二国間協議の結果が変わっても、原産地証明書の内容は自動更新されません。
二国間協議とは、2つの国が直接向き合い、貿易・外交・安全保障などの問題について取り決めを交わす交渉プロセスのことです。 多国間協定がWTOやRCEPのように多数国を巻き込むのに対し、二国間協議は相手国1か国との個別交渉に特化しているため、交渉スピードが速く、自国の産業構造に合った条件を引き出しやすい点が大きな違いです。konoike+1
通関業務の文脈では、「二国間協議の結果 = 関税率・原産地規則・輸出入手続きが変わるタイミング」として直接影響します。これが基本です。
例えば、日本とアメリカの二国間貿易交渉(日米貿易協定)では、牛肉・豚肉などの農産品の関税引き下げや、産業機械・化学品などの工業製品への関税撤廃が合意されています。 協議結果が変わるたびに、輸入申告時に適用すべき税率が変わるため、通関担当者はその都度最新の税率表を確認しなければなりません。
参考)https://www.konoike.net/solution/detail/20260207141716.html
また、財務省は「主要な国際会議・二国間協議」として、G7財務大臣会合やASEAN+3などのほか、二国間財務大臣会談等も公式に整理・公表しています。 通関業従事者にとって、これらの協議動向をウォッチすることは業務の精度を高めるうえで欠かせません。
| 比較項目 | 二国間協議・協定 | 多国間協定(WTO・RCEPなど) |
|---|---|---|
| 交渉相手 | 1か国のみ | 複数国・地域 |
| 交渉スピード | 速い(機動的) | 遅い(利害調整が複雑) |
| 関税条件の柔軟性 | 高い(個別に調整可能) | 低い(全加盟国に同一ルール) |
| 通関への影響範囲 | 特定国向け輸出入に限定 | 広範囲の輸出入に影響 |
| 代表例 | 日米貿易協定、日・シンガポールEPA | RCEP、CPTPP、WTO協定 |
二国間協議の成果が協定として発効すると、関税率の適用順位が変わる可能性があります。日本の関税率は「①EPA税率 → ②特恵税率 → ③暫定税率 → ④協定税率(WTO) → ⑤基本税率」の順に優先されます。 二国間のEPAが新たに発効・改定されると、EPA税率が新たに適用候補に加わるか、既存の税率が引き下げられます。
参考)関税率の適用順位について |貿易コラム|株式会社HPS CO…
つまり、協議結果を見逃すと損をします。
具体的に見てみましょう。インドネシアからある輸入品を仕入れる場合、日インドネシアEPAの適用条件(原産地証明書の取得・受理)を満たせば「無税」になるケースがあります。 しかし、この条件を知らなかった担当者が暫定税率7.4%を適用してしまった事例も実際に起きています。関税コストが0円になるはずが、輸入額の7.4%分がそのまま損失になるということです。
マレーシアから特定の靴を輸入する場合も同様です。協定税率では「30%または4,300円/足のいずれか高い方」が課されますが、日マレーシアEPAを正しく使えば「無税」となります。 この差は1足あたり数千円、コンテナ1本分となれば数百万円単位の差になります。痛いですね。
二国間協議の結果を早期にキャッチするための実務手順として、以下を参考にしてください。
二国間協議の発効情報は、官報告示・省令改正として公布されます。ただし、施行日(法令上の効力発生)と適用開始日(税関での実際の運用開始)がずれるケースがあります。 施行日だけで判断すると申告誤りになる場合もあるため、税関の公式告示を個別に確認するのが原則です。
参考)https://www.customs.go.jp/shiryo/kanzei_shikumi.htm
参考:関税率の適用順位についての詳細は税関公式サイトでも確認できます。
税関「税率決定までの流れ」 - 関税率の優先順位を図解で確認できます
「二国間協議」と「EPA(経済連携協定)」「FTA(自由貿易協定)」は混同されやすい言葉です。整理が必要ですね。
二国間協議はあくまで「交渉プロセス」であり、その結果として締結されるのが二国間の「FTA」や「EPA」という協定です。 つまり、通関申告で直接使うのはEPA税率であり、二国間協議はその前段階の交渉の場を指します。
