一般特恵関税制度とは?適用対象国・原産地基準・手続き

一般特恵関税制度は開発途上国の産品に低税率を適用する制度です。適用対象国や原産地証明の手続き、EPAとの違いを知らないと、関税を余分に支払っているかもしれません。あなたの通関業務は本当に最適ですか?

一般特恵関税制度とは

中国やタイからの輸入で特恵税率を使えると思っていませんか?

📋 一般特恵関税制度の3つのポイント
🌏
開発途上国支援の仕組み

特定の開発途上国からの輸入品に対し、通常より低い関税率を適用して経済発展を促進

💰
税率の優遇内容

農水産品は5~100%軽減、鉱工業産品は原則無税(特別特恵受益国は全品目無税)

📄
適用には証明書が必須

原産地証明書の提出と原産地規則を満たすことが適用の絶対条件

一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)は、開発途上国の輸出所得を増やし、工業化と経済発展を促進するために先進国が導入した関税優遇制度です。日本では1971年8月から実施されており、特恵受益国を原産地とする特定の輸入品について、通常の関税率よりも低い税率を適用します。
参考)https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/t_kanzei/index.html


この制度には「一般特恵関税」と「特別特恵関税」の2種類があります。一般特恵関税は開発途上国全般に適用され、農水産品は個別に軽減率が設定され、鉱工業産品は原則無税です。特別特恵関税は後発開発途上国(LDC)47カ国・地域に適用され、原則すべての品目が無税となります。
参考)一般特恵関税制度と特別特恵関税制度:日本


特恵関税を適用するには、輸入品が特恵受益国を原産地とする物品であることを証明する必要があります。原産地の認定基準には「完全生産品基準」と「実質的変更基準」の2つがあり、それぞれ厳格な要件が定められています。通関時には原産地証明書の提出が必須です。
参考)https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1501_jr.htm


一般特恵関税制度の適用対象国と除外国

現在の一般特恵受益国は86カ国・地域ですが、経済発展に伴い対象から除外される国が続出しています。2019年4月には中国、タイ、ブラジル、マレーシア、メキシコが特恵関税対象国から除外されました。それ以前の2000年度には韓国、アラブ首長国連邦なども除外されています。
参考)一般特恵関税制度 - Wikipedia


除外の理由は、これらの国が既に先進国並みに経済発展を遂げたためです。関税暫定措置法では、一定の基準を満たした国・地域は自動的に特恵関税の適用対象から外される仕組みが定められています。タイの場合、日本以外でもEU、カナダ、トルコが2015年1月に、ロシアを含むユーラシア経済連合が2021年10月にGSP適用を停止しました。
参考)関税制度


つまり大国は対象外です。
通関業務従事者にとって重要なのは、過去に特恵関税を適用していた取引先の原産国が除外されていないか定期的に確認することです。除外国からの輸入に誤って特恵税率を適用すると、後から差額を追徴される可能性があります。2019年の中国・タイ除外時には、多くの企業が対応に追われました。
参考)事後調査でチェックされる3つの重要論点

現在も特恵関税を利用できる主な国には、ペルー、モンゴル、アルジェリア、アルゼンチン、イラクなどがあります。特別特恵受益国(LDC)には、バングラデシュ、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどが含まれます。最新の対象国リストは税関ホームページで確認できます。
参考)【10分でわかる!!】特恵関税制度 EPA以外にも関税が下が…

税関の特恵卒業(除外)国・地域一覧ページ
除外国の履歴と最新の対象国が確認できます。通関業務では必ず参照すべき公式情報源です。

一般特恵関税制度の原産地基準を満たす条件

特恵関税を適用するには、輸入品が特恵受益国の「原産品」であることを証明しなければなりません。原産地基準には「完全生産品」と「実質的変更基準を満たす産品」の2つのカテゴリーがあります。
参考)原産地認定基準の「実質的変更を加える製造・加工」:日本


完全生産品とは、特恵受益国で完全に得られた産品を指します。具体的には、その国で収穫された農産物、採掘された鉱物、その国の船舶で獲られた水産物などです。例えば、ペルーで栽培・収穫されたコーヒー豆は完全生産品に該当します。
参考)https://www.customs.go.jp/roo/origin/gsp_roo.pdf


実質的変更基準は、複数国の材料を使用した製品に適用されます。原則として、関税率表の「項」(HS番号の4桁)の変更を伴う加工または製造が行われた国を原産国とします。例えば、他国から輸入した生地(HS5208)をモンゴルで縫製して衣類(HS6204)にした場合、4桁が変更されるため実質的変更が認められます。​
4桁変更が基本です。
ただし、単なる組み立てや包装など軽微な作業では実質的変更と認められません。また、品目によっては4桁変更以外に「付加価値基準」(現地で一定割合以上の価値を付加)や「加工工程基準」(特定の工程を経ること)が追加で求められる場合もあります。これらの詳細は関税暫定措置法施行規則別表に品目ごとに規定されています。
参考)https://www.kanzei.or.jp/sites/default/files/pdfs/report/roocom_020200.pdf


