「RVCは常に40%以上あれば大丈夫」と信じたまま計算したせいで、追徴課税が発生します。
付加価値基準(VA:Value Added)とは、ある産品を生産した国でどれだけの価値が付加されたかを価格で数値化し、その割合が協定ごとに定められた一定の水準を超えた場合に「その国の原産品」と認める規則です。FTA・EPAの原産地証明を行う際、関税分類変更基準(CTC)と並んで最もよく使われる基準のひとつです。
まず押さえておくべきなのが、付加価値基準を表す記号は協定によって異なるという点です。代表的なものを整理すると、以下のとおりです。
| 記号 | 正式名称 | 主な採用協定 |
|---|---|---|
| RVC | Regional Value Content(域内原産割合) | 日メキシコEPA・AJCEP・CPTPP・RCEP・日EU EPA・日英EPAなど |
| LVC | Local Value Content(原産資格割合) | 日ベトナムEPA |
| QVC | Qualifying Value Content(原産資格割合) | 日インドCEPA・日モンゴルEPAなど |
| VNM | Value of Non-originating Materials | 日スイスEPA・日米貿易協定 |
| MaxNOM | Maximum value of non-originating materials | 日EU EPA・日英EPA |
RVC・LVC・QVCはいずれも「付加価値が〇〇%以上であること」を求める指標です。つまり、原産性のある部分の割合が条件を上回れば原産品と認定されます。
一方、VNMやMaxNOMは逆の発想で「非原産材料の割合が〇〇%以下であること」を確認します。これが条件です。計算の向きが反対であることに注意が必要です。
さらに重要なのが閾値(しきい値)の違いです。よく「RVC40%が原則」と思われがちですが、これは主にRCEPやAJCEPなど一部の協定の話です。CPTPPでは自動車関連品目に45〜60%が要求されるケースがあり、日チリEPAでは計算方式によって異なるしきい値が設定されています。品目別規則(PSR)を必ず確認することが原則です。
記号が違っても計算の本質は同じです。
経済産業省「よくある質問(Q&A)」:付加価値基準(VAルール)の基本的な考え方を官公庁の視点で解説しています。
控除方式(Build-Down)は、もっとも広く採用されている計算方式です。日スイスEPAおよび日米貿易協定を除くほぼすべての協定で使われており、RVC・LVC・QVCのいずれでも基本的にこの式が適用されます。
計算式は次のとおりです。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 産品の価額 | 原則としてFOB価格(本船積み込みまでの費用合計) |
| VNM(非原産材料価額) | 原則としてCIF価格(輸入港着までの費用合計) |
RVC(控除方式)=(産品の価額 − VNM)÷ 産品の価額 × 100
たとえばFOB価格が100,000円、使用した非原産材料のCIF合計が55,000円の場合、計算は次のようになります。
(100,000 − 55,000)÷ 100,000 × 100 = 45%
RCEP協定の一般的なしきい値はRVC40%なので、この例では45% ≥ 40%となり、原産品と認定されます。
この方式が実務でよく選ばれる理由は、証明すべき情報が少なくて済むからです。積上方式では原産材料ひとつひとつの原産性と価格を証明しなければなりませんが、控除方式では非原産材料のCIF価格さえ押さえれば計算できます。これは使えそうです。
FOB価格が不明な場合は、買手から生産者への確認可能な最初の支払に係る価額に調整された価額を代用できます。また、CIF価格が不明な場合も当該非原産材料について締約国における確認可能な最初の支払に係る価額を用いることが認められています。控除方式が原則です。
なお、計算で用いる原価は実際原価が原則ですが、「部品の種類が膨大」「原材料価格の変動が大きい」といった事情がある場合は、会社が採用する会計基準に基づく標準原価や予定原価を使用することも認められています。ただしその場合は、定期的に実際原価との差異を確認し、しきい値を常に超えていることを検証し続けることが条件となります。定期確認は必須です。
