日スイスEPAで認定輸出者になっても、RCEPでは使えないのはご存知ですか?
「認定輸出者リスト」という言葉を調べると、実は2つの全く異なる制度に行き当たります。これを混同したまま話が進むと、手続き先を間違えるという大きなミスにつながるため、まず最初に整理しておきましょう。
1つ目は、税関(財務省)が公開している「特定輸出者一覧(AEO輸出者リスト)」です。これはAEO(Authorized Economic Operator)制度の一環で、セキュリティ管理とコンプライアンス体制が整備されていると税関長に承認された輸出者の名簿です。税関ホームページでPDF形式で公開されており、BANDAI SPIRITSやDOWAメタルテックといった製造・商社大手の名前が並んでいます。この「特定輸出者」になると、保税地域に貨物を搬入せずに輸出申告・輸出許可が受けられるという大きな通関メリットがあります。
2つ目は、経済産業省(経産省)が管轄する「EPA認定輸出者」です。こちらはEPA(経済連携協定)における原産地証明書を自社で作成できる輸出者の認定制度で、「第二種特定原産地証明書」の作成権限に直結します。経産省は認定輸出者の一覧を公開していません。これが重要な違いです。
つまり「リスト」という観点で整理すると、AEO輸出者(特定輸出者)は税関HPで一覧が確認可能ですが、EPA認定輸出者については公開リストは存在しません。
| 制度 | 管轄省庁 | 一覧公開 | 主なメリット |
|------|----------|----------|--------------|
| 特定輸出者(AEO) | 税関(財務省) | ✅ 税関HPで公開 | 保税地域不要で輸出許可 |
| EPA認定輸出者 | 経済産業省 | ❌ 公開なし | 自社で原産地証明書作成可 |
2つの制度は目的も手続き先も異なります。それが基本です。
参考:税関が公開しているAEO事業者(特定輸出者)の一覧はこちら。企業名と承認税関名が確認できます。
特定輸出者一覧(Authorized Exporter)|税関 Japan Customs(PDF)
EPA認定輸出者制度(第二種特定原産地証明書)が使える協定は、20を超える日本のEPA・FTAの中でわずか4つです。これは意外と知られていない事実です。
対象の4協定は次の通りです。
一方、貿易実務でよく使われる日EU・EPA、CPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)、日英EPA、日オーストラリアEPAでは「認定輸出者制度」は使えません。これらでは代わりに「輸出者自己申告制度」や「輸入者自己申告制度」が採用されています。
また、日シンガポール、日マレーシア、日タイ、日インドネシアなど多くのASEAN相手国EPAでは、そもそも自己証明制度が採用されておらず、日本商工会議所が発給する「第一種特定原産地証明書(第三者証明)」しか使えません。
貿易量が大きいEUや東南アジア向けの輸出に携わっている企業が多い中、「認定輸出者制度でコストが下がると思ったら、使える協定ではなかった」というケースは実際に発生しています。4協定以外は対象外、ということだけは覚えておけばOKです。
さらにもう一点注意が必要なのが、認定は協定ごとに個別に取得しなければならないという点です。例えば、日スイスEPAで認定輸出者の認定を受けていても、RCEP協定の認定輸出者制度を使いたい場合は、あらためてRCEP協定用の認定申請を経産省に行う必要があります。1つ取れば全部使えるわけではない、というのが原則です。
参考:各協定でどの原産地証明制度が使えるかを一覧で確認できる公式情報です。
認定輸出者制度(第二種特定原産地証明書を作成する者の認定)|経済産業省
認定輸出者になるためには、費用・体制・実績の3つの要件をすべて満たす必要があります。一つずつ見ていきましょう。
【要件①:第一種特定原産地証明書の受給実績】
目安として、半年間で8回以上、日本商工会議所から第一種特定原産地証明書の発給を受けた実績が求められます。ただし、これはあくまで目安です。「概ね8回以上」とされており、実績が不足している場合でも今後の輸出計画が見込まれる場合は、経産省 原産地証明室に相談すれば考慮してもらえるケースがあります。
【要件②:3種類の社内担当者の配置】
認定輸出者制度の核心となるのが、社内体制の整備です。具体的には以下の3役を配置する必要があります。
この3役は必ずしも別々の人物である必要はありませんが、各役割の要件を満たしていることが前提です。中小企業では兼任するケースが多いですが、実務経験の要件(商工会議所で原産品判定依頼を行い承認を受けた経験など)は厳密に確認されます。
【要件③:費用と認定有効期限】
申請そのものに手数料はかかりません。ただし、認定を受けた際に登録免許税として9万円が課税されます(登録免許税法に基づく)。この9万円は認定時のみで、更新時には不要です。有効期限は3年間で、更新には5,000円(電子申請は4,550円)の手数料がかかります。
登録免許税の9万円は会社設立時と同じ水準の出費ですが、複数協定でそれぞれ認定を取得する場合は協定ごとに費用が発生します。例えば日スイスとRCEPの両方で認定取得する場合は合計18万円になります。これは意外な出費です。
参考:認定輸出者の申請基準・義務・書類を詳しく解説したe-learningテキスト(PDF)です。
認定輸出者の認定基準・運用・義務|EPA-info.go.jp(PDF)
認定輸出者として経産省から認定番号を付与されると、いよいよ実際の証明書作成に入れます。仕組みはシンプルです。
第一種(日本商工会議所が発給する証明書)とは異なり、第二種特定原産地証明書には専用の証明書フォーマットは存在しません。代わりに、輸出時に通常使用する商業上の書類(インボイス)に、①経産省から付与された認定番号と②各協定で定められた申告文(英文)を記入することで、原産地証明書として機能します。
例として日スイスEPAの申告文はこのように記載します。
"The exporter of the products covered by this document (Authorisation No. 認定番号) declares that, except where otherwise clearly indicated, these products are of (Japan) preferential origin."
