「最終組立国」が米国でも、米国原産品と認められず4,500万ドルの追加関税を払った事例があります。
米国原産品という言葉は、文脈によって指している内容が大きく異なります。通関業従事者として最初に整理すべき点がここです。
大きく分けると、①日米貿易協定(特恵関税)上の原産品、②EAR(米国輸出管理規則)上の米国原産品、③米国の非特恵原産地規則に基づく原産国表示上の概念、という三つの文脈が存在します。これら三つはそれぞれ根拠法令が異なるため、同じ貨物でも「どの目的でどの規則を使うか」によって判定結果が変わることがあります。
まず日米貿易協定(2020年1月発効)の文脈では、米国原産品は以下の三つの要件のいずれかを満たす産品として定義されます。
| 要件の種類 | 概要 |
|---|---|
| ①完全生産品 | 米国または日本の領域で完全に得られた産品(例:米国内で栽培した農産物、米国の海域で採取した水産物) |
| ②原産材料のみから生産された産品 | 米国または日本の原産材料だけを使って生産された産品(第三国の非原産材料を使わないもの) |
| ③品目別原産地規則を満たす産品 | 非原産材料を使用していても、品目別に定められた関税分類変更基準(CC、CTH、CTSHなど)を満たす産品 |
完全生産品が条件です。代表例としては、米国の牧場で生まれ育てられた牛から得られる牛肉、米国の鉱山から採掘された鉱物などが挙げられます。
一方、EARの文脈では「米国原産品」はより広い概念になります。具体的には、「米国本土で製造された品目」に加えて、「非米国製品であっても、米国に輸入された後に何らかの加工が加えられ形が変わった状態で米国から輸出されるもの」も対象となります。さらに、EAR対象品目が原則として25%超の比率で組み込まれた外国製品もEARの規制対象となります(テロ支援国家等が仕向け先の場合は10%超)。つまり「米国で作ったもの」だけが米国原産品ではないということですね。
JETROによる米国の原産地規則と原産地証明書の解説(特恵・非特恵両方の構造を確認できます)
日本で通関業に携わる人の多くは、原産地の判定にHS4桁変更を使うことに慣れています。しかし米国の非特恵原産地規則は、この感覚とは根本的に異なります。
米国の非特恵原産地規則は「判例法ベース」で構成されています。原則として、「当該産品が新たな名称(name)・特性(character)・用途(use)を持つ物品に変わったかどうか」という実質的変更(substantial transformation)の概念で原産国が決まります。1940年の合衆国対ギブソン-トムセン社判決(United States v. Gibson-Thomsen Co., Inc.)を基礎とするこの基準は、日本のように関税分類変更という明確な数字で線引きするものではありません。
実務上、特に問題になりやすいのが「組立」の工程です。たとえば中国でコンポーネントを生産し、メキシコで最終組み立てをした直流モーターについて、米国税関は「HSコードに変化があっても、メキシコでの組立ては中国製コンポーネントを大幅に変更しておらず、新たな名称・特性・用途を持つ物品とはなっていない」として、中国を原産国と認定した事前教示事例(HQ H305370)が存在します。
HSコードが変わっても原産国が変わらないことがある。これは多くの通関業従事者が見落としやすい点です。
さらに、以下の軽微な工程は実質的変更とは認められず、米国原産品の資格を与えません。
日本を経由して米国に輸出する貨物の「原産国」について、輸出者側が十分な確認をしないまま「日本」と申告し、後から米国税関に「中国」と認定されるリスクは現実に存在します。過去には日系企業が4,500万ドルを米国政府に支払った事例も実際に報告されています。痛いですね。
判定が難しいケースでは、米国税関・国境警備局(CBP)が提供する事前教示制度(Customs Rulings Online Search System:CROSS)の活用が有効です。輸入者だけでなく輸出者からもオンラインで申請できるため、通関業従事者として顧客にこの選択肢を案内することが実務上の大きな付加価値となります。
税関が公開する原産地規則のいろは(日本の非特恵原産地規則との比較理解に役立ちます)
日米貿易協定で特恵関税(EPA税率)の適用を受けるには、貨物が協定上の原産品であることを証明する手続きが必要です。ここで注意が必要な点があります。
日米貿易協定では、原産品の証明方法として「輸入者自己申告」のみが採用されています。他の多くのEPAで採用されている第三者証明制度(商工会議所による原産地証明書の発給)や輸出者自己申告制度は、日米貿易協定においては利用できません。これが条件です。
つまり日本から米国に輸出する場合、米国の輸入者が自ら原産品申告書を作成し、日本貨物の原産性を証明する責任を負います。逆に米国から日本に輸入する場合も、日本側の輸入者が原産品申告書を作成します。
