FTA締結国でも最恵国待遇違反で制裁を受けることがあります。
関税および貿易に関する一般協定(GATT)は、1947年10月にジュネーブで23カ国が署名し、1948年1月に発効した国際協定です。第二次世界大戦後の国際経済を支える枠組みとして機能し、貿易面での自由化と関税障壁の撤廃を目指しました。通関業務従事者にとって、GATTは日常的に適用される貿易ルールの基礎となります。
参考)GATT - SANKYU-物流情報サービス(CISS)
この協定の基本理念は、関税障壁をなくし多角的な自由貿易を実現することです。具体的には、貿易制限措置の削減と無差別待遇の2つが柱です。日本は1955年7月29日に国会承認を経てGATTに加盟しました。
参考)関税と貿易に関する一般協定/GATT
1995年にはWTO(世界貿易機関)が設立され、GATTはWTO協定の一部として「1994年のGATT」に移行しました。つまり、現在の通関業務では1994年版が適用されます。WTO設立後も基本原則は変わらず、より広範な貿易分野をカバーするようになりました。
通関業務では、輸入品に対する関税率の決定や通関手続きの際にGATT原則を常に意識する必要があります。原則を理解していないと、誤った税率適用や手続きミスにつながるリスクがあります。
GATTには通関業務で必須となる3つの基本原則があります。これらは貿易の公平性を保つ土台です。
**最恵国待遇(MFN原則)**は第1条で規定され、ある国に与える最も有利な待遇を他のすべての加盟国にも与える義務です。例えば、A国からの特定商品に5%の関税を適用したら、他のWTO加盟国からの同種商品にも同じ5%を適用しなければなりません。表面上は差別していなくても、事実上特定国の産品が不利になる措置も違反となります。
参考)関税及び貿易に関する一般協定 - Wikipedia
**内国民待遇(NT原則)**は第3条で定められ、輸入品に対して国産品と同等以上の待遇を保証する原則です。関税以外の国内税や規制で輸入品を差別してはいけません。つまり、通関後の流通段階で輸入品だけに不利な規制を課すと違反です。
関税譲許は第2条に基づき、各国が約束した関税率(譲許表に記載)を超える関税を課してはならないルールです。譲許表には品目ごとに上限税率が記載されており、これを超えると協定違反になります。ただし、内国民待遇に整合的なアンチダンピング措置や相殺関税は譲許表の範囲を超えても認められます。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/pdf/g90527c2-0j.pdf
これら3原則が通関業務の基本フレームワークですね。違反すると国際的な紛争につながるため、実務では常に確認が必要です。
GATT原則には例外規定が存在し、通関業務で特定の状況に遭遇した際に適用されます。第20条の一般的例外と第21条の安全保障例外が代表的です。
参考)(6)一般的例外条項 GATT第20条【国際経済法】 - D…
第20条の一般的例外では、公衆道徳の保護、人・動植物の生命健康保護、金銀の輸出入など10項目が列挙されています。ただし、これらの措置が「恣意的または正当化できない差別」や「偽装された制限」にならないことが条件です。例えば、ブラジルが環境保護のために再生タイヤの輸入を禁止した事例では、第20条(b)号(人・動植物の生命健康保護)に基づく正当化が争われました。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/it/page1w_000137.html
第21条の安全保障例外は、国家安全保障に関わる措置を認める規定です。核物質や武器の取引、戦時の措置、国連憲章に基づく義務履行のための措置が該当します。近年、輸出管理や経済制裁の場面でこの条項が注目されています。
参考)国家安全保障を理由とした経済規制とWTOの安全保障例外 &#…
通関業務では、例外規定の適用可否を判断する場面があります。例えば、特定国からの輸入品に対して衛生上の理由で検査を強化する場合、第20条(b)号の適用が考えられます。しかし、単に検査を強化するだけでなく、その措置が差別的でないこと、科学的根拠があることなどを証明する必要があります。
例外規定は二段階テストで判断されます。まず措置が第20条の各号((a)~(j))のいずれかに該当するか確認し、次に前文(chapeau)の条件(恣意的差別や偽装制限でないこと)を満たすかチェックします。この判断プロセスを理解しておくことが実務上重要です。
EPAやFTAなどの地域貿易協定は、実は最恵国待遇の例外として認められています。GATT第24条により、一定の条件下で地域的な特恵制度を締結できます。
参考)RIETI - 日米貿易協定はWTO協定違反か?
