通関業務で「農作物」を扱うとき、出荷前の段階なら関税分類が変わることがあります。
「農産品」という言葉は、WTO農業協定や関税法で使用される専門用語です。外務省が公開する「農業に関する協定」では、「基礎農産品」を「実行可能な限り最初の販売の段階に近い段階の産品」と定義しています。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page25_000403.html
通関実務では、この「農産品」は主に関税率表(HS分類)における分類対象として登場します。HSコード上で農産品は、原料品としての性格を持つ天然産品と、これを加工調製した二次製品に大別されるのが特徴です。
参考)https://www.customs.go.jp/ccl_search/info_search/foodstuffs/r_19_02_j.pdf
単に乾燥したもの、塩蔵、冷凍したものは一次産品に分類されます。加工度合いの判断が税率に直結するため、通関士は常に注意が必要です。
一方、「農産物」は「農業によって生産される物一般」を意味する幅広い概念です。この定義には、田畑で栽培される米や野菜だけでなく、肉・鶏卵・牛乳などの畜産物や、それらの加工品も含まれます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/2a61f95ec0cb6d4b99799ceae6ee157eefa0b1a9
対して「農作物」は、田んぼや畑で栽培される植物全般のことを指します。つまり、農作物が農産物に含まれる一部である、という包含関係です。
参考)農産物·食品の安全と品質の確保技術(第6回)—米の品質測定の…
農産物=農作物+畜産物+加工品、という構造ですね。
通関実務では、この区別が申告書類の品名記載に影響します。農産物直売所から輸出する場合でも、HSコード分類では農作物と畜産物で章が異なるため、正確な区別が求められるのです。
<参考リンク:農林水産省>
農産物の輸入に関する資料では、ウルグァイ・ラウンド合意で関税化された農産品の詳細が説明されています。
農産物の輸入に関する資料(農林水産省)
日本の農産物関税には大きな特徴があります。全品目のうち関税がゼロの品目は24%、0%を超え20%以下の品目は48%と、合わせて72%が関税20%以下です。
参考)農産物の関税
しかし、一部の品目には極端に高い関税が設定されています。コメは778%、コンニャクは1706%という高率です。
これは、ウルグァイ・ラウンド交渉時に、数量制限品目を関税化した結果です。当時数量制限の対象だったコメなどは大幅に高い関税となり、規制対象でなかった野菜などは低いままという二極化が生まれました。
通関業務では、この税率の差が申告額に大きく影響します。品目判定を誤ると、想定外の関税負担が発生するリスクがあるため、事前教示制度の活用が有効です。
農産物を輸出入する際は、「検疫」と「通関」という2つの手続きが必須です。検疫は、国外からの病原菌や害虫の侵入を防ぐために行われる検査で、輸出前に国内検疫、到着後に輸入国検疫が実施されます。
参考)農産物は個人で輸出できる?やり方、リスク、税金等は? - 農…
国内検疫で合格すると合格証明書が発行されますが、輸入国検疫で不合格になった場合は、積荷は廃棄または返送されるのです。これは輸出者にとって大きな経済的損失になります。
通関では、税関申告書と手数料が必要となります。相手国に到着した際には関税が発生しますが、これは輸入者が支払う税金であり、輸出者に発生するものではありません。
通関実務で注意すべきなのが、輸出国と輸入国でHSコードの解釈が異なるケースです。同じ商品でも、輸入国側での解釈の相違により、結果として高い関税率が適用される事例があります。
参考)同じ物品なのに分類が違う?輸出と輸入で起きる現実と対処法|東…
興味深い例として、小麦とライ麦のハイブリッドであるライ小麦の分類があります。HSでは小麦は第10.01項、ライ麦は第10.02項に分類されますが、ライ小麦はHS委員会の検討の結果、第10.08項の「その他の穀物」に分類され、第1008.60号に特掲されることになりました。
このようなトラブルを防ぐために有効なのが、輸入国税関への事前照会制度です。輸出先の貨物の輸入者に対して、この制度の利用を依頼することで、分類の相違による関税リスクを回避できます。
原産地証明書の作成前に、輸入国税関に商品のHS分類を事前確認するのが基本です。