知的財産侵害物品と個人使用目的輸入の法的取扱い

海外通販サイトで購入した商品が税関で没収される?個人使用目的でも知的財産侵害物品は輸入できないって本当?通関業務従事者が知っておくべき法改正の詳細と実務対応をわかりやすく解説します。あなたは最新の水際取締りルールを理解していますか?

知的財産侵害物品と個人使用の輸入

個人が海外通販で購入した場合でも没収されます。


この記事の要点
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2022年10月の法改正

個人使用目的でも海外事業者が送付する模倣品は商標権・意匠権侵害として税関で差止対象に

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差止件数の急増

2024年上半期は18,153件と過去最多を記録し電子商取引の小口貨物が増加傾向

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認定手続の実務

税関による侵害該否の認定は1か月以内を目途に実施され輸入者と権利者に意見聴取の機会あり

知的財産侵害物品の個人使用目的輸入に関する法改正の概要


2022年10月1日に施行された商標法・意匠法・関税法の改正により、個人使用目的の模倣品輸入に対する規制が大きく変わりました。改正前は個人使用目的の輸入は商標権侵害にならず、税関の取締り対象外でしたが、改正後は海外事業者が日本国内に持ち込む行為自体が「輸入」と解釈されるようになりました。


参考)模倣品の水際取締り強化!令和4年(2022年)10月1日施行


つまり商標権侵害です。


商標法第2条第7項には「この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする」という解釈規定が新設されました。これにより、海外の通販サイトで商品を購入した場合など、外国の事業者が郵送等により日本国内に模倣品を送付する行為は、購入者の使用目的に関わらず商標権または意匠権の侵害として扱われます。


参考)取り締まるぜ!知的財産侵害物品の輸入 守れ!知財のオンリー「…


税関ホームページの改正詳細ページ
この改正は電子商取引の普及により増加する個人使用目的の模倣品輸入に対応するための措置です。国内の通販サイトで購入した場合でも、実際には海外から直接送付されるケースがあるため注意が必要です。

知的財産侵害物品の水際取締り実績と最新動向

2024年上半期(1月~6月)に税関が知的財産侵害を理由に輸入を差し止めた件数は18,153件に達し、前年同期比16.2%増で過去最多となりました。2023年通年でも輸入差止件数は10,305件と2年連続で1万件を超えており、高止まりの状態が続いています。


参考)知財侵害で輸入差し止め、過去最多の1.8万件 24年上期 -…


件数増加が顕著です。


差止物品の総数では2024年上半期で72万9,549点に達し、前年同期比77.6%増で2年連続60万点を超えました。財務省は「件数の増加に比べて物品数の伸びが鈍く、電子商取引を通じて個人が輸入した小口の貨物が増えているのではないか」と分析しています。1日平均では28件、1,038点の知的財産侵害物品の輸入を差し止めている計算になります。


参考)https://www.customs.go.jp/osaka/news/news_pdf/chizaikohyo_2024.pdf


令和6年上半期の差止状況の詳細解説
これらの統計は、2022年10月の法改正による個人使用目的の模倣品輸入規制強化の効果が表れていることを示しています。特に衣類やバッグ類の輸入差止が多く、全体の半数近くを占めているのが特徴です。


参考)法改正で一変した個人輸入のルール:税関差し止め最多の背景|中…


知的財産侵害物品の認定手続における通関業務の流れ

税関の輸入貨物検査で知的財産侵害物品に該当すると思料される貨物を発見した場合、犯則調査を行わないものについては認定手続を開始します。認定手続とは、侵害疑義物品が実際に侵害物品に該当するか否かを判断するための法定手続です。


参考)https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_001.htm


手続開始時には、税関から輸入者及び権利者の双方に通知が行われ、それぞれが税関に対して証拠や意見を提出する機会が与えられます。輸入者及び権利者から提出された証拠・意見を認定の基礎とする場合は、当該内容を相手方に開示して弁明の機会が確保されます。


参考)https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kinseihin/2503_jr.htm


1か月以内が目途です。


税関は1か月以内を目途に知的財産侵害物品に該当するか否かの認定を行い、認定結果を理由とともに輸入者及び権利者に通知します。非該当認定の場合は直ちに輸入が許可され貨物を受け取ることができますが、侵害物品に該当すると認定された場合は税関長が貨物を没収することができます。


税関における認定手続の詳細フロー図
不服申立て可能期間中は、輸入者が自発的に貨物の滅却、廃棄、任意放棄、権利者の輸入同意書の取得等の修正を行うことができます。通関業務従事者は、この認定手続の流れを正確に理解し、輸入者及び権利者への適切な説明と対応が求められます。


参考)税関における知的財産権侵害物品の差止め - 明倫国際法律事務…

個人輸入における購入者の法的責任と罰則

個人使用目的で模倣品を輸入した場合、原則として購入者自身は罰せられません。これは海外の事業者による「持込み行為」が商標権侵害となるのであって、購入者個人の輸入行為自体が直接の侵害とはならないためです。


参考)【法改正】模倣品個人輸入への規制強化


購入者は罰せられません。


ただし、購入した商品が税関で模倣品と認定されれば没収され、手元には届きません。偽物と知らなかった場合でも、知的財産侵害物品に該当すると認定された場合は輸入することはできないのが原則です。一方で、転売等の事業目的で模倣品を輸入する行為は、購入者自身が「輸入」を行ったとみなされ商標権侵害として刑事罰の対象となる可能性があります。


参考)https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/qa_005.htm


著作権侵害物品を販売目的で保管することは著作権侵害行為とみなされます。実際に販売する目的がなくても、保管状況によっては販売目的だと評価される危険性もあるため注意が必要です。通関業務従事者は、輸入者が個人使用目的か事業目的かを慎重に確認し、適切なアドバイスを提供することが重要です。


参考)著作権侵害とわかった商品を保管しても大丈夫か - BUSIN…

知的財産侵害物品の該当範囲と識別ポイント

知的財産侵害物品とは、商標権、意匠権、特許権、著作権のような知的財産権を侵害する物品や不正競争防止法に違反する物品のことです。商標権侵害物品には専用権侵害品だけでなく、それ以外の排他権侵害品一般も含まれます。意匠権についても直接侵害品一般が対象となります。


参考)https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/mizugiwakyouka.pdf


範囲は広範です。


具体的には、ブランドのロゴ、デザインやマークを許諾なく使用している商品、ブランド品の全部または一部を加工したリメイク品、許諾なくキャラクターなどを使用したハンドメイド品などが該当します。ブランドマークを使用していなくても、デザインを真似た商品は意匠権侵害となる可能性があります。


参考)ヘルプセンター

商品名や商品説明に権利侵害の恐れがあるブランド名やキャラクター名を記載すること(〇〇風、〇〇系、〇〇タイプなど)や、商品とは無関係のブランド名を記載することも問題となります。事務局が特定のブランドを想起すると判断した商品や正規品と確証がない商品も取締りの対象です。

税関での識別には、権利者から提出された真正品と侵害物品を外観から識別する資料や、侵害物品に係る外装、商品名、記号等の特徴が記載された資料が用いられます。必要に応じて分析部門等に対して専門的な分析が依頼されることもあります。通関業務従事者は、これらの識別ポイントを理解し、疑義貨物を適切に発見・報告する能力が求められます。


参考)https://www.customs.go.jp/kaisei/zeikantsutatsu/kihon/TU-S47k0100-s06-07~08.pdf

知的財産侵害物品輸入に関する通関業務上の留意事項

通関業務従事者として最も重要なのは、2022年10月以降の法改正内容を正確に理解し、依頼者に適切な説明を行うことです。特に個人使用目的の模倣品輸入が規制対象となった点は、多くの一般消費者が認識していない可能性があります。


参考)「個人使用目的」の模倣品輸入も規制対象に—商標法第2条第7項…


説明責任が重要です。


輸入申告時には、貨物の内容を詳細に確認し、知的財産侵害の疑いがある場合は事前に依頼者に注意喚起することが望ましいです。海外通販サイトからの購入品、特に著名ブランド品や人気キャラクター商品については、真正品であることの証明(購入レシート、シリアルナンバーなど)を依頼者に求めることも有効です。

認定手続が開始された場合は、1か月以内という期限内に適切な証拠や意見を提出する必要があります。この際、真正品であることを示す証拠(正規販売店からの購入証明、権利者発行の証明書など)を速やかに収集・提出することが重要です。権利者の輸入同意書を取得できれば、認定手続中でも輸入が可能になるケースがあります。


税関の知的財産Q&Aページ(個人使用目的に関する質問含む)
また、侵害が明白な場合でも、輸入者が任意放棄や自主的な滅却・廃棄を選択することで、迅速な手続終了が可能です。通関業務従事者は、依頼者の状況に応じて最適な対応策を提案し、スムーズな解決をサポートする役割が期待されます。電子商取引の増加により小口貨物の差止件数が急増している現状を踏まえ、日々の業務において知的財産侵害物品への警戒を怠らない姿勢が求められます。





新・知的財産権侵害物品の水際取締制度の解説―模倣品・海賊版等の輸入はどうすれば阻止できるか