関税の通関をクリアしても、国内販売時の表示ミスで商品回収になるケースがあります。
食品表示法は平成25年(2013年)に成立し、平成27年(2015年)4月1日に施行された法律です。それ以前は食品衛生法・JAS法・健康増進法の3つに分散していた表示ルールを一本化したもので、消費者庁が管轄しています。
重要なのは、この法律が「国内で販売されるすべての食品」に適用される点です。つまり、海外のパッケージのまま国内の棚に並べることはできません。輸入食品であっても、消費者庁が定めた食品表示基準に従って日本語での表示が義務付けられています。これは消費者の安全と選択権を守るための制度です。
具体的な表示義務の対象は、加工食品・生鮮食品・添加物の3カテゴリーです。それぞれで要求される項目が異なります。
加工食品で義務とされる主な表示事項は次の通りです。
- 名称(商品名ではなく、一般的な食品名)
- 原材料名(重量割合の多い順に記載)
- 添加物(原材料と明確に区別して記載)
- 内容量
- 消費期限または賞味期限
- 保存方法
- 原産国名(輸入品のみ)
- 輸入者の名称・住所
- アレルゲン(特定原材料8品目の義務表示)
- 栄養成分表示(エネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量の5項目)
これが基本です。中でも輸入食品固有の要件として「原産国名」と「輸入者情報」が加わる点を特に覚えておくとよいでしょう。
生鮮食品の場合は、名称と原産地の2点が中心になります。なお、容器包装の表示可能面積がおおむね30㎠以下の小さなパッケージの場合、原材料名や内容量・栄養成分などは省略可能とされています。
消費者庁「食品表示法等(法令及び一元化情報)」|ガイドライン・Q&Aの公式一覧ページ
関税に関わる実務をしている方が特に混乱しやすいのが、「関税法上の原産地」と「食品表示法上の原産国」の関係です。この2つは別の法律に基づく別の概念であり、定義が一致しないケースがあります。
関税法第71条では、原産地について偽った表示または誤認を生じさせる表示がされている外国貨物は輸入が許可されないと定めています。通関時にチェックされるのはこの基準です。一方、食品表示法(食品表示基準)に基づく原産国表示は、国内販売時に消費者庁が管轄するラベル上の義務です。
では、両者がズレた場合はどうなるのでしょうか? 税関のQ&Aには明確な回答があります。「関税法令上の原産地と食品表示法等他の法令に基づく原産地の表示とが相違する場合であって、当該他の法令に基づき原産地の国等の表示が義務付けられており、当該他の法令に基づく適正な表示であると認められるときは、原産地を偽った表示とは取り扱わない」とされています。
つまり食品表示法に沿った適正な表示であれば、関税法上の問題にはなりません。これは実務上、非常に重要な知識です。
関税法上の「原産地」は、貨物が実際に生産・製造された国または地域を指します。対して食品表示法上の「原産国名」は、加工食品が最終的にどこで製造・加工されたか(重量割合による実質的変更など)という視点が入ります。例えば第三国で原材料を仕入れてA国で加工した食品の場合、関税法と食品表示法でそれぞれ指定される「国」が異なることがあります。
関税法の原産地と食品表示法の原産国は、それぞれ別の窓口・別のタイミングで確認するのが基本です。
税関「原産地表示に係るQ&A」|関税法と他法令の原産地表示の関係について詳しく解説
輸入食品の表示実務で特にミスが多い項目の一つが、原材料名と添加物の記載方法です。
原材料名は「使用した重量の割合が多い順」に記載することが原則です。海外パッケージの記載順序をそのまま日本語訳しただけでは違反になります。例えばチョコレート菓子を輸入する場合、日本向けラベルでは砂糖・植物油脂・カカオマスの順に多い順で書き直す作業が必要です。
日本独自のルールとして重要なのが、原材料と添加物を明確に区別して別表示するという点です。「/(スラッシュ)」や「改行」で原材料と添加物を分ける記載形式は、欧米の食品表示とは大きく異なります。海外の成分表示を翻訳しただけでは、このルールを満たせないことがほとんどです。
添加物の表示名称についても要注意です。日本の食品添加物公定書に登録された正式名称を使わなければなりません。例えば海外表示でいう「Sodium Benzoate(安息香酸ナトリウム)」はそのままでも問題ありませんが、一般的でない略称や海外独自の呼称をそのまま使うと表示違反になります。
また、日本国内で使用が禁止されている添加物が含まれる食品は、そもそも輸入自体ができません。通関前に原材料リストを精査しておくことが、無駄なコストを防ぐ第一歩です。
複合原材料(調味料など複数の原材料で作られたもの)の扱いも複雑です。ただし「マヨネーズ」のように名称から原材料が明らかな場合は、内訳の記載を省略できるルールがあります。これは使えそうです。
消費者庁「表示を作成する際に注意すべき10類型」|添加物の表示ミスを避けるための詳細ガイド(PDF)
アレルゲン表示は、消費者の命に直結する非常に重要な表示義務です。食品表示法では特定原材料8品目について、含有する場合の表示を義務付けています。現在の義務8品目は「えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生(ピーナッツ)」です。
くるみが2023年3月に推奨品目から義務品目に格上げされ、2025年4月に完全施行されました。注目すべきは、この「義務化移行」のスケジュールです。推奨から義務に変わると、以前は「表示しなくてもよかった」ものが「表示しないと違反」になります。
