命令検査が解除されても、同一製造者の別製品は引き続き検査対象になるケースがあります。
命令検査とは、厚生労働省が食品衛生法第26条第3項に基づいて発動する、輸入食品に対する強制的な検査措置です。通常の輸入食品は、税関での申告時に厚生労働省の食品衛生監視員が書類審査や抜き取り検査を行いますが、命令検査はこれとはまったく性質が異なります。
特定の国・地域・製造者・食品カテゴリで食品衛生法違反が一定回数以上確認された場合、その食品が輸入されるたびに100%の割合で検査が義務付けられます。つまり、抜き取りではなく「全件検査」です。
検査は厚生労働大臣が登録した検査機関(登録検査機関)または検疫所で実施されます。検査費用は輸入者の負担となり、1件あたり数万円〜十数万円かかることも珍しくありません。これは費用面でのデメリットとして非常に大きいです。
さらに重要なのは、検査結果が出るまで食品を国内に流通させることができない点です。検査期間が長引けば、その分だけ倉庫料や冷蔵保管費用が積み上がります。通関業者として、輸入者にこのリスクを事前に説明できるかどうかが、業務品質の差につながります。
厚生労働省:輸入食品の安全確保について(命令検査の制度説明や対象品目リストの公開ページ)
命令検査の対象となる食品は、厚生労働省が定期的に更新・公表しているリストに基づいています。このリストは「輸入食品等の命令検査の実施について」という通知の別表として管理されており、国・地域名、製造者・輸出者名、食品の品目名、検査項目が明記されています。
対象となるための条件は「違反実績の件数」です。一般的には、同一の製造者・食品の組み合わせで複数回の違反が確認されると指定される傾向があります。ただし、残留農薬・添加物・微生物・カビ毒(アフラトキシン)など、違反の種類によっても扱いが異なります。
たとえば、中国産のえび加工品では抗菌性物質の残留、東南アジア産のハーブ類では残留農薬オーバーが命令検査の典型的な指定理由として知られています。意外なのは、特定の食品カテゴリ全体ではなく、「○○社製造の○○品」という非常に限定的な単位で指定されることもある点です。
これが現場で判断を難しくする要因の一つです。輸入申告書を作成する際、製造者の英字表記がリストの記載と微妙に異なるだけで、対象品かどうかの判断に迷うケースがあります。そのような場合は、検疫所に事前確認するのが原則です。
なお、リストは随時更新されているため、定期的に厚生労働省の公式ページをチェックする習慣を持つことが、通関業者として非常に重要な実務対応になります。
厚生労働省:命令検査実施品目一覧(PDF)(最新の命令検査対象品目と国名・製造者名が一覧で確認できます)
命令検査が必要な輸入食品の通関手続きは、通常の輸入とは異なるステップを踏む必要があります。大まかな流れを把握しておくことが重要です。
まず、輸入者または通関業者が検疫所に輸入届出書を提出する際に、当該食品が命令検査対象品であることを確認します。次に、厚生労働大臣が登録した検査機関(民間の登録検査機関)に検査を依頼し、検体を採取・提出します。検査が完了し、適合の結果が出たら、検疫所から輸入許可が下りて初めて通関手続きが進められます。
所要日数について言えば、微生物検査では培養に3〜5日程度、残留農薬の一斉試験では5〜7営業日前後かかることが一般的です。検査機関によっては10日以上かかるケースもあります。これは無視できない日数です。
コールドチェーンが必要な生鮮食品や冷凍品では、この期間中の保管コストが膨らみます。たとえば、10トンの冷凍食品を5日間保管した場合、1日あたりの保管費・電気代等を合計すると数万円単位のコストが発生することも珍しくありません。
通関業者として現実的な対応策を考えると、輸入者に対してあらかじめ「命令検査対象品は船積み前から検査機関を手配しておく」よう強くすすめることが、余分なコストと時間を節約するための最善手になります。
検疫所(FORTH):輸入食品の検査手続きの流れ(命令検査を含む輸入食品の届出・検査手順を図解で解説)
命令検査は一度指定されたら永続するわけではありません。しかし、解除のハードルは決して低くはないのが実態です。
解除の条件として厚生労働省が示しているのは、主に「一定期間・一定件数の検査をすべてクリアすること」です。具体的には、命令検査で適合が続いた場合、段階的にモニタリング検査(抜き取り)の対象に移行し、最終的に解除となる流れをたどります。この移行には数年単位の期間がかかることも珍しくありません。
ここで通関業者が見落としやすいのが「解除後の同一製造者による別製品のリスク」です。ある製品が命令検査を解除されても、同じ製造工場で作られた別の食品品目は引き続きリスクが高い状態にある場合があります。製造管理体制そのものに問題があれば、新たな品目での違反が起き、再び命令検査に指定されるというサイクルに入ることもあります。
つまり、解除されても安心はできないということです。
また、輸入者が製造者を切り替えた場合も注意が必要です。新しい製造者が以前に別の輸入者向けに命令検査対象品を製造していた実績がある場合、同じ製造者からの輸入品として命令検査が継続して適用されることがあります。こうした情報は、輸入者自身が把握していないことも多く、通関業者が積極的に確認・情報提供を行うことで信頼関係を築けます。
現場で実際に問題になりやすいポイントは、制度の理解不足よりも「確認のタイミングのズレ」にあります。命令検査が必要だと判明するのが輸入申告の直前であった場合、検査機関の手配・検体採取・結果待ちというステップがすべて後ろ倒しになり、荷主に多大な迷惑をかけることになります。
予防のための実務ポイントを以下に整理します。
- 📋 船積み確定前の段階でB/Lドラフトや商品スペックシートをもとに命令検査対象品リストと照合する:製造者名・品目名・原産国の3点を必ず突き合わせる
- 📦 製造者名の英字スペルは公式リストと完全一致を確認する:"Co., Ltd."の有無や略称の違いで誤判定が起きやすい
- 🧊 冷凍・チルド品は到着前から保管施設と検査機関の両方を予約する:検査が長引いた場合の保管期限切れリスクを回避する
- 📞 判断に迷ったら輸入前に検疫所へ事前照会を行う:口頭確認でも記録を残しておくことで後日のトラブルを防げる
- 📂 命令検査の検査成績書は税関への提示書類として整理しておく:輸入許可後も一定期間の保管が求められることがある
これらのステップを業務フローに組み込むだけで、ミスの発生率は大幅に下げられます。対応が早ければ早いほど、荷主への影響を最小化できます。
また、登録検査機関の選択も重要な実務判断です。機関によって検査可能な項目・費用・所要日数に差があるため、取引実績のある検査機関を複数確保しておくことが望ましい体制といえます。たとえば、農薬系検査に強い機関と微生物検査に強い機関を使い分けることで、品目ごとに最適な対応が可能になります。
命令検査に関する制度変更や新規指定品目は、厚生労働省の「輸入食品安全情報」のメールマガジンで随時通知されます。登録しておくと見落としを防げます。これは実務上の必須アクションです。
厚生労働省:輸入食品安全情報メールマガジン登録ページ(命令検査の新規指定・解除情報をいち早くキャッチできるメール配信サービス)