虚偽の記載をした原産品申告書を作成・交付した場合は、「経済連携協定に基づく申告原産品に係る情報の提供等に関する法律」に基づき、50万円以下の罰金が科されます。罰則があります。
通関業従事者としての役割は、この申告書の作成者ではありませんが、顧客である輸入者が適切に原産性を判断し書類を整備できるよう、情報提供・確認作業の支援を行うことが現実の実務では求められています。
また、品目別原産地規則(PSR)の中には、「僅少の非原産材料」に関するデミニマス規定も存在します。日米貿易協定の場合、品目別原産地規則を満たさない非原産材料があっても、当該産品の価格の10%以下であれば原産材料として認めるというものです(ただし適用除外品目あり)。この規定も知っておけばOKです。
日米貿易協定の原産地規則をわかりやすく解説したページ(完全生産品・品目別規則・積送基準の整理に役立ちます)
米国原産品という概念は、輸出管理(EAR:Export Administration Regulations)の文脈でも非常に重要な意味を持ちます。そして多くの通関業従事者が見落としがちな点がここに潜んでいます。
EARの対象となる品目は、次の5つのカテゴリに大別されます。
②の「全ての米国原産品(現所在地を問わない)」という点が重大です。つまり、米国から一度輸出されて日本や第三国に到達した米国原産品を、さらに別の国へ再輸出する場合、その再輸出先がEARの規制対象国・規制対象者に該当していないかを確認する義務が生じます。これを「再輸出規制」と呼びます。
この確認を怠った場合、EAR違反となり、米国商務省産業安全保障局(BIS)による行政・刑事罰の対象になり得ます。BISは実際に違反事例をまとめた事例集を定期的に公表しており、日本企業やその海外関連会社が対象になった事例も報告されています。
③のデミニミス・ルールについても通関業従事者は理解が必要です。外国製の最終製品であっても、そこに含まれる米国原産のEAR対象部品・技術の組込比率が25%を超える場合、EARの規制対象となります。禁輸対象国(イラン、北朝鮮、シリア等)向けの場合はこの閾値が10%まで引き下がります。
これは「日本で最終組立した製品だから関係ない」という思い込みを否定する重要な点です。たとえば米国産の半導体や制御ソフトウェアが組み込まれた工作機械を、日本のメーカーが製造し第三国へ輸出する場合、組込比率の計算と仕向地の確認が通関業実務の観点から不可欠になります。
結論は「製品の産地だけでなく、部品の産地も原産品判定に関わる」です。
実務上の対策としては、輸出前に顧客のサプライチェーンにおける米国原産品の組込比率を確認し、必要であれば安全保障貿易センター(CISTEC)が提供するEAR再輸出規制の解説資料や、専門家への相談ルートを案内することが重要です。
CISTECによる米国再輸出規制入門(EARの対象範囲・デミニミスルールの実務理解に最適)
2025年から2026年にかけての米国の通商政策の変化は、「原産国」という概念の重要性を劇的に高めました。この点は通関業従事者として見逃せない独自の視点です。
相互関税の導入により、同一のHSコードで分類される同一貨物であっても、原産国が日本か中国かによって関税率が大きく異なる状況が生まれています。たとえばHSTUS 8501.10.40に分類される直流モーターを例にとると、WTO協定税率は4.4%ですが、追加関税を加えると日本原産なら28.4%、中国原産なら83.4%超にまで拡大する状況が現実に起きています(2025年5月時点のデータ)。
この差は、同一製品でも原産国認定の違いだけで支払う関税が約3倍に変わるという事態を意味します。これは使えそうです。
そして、こうした状況下で問題になるのが「輸出者が米国の原産国基準を正確に理解せずに商業書類に原産国を記載している」という実態です。米国の基準では最終組立国が必ずしも原産国とはなりません。日本を経由・加工して米国に輸出する製品が、米国税関から「中国原産」と判定されるリスクは、中国由来の部品・コンポーネントに依存するサプライチェーンでは現実のリスクとなります。
通関業従事者として顧客に提供できる価値は、以下のような実務アドバイスを具体化することにあります。
積送基準の観点も重要です。米国から日本に輸入した米国原産品が、第三国を経由して再度輸出される場合、その経由地で新たな加工が加えられると原産品としての資格を失う可能性があります。原産品であることを維持するためには、第三国の税関監視下に置かれ、積卸し・蔵置等の許容された作業のみが行われていることが条件となります。
原産地の問題は、単なる書類の記載ミスでは済まない財務上・法的リスクと直結しています。通関業従事者として、「どの規則の文脈でどの原産品概念が問われているのか」を的確に判断できるリテラシーが、今まさに求められている時代です。
トランプ関税と原産国の関係を詳細に解説したコラム(米国での実質的変更の評価要素と事例分析が参考になります)