HSコードが変わっただけで、EPA特恵関税がゼロになることがある。
関税分類変更基準(CTC:Change in Tariff Classification)は、FTA・EPA原産地規則の中核をなす考え方です。輸出産品と、その生産に使われた非原産材料との間でHSコードが指定された桁数以上変わっていれば、実質的な製造・加工が行われたとみなし、その産品を原産品と認める仕組みです。
この関税分類変更基準には、変更する桁数によって3種類があります。
| 記号 | 正式名称 | 変更レベル | 厳しさ |
|------|----------|------------|--------|
| CC | Change in Chapter | 上2桁(類)の変更 | 最も厳しい |
| CTH | Change in Tariff Heading | 上4桁(項)の変更 | 中程度 |
| CTSH | Change in Tariff Sub-Heading | 上6桁(号)の変更 | 最も緩い |
CCとは、完成品と使用した非原産材料のHSコードの「上2桁(類)」が異なることを要求する最も厳格な基準です。これは原産地規則の中でも要求水準が高いルールとされています。
具体的な例で確認しましょう。日本で味噌(HSコード:2013.90、20類)を製造する場合を考えます。大豆(12類)、米(10類)、麹菌(30類)、塩(25類)という非原産材料を使っても、それらはすべて「20類以外の類」から変更されているため、CCを満たします。結果、この味噌は日本の原産品として認められます。
CCが意味するのは「20類以外からの変更」ということですね。
逆に、完成品と同じ20類の材料(たとえばフルーツピューレ:20類)を非原産で使用してしまうと、20類→20類となるためCCを満たせません。これが「同じ類の材料は使えない」という実務上の制約です。
ジェトロが解説するASEAN加盟国からの輸入に関するCCの基準の考え方については、以下が参考になります。
ASEAN加盟国からの輸入とCC基準の解説(ジェトロ)
https://www.jetro.go.jp/world/qa/04E-080301.html
CC・CTH・CTSHの3つの基準は、厳しさのレベルが異なります。CCが最もハードルが高く、CTSHが最も緩いという順番です。これは実務上、非常に重要な違いをもたらします。
CCは「類(上2桁)」の変更を要求するため、使用できる非原産材料が大幅に制限されます。たとえば第20類のジャム(2007)をCCルールで原産品とする場合、第20類の材料(フルーツピューレなど)は一切使えません。一方CTHなら同じ20類内でも項(4桁)が変われば使用可能です。CTSHはさらに緩く、号(6桁)が変わればOKです。
厳しさの違いを羊毛の例で見ると理解しやすいです。
- CC適用の場合:羊(第1類)から羊毛(第5類)への変更→CC達成✅
- CTH適用の場合:羊毛糸(5106)からニット生地(6001)→同じ50類内でも4桁変更でCTH達成✅
- CTSH適用の場合:バジル種(0910.50)からバジル乾燥品(0910.91)→6桁変更でCTSH達成✅
実務上はCTHかCTSHのケースが大半を占めます。CCが品目別規則(PSR)に指定されている品目は、要求水準が高い分だけ、使用できる材料の調達先に慎重な注意が必要です。
つまり、CCは基準として存在するものの、日常的な輸出入実務で出会う頻度はCTHより低いということです。
一方で、CCが課されている品目でCCを満たせた場合のメリットは大きく、特恵関税適用による関税ゼロの恩恵を確実に享受できます。たとえばベトナムへの食品輸出で関税が5〜15%から0%になるような場面では、CC基準をクリアできるかどうかが輸出コストを大きく左右します。
CC・CTH・CTSHの記号の意味の詳しい解説については、以下が参考になります。
関税分類変更基準の記号(CC・CTH・CTSH)の意味・徹底解説
https://hero-gensanchi.com/cccthcths.html
ここが最も重要なポイントです。HSコードが変わっただけで関税分類変更基準をクリアできると思い込んでいる担当者は少なくありませんが、実際には2つの大きな「罠」があります。
罠①:除外規定(except from〜)の見落とし
品目別規則(PSR)の本文には「except from〜(〜からの変更を除く)」という除外規定が付いている場合があります。たとえば日米貿易協定における溶接機械(HSコード:85153100)の品目別規則には、次のような記載があります。
