コンタミ申告漏れが原因で、貨物が全量廃棄処分になった事例が国内で年間数百件にのぼります。
コンタミネーション(contamination)は、ラテン語の「contaminare(汚す・混ぜる)」を語源とする英単語です。日本語では「汚染」「混入」「交差汚染」などと訳されます。
通関業務の文脈では、この言葉は主に「意図しない物質の混入や汚染が生じた状態」を指します。食品に農薬が残留しているケース、化学品コンテナに異種の化学物質が混入しているケース、医薬品の製造工程で別の成分が混じり込むケースなど、対象分野は非常に幅広いです。
短縮形の「コンタミ」という言葉は、製造業・食品業・医療業界では日常的に使われています。通関業では荷主や検査機関との連絡で頻繁に登場する用語なので、意味を曖昧にしたまま業務を進めるのは危険です。
コンタミネーションには、大きく分けて以下の4種類があります。
この4分類は、輸入申告書類の確認や検疫対応において判断軸となる重要な枠組みです。つまり種類の把握が実務の出発点です。
特に通関実務において注意が必要なのは「アレルゲンコンタミネーション」です。食品表示法上、特定原材料(卵・乳・小麦・えび・かに・落花生・そば)へのコンタミが疑われる場合、輸入者は自主的な表示対応か、場合によっては輸入申告の取り下げ・廃棄を余儀なくされます。
コンタミネーションに関する申告不備が発覚した場合、その影響は非常に深刻です。これは単なる書類上のミスではありません。
厚生労働省が毎年公表する「輸入食品監視統計」によると、食品衛生法違反を理由とした輸入食品の積戻し・廃棄件数は年間600件前後に達しており、そのうち残留農薬や添加物違反(コンタミ関連)が大きな割合を占めています。
厚生労働省:輸入食品監視統計(輸入食品の違反事例・廃棄件数を毎年公表)
廃棄処分になった貨物の損失は荷主が負担しますが、申告書類の作成に携わった通関業者も業務上の責任を問われるリスクがあります。関税法上の虚偽申告や輸入申告書への不実記載は、30万円以下の罰金または1年以下の懲役の対象です。
行政処分の観点でも、繰り返し問題が生じた通関業者は税関から業務改善命令・業務停止命令を受ける可能性があります。厳しいところですね。
さらに、コンタミが発覚するタイミングが「輸入許可後」だった場合は事態がさらに複雑になります。市場流通後に回収命令が出ると、回収費用・廃棄費用・損害賠償が荷主に発生し、その関係書類を作成した通関業者の信頼も大きく損なわれます。
荷主からの情報が不十分な状態で申告書類を作成することは、通関業者自身にとって大きなリスクになり得るということです。リスクの所在が自分にも及ぶのです。
輸入貨物がコンタミネーションの疑いを持たれた場合、通関検査は通常より大幅に長引きます。これが実務上の大きなボトルネックになります。
食品衛生法では、輸入食品に対して厚生労働省が「命令検査」「モニタリング検査」「自主的な届出時検査」の3段階の検査体制を敷いています。コンタミが疑われる品目や国からの輸入品は、命令検査対象に指定されることがあり、この場合は全ロット検査が義務付けられます。
厚生労働省:輸入食品に対する食品衛生法に基づく検査(命令検査・モニタリング検査の仕組みを解説)
命令検査対象品の通関には、検査結果が出るまでの期間(通常5〜10営業日、検査機関によってはさらに長期)、貨物は保税地域に留め置かれます。この保管費用は輸入者の負担です。東京港や大阪港などの主要港では、コンテナ1本あたりの保管料が1日あたり数千円〜1万円程度発生するため、検査が長引くほど費用負担が膨らみます。
植物防疫法においても同様の問題が生じます。農産物・木材・土壌など「生きた植物体」を含む貨物は、病害虫によるコンタミネーション(生物的汚染)が疑われた場合、植物検疫所での精密検査対象になります。
農林水産省 植物防疫所:輸入植物検疫の案内(検疫対象品目・手続きの詳細)
精密検査の結果、病害虫の混入が確認されると「消毒処理」または「廃棄処分」のどちらかを選択することになります。廃棄処分の場合、貨物価格全額が損失になります。通関業従事者としては、荷主に対して「植物検疫対象品目かどうか」を輸入前の段階で確認・告知することが重要です。
