従量税品の場合、輸入価格が下がっても関税額は1円も変わりません。
通関業務の現場において、「従価税」と「従量税」はどちらも関税を計算するための方式ですが、その計算の出発点がまったく異なります。この根本的な違いを押さえておかないと、申告書作成の段階でミスが生じ、後の修正申告や過少申告加算税につながりかねません。
従価税(じゅうかぜい)は、輸入貨物の「価格」を課税標準とする方式です。実行関税率表では「〜%」という形で税率が示されており、課税価格(原則としてCIF価格:商品代金+保険料+運賃の合計)にその税率を掛けて関税額を算出します。たとえば、衣類を課税価格100万円分輸入し、税率が10%であれば、関税額は100,000円となります。価格が変われば関税額も連動して変わるのが特徴です。
従量税(じゅうりょうぜい)は、輸入貨物の「数量」を課税標準とする方式です。実行関税率表では「〜円/kg」「〜円/L」「〜円/個」という単位で定額が示されており、その数量に定額を掛けて関税額を算出します。価格がいくら変動しても、重量や容積が同じであれば関税額は一定です。つまり原則です。
| 項目 | 従価税 | 従量税 |
|---|---|---|
| 課税標準 | 価格(CIF価格) | 数量(重量・容積・個数など) |
| 実行関税率表での表記 | 〜% | 〜円/kg、〜円/L など |
| 主な適用品目 | 衣類、機械、電子部品 など | 肉類、酒類、農産品 など |
| 価格変動の影響 | 価格が下がれば関税額も下がる | 価格変動の影響を受けない |
日本では従価税が最も一般的な課税方式です。実行関税率表に登録されている税率7,663件(令和7年4月現在、税関発表の基本税率数)のうち、大多数が従価税方式をとっています。従量税の適用品目は限られていますが、農産品・食料品・酒類など身近で輸入量の多い品目に集中しているため、通関業務での遭遇頻度は決して低くありません。
参考:従価税・従量税の課税標準の定義(税関公式・カスタムスアンサー)
税関 カスタムスアンサー「1104 関税の課税標準」
従価税の計算自体はシンプルです。しかし実務では「課税価格の算定」に落とし穴があります。これが重要なポイントです。
従価税の計算式は「課税価格 × 税率 = 関税額」ですが、ここでいう課税価格は「インボイス価格(商品代金)」そのものではありません。原則として、CIF価格、すなわち商品代金に保険料と運賃を加えた金額が課税価格の基準になります。インボイス価格だけを課税価格として申告してしまうと、保険料・運賃分が抜け落ち、過少申告になるリスクがあります。
税関の事後調査では、課税価格の算定誤りが指摘事例の多数を占めるとされており、関税申告において「現実支払価格に加算要素を足した額が課税価格である」という認識が必須です。発見された場合は修正申告と過少申告加算税の納付が求められます。
計算の具体例を確認しておきましょう。
- 商品代金(FOB):800,000円
- 保険料:5,000円
- 運賃:45,000円
- 課税価格(CIF):850,000円
- 税率:10%
- 関税額:850,000円 × 10% = 85,000円
この例で、もし商品代金だけの800,000円で申告した場合、関税額は80,000円となり、5,000円の過少申告が生じます。金額だけ見ると小さく見えますが、大量輸入や高額品では数十万円単位の差が生まれることもあります。痛いですね。
また、EPA(経済連携協定)の活用を検討する場合は、協定税率が適用されることで関税額が大幅に下がるケースがあります。たとえば日EU・EPA対象の特定繊維製品では、基本税率10%が0%〜5%に軽減されるケースがあり、同じ850,000円の輸入でも関税額の差が40,000円以上になることがあります。EPA活用時は原産地証明書の準備が条件なので、事前に確認する行動が一つで済みます。
参考:課税価格とCIF価格の関係(JETRO・輸入税額の計算方法)
JETRO「輸入税額の計算方法:日本」
従量税は「価格に関係なく、数量に定額をかける」という点でシンプルに見えます。しかし実務では、「何を単位とするのか」を正確に把握することが求められます。品目によって重量(kg)なのか、容積(L)なのか、個数なのかが異なり、実行関税率表の確認を怠ると誤申告のもとになります。
計算例として、ウィスキーの輸入を見てみましょう。
- 輸入量:500L
- 従量税率:800円/L(例)
- 関税額:500L × 800円 = 400,000円
この場合、ウィスキーの輸入価格が1本あたり1,500円であろうと3,000円であろうと、関税額は変わりません。つまり従量税が原則です。安く仕入れたからといって関税が安くなるわけではなく、輸入数量が増えれば増えるほど関税総額も比例して増加します。
ここで重要な実務的ポイントがあります。従量税は「価格の低い輸入品が安値で大量に入ってきても一定の関税を確保できる」という国内産業保護の観点から設計されている一方、輸入業者側にとっては「バーゲン品だからといってコストが下がらない」という性質を持ちます。輸入コスト試算の段階で従量税か従価税かを区別せずにいると、収支計画が大きく狂う場面があります。これは使えそうです。
また、農産品では品目ごとの単位も細かく分かれます。たとえば冷凍牛肉であれば「円/kg」、一定の魚介類では「円/kg」または「円/尾(個)」など、実行関税率表を品目番号(HSコード)レベルで確認することが不可欠です。
同じコーヒーでも、焙煎済みか否かで20%課税か無税かという極端な差があります。HSコード・品目番号の特定が通関業務の核心です。