HERO行政書士事務所「付加価値基準の計算方法徹底解説!」:FOB・CIFの定義から計算式まで図解で詳しく説明されており、初学者にも理解しやすい内容です。
積上方式(Build-Up)は、産品の生産に使用された原産材料の価額や国内コスト(労務費・経費・利益など)を積み上げて、付加価値割合を求める方式です。控除方式と反対方向から計算するイメージです。
積上方式にはタイプが2種類あります。
タイプ1(日チリEPA・CPTPP):原産材料の価額のみを積み上げ、FOB価格に対する割合を算出します。
タイプ2(RCEP・多くのEPA):原産材料費に加え、直接労務費・直接間接費・利益なども合算して積み上げます。
どちらを使うかは協定と品目ごとに決まりますが、同一品目に複数の計算方式が認められているケースでは、どちらが有利かを事前に計算してみることが非常に重要です。
具体例で見てみましょう。日チリEPAの場合、同じ品目でも「控除方式 ≥ 45%」または「積上方式 ≥ 30%」のどちらかを選べる規定があります。ここで、取引価格1,000ドル・非原産材料560ドル・原産材料330ドルの製品があったとします。
- 控除方式:(1,000 − 560)÷ 1,000 × 100 = 44% → 45%未満で基準未達
- 積上方式:330 ÷ 1,000 × 100 = 33% → 30%以上で基準達成
同じ製品でも計算方式を変えるだけで、原産品と認められるかどうかが逆転するわけです。意外ですね。控除方式だけで判断してしまうと、EPA特恵関税を使える機会を失うことになります。これは損です。
ただし積上方式の難点は証明の手間が多いことです。原産材料のひとつひとつについて原産性の根拠書類を用意し、価格も証明しなければなりません。特にサプライチェーンが複雑な製品では、仕入先から「サプライヤー証明書」を取得する作業が発生します。
結論は、まず控除方式を試算し、しきい値を下回る場合に積上方式を検討するのが効率的です。
TariffLabo「付加価値基準による原産性の証明方法とワークシート」:ワークシートの作成手順と控除方式・積上方式の選択基準が実務目線でわかりやすく解説されています。
日EU EPAおよび日英EPAでは、前述のRVC(控除方式)とは異なる「MaxNOM方式」が主流です。MaxNOM(Maximum value of non-originating materials)とは、非原産材料の価額の割合がX%以下であれば原産品と認める、という逆算型の基準です。
そしてMaxNOM方式で特に注意が必要なのが、計算の価格基礎がEXW(工場渡し価格)である点です。FOBではありません。EXWは工場から出荷する時点の価格であり、港までの国内輸送費や保険料は含まれません。FOBよりも低い金額になるのが一般的です。
MaxNOM計算式:VNM ÷ EXW × 100 ≤ しきい値
日EU EPAの多くの品目では「MaxNOM ≤ 50%(EXW)または RVC ≥ 55%(FOB)」の選択制が設けられています。たとえばEXW価格が10,000ユーロ・非原産材料が4,700ユーロの場合は次のようになります。
4,700 ÷ 10,000 × 100 = 47% → 50%以下なので原産品と認定
ここで「EXWとFOBを逆に使ってしまう」ミスが実務でよく発生します。EXWでの計算がMaxNOMの前提なのに、FOBで計算してしまうと、分母が大きくなるため非原産材料の割合が低く見えすぎてしまい、逆に「基準を余裕でクリアしている」と誤認するケースがあります。価額基礎の混同は厳禁です。
また日EU EPAでは、同一品目に「MaxNOM(EXW基準)」と「RVC(FOB基準)」の両方が記載されており選択できます。どちらか一方を満たせば原産品として認定されます。品目によって有利な方を選ぶのが実務上の正しいアプローチです。
さらに、日EU EPAは原産地証明の記録書類の保存期間が4年間と規定されています。RCEPは3年間です。保存期間が協定によって異なることも意外と見落とされがちです。保存期間は必須の確認事項です。