CTSH, except from subheadings 8515.11 through 8515.80
これは、上6桁(号)が変わっていても、8515.11〜8515.80の非原産材料を使用していれば原産性が認められないという意味です。除外規定は条文の後半に書かれていることが多く、見落とすと誤判定になります。除外規定まで読み込むことが原則です。
罠②:「軽微で単純な作業」によるHSコード変更は認められない
HSコードが変わっていても、その変更が「軽微で単純な作業」によるものである場合、原産資格は与えられません。各EPAでは以下のような作業が「軽微」と定められています。
- 🚫 単なる包装・瓶詰め・ラベル貼り作業
- 🚫 輸送・保存のための乾燥・冷凍・塩水漬け等
- 🚫 改装・仕分け・分解・単純な組み合わせ
- 🚫 商品へのシール・マーク貼り付け
- 🚫 幅や長さを変える単純な切断のみ
たとえば、医薬品(第30.03項)を袋詰めにして小売用(第30.04項)にするだけでHSコードが変わりますが、これは袋詰めという「軽微な作業」に過ぎないとして原産性は認められません。同様に、幅60cm以上の鉄鋼フラットロール(7210)を切断して幅60cm未満(7212)にしただけでもHSコードが変わりますが、単純切断なので実質的変更とは見なされません。
これは痛いですね。
日本関税協会の原産地規則コンメンタールで、実質的変更基準の詳細な考え方が説明されています。
EPA原産地規則の概要【基本編】(日本関税協会)
https://www.kanzei.or.jp/wp-content/uploads/2025/08/2025071516_gensanchikihon.pdf
CC基準を満たせない場合でも、すぐに諦める必要はありません。実務上、3つの救済ルートがあります。
救済ルート①:デミニマス(僅少)ルール
関税分類変更基準を満たさない非原産材料であっても、その価額が産品の価額(通常はFOB価格)の10%以下(協定によって閾値は異なります)であれば、その材料を無視して原産品とみなしてよいというルールです。ただし、農産品についてはデミニマス規定が設けられていない協定が多く、食品メーカーは特に注意が必要です。
デミニマスルールは関税分類変更基準にのみ使える救済規定です。
救済ルート②:累積(モノの累積)
輸出国以外で作られた材料であっても、同じEPA締約国の原産材料であればそれを輸出国の原産材料として使用できるルールです。たとえば日EUEPAで日本から製品を輸出する場合、EU加盟国であるイタリアの原産材料は日本の原産材料として扱えます。累積はCTC基準にも付加価値基準にも使える、非常に使い勝手の良い救済手段です。
救済ルート③:付加価値基準(RVC)への切り替え
品目別規則に「CCまたはRVC40%以上」のように選択肢が設けられている場合、付加価値基準(Regional Value Content)に切り替えることができます。製品のFOB価格に占める域内付加価値の割合が40%以上(協定によって異なります)であれば原産品と認められます。
ただしCTCと付加価値基準を比べると、CTCのほうが価格変動の影響を受けない安定的な判定が可能です。付加価値基準は製品の販売価格や材料コストが変動するたびに再計算が必要になるため、コスト管理コストが増えます。CTCで原産性を確認できるなら、CTCを優先して活用するのが基本です。
付加価値基準との使い分けや、デミニマスルールの実務的な利用方法については以下が参考になります。
FTA-1ポイント:関税分類変更基準(CTCルール)とは(SK Advisory)
https://skadvisory.jp/ftacustoms/fta/関税分類変更基準(ctcルール)/
ベテラン担当者でも見落としがちな盲点がHSコードの「年次版(バージョン)」の違いです。世界税関機構(WCO)はHSコードを約5年ごとに改訂しており、現在の最新版はHS2022です。ところが、各EPAで品目別規則(PSR)の基準として使用しているHSコードのバージョンは、協定締結時のものに固定されています。
これが実務の現場で非常に厄介な問題を引き起こします。
たとえば、同じ製品でも以下のように全く異なるHSバージョンが適用されます。
| 協定名 | 適用HSバージョン | 注意ポイント |
|--------|-----------------|-------------|
| RCEP | HS2022 | 2023年1月1日にHS2022版へ移行済み |
