関税を払って輸入した食品でも、廃棄命令が出ると関税は戻ってこないケースがある。
食品における「回収命令」とは、食品衛生法第59条に基づいて、厚生労働大臣または都道府県知事が営業者に対し、法律違反のある食品を廃棄または回収するよう強制的に命じる行政処分のことです。これは企業が自ら判断して行う「自主回収(リコール)」とは根本的に異なります。
自主回収は、企業が自らの意思で行うものです。一方で回収命令は、行政が発令する強制措置であり、事業者にはこれに従う法的義務が生じます。
回収命令が発令される根拠となる主な違反内容は、食品衛生法第6条に規定されており、「腐敗・変敗したもの」「有毒・有害物質が含まれるもの」「病原微生物に汚染されたもの」「異物混入などにより人の健康を損なうおそれがあるもの」が対象です。2024年に問題となった小林製薬の紅麹サプリメント事件でも、大阪市が食品衛生法第59条に基づく回収命令を発令したことが広く報道されました。
件数でみると、行政命令による回収命令よりも自主回収の方が圧倒的に多いです。事業者が問題を先に自主発見し、行政の命令を受ける前に動くケースが主流になっています。つまり、回収命令まで至るケースはすでに問題が深刻化しているサインです。
| 項目 | 回収命令 | 自主回収(リコール) |
|---|---|---|
| 根拠 | 食品衛生法第59条(強制) | 企業判断(任意)+届出義務 |
| 行政の関与 | 行政が指示・監視 | 届出を受理し公表 |
| 罰則 | 命令違反で懲役・罰金 | 届出義務違反で罰則あり |
| 発生頻度 | 少ない(深刻なケース) | 年間880件以上(R5速報値) |
参考:食品衛生法による回収命令の法的根拠と手続きに関する詳細
弁護士法人 長野第一法律事務所|食品衛生法による回収命令~小林製薬事件
令和5年度(2023年度)の食品衛生法関連のリコール件数は880件(速報値)にのぼります。これは1日あたり約2.4件という計算になり、食品に関わるビジネスをしている人なら無関係とは言えない頻度です。
リコールの原因を大きく分類すると、食品衛生法違反によるものと食品表示法違反によるものの2種類があります。令和4年度のデータでは、食品表示法違反が490件(70.8%)、食品衛生法違反が202件(29.2%)という内訳でした。
食品衛生法違反のリコールを具体的に見ると、異物混入・規格基準違反・有害微生物の残存の3つが全体の63.4%を占めています。中でも深刻度が高いクラスⅠに分類された事案では、異物混入が60.4%を占め、その内訳は金属片が48.3%と最多でした。関税を払って輸入した食品についても、金属片混入による回収命令は十分に起こり得るリスクです。
食品表示法違反のリコールでは、期限表示の誤表示・不表示が33.3%、アレルゲン誤表示・不表示が22.0%と続きます。危害度の高いクラスⅠでは、アレルゲンの誤表示・不表示が40.2%を占めており、小麦・卵などの特定原材料の表示欠落が大半を構成しています。
特に輸入食品ではクラスⅢに分類される規格基準違反の事案のうち、添加物の使用基準違反が53.9%と最多です。その多くが輸入食品に関するもので、「海外では合法の添加物でも日本では使用基準違反になる」というケースが後を絶ちません。これは関税を支払って通関後に発覚するリスクもあり、輸入業者には特に注意が必要な点です。
参考:食品リコールのクラス分類と令和4年度の発生状況の詳細
食品分析開発センター SUNATEC|食品事業者によるリコール事案の傾向について
輸入食品に回収命令が出た場合、あるいは食品衛生法違反が判明した場合、関税はどうなるのでしょうか。これは関税に関心を持つ人にとって最も気になる点のひとつです。
まず「通関前」の段階で違反が判明したケースを見てみましょう。検疫所の審査または命令検査の結果、違反と判断された輸入食品は、日本国内での販売ができません。輸入者は廃棄または積戻し(輸出国への返送)という措置をとることになります。この段階では関税が未納付のため、原則として関税負担は発生しません。ただし、廃棄費用や保管料は輸入者の全額負担となります。