地域貿易協定では、協定締約国間の貿易について通常のMFN税率よりも低い関税率を適用します。例えば、日本がEPAを締結した国からの産品には、WTO加盟国全体に適用するMFN税率よりも有利な税率が適用されます。これは形式的には最恵国待遇違反ですが、第24条の例外規定により正当化されます。
ただし例外として認められるには厳しい条件があります。域内の実質的にすべての貿易について関税その他の制限的通商規則を撤廃すること、域外国に対する障壁を引き上げないことなどが求められます。これらの条件を満たさないと、協定自体がGATT違反と判断されるリスクがあります。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2025/pdf/2025_02_01.pdf
通関実務では、EPA税率とMFN税率の使い分けが重要です。EPA税率を適用するには、原産地証明書の提出と原産地規則の充足が必須です。保税地域内での加工・生産でも、原産地規則を満たせば原産地証明書が発給されます。
GSP(一般特恵関税制度)との関係も注意が必要です。EPA締結国が一般特恵受益国の場合、EPA税率がGSP税率に取って代わることがほとんどです。ただしGSP税率がEPA税率より低い場合は、GSP税率が引き続き利用可能です。このような税率の選択肢を正確に把握することが、輸入者への適切なアドバイスにつながります。
GATT違反は国家間の貿易紛争に発展し、WTOの紛争解決手続きで審理されます。通関業務従事者が誤った助言をすると、企業が想定外の追加関税や制裁措置に直面する可能性があります。
参考)https://jurnal.untirta.ac.id/index.php/tirtayasatjil/article/download/21757/11365
最恵国待遇違反の事例として、カナダの自動車措置(DS139)があります。カナダは表面上は特定国を明示していませんでしたが、実際にはほぼ米国企業のみが利用可能な制度となっており、事実上の差別と判断されました。このように、形式的には中立でも実質的に特定国を優遇する措置は違反となります。
譲許表違反も深刻です。アルゼンチンのテキスタイル事件(DS256)やECの冷凍チキン事件(DS269)では、譲許表の解釈が争点となりました。譲許表に記載された品目分類や税率の解釈を誤ると、協定違反と認定されるリスクがあります。
参考)(2)譲許表 GATT 第2条【国際経済法】 - Danci…
通関業務では、輸入品のHS分類と適用税率の決定が日常業務です。この際、譲許表に記載された上限税率を超えていないか、同種産品間で不当な差別がないかを確認する必要があります。特に、コーヒー豆の品種によって異なる関税率を設定した事例では、「同種の産品」に該当するとして最恵国待遇違反と判断されました。
参考)https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/tsusho_boeki/fukosei_boeki/report_2019/pdf/2019_02_01.pdf
権威ある参考情報として、外務省のGATT条文ページが実務で役立ちます。
外務省:関税及び貿易に関する一般協定
また経済産業省のWTOルール解説資料も、具体的な事例とともに原則を理解するのに有用です。
経済産業省:WTOルールの概要
近年、安全保障を理由とした経済規制が増加し、GATT第21条の解釈が注目されています。2019年のロシア通過貨物事件では、初めてWTOパネルが第21条の実質的な審理を行いました。これまで加盟国の自己判断に委ねられていた安全保障例外に、一定の司法審査が及ぶことが確認されました。
参考)https://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto/3_dispute_settlement/32_wto_rules_and_compliance_report/322_past_columns/2019/2019-1.pdf
デュアルユース品目(民生・軍事両用品)の輸出管理も、通関業務で重要性を増しています。技術の軍事転用リスクが高まる中、各国が輸出規制を強化していますが、これが偽装された保護主義でないかが問われています。通関業務では、輸出品がデュアルユース品目に該当するか判断し、適切な許可を得る必要があります。
参考)https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/071590D5A337BE8E7A2FF35ABAC6C96A/S147474562400048Xa.pdf/div-class-title-the-unsettled-governance-of-the-dual-use-items-under-article-xxi-b-ii-gatt-a-new-battleground-for-wto-security-exceptions-div.pdf
貿易円滑化協定(TFA)も通関実務に直接影響します。国境管理の効率化と手続きの透明性向上が求められており、民間セクターとの協議が重視されています。日本の通関手続きも、この協定に基づいて継続的に改善されています。
参考)https://nottingham-repository.worktribe.com/preview/998605/TRAD%2048-6_Andrew%20GRAINGER.pdf
HS分類の自動化とAI活用も進んでいます。韓国税関では、判例に基づいて商品コード(HS分類)を提案し、その理由を説明可能な形で示すシステムが開発されました。これにより、経験の浅い職員でも正確な分類が可能になります。日本でも同様の技術導入が検討される可能性があります。
通関業務従事者は、こうした国際的な動向を常にキャッチアップする必要があります。GATTの基本原則を理解した上で、最新の紛争事例や技術革新を学び続けることが、専門性の維持につながります。定期的に経済産業省や財務省税関のウェブサイトをチェックし、新しい通達や解釈指針を確認する習慣が重要です。
貿易環境は刻々と変化していますね。基本原則の確実な理解と、最新情報へのアンテナを高く保つこと、この両輪が通関業務の質を左右します。

1939年発行【チリー国現行輸出入関税率表貿易組合中央會 南米チリー国関税率表 輸入税率(採取産業生産品 製造工業品 鋳造貨幣及び貴金属)