日メキシコEPA・日ペルーEPAも同様の構成です。RCEP協定の場合は協定附属書3Bに定められた必要的記載事項を英語で記述する形になります。これも様式は自由で、経産省が公開しているサンプルフォーマットを活用することができます。
ただし一つ大きな注意点があります。認定番号が付与されたからといって、すぐに輸出を開始できるわけではありません。
各国の税関当局に認定番号などの情報が周知されてから初めて有効になります。認定番号が送達された後、各国への周知が完了するまでには一定の時間がかかるため、経産省 原産地証明室から別途連絡を受けるまで待つ必要があります。
また、インボイス上に原産品と非原産品が混在している場合は、どの物品が原産品でどれが非原産品かを税関で誤解されないよう、明確に区別して記載する必要があります。これは義務です。
参考:日本商工会議所の発給申請マニュアルです。第一種と第二種の違い・手続き手順が詳しく解説されています。
第一種特定原産地証明書 発給申請マニュアル|日本商工会議所(PDF)
認定を受けた後も、認定輸出者にはいくつかの継続的な義務が課されています。義務を知らないまま運用していると、取り消しや罰金の対象になります。厳しいところですね。
義務① 変更届の提出
社名・住所・証明書作成事務所・輸出物品の品名・関税番号に変更が生じた場合は「名称等変更届出書」の提出が必要です。特に新しい品目を追加する場合は、変更届を事前に提出し経産省の確認が取れてから使用する必要があります。届出なしに新品目の証明書を作成すると、有効な認定の範囲外の行為になります。
義務② 帳簿の作成・保存
認定輸出者は、証明書を作成した日付・担当者名・物品名・数量・関税番号・輸入者情報などを帳簿に記録し続ける義務があります。保存期間は協定によって異なります。
| 協定 | 保存義務期間 |
|------|------------|
| 日メキシコ協定 | 5年 |
| 日ペルー協定 | 5年 |
| 日スイス協定 | 3年 |
| RCEP協定 | 3年 |
なお、関税法上は輸出書類の保存義務が5年、輸入書類は7年と定められているため、貿易関連書類を一律7年保存する運用にすれば管理が一本化でき、実務上の混乱を防ぎやすくなります。
義務③ 原産品でなかった場合の通知
証明書発行後に原産品でないことに気づいた場合、または証明書に記載の誤りが判明した場合は、速やかに経産省(原産地証明室)に通知する義務があります。この通知を怠った場合、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(法律第七条の九に基づく)。さらに輸入者側では、輸入国での関税減免の取り消し・追徴課税・罰金が生じる可能性もあり、取引先への信頼にも影響します。
罰金30万円だけで終わらない、という点が痛いですね。通知義務は認定輸出者として最低限守るべきルールです。
参考:認定輸出者に課される義務の詳細と根拠法令(原産地証明法)を確認できます。
認定輸出者制度のメリットである「手数料ゼロで原産地証明書を自社発行できる」という点は魅力的ですが、あえてこう問いかけます。「認定輸出者にならなくてもEPA税率は利用できます。」
認定輸出者制度はあくまで原産地証明の「手段の1つ」です。多くの企業では、日本商工会議所が発給する第一種特定原産地証明書(第三者証明)を使えば、認定輸出者制度なしにEPA税率の恩恵を受けられます。日EU・EPA、CPTPP、日英EPAのような認定輸出者制度が使えない協定でも、輸出者自己申告制度が使えるケースがあります。つまり、これが条件です。
認定輸出者制度が本当に「元を取れる」状況は、以下の条件が揃う場合です。
例えば、RCEP協定向けに月10件、年120件の証明書を発行している企業が、1件あたり4,000円の商工会議所手数料を支払っていた場合、年間の節約額は48万円です。登録免許税9万円の初期費用は2か月で回収できる計算になります。逆に年10件程度の輸出しかない企業なら、認定輸出者になる前にまず使用頻度から考え直した方がいいかもしれません。
また、特定の部門だけが頻繁にRCEP向け輸出をしているケースでは、会社全体ではなく特定部門のみ認定輸出者制度を活用し、他部門は第三者証明制度を使い続けるというハイブリッド運用も認められています(経産省Q&A Q7より)。第三者証明制度と認定輸出者制度の併用は可能です。これは使えそうです。
認定輸出者になること自体が目的ではなく、「EPA税率を最大限活用しながら、社内コストと手間を最適化すること」が本来のゴールです。JETRO(日本貿易振興機構)のWorld Tariffなどを活用して相手国のEPA税率を事前に確認し、本当に節税効果がある協定・品目かを検証した上で、認定輸出者の申請を検討する流れが現実的です。
参考:JETROが提供するEPA相手国の関税率検索ツールです(無料登録要)。認定前に活用すると有用です。