原産地証明書には、どの基準を満たすかを明記する必要があります。完全生産品の場合は「P」、実質的変更基準を満たす場合は「W」と記載されます。この記載が誤っていると、税関で原産地証明書が無効と判断されるリスクがあります。
参考)JPSGLニュース/原産地証明書の不備増加(東京税関より注意…


税関の一般特恵関税原産地規則(詳細)PDF
完全生産品と実質的変更基準の具体的な定義と品目別の要件が詳しく解説されています。

一般特恵関税制度の原産地証明書と手続き

特恵関税を適用するには、輸入申告時に原産地証明書(Form A)を税関に提出する必要があります。この証明書は、輸出国の権限ある政府機関または商工会議所が発給します。日本の税関では、証明書の真正性と記載内容の正確性を厳格に審査します。
参考)https://www.customs.go.jp/roo/origin/ippan.pdf


原産地証明書の記載事項には、輸出者名、輸入者名、貨物の品名・数量、HS番号、原産地基準(PまたはW)、発給機関の署名・印影などが含まれます。これらの項目に不備があると、証明書が無効と判断される場合があります。特に発給当局の署名や印影の不備は軽微とは認められず、原則として無効です。
記載漏れは要注意です。
一方、軽微な誤りと判断される場合もあります。例えば、貨物の数量や重量の些細な相違、タイプミスによる軽微な記載ミスなどは、真正性や正確性に影響がなければ有効とされることがあります。ただし、HS番号の誤りや原産地基準の記載ミスは軽微とは認められません。
参考)https://www.customs.go.jp/roo/text/fubi_gsp.pdf


不備のある証明書が有効とされた場合でも、次回以降は不備のない証明書を提出する必要があります。また、証明書が有効でも、実際に貨物が原産品でないことが判明した場合は、通関後でも特恵税率の適用が取り消されます。過去5年分まで遡って追徴される可能性があるため、原産性の確認は慎重に行うべきです。
税関の「不備のある一般特恵原産地証明書等の取扱い」PDF
どのような不備が軽微と認められるか、具体的な判断基準が示されています。

一般特恵関税制度とEPAの適用優先順位

日本が締結しているEPA(経済連携協定)と一般特恵関税の両方が適用可能な場合、どちらを使うべきか迷うことがあります。法律上の原則では、特恵税率が最も優先度が高い税率です。しかし、実際の適用には例外があります。
参考)特恵関税制度とは?概要と各税率の適用順位について - 物流手…

EPAとGSPの両方に税率が設定されている場合、原則としてEPA税率が優先され、GSP税率は適用できません。ただし例外として、GSP税率の方がEPA税率より低い場合は、両方とも適用可能となります。つまり、実際には「より低い税率」が適用される仕組みです。
参考)https://www.kanzei.or.jp/tokyo/tokyo_files/pdfs/other/zeikan201706016_3a.pdf


低い方を選べます。
例えば、ペルーやモンゴルからの輸入では、両国がEPA締約国であり一般特恵受益国でもあるため、どちらの関税率が低いか確認する必要があります。具体的な税率は品目ごとに異なるため、実行関税率表で両方の税率を比較するのが確実です。​
また、一般特恵の対象品目で、EPAにおいて関税の撤廃・引下げの約束をしていない品目は、引き続き一般特恵の対象となります。さらに、EPAで約束した品目でも、一般特恵の税率がEPA税率を下回る品目は、一般特恵を選択できます。​
通関業務では、取引先ごとにEPAとGSPのどちらが有利か事前に確認し、原産地証明書も対応する形式(EPAは特定原産地証明書、GSPはForm A)を取得することが重要です。誤った税率を適用すると、過少申告として追徴されるリスクがあります。
参考)税関事後調査でEPA適用が取り消されるケース – 関税削減.…

一般特恵関税制度の適用漏れによる損失リスク

一般特恵関税を適用できるのに申請していない場合、本来支払う必要のない関税を余分に納めていることになります。鉱工業産品の場合、原則無税のところを一般税率で納税していると、数%から10%以上の関税を無駄に支払っている可能性があります。年間の輸入額が大きい企業では、この差額が数百万円から数千万円規模になることも珍しくありません。​
逆に、適用できない貨物に誤って特恵税率を適用した場合のリスクはさらに深刻です。税関の事後調査で誤りが発覚すると、過去5年分まで遡って追徴されます。追徴される金額には、本来の税率との差額に加えて、過少申告加算税(10%)と延滞税(年率最大14.6%)が上乗せされます。
5年分の追徴は痛いです。
例えば、原産地証明書のHS番号が実際の貨物と異なっていた場合、証明書自体が無効となり、特恵税率の適用がすべて否認されます。また、原産地基準を満たしていない貨物(例:第三国で大部分が製造され、特恵受益国では軽微な加工のみ)に特恵税率を適用していた場合も、全額追徴の対象です。
適用漏れを防ぐには、取引開始時に輸出者と協力して原産地証明書の取得体制を整えることが重要です。適用誤りを防ぐには、原産地証明書の記載内容を貨物と照合し、原産地基準を正しく理解することが不可欠です。特にHS番号の確認は、通関士の重要な業務となります。
税関の一般特恵関税マニュアルPDF
適用要件と手続きの全体像が体系的に整理されており、実務の参考資料として活用できます。