自己申告制度で申告ミスをしても、税関は自動で訂正してくれると思っていませんか?
自己申告制度とは、輸入者や通関業者が自ら関税率・税番(HSコード)・課税価格などを申告する制度です。税関審査官がすべての申告内容を精査・修正してくれる仕組みではありません。つまり申告内容の正確性は、申告者が全面的に担うということです。
これが最大のデメリットです。
通関業務の現場では「税関が何か言ってくれるだろう」という感覚で業務を進めてしまうケースが見られます。しかし税関の役割は「通関書類の受理と審査」であり、誤申告の修正を代行する機能ではありません。申告者が正しいと判断して申告した内容に対し、税関が後日「これは誤りです」と指摘した場合、その責任は申告者に帰属します。
誤申告が発覚した際に取るべき手続きは「修正申告」または「更正請求」です。修正申告は申告者の自発的な訂正手続きであり、更正請求は過納付分の還付を求める手続きです。どちらも通関業務の工数を大幅に増やします。
特に税番(HSコード)の分類誤りは頻発するリスクです。HSコードは全世界共通の6桁をベースに、日本では9桁(統計品目番号)が使われており、その分類数は約9,000品目以上に上ります。品目によっては類似コードが複数存在し、正しいコードを選ぶには高度な専門知識が必要です。
これは注意が必要ですね。
通関士試験の合格率が例年15〜20%台と低い水準にとどまっている背景には、こうした実務の複雑さがあります。関税率表の解釈は単純ではなく、誤申告はベテランの通関士にも起こりうるリスクです。
申告誤りが税関の調査などで発覚した場合、本来納付すべきだった関税・消費税などの追徴に加え、加算税が課されます。これが金銭的に大きな打撃となります。
加算税の種類と税率は以下のとおりです。
| 加算税の種類 | 税率 | 適用される場面 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 追徴税額の10%(一定額超は15%) | 申告額が本来より少なかった場合 |
| 無申告加算税 | 追徴税額の15%(一定額超は20%) | 申告自体を行っていなかった場合 |
| 重加算税 | 追徴税額の35%(無申告は40%) | 仮装・隠蔽など悪質と認定された場合 |
重加算税が課されるのは悪質なケースだけです。
ただし「悪質」の認定基準は思いのほか厳しく、故意でなくても仮装・隠蔽と見なされるケースがあります。たとえば、実際の取引価格(インボイス価格)を低く記載した書類を使用して申告した場合、担当者に悪意がなくても重加算税の対象になる可能性があります。
具体的な金額で考えてみましょう。課税価格1,000万円の輸入案件で関税率5%が適用される場合、関税額は50万円です。この申告が誤りで過少申告加算税(10%)が課されると、5万円が追加されます。重加算税(35%)なら17.5万円の追加負担です。1件の申告ミスでこれだけの損失が発生します。
痛いですね。
通関業者として顧客の申告を代行している場合、この加算税は輸入者(依頼人)が負担するものですが、誤申告の原因が通関業者側にある場合は損害賠償請求のリスクも生じます。実務上の責任は複層的に絡み合います。
意外と知られていないリスクが、輸入事後調査(IAI:Import After-examination Investigation)です。税関は通関後に輸入者の帳簿や書類を調査する権限を持っており、この調査が自己申告制度を利用する輸入者に対して行われます。
調査対象は最長で過去5年分です。
輸入事後調査では、インボイス・パッキングリスト・契約書・送金記録などが対象となり、申告した課税価格や税番が正確だったかを遡って確認されます。5年間に数百件の申告がある輸入者にとっては、調査対応だけで相当な工数が発生します。
税関の調査官が来社して帳票を確認する場合、通関業者もその対応に巻き込まれます。資料の取りまとめや説明対応など、通関業者の工数も相当なものになります。これは顧客対応コストとして見えにくいですが、実質的なデメリットです。
これは見落とされがちです。
2023年度の財務省発表によると、輸入事後調査では1件あたりの平均追徴税額が数百万円規模に上るケースも報告されています。また、調査選定の基準として「申告内容の変動が大きい輸入者」「新規輸入者」「特定品目の輸入者」などが挙げられており、自己申告制度を積極活用している事業者ほど注意が必要です。
調査対応のリスクを下げるためには、日頃からの帳票整備が不可欠です。インボイスと申告書の紐づけ管理、関税率適用根拠の記録保存など、申告時点での記録をきちんと残しておくことが、事後調査対応の負担を大幅に減らします。
参考:財務省「輸入通関制度の概要と輸入事後調査について」
https://www.customs.go.jp/zeikan/seido/index.htm
近年のFTA(自由貿易協定)活用場面では、「原産地の自己申告制度」が広がっています。日本が締結しているEPA・FTAの中には、第三者機関(商工会議所など)による証明書ではなく、輸出者・生産者・輸入者自身が原産地を証明する自己申告方式を採用しているものがあります。
これはTPP11(CPTPP)やRCEPなどが代表例です。
この自己申告制度では、原産地基準の判定を申告者が自ら行います。関税分類変更基準(CTC)・付加価値基準(RVC)・加工工程基準(SP)など、複数の基準が品目ごとに設定されており、正確な判定には相当な専門知識が必要です。
判定を誤ると、特恵税率の適用が否認され、一般税率で関税を再計算されます。差額の関税を追徴されるだけでなく、過少申告加算税も課されます。たとえばある品目でMFN税率が8%、EPA税率が0%だった場合、課税価格500万円の輸入なら、税率差だけで40万円の追徴が発生します。
特恵税率の否認は一度では済みません。
同一品目を継続輸入している場合、調査対象期間(最長5年)全体に遡って否認されるリスクがあります。毎月1回の輸入で5年間なら60回分の誤申告が積み重なり、追徴額は数百万円規模になる可能性もあります。
原産地自己申告の誤申告リスクを下げるには、品目ごとの原産地判定根拠を書面で整備しておくことが重要です。サプライヤーからの原産地証明に関する情報取得フロー(Supplier's Declaration)を社内で標準化しておくと、判定の属人化を防げます。
参考:税関「特定原産地証明書・認定輸出者制度・自己申告制度の概要」
https://www.customs.go.jp/roo/procedure/index.htm
自己申告制度における課税価格の申告は、インボイス価格をそのまま記載すれば良いと思いがちです。しかし関税定率法第4条に基づく課税価格の計算では、インボイス価格以外にも加算すべき要素が複数存在します。
これが現場で最も見落とされやすいポイントです。
課税価格に加算すべき主な項目は次のとおりです。
特にロイヤルティの取り扱いは複雑です。
輸入品の商標権・特許権・著作権などに対して支払われるロイヤルティが「輸入貨物の販売の条件として支払われるもの」であれば、課税価格への加算が必要です。この判断は契約書の文言解釈に左右されるため、専門的な判断が求められます。税関との見解の相違が生じやすい項目でもあります。
通関業者がこれらの加算要素を見落として過少申告した場合、後から税関に指摘されると修正申告が必要になります。加算税の対象にもなります。顧客からの信頼を損なうリスクも無視できません。
課税価格の計算精度を上げるには、輸入取引の契約書・関連契約(ライセンス契約、技術支援契約など)を通関申告前に必ず確認するフローを設けることが有効です。輸入者側の管理部門や法務部門との連携体制を整えておくと、見落としのリスクを大幅に低減できます。
参考:税関「課税価格の決定方法について(関税定率法第4条)」
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/impost/1009_jr.htm