JETRO「付加価値基準による原産資格割合の計算方法」(PDF):JETROが提供する実務向け資料で、計算例とワークシートが豊富に掲載されています。
付加価値基準の計算で見落とされがちな重要な制度が「累積(Accumulation)」です。累積とは、FTA・EPAの締約国である他国で生産された原産材料を自国の原産材料と見なしてよいという仕組みです。積上方式での計算時に、他の締約国からの原産材料のコストを国内原産材料として加算できるため、RVCの値が大きく向上するケースがあります。
たとえばRCEP協定を利用して日本からベトナム向けに輸出する際、使用した材料の一部がRCEP加盟国であるタイの原産品であれば、その材料を「日本の原産材料」として積み上げることができます。これによりRVCが40%のしきい値を超えやすくなる可能性があります。
ただし累積制度の適用には条件があります。対象となる締約国の範囲、必要な証明書の様式、記載事項など、協定によって細かく異なります。「累積が使えると聞いたからとりあえず使った」という運用は危険です。事後の検認(検証)で指摘を受けた場合、原産性全体が否認されるリスクがあります。
実務上よくある落とし穴をまとめると、次のとおりです。
これらのミスは、いずれも特恵関税の否認・追徴課税という金銭的損失に直結します。痛いですね。
対策として有効なのが、協定ごとに専用の計算テンプレートを用意することです。計算式・価格基礎(FOB or EXW)・しきい値・保存期間をひとつのシートにまとめ、担当者が変わっても同じ運用ができる体制を整えることが重要です。また、原価変動が大きい製品については、年に1回以上の定期的な再計算をスケジュールに組み込むことを推奨します。
自社内での管理が難しい場合、FTA・EPA専門の行政書士や通関士に相談するのも選択肢のひとつです。原産地証明の専門家への相談は「ひとつの窓口に連絡する」だけで足り、費用以上のリスク回避につながることがあります。
ロジスティック「FTA/EPA原産地証明で日本企業が陥りやすい5つのポイント」:原産地証明の実務で頻出するミスとその対策が、協定別・ケース別に整理されている参考ページです。
多くの担当者は付加価値基準の計算を「1回計算してOKかNGかを確認する作業」と捉えています。しかし本来は、複数の計算方式を試算して最も有利な方法を選ぶ「最適化プロセス」として取り組むべきものです。
この視点を持つだけで、関税の節約額は大きく変わります。
たとえばCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では、品目によっては「控除方式・積上方式・純費用方式(Net Cost)・Focused Value方式」の4種類から選択できる場合があります。自動車関連の部品ではこの選択の違いが、1品番あたりの輸入関税コストに直接影響します。年間輸入量が多い品目であれば、最適な方式の選択によって数十万円規模の差が生まれることもあります。
実際、日チリEPAの計算例(前述のとおり)でも、控除方式と積上方式を両方計算したことで、基準未達品が原産品に「化けた」ケースがあります。これは例外ではなく、よくある話です。
ワークシートを活用する際に推奨する試算の流れは次のとおりです。
ステップ5の「証明書類が最も簡単」という観点は、実務では特に重要です。たとえば積上方式でRVC35%を達成できても、サプライヤーが多国籍でサプライヤー証明書の収集に3週間かかるなら、控除方式でRVC40%をぎりぎりクリアする方が現実的な選択です。方式の有利不利は計算上の数字だけで決まりません。
また、原価が変動しやすい製品(例:半導体や金属材料を多用する機械部品など)は、試算を半期ごとに更新することが安全です。為替レートや材料価格が10%変動するだけでRVCが数パーセント動き、気づかずに基準割れしていたというケースが実務では起きています。定期的な再計算が原則です。
なお、経済産業省はFTA・EPAの原産地証明をサポートするワークシートのひな形や手続きガイドを公開しています。自社の計算フォームを整備する前の参考として確認しておくことをおすすめします。
税関「EPA原産地規則マニュアル」(PDF):付加価値基準を含む原産地規則全体の基礎を税関が解説した公式資料です。計算方式の概念整理に最適です。