一方、「通関後」に問題が発覚したケースは話が変わります。輸入許可を受け、関税・消費税を支払い済みの商品について回収命令が発令された場合、一定の条件を満たせば「違約品等の再輸出又は廃棄の場合の戻し税(関税定率法第20条)」という制度が利用できます。ただし、この戻し税を受けるには「輸入の時の性質及び形状に変更を加えていないこと」が前提条件です。食品の場合、すでに開封・加工されていたり、品質が変化していたりすると適用できない場合があります。
実際に起きた失敗事例として、書類不備により検疫が長引き、賞味期限切れで廃棄となったケースでは「輸入時に支払った関税100万円と廃棄費用200万円、合計300万円」が損失となったケースもあります。関税だけで100万円です。痛いですね。
輸入食品で回収命令が出た場合の費用リスクをまとめると、廃棄費用・積戻し費用・保管料・関税の払い戻し不可リスクが積み重なる可能性があります。食品輸入にあたっては、事前の法規制確認と輸入食品向けの賠償責任保険の検討が損失回避につながります。
参考:輸入食品の違反時の廃棄・積戻し手続きの詳細
令和3年(2021年)6月1日から、食品衛生法および食品表示法の改正により、食品事業者が自主回収を行った場合、行政への届出が義務化されました。これは業界に大きな変化をもたらした改正です。
改正前は、各都道府県が独自の条例に基づいて自主回収時の報告を義務化しているにとどまっており、国が一元的にリコール情報を把握する仕組みがありませんでした。改正後は、全国の自主回収情報が「食品衛生申請等システム」を通じて国(厚生労働省・消費者庁)に報告され、一般にも公開されます。届出を怠った場合や虚偽報告をした場合は罰則の対象です。
ただし、届出が不要なケースも存在します。食品衛生法第59条の回収命令を受けて回収する場合は、第58条の届出対象から除外されています。つまり、命令による回収は別ルートで行政が把握するため、重複して届出する必要はないということですね。
また、「食品衛生上の危害が発生するおそれがない場合」も届出義務の適用除外となっています。ただし、重大事故につながり得る食品については、任意で届出を行い、消費者への情報提供を行うことが望ましいとされています。
自主回収の届出が義務化されたことで、年間700件以上のリコール情報が行政に集まるようになりました。これにより消費者は速やかに情報を入手でき、対象食品の喫食を避けることが可能になっています。関税を含む輸入コストをかけた商品がリコール対象になれば企業の損失は甚大ですが、この制度は事業者側にとっても同業他社のリコール情報を参考にして自社の品質管理を強化できるという側面もあります。
参考:食品等の自主回収報告制度(リコール届出義務化)の詳細
輸入食品に関わる事業者の多くは、関税コスト削減や通関の効率化に注力しています。しかし、見落とされがちなのが「食品安全コスト」と「関税コスト」を切り離して考えている点です。
実際のビジネスリスクとしては、関税・運賃・保管料を合計した輸入コストが回収命令や廃棄命令によって丸ごと損失になる可能性があります。添加物の使用基準違反で廃棄となった場合、廃棄費用だけで200万円以上かかった事例もあります。関税100万円と廃棄費用200万円で300万円の損失というケースは、決して他人事ではありません。
では、このリスクを事前に抑えるにはどうすればよいのでしょうか。重要なのは「輸入前の成分・添加物・残留農薬のスクリーニング」です。特に、原産国では合法な添加物(例:ソルビン酸・安息香酸など)が日本では使用できない食品カテゴリーに使われていた場合は、通関後に命令検査で不合格となるリスクがあります。国によって食品添加物の規制が異なるという事実は、関税コストを計算する前に確認すべき前提条件です。
また、食品の回収命令に備えて「製造物責任保険(PL保険)」や「リコール費用保険」への加入も有効な選択肢です。自主回収には通知費用・新聞広告(全国紙で400万円以上)・返品対応・廃棄費用が重なることがあり、中小の輸入業者では事業継続が困難になるケースもあります。回収リスクのある商品を扱う前に、保険の見直しをしておくことが現実的な対策です。
さらに、食品衛生申請等システムで公開されている過去のリコール情報を活用して、自社が取り扱う予定の品目カテゴリーや原産国に関連する違反事例がないかを事前に調べることが、リスクの「見える化」につながります。これは関税削減と同様に、輸入コスト全体の最適化という観点から重要なアプローチです。
輸入食品の回収命令リスクは、関税コストと一体で管理するのが基本です。
参考:食品輸入の失敗事例と費用リスクの詳細