| CPTPP | HS2012 | HS2022との読み替え対照表での確認が必須 |
| 日EU・日英 | HS2017 | 協定付属書でHS2017使用が明記 |
| 日ASEAN・日タイ | HS2017 | 2023年3月以降HS2017に更新済み |
| 日豪・日モンゴル | HS2012 | - |
| 日スイス・日ベトナム | HS2007 | 現在のHSから20年近く前のバージョン |
| 日シンガポール・日メキシコ | HS2002 | 約20年前のバージョン |
現在の日本の関税率表(HS2022)で判定して「CCを満たしている」と思っていても、協定の基準となるHS2002やHS2007では分類が全く異なり、CCを満たしていないという逆転現象が起きることがあります。これが原産地証明の検認(事後確認)で否認される最も典型的なパターンです。
CPTPPの場合はHS2012が基準なので、HS2022との読み替え対照表を参照する作業が不可欠です。HSコードのバージョンが異なると、品目別規則(PSR)の記載番号が「ズレ」ます。このズレを認識しないまま判定すると、原産性の誤判定に直結します。
つまり、協定を使う前にHSバージョンの確認が必須です。
税関の原産地ポータルを活用すれば、協定ごとの品目別規則を簡単に検索できます。実務では必ずこのポータルで最新の品目別規則と対応するHSバージョンを確認してから判定を行いましょう。
税関原産地ポータルサイト(品目別規則の検索)
https://www.customs.go.jp/roo/
また、複雑な判定ケースや初めて利用する協定では、税関への事前教示制度の活用が最も確実です。事前教示制度では原産地規則の解釈について税関に文書で照会でき、回答後3年間は輸入申告審査において尊重される効果があります。これは使えそうです。
税関のEPA原産地規則マニュアル(令和7年6月版)
https://www.customs.go.jp/roo/origin/epa.pdf
CC基準を満たしていることを証明するだけでは不十分で、後から問われたときに根拠書類をすぐに提出できる状態にしておく必要があります。EPA原産地規則の管理書類は通常5年間の保管義務があり、検認(事後調査)では以下の書類が求められます。
必須書類チェックリスト
- ✅ BOM(部品表・製造部品構成表):完成品の製造に使われた全材料とそのHSコードのリスト
- ✅ HS対比表:材料のHSコードと完成品のHSコードを比較し、CC変更が発生していることを示す表
- ✅ 製造工程表:どの工程でどのように加工・製造されたかを示す文書
- ✅ サプライヤー証明書:調達した材料が原産材料であることを仕入先から証明してもらう書類
- ✅ 仕入れ明細・インボイス等:非原産材料の購入証明
ここで多くの担当者が見落とすのが「サプライヤー証明書」の活用です。仕入れた材料が同じHSコード(たとえば完成品と同じ類)だったとしても、サプライヤーからその材料が「原産材料」であることを証明してもらえれば、関税分類変更基準の判定では非原産材料として扱う必要がなくなります。つまり「同じ類の材料でも、原産材料であればCC判定の対象外にできる」という点が見落とされがちです。
これが条件です。
さらに独自の管理術として有効なのが「グルーピング管理」という手法です。輸出品番・SKU数が多い企業で全品番に個別対応するのは現実的ではありません。似た構成の製品をカテゴリにまとめ、代表品番でHS対比表を作成・管理することで、管理工数を大幅に削減できます。
また、部品点数が膨大な製品(たとえば自動車部品)の場合には、材料一点ずつにHSコードを振るのではなく、「固まりとしての部分品」として合理的にグルーピングして管理することも認められています。ただしグルーピングの根拠を説明できる状態にしておくことが必須です。
CC基準を含む関税分類変更基準の証明書類の整備については、経済産業省の保存書類例示(P9参照)が非常に参考になります。
原産性を判断するための基本的考え方と整えるべき保存書類(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/boekikanri/download/gensanchi/roo_guideline_preservation.pdf
新任担当者向けのCTC完全ガイドも実務の全体像を把握するのに役立ちます。
初心者向け:EPAのCTC(関税分類変更基準)完全ガイド(global-scm.com)
https://global-scm.com/blog/?p=3010