日本から韓国向け輸出の約43%は未だにドル建てで処理されている。
貿易取引において「決済通貨」とは、輸出入の代金をどの国の通貨で支払うかを定めた契約上の通貨のことを指します。インボイス(仕入書)に記載されるため「インボイス通貨」や「建値通貨」とも呼ばれます。この通貨の選択は、単なる支払い手段の話ではありません。
課税価格の計算、関税額、そして為替リスクの帰属先まで決定づける、通関実務の根幹にかかわる問題です。
日本と韓国の貿易において決済通貨の選択肢は主に3つ、すなわち日本円(JPY)、米ドル(USD)、韓国ウォン(KRW)です。それぞれに特性が異なり、どれを選ぶかによって実務上の影響が大きく変わります。
韓国は日本にとって中国・アメリカに次ぐ第3位前後の貿易相手国です。地理的に近く、電子部品・化学品・自動車部品など中間財の貿易が多いのが特徴で、その分インボイス通貨の選択がサプライチェーン全体の収益管理にも影響します。
通関業従事者として押さえておきたいのは、「決済通貨=申告通貨」ではないという点です。たとえインボイスが韓国ウォン建てであっても、日本の税関への輸入申告書の記載は日本円(邦貨)に換算した金額になります。その換算ルールを正確に理解していないと、課税価格の計算を誤るリスクがあります。これが基本です。
| 決済通貨 | 為替リスク帰属 | ヘッジ手段 | 通関換算 |
|---|---|---|---|
| 日本円(JPY) | 相手先(韓国側) | 不要(日本側) | 記載額そのまま |
| 米ドル(USD) | 日本側または双方 | 為替予約・外貨預金 | 公示レートで換算 |
| 韓国ウォン(KRW) | 日本側 | ⚠️ 規制あり・限定的 | 公示レートで換算 |
「韓国との貿易はドル建てが主流」という印象を持っている通関業従事者は少なくありません。しかし実際のデータは少し違います。
財務省・税関が公表している「貿易取引通貨別比率(令和5年上半期)」の国別データによると、日本から韓国への輸出インボイス通貨は、円建て50.0%・ドル建て43.0%・韓国ウォン建て6.7%という三極構造になっています。円建てが最大であることが意外に思われるかもしれませんが、これが財務省の公式データによる実態です。
一方、日本の韓国からの輸入については円建て49.9%・ドル建て45.4%・韓国ウォン建て4.5%となっており、輸出入ともに円建てとドル建てがほぼ拮抗しています。この構造は、日本と韓国が製造業のサプライチェーンで緊密につながっているため、企業内取引でドルに統一しているケースと、中小規模の直接取引で円建てが採用されているケースが混在していることを反映しています。
つまり「韓国向けはドル建て一択」という先入観のまま申告書類を確認すると、円建てインボイスが混入しているにもかかわらずドル建てとして処理するミスが起きる危険があります。
通関業従事者にとって重要なのは、インボイスに記載された通貨コード(USD・JPY・KRWなど)を必ず確認する習慣を持つことです。
貿易取引通貨別比率の一次資料については、財務省・税関のホームページで確認できます。
以下の参考リンクでは、国別インボイス通貨シェアの最新データを確認できます。通関業務における通貨確認の根拠資料として活用してください。
輸入申告における課税価格は、関税定率法第4条の規定に基づき「CIF価格(運賃保険料込み価格)」を原則として計算されます。問題はインボイスが外貨建ての場合です。その場合、必ず邦貨(日本円)に換算してから申告しなければなりません。
換算に用いるレートは申告日当日の市場レートではありません。これが実務上の重要ポイントです。
関税定率法第4条の7および施行規則第1条の規定により、「輸入申告の日の属する週の前々週における実勢外国為替相場の当該週間の平均値に基づき税関長が公示する相場」が適用されます。つまり公示レートは週単位で固定されており、毎週火曜日ごろに翌週適用分が税関ホームページで公表されます。
これが何を意味するかというと、申告するタイミング(何週に申告するか)によって、同じインボイス価格でも課税価格が変わり、関税額が数万円〜数十万円以上変わる可能性があるということです。
たとえば、インボイス価格が100,000米ドルのCIF取引で、ある週の公示レートが1ドル=152円、翌週が147円だったとします。この差だけで課税価格に50万円の差が生じ、関税率8%の場合は4万円の税差、消費税まで含めれば約10万円超の影響が出ます。インボイス価格が100万ドルを超える大型案件なら、その差は数百万円規模になります。
韓国ウォン建てのインボイスでも換算ルールは同様です。税関ホームページでは韓国ウォンの公示レートも毎週公表されており、申告に使用するレートを事前に確認することができます。
インボイス通貨が韓国ウォンの場合、申告書作成前に必ず当該週の税関長公示レート(KRW/JPY)を確認してから課税価格を計算する手順を徹底してください。これが原則です。
以下のリンクでは、最新の税関長公示レート(全通貨対応)を毎週確認できます。
税関 Japan Customs|外国為替相場(課税価格の換算)−毎週更新
韓国ウォン建てで取引することは、取引相手への配慮や価格交渉の優位性という観点から選ばれるケースがあります。ただし、通関業従事者として輸出入者に情報を提供する立場から見た場合、韓国ウォン建てにはほかの通貨にはない特有のリスクが存在します。
重要な事実があります。韓国ウォンは、為替予約や外貨預金などのヘッジ手段が利用できない通貨規制通貨です。
一般的に、ドルや円などの主要通貨で建てた取引であれば、輸出者・輸入者ともに銀行を通じた為替予約(フォワード取引)によってレートを固定し、為替変動リスクをほぼゼロにすることができます。ところが韓国ウォンについては、日本の金融機関における為替予約や外貨預金の取り扱いが著しく限定されているため、この方法は使えません。
つまり韓国ウォン建てで取引する日本企業は、ウォン相場の変動リスクを丸ごと抱え込むことになります。痛いですね。
韓国ウォンは新興国通貨の特性を持ち、対円・対ドルレートが短期間に大きく動くことがあります。過去には通貨危機(1997年)や金融危機(2008年)の際に急落した実績もあり、ボラティリティ(変動幅)は主要通貨と比べてかなり大きいです。
たとえば、韓国ウォン建てで1,000万KRWのインボイスを受け取った場合、為替レートが1KRW=0.10円の時点と0.09円の時点では受取額に100万円もの差が出ます。ヘッジができないまま、この差を企業が全額負担しなければなりません。
そのためリスクが高い状況では、韓国ウォン建ての取引は避け、円建てかドル建てを選択するのが一般的です。どうしてもウォン建てが条件となる場合は、取引価格に為替変動相当分のバッファを上乗せするか、決済サイクルを極力短縮する工夫が必要になります。
以下の参考リンクでは、輸出入における決済通貨の選び方と為替リスク管理の考え方が詳しく解説されています。
りそなグループ|選び方で結果が変わる!輸出入決済通貨の重要性と選定ポイント
決済通貨の問題は輸出入の本船取引だけに限りません。通関業従事者がしばしば見落としがちな場面として、韓国の免税店取引やDDP(関税込み持込渡し)条件の取引があります。
まず韓国の免税店取引について整理しましょう。韓国の免税店では、輸入ブランド品の多くがドル建てで価格表示されています。支払い時に「ドル払い」か「円払い」かを選択できるケースがありますが、この選択が通関とも無縁ではありません。
知っておくべき重要な点があります。韓国の免税店で「円払い」を選択した場合、免税店側が独自に設定した円換算レートが適用される上に、3%の「国際換算マージン」が追加手数料として上乗せされます。
さらに免税店の円換算レートにはすでに約1%の手数料が含まれているため、実質的に合計4%前後の上乗せコストが発生します。これは読者が実際にやってしまいがちな選択ですが、10万円の購入なら約4,000円、100万円なら約4万円の余分なコストになります。
一方、「ドル払い」を選んだ場合はカード会社の換算レートと手数料(1〜2%程度)のみが適用されるため、圧倒的にドル払いのほうが有利です。この仕組みは1988年ごろから続く慣習で、現在も変わっていません。3%の特別手数料を支払っているのは円建て払いを選んだ日本人だけという実態があります。
次にDDP(Delivered Duty Paid)取引における注意点について説明します。DDP条件は、輸出者が輸入国(韓国側)の関税・通関費用を全て負担する取引条件です。この場合、インボイス上の価格に関税や通関費用が含まれているため、課税価格の算出において加算・控除要素の扱いが通常のFOB・CIF取引と大きく異なります。
DDPインボイスに記載された通貨と金額をそのまま課税価格として使用すると、関税額を二重計算してしまうリスクがあります。DDPの場合、インボイス価格から輸入国側の関税相当額を控除した金額がCIF相当額の基礎となるため、インボイス通貨の確認と同時に取引条件(インコタームズ)の確認が欠かせません。これが条件です。
通関実務の世界では、「申告タイミングを意図的に調整することで、公示レートの差を利用して関税額を節減できる」という視点が存在します。これは合法的な実務判断ですが、通貨選択と深く結びついており、決済通貨がドル建てか円建てかによって活用できる場面が大きく変わります。
円建てインボイスの場合、課税価格の換算は不要です。つまり申告タイミングによって関税額が変わることはありません。結論はシンプルです。
これに対してドル建て・ウォン建てのインボイスの場合、公示レートが週次で変動するため、申告タイミングを1週ずらすだけで課税価格(=関税計算の基礎)が増減します。
具体的な例を示します。インボイスCIF価格が500,000米ドルの輸入貨物について、関税率が5%のケースを考えましょう。
| 申告週 | 公示レート(1USD) | 課税価格 | 関税額(5%) |
|---|---|---|---|
| A週 | 152円 | 7,600万円 | 380万円 |
| B週(翌週) | 147円 | 7,350万円 | 367.5万円 |
| 差額 | 5円 | 250万円 | 12.5万円 |
たった1週間の差で関税だけで12.5万円の差が生じ、消費税も含めると総額で20万円超の節減になる可能性があります。これは使えそうです。
ただし、申告タイミングの調整には制約があります。輸入申告は原則として貨物が保税地域に搬入された後に行うものですが、本船一括申告(予備申告)を活用することで、一定の要件を満たせば貨物の保税地域搬入前からの申告が可能になります。ただし、保管料・デマレッジ・他法令対応など他のコスト要因とのバランスを取る必要があり、タイミング調整だけに集中するのは現実的ではありません。
また、韓国ウォン建てインボイスの場合、ウォン/円の公示レートも週次で変動するため同様の考え方が適用できます。ただし韓国ウォンは為替変動の幅がドルよりも大きく、タイミング差による課税価格の増減も大きくなりやすい点を念頭に置いてください。
この種の実務的な知識は通関士試験でも出題されるテーマです。以下の参考リンクでは、課税価格の換算と公示レートの仕組みを実務・試験両面から詳しく解説しています。
GTConsultant.net|輸入時の関税を低くする換算レートの選択(公示レートの仕組みを詳解)