参考)二国間貿易協定と多国間貿易協定の差 - 事業 2026
FTAは関税や輸入規制の削減・撤廃に特化した協定です。 一方、EPAはFTAの内容に加えて、知的財産権の保護・投資ルール・人の移動・競争政策まで広範囲をカバーします。日本はFTAよりもEPAを積極的に推進しており、2025年12月時点で20以上の協定が発効・署名済みとなっています。
通関業務における実務上の分類はこのように整理できます。
EPA税率の適用には原産地証明書の取得と税関への提出が必須条件です。 協定が発効しても、この証明書なしには優遇税率は一切適用されません。二国間協議の結果がいくら有利であっても、書類が整っていなければ恩恵を受けられないということです。
参考)相互関税で企業がとるべき対策は?影響・メリット・デメリットも…
2025年〜2026年にかけて、日米間の二国間協議は通関業務に直接影響する大きな動きが続いています。これは見逃せません。
2025年7月の日米合意では、日本製の医薬品・半導体・半導体製造装置・航空機部品に対するアメリカの関税措置の方針が共同声明に明記されました。 同年9月には了解覚書への署名が行われ、日本が米国産品の購入を数十億ドル規模で拡大する代わりに、アメリカが日本製工業品への市場アクセスを改善するという枠組みが正式に動き出しています。
参考)日米政府、通商合意の共同声明発表、日本製医薬品・半導体に対す…
2025年4月にはアメリカが日本に対して24%の相互関税を設定しましたが、同年8月に15%への引き下げ合意に至りました。 この変化は、日本からアメリカへの輸出申告において適用税率が1か月以内に変動するという異例の事態をもたらしました。通関業従事者としては、協議の進展を週単位でウォッチする必要が生じています。
また、関税回避対策・投資規制・輸出管理の分野での日米協力も強化されており、特定国向けの輸出に制限が加わるケースも想定されます。 輸出管理規制への対応は、通関申告の前段階から確認が必要です。
この一連の流れが示すのは、「二国間協議の結果は数ヶ月単位で変わる」という現実です。 一度設定した通関システムの税率設定を放置することは、コンプライアンス上のリスクにもつながります。税関の最新告示と輸出先国の関税スケジュールを定期的に照合する運用体制を整えることが重要です。
参考:日米関税合意と対米投資に関する覚書の詳細はこちら
JETRO「日米政府、通商合意の共同声明発表」 - 医薬品・半導体への関税方針の詳細を確認できます
二国間協議の結果として関税率が下がっても、原産地規則が変わると「今まで使えていたEPA税率が突然使えなくなる」ことがあります。これが現場レベルの最大の盲点です。
原産地規則とは、ある商品がどの国で「生産された」と認められるかを定めたルールです。 二国間協議の中で原産地規則の内容が見直されることがあり、従来は「日本原産」と認定されていた製品が新ルール下では認定されなくなるケースが実際に起きます。
参考)https://www.customs.go.jp/roo/origin/epa.pdf
累積原産地規則(AJCEPなど)を利用していた場合は特に注意が必要です。 例えば、日本の部品をタイで加工してASEAN向けに輸出する場合、ASEAN原産性が認められてきたケースでも、二国間協議で累積ルールの対象国や加工基準が変わると、一夜にして特恵税率が適用外になる可能性があります。
対策として有効なのは、協定発効・改定のたびに「自社が扱う品目のHSコード × 輸出入相手国 × 原産地規則」を再確認する習慣を持つことです。 JETROが提供している「原産地規則ポータル」では品目別・協定別に検索できるため、変更点の確認コストを大幅に下げることができます。これは使えそうです。
また、原産地証明書の有効期限が切れたまま古い協定の税率を申告してしまうケースは、税関調査での指摘事項として頻出します。 1件の申告誤りが遡及追徴や延滞税につながるリスクがあるため、書類管理の仕組みを整えておくことが重要です。書類管理が条件です。
参考:原産地規則の品目別確認には税関公式マニュアルが役立ちます
税関「EPA原産地規則マニュアル」 - 品目別・協定別の原産地規則を詳細に確認できます(PDF)