さらに2026年には「カシューナッツ」の義務品目移行と「ピスタチオ」の推奨品目追加が予定されています。輸入食品では、仕入れ元の原材料にカシューナッツが微量でも含まれていれば、今後は必ず表示が必要になります。ナッツ類を扱う輸入業者は特に注意が必要です。
アレルゲン表示には「個別表示」と「一括表示」の2方式があります。原則は個別表示(各原材料の後に括弧書きで記載)ですが、条件を満たす場合は一括表示も認められています。
| 方式 | 内容 | 適用条件 |
|------|------|----------|
| 個別表示(原則) | 各原材料の直後に(一部に〇〇を含む)と記載 | すべての加工食品 |
| 一括表示(任意) | 原材料欄の末尾にまとめて記載 | 個別表示できない場合など |
重要なのは、添加物にアレルゲンが含まれる場合も必ず表示対象になる点です。「添加物だからアレルゲンは別扱い」という認識は誤りです。
アレルゲン表示のミスは商品回収につながる重大リスクです。ラベル作成時は仕入れ先メーカーのアレルゲン証明書を必ず取得し、日本の義務品目と照らし合わせる工程を社内で標準化しておくとよいでしょう。
消費者庁「食物アレルギー表示」|特定原材料8品目の義務内容と表示方法の詳細(PDF)
栄養成分表示は2020年4月1日から完全義務化されました。対象は「消費者向けに予め包装された全ての加工食品及び添加物(業務用を除く)」です。つまり輸入品でも一般消費者向けに販売するものであれば、必ず表示しなければなりません。
義務表示の5項目は「エネルギー(熱量)・たんぱく質・脂質・炭水化物・食塩相当量」の順です。この順番も規定されていて、勝手に並び替えると規格外となります。
輸入食品で特に注意が必要なのが「ナトリウム→食塩相当量への換算」です。欧米の食品表示は「ナトリウム(mg)」で記載されていることが多いですが、日本では「食塩相当量(g)」として表示する必要があります。換算式は以下の通りです。
$$\text{食塩相当量 (g)} = \text{ナトリウム (mg)} \times 2.54 \div 1000$$
例えば原材料のナトリウム量が500mgと記載されている場合、食塩相当量は500 × 2.54 ÷ 1000 = 1.27gとなります。この計算を省略したり間違えると、栄養成分表示の数値違反になります。
また2025年3月の改正で「栄養強化目的で使用した食品添加物に係る表示免除規定」が削除されました。これにより、例えばビタミン強化目的で添加されたビタミンCも原材料欄に表示しなければならなくなっています。以前の輸入商品ラベルをそのまま流用していると、この改正に対応できていない可能性があります。
栄養成分の数値は「分析値」または「計算値(原材料配合から計算)」のいずれかで求めることができます。輸入食品の場合、仕入れ先の成分分析表を基に計算するのが一般的です。ただし計算ミスは消費者の健康に関わるため、複数担当者によるチェック体制が不可欠です。
消費者庁「事業者の方向け 栄養成分表示を表示される方へ」|義務化の対象範囲と記載方法の詳細
関税実務や輸入ビジネスに関わる方が意外と見落としやすいのが、遺伝子組換え表示と機能性表示食品のルールです。
遺伝子組換え表示については、2023年4月に大きな改正が行われました。以前は「遺伝子組み換えでない」と書けるハードルが低かったのですが、現在はこの表示を使うには「遺伝子組み換え農産物の意図せぬ混入がゼロ(不検出)」であることが求められます。
従来は「意図せぬ混入が5%以下」でも「遺伝子組み換えでない」と表示できていましたが、それは過去の話です。大豆や菜種などを含む輸入食品で、「Non-GMO」表示のまま日本向けラベルを作ると、検査でわずかでも遺伝子組換え原材料が検出された際に違反となります。
なお、大豆油やしょうゆのように製造工程で組み換えDNAが除去・分解されてしまう食品は、表示義務の対象外です。
機能性表示食品は、事業者の責任において科学的根拠を消費者庁に届け出ることで「〇〇に機能する」などの表示ができる制度です。2024年8月には機能性表示食品制度の大きな改正が行われ、届出要件・表示事項・表示方法の厳格化が進みました。健康食品・サプリメントを輸入する場合は、この制度と薬機法の適用範囲の違いを十分に確認する必要があります。
また遺伝子組換え表示と並んで改正が多いのが、有機JASマーク(オーガニック表示)のルールです。輸入有機食品には日本農林規格(JAS)認定が必要で、海外の「Organic」認証をそのまま日本の有機表示として使うことはできません。
| 表示の種類 | 根拠法 | 主管庁 | 輸入時の注意点 |
|------------|--------|--------|----------------|
| 栄養成分表示 | 食品表示法 | 消費者庁 | 食塩相当量への換算必須 |
| アレルゲン表示 | 食品表示法 | 消費者庁 | 義務8品目は日本独自 |
| 遺伝子組換え表示 | 食品表示法 | 消費者庁 | 2023年改正で不検出基準に厳格化 |
| 機能性表示食品 | 食品表示法 | 消費者庁 | 届出が必要・薬機法との区別必須 |
| 有機(オーガニック)表示 | JAS法 | 農林水産省 | 海外認証をそのまま使用不可 |
これが全体像です。輸入食品の表示は「一つの法律」ではなく、複数の法律と制度が重なっていることを忘れてはいけません。
ラベルバンク「食品表示に関する制度改正状況について(2026年版)」|直近の改正年表と2026年の予定が一覧で確認できる