野でも安全保障上の経済規制が行われうる」というシグナルです。
クラウドプログラムが指定対象なら問題ありません、という安易な読み方はできません。むしろ、先端電子部品(コンデンサー・ろ波器・磁気センサー)が指定されていることに注目してください。これらはスマートフォンから電気自動車まで、あらゆる電子機器に使われる「縁の下の部品」であり、日本の輸入先は中国・台湾・韓国に大きく偏っています。
もう一点、意外に見落とされがちなのが「肥料」です。肥料の主成分であるリン・カリウム・窒素の原料は、それぞれ中国・ロシア・ベラルーシへの依存が高く、ウクライナ侵攻後に国際価格が急騰した記憶は新しいところです。コメや野菜の生産に直結するため、食料安全保障と関税政策が交差する象徴的な品目といえます。
つまり、物資の種類の多様さが条件です。
特定重要物資の一覧を単なる政策リストとして眺めるのではなく、「日本の輸入依存構造のリスクマップ」として活用することで、ビジネスリスクの先読みに役立てることができます。関税・輸出規制・地政学リスクが絡み合う昨今、この視点は実務上の強力な羅針盤になります。
参考:PwCによる特定重要物資制度と企業活動への影響の解説(実務目線で整理されており参考になります)
重要物資の安定供給(サプライチェーンの強靭化)について(PwC Japan)