CCを満たしていても、協定が違うと関税ゼロにならないことがあります。
EPA(経済連携協定)の特恵税率を使うためには、輸出入される産品が「原産品」として認められる必要があります。その認定基準のなかで、実務で最もよく登場するのが「品目別原産地規則(PSR:Product Specific Rules of Origin)」です。PSRの中でも特に重要な基準の一つが、今回解説する「CC」です。
CCは "Change of Chapter" の頭文字をとった略語で、日本語では「類変更」と訳されます。つまり「産品の生産に使用されたすべての非原産材料について、HSコードの上位2桁(類)の水準で関税分類の変更が行われていること」を原産性の条件とするルールです。CCが条件です。
少しイメージが湧きにくいかもしれませんので、具体例で確認しましょう。味噌(HSコード:2013.90)を例に取ります。味噌の製造には大豆(12類)、米(10類)、塩(25類)、水(22類)などが使われますが、いずれも「20類」以外の類に属しています。日本国内でこれらを加工・発酵させて味噌(20類)を作れば、非原産材料と最終産品の間でHSコードの「類(2桁)」が変わっています。これを使えそうです。
このように、非原産材料(外国からの輸入品)を使っていても、製造工程を経ることでHSコードの2桁が変化したと言えれば、その産品は「品目別原産地規則CCを満たす原産品」として認められます。CCが認められると、EPAの特恵税率(場合によっては関税ゼロ)の適用を受けることができます。
ここで多くの人が混乱するのが「CCはCTHやCTSHより厳格なのか?」という点です。結論はYesです。変更の幅が大きいほど要件は厳格で、CC(2桁)>CTH(4桁)>CTSH(6桁)の順になります。CCでは材料と製品が根本的に異なる品目群(異なる「類」)に属している必要があり、CTSHでは6桁のうち下2桁が変わるだけで足ります。CCが原則です。
| 略称 | 正式名称 | 変更幅 | 要件の厳格度 |
|---|---|---|---|
| CC | Change of Chapter | 上位2桁(類) | 🔴 厳しい |
| CTH | Change of Tariff Heading | 上位4桁(項) | 🟡 中程度 |
| CTSH | Change of Tariff Sub-Heading | 上位6桁(号) | 🟢 比較的緩い |
なお、この3つをまとめて「CTC(関税分類変更基準)」と呼びます。CTCは、品目別原産地規則(PSR)の中で最も広く使われている基準の一つです。CCはそのCTCの中でも「最も大きな変更」を求める、言わばもっとも入口の高い条件に相当します。
実務では、産品のHSコードを確定させてから、税関が提供する「原産地規則ポータル」のPSR検索ツールで、品目ごとのCCやCTH等の規則を確認するのが基本の手順です。
参考:CC・CTH・CTSHの記号の意味を具体例とともに詳しく解説しています。
関税変更分類基準に出てくる記号(CC,CTH,CTHS)の意味 徹底解説 – 原産地規則.com
参考:税関による原産地規則ポータル(HSコードと協定名でPSRを検索できます)。
CCというルールは、すべての協定・すべての品目に適用されているわけではありません。どの協定のどの品目でCCが使われているかを把握しておくと、実務のスピードが大幅に上がります。
まず代表的な例として、繊維・衣類(HSコード61〜62類)が挙げられます。多くのEPA協定では、衣類の品目別原産地規則として「CC」が採用されています。これは「織物(HSコード50〜63類内の原反・生地)を裁断・縫製することによって衣類を製造する」という工程がCCの変更要件を満たす、という考え方に基づいています。つまり「布から服に変わる」という変化がCCの条件です。
なお、農水産加工品(HS第2〜22類など)では、原材料が第1類(生きている動物)や第10類(穀物)であっても最終産品が第20類(野菜・果実等の調製品)などになれば類変更が発生し、CCを満たすケースが少なくありません。これは使えそうです。
一方で注意が必要なのが、「同じ類の中で製造が完結してしまう産品」です。たとえば綿糸(HSコード52類)から綿織物(HSコード52類)を製造するケースでは、材料と産品が同じ「52類」に属するため、CCの要件(類変更)を満たせません。これは厳しいところですね。こうした場合は、CTHやCTSH等で代替できるか、あるいは付加価値基準(VA)が選択できる協定かどうかを確認することが必要です。
農水産加工品でCCがよく登場する理由として、原材料と最終産品の「大きな変化」が視覚的にわかりやすいことが挙げられます。大豆(12類)→醤油(21類)、麦(10類)→ビール(22類)など、HSコードの類が大きく跨ぐ変化が多い食品加工は、CC基準と相性が良いと言えます。
参考:繊維製品の原産地規則における「CC」の要件とアパレル産業への適用方法を経済産業省が解説しています。
繊維製品の原産地規則・証明方法に関する留意事項 – 経済産業省(PDF)
CCを理解した上で実務に臨む際に、最も見落とされやすいのが「協定違いによるPSRの変動」です。意外ですね。同じ製品・同じHSコードであっても、輸出先の国が変わり、適用するEPA協定が異なれば、品目別規則の内容がまったく変わってしまいます。
たとえば「電気式モーター(HS8501.31)」のPSRを協定別に比べると、日タイEPAでは「CTH または VA40%」であるのに対し、日インドEPAでは「CTH かつ VA40%」です。日タイEPAはOR条件(どちらか一方で可)ですが、日インドEPAはAND条件(両方必要)となっており、日タイ向けにクリアできていた基準が日インド向けでは不足する可能性があります。これが条件です。
CCが採用されている品目でも同様のことが起きます。RCEP協定ではCC単体で足りる品目が、別の二国間EPAではCC+付加価値基準(RVC)の同時充足を要求されるケースがあります。つまり「CCさえ満たせばどの協定でも使える」という認識は危険です。
| 協定名 | 品目別規則の傾向 | AND/OR条件 |
|---|---|---|
| RCEP協定 | CC・CTH・CTSH、一部RVCとの選択式 | ORが多い |
| 日EU EPA | CTH中心、VA55%(FOB)と選択 | ORが多い |
| 日インドEPA | CTHかつVA40%が多い | ANDが多い ⚠️ |
| TPP11(CPTPP) | 品目によりCC・CTH・CTSH・RVCの複数選択 | 品目によりAND/OR混在 |
さらに、日本が締結・発効しているEPAは2025年時点で20以上に達しており、RCEPの発効で対象国が一気に拡大しました。それぞれ協定ごとにPSRを個別管理する必要があります。複数の仕向国へ同じ製品を輸出する企業が、「前回と同じ工程だから大丈夫」と確認を省いてしまうと、特定の協定でのみ原産品と認められない、という事態が起きます。
追徴課税のリスクも深刻です。製造工程の変更やサプライヤーの変更で、以前は満たしていた品目別規則が突然満たせなくなることがあります。それに気づかないまま原産地証明書を使い続けると、税関の事後確認で特恵税率を遡及して否認され、多額の追徴課税・加算税を支払わされるケースが実際に報告されています。痛いですね。
実務対策としては「①HSコードごとに輸出仕向国のPSRを台帳化する」「②年1回以上の定期確認と製造工程変更時の即時確認を社内フローに組み込む」「③サプライヤーが変わった場合もPSR確認を必ず実施する」という3つの行動を組み合わせることが有効です。
参考:原産品申告書が否認された事例と、製造工程変更に伴うリスクについての実務解説です。
品目別原産地規則CCをすべての材料で完全に満たせなくても、諦める必要はありません。EPAには「例外・救済規定」が設けられており、条件次第で原産品として認められるルートが存在します。
デミニマス規定(僅少の非原産材料)とは
関税分類変更基準(CCを含むCTC)を満たさない非原産材料が製品に含まれていても、その量や価額が一定のしきい値以下であれば、例外的に原産品とみなすという規定です。RCEP協定の例を示します。
たとえば、ある加工食品(FOB価格100万円)の製造にCCを満たさない非原産材料が使われているとします。その材料の価格合計が9万円以下(FOBの9%)であれば、デミニマス規定を使って当該製品を原産品として扱える可能性があります。これは使えそうです。
ただし、デミニマスには重要な制限があります。デミニマスはCTC(関税分類変更基準)が適用される品目に対してのみ使える救済措置です。付加価値基準(VA)が単独で設定されている品目や、「AND条件」でVAも同時に求められている品目には、そのまま適用されるわけではありません。デミニマスだけは例外です。
累積ルール(Cumulation)とは
複数の締約国で行われた生産や原材料を、一体として原産地判断に組み込める制度です。たとえばRCEP協定では、日本・ASEAN10か国・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランドの計15か国の間で、あるEPA締約国の原産材料を別の締約国の原産材料とみなして原産性を判断できます。
東南アジアを中心にサプライチェーンを持つ企業にとって、この累積ルールは実務上非常に強力な武器になります。たとえばベトナムで生産された中間材料(ASEAN原産)を日本に輸入し、さらに加工して完成品にする際、ベトナム産の材料をRCEP原産材料として累積させることで、CCの要件判定が有利になるケースがあります。
救済規定を活用する際の判断フローを整理します。
参考:RCEP協定における「僅少の非原産材料(デミニマス)」と「累積」の条件と適用方法を詳しく解説しています。
条件2の例外(デミニマス・累積)– 税関 Japan Customs RCEP
参考:日本関税協会によるRCEP協定の活用・原産地証明の実務解説資料(輸入編)です。
RCEP協定利用方法の紹介【輸入編】– 日本関税協会(PDF)
CCは3つの関税分類変更基準の中で最も厳格な要件です。しかしここで一つの逆説があります。CCの条件を満たせない製品に対して「製造プロセス」ではなく「製造場所(工場立地)」を変えることで、一気に原産性クリアに近づくことができる場合があります。意外ですね。
その代表例が「累積ルールを戦略的に使った素材調達の切り替え」です。現在使っている非原産材料(CC未達)を、締約国内で生産される同等材料(CC達成済み)に置き換えるか、あるいはEPA締約国内でその材料を製造するサプライヤーを探すことで、CCの判定が一変します。これはEPA活用の文脈では「ソーシング最適化」と呼ばれる手法です。これが原則です。
もう一つの独自視点として、「HSコードの桁数管理がCCの難易度を左右する」という点があります。CC(類変更)は「2桁が変わる」ことを求めるため、製造した最終産品のHSコードの「上位2桁」が非原産材料と異なっている必要があります。言い換えると、最終産品のHSコードを正確に特定することがCCクリアの前提となります。もし製品の分類に曖昧さがあり、2桁が同じ類内に収まるコードが割り当てられてしまうと、CCを満たせなくなります。HSコードの分類は「品目」が主語です。
さらに、CCが設定されている品目の中には「除外規定(例外)」が付いているケースがあります。たとえばTPP11の衣類の品目別規則では、単純にCC(類変更)と書かれているのではなく、「第60類(編物)からの変更を除く」という但し書きがついています。これは同じ類内に属する素材(編物地→編物衣類)では類変更が起こらないため、別途条件を設けているためです。こうした「除外付きCC」を把握していないと、CCをクリアしたつもりが実はクリアできていない、という見落としが発生します。
| CCの落とし穴パターン | 内容 | 注意すべき行動 |
|---|---|---|
| 除外付きCC | 「〇〇類からの変更を除く」という但し書きがある | 協定附属書の原文を確認する |
| HSバージョンの違い | HS2017とHS2022でコード体系が変わっている品目がある | 使用するHSバージョンを協定と揃える |
| AND条件見落とし | CC+VAの両方が必要なのにCCだけ確認した | OR/ANDの接続詞を協定文で必ず確認する |
| 製造工程変更後の未更新 | 工場移転・サプライヤー変更で材料HSが変わった | 工程変更のたびにPSRを再確認する |
これらのパターンを把握しておくことで、意図せず原産性を失うリスクを大幅に減らすことができます。またHSコードのバージョン(HS2017とHS2022など)が異なるときに生じる分類のズレも、CC判定の際に問題になることがあります。RCEPのPSRはHS2022版に移行されており、HS