参考:実行関税率表(税関公式・2025年4月1日版)
税関「輸入統計品目表(実行関税率表)2025年4月1日版」
「従価税か従量税か」の二択だけでなく、両方を組み合わせた「混合税」が存在することは、通関業従事者として必ず知っておくべき知識です。混合税には「選択税」と「複合税」の2種類があります。
選択税(従価・従量選択税)は、同一品目について従価税と従量税の両方が定められており、そのうち「税額の高い方(一部品目では低い方)」を適用する方式です。輸入品の課税価格が高い場合は従価税が、低い場合は従量税が適用されることになります。現在、毛織物・卵黄・魚油・鉛合金の塊などに適用されています。
| 課税価格の水準 | 適用される税 | 理由 |
|---|---|---|
| 高い場合 | 従価税(%) | 従価税の方が税額が大きくなるため |
| 低い場合 | 従量税(円/kg等) | 従量税の方が税額が大きくなるため |
選択税の目的は、輸入品の価格がどれだけ低くなっても一定以上の関税を確保することで、国内産業保護機能を維持することにあります。輸入品が大幅に値下がりしたとしても、従量税ベースでの税額が下限として機能するわけです。
複合税(従価・従量併用税)は、従価税と従量税の両方を「同時に」かける方式です。現在、一部の乳製品などに適用されています。従量税だけでは、価格が高くなるにつれて実質的な税負担率が低下するため、これを補完する目的で従価税をプラスしているという構造です。
選択税・複合税が適用される品目を申告する際に、従価税のみで計算してしまうと大きな申告漏れになる可能性があります。実行関税率表で「%」と「円/kg」が並列で記載されている品目を見かけたら、それが混合税の可能性を疑う、これが基本です。
参考:関税率の形態(税関・関税のしくみ)
税関「関税のしくみ」
従価税品か従量税品かを取り違えた、あるいは課税標準の算定を誤ったまま輸入申告をしてしまった場合、どのような事態が生じるのでしょうか。これが通関業従事者にとって最も実務的なリスクです。
関税法に基づき、申告に誤りがあった場合は「修正申告」が必要になります。自主的に修正申告を行った場合と、税関の調査通知を受けてから行った場合では、過少申告加算税の税率が異なります。
たとえば、本来納めるべき関税額が500万円のところ、従量税の計算ミスで300万円しか申告していなかったとします。税関調査で発覚した場合、200万円の追徴に加えて最大30万円(15%)の過少申告加算税が課せられることになります。これに延滞税(年14.6%、ただし納期限から2ヶ月以内は年7.3%)も加算されます。厳しいところですね。
課税方式の混合税(選択税・複合税)の見落としも、実務的には重大な申告誤りにつながります。品目によっては「従量税のみ」で計算すれば税額が低くなるケースもあり、意図せず過少申告となってしまうリスクがあります。
こうした申告ミスを防ぐためのプロセスとして有効なのが、「事前教示制度」の活用です。輸入前に税関に品目番号(HSコード)や適用税率について書面で照会でき、その回答に従って申告すれば、後から品目分類の誤りを指摘されるリスクを大幅に下げられます。品目に迷ったときはまず事前教示を申請する、この一行動で申告ミスのリスクは大幅に減らせます。
参考:過少申告加算税の計算と実務(JETRO)
JETRO「関税に付帯する税:日本」
「従量税は計算が簡単で分かりやすい」というのは正しい認識ですが、通関業従事者としてもう一歩深く考えておくべきことがあります。それは、従量税が輸入業者にとって「価格交渉の成果が関税コストに反映されない」という性質を持つという点です。
たとえば、1kgあたりの関税が38.5円に設定されている品目を1,000kg輸入する場合、関税額は38,500円です。仮に輸入業者が海外サプライヤーとの交渉で仕入れ価格を1kgあたり200円から150円に値下げできたとしても、この38,500円は変わりません。従価税であれば仕入れ価格の下落=関税コストの下落となりますが、従量税品ではそうなりません。
この構造は、国内産業保護という観点から意図的に設計されたものです。しかし輸入業者の立場から見ると、仕入れコストを下げる努力の恩恵が部分的にしか得られないことを意味します。特に農産品・食肉・酒類では輸入量が多いほどこの「固定コストのようにのしかかる従量税」の影響が大きくなります。
通関業従事者がこの知識を持っている場合、顧客となる輸入業者に対して「この品目の関税は従量税なので、仕入れ価格を下げても関税コストは変わりません。輸送ロットを最適化して単位輸送あたりの固定コストを抑えることがコスト管理の鍵です」という視点を提供できます。これは使えそうです。
さらに踏み込むと、EPA(経済連携協定)の活用も重要な視点になります。従量税品目でも、EPAによって従量税率そのものが段階的に引き下げられているケースがあります。たとえばTPP11(CPTPP)加盟国からの牛肉輸入では、従量税率が段階的に引き下げられており、2033年以降には大幅な削減が見込まれています。EPA税率の確認は、従価税品目だけでなく従量税品目でも必ず行う、これが原則です。
通関業従事者にとって、従価税と従量税の違いを「計算式の違い」としてだけ覚えるのではなく、「顧客の輸入コスト全体に影響する制度的な違い」として理解することで、より深い実務サポートが可能になります。関税知識が収益管理に直結します。
参考:税関の関税のしくみ全体(税関公式)
税関「関税のしくみ」(従価税・従量税・混合税・特殊関税を網羅)