検疫対応の遅れは、荷主の販売計画や在庫管理に直接影響を与えます。つまり通関業者の信頼にも直結します。
コンタミネーションの申告において、多くの通関業従事者が見落としやすい「グレーゾーン」が実務には存在します。意外ですね。
最もよくある落とし穴が、「意図的な添加」と「意図しない混入(コンタミ)」の境界線が不明瞭なケースです。例えば、食品製造工場で使用される食品添加物が、隣接ラインで製造された別製品に微量混入した場合、荷主は「添加物は適正使用している」と主張しますが、通関上は「コンタミ」として扱われる可能性があります。
この場合、輸入食品届出書に「使用添加物」として記載されていないにもかかわらず、検査で検出されると「未承認添加物使用」として違反扱いになります。荷主が意図していなかった、ということは通関業者が申告を誤った責任を軽減しません。
| ケース | 通関上の扱い | リスクレベル |
|---|---|---|
| 農薬が基準値以下で検出 | 原則として許容(品目による) | 🟡 中 |
| 農薬が基準値超過で検出 | 輸入不可・廃棄または積戻し | 🔴 高 |
| アレルゲンの微量混入(表示なし) | 食品表示法違反の可能性 | 🔴 高 |
| コンテナ内の異種化学品残留 | 化審法・消防法対象の可能性 | 🔴 高 |
| 木材梱包材への害虫混入 | 植物防疫法違反・廃棄処分の可能性 | 🔴 高 |
もう一つの盲点が「コンテナ自体のコンタミ」です。前回の輸送で化学品や農薬を積んだコンテナを食品輸送に再利用した場合、コンテナ内壁の微量な化学物質が食品に移行することがあります。これはコンテナ提供者の管理責任ですが、通関上の問題は輸入者・通関業者に降りかかります。
荷主に対して「前回のコンテナ使用履歴の確認書(コンテナ使用履歴証明)」を求めることは、こうしたリスクを未然に防ぐ有効な手段です。これは使えそうです。
コンタミネーションに関するリスクを最小化するためには、輸入申告の前段階から体系的な情報収集と確認作業が必要です。事後対応では間に合いません。
実務上、コンタミ対策は「荷主への情報収集」「書類確認」「検疫機関との連携」という3段階で構成されます。それぞれのステップを押さえておけばリスクは大幅に減らせます。
荷主への情報収集で確認すべき項目は以下のとおりです。
これらの情報を輸入申告前に荷主から書面で取り寄せる習慣をつけることが、最初の防衛ラインです。口頭確認だけでは証拠が残らないため、必ずメール等の書面でやり取りを残してください。
書類確認の段階では、食品衛生法の「輸入食品等の届出」に使用する「食品等輸入届出書」の記載内容と、荷主から取り寄せた原材料リスト・分析証明書が一致しているかを照合します。特に添加物の記載漏れ、アレルギー物質の記載ミスは頻出する問題です。
食品安全委員会:食品中の汚染物質・農薬に関するリスク評価情報(コンタミ判断基準の参考資料として有用)
検疫機関との連携という点では、事前に検疫所や植物検疫所の担当者に「この品目はモニタリング検査の対象か」「命令検査指定品目か」を照会することができます。照会は無料です。この事前確認により、検査に要する時間と費用を荷主に事前に伝えることができ、トラブルを防ぐことができます。
コンタミネーションのリスクが高い品目(例:中国産の野菜・果物、東南アジア産の農産物、複数原料を使用した加工食品)については、JETRO(日本貿易振興機構)が提供する輸入規制データベースや、厚生労働省の「輸入食品に関する情報」ページで最新の規制動向を定期的にチェックすることも重要な習慣です。
JETRO:日本の輸入規制・関連法規に関するQ&A(品目別の規制情報を効率よく調べられる)
通関業者として最終的に重要なのは、コンタミに関するリスクを「荷主の問題」として切り離さず、「通関業者自身のリスク」として捉える意識を持つことです。書類の確認・照会・記録保存というルーティンを徹底することが、長期的な業務品質と信頼の維持につながります。リスク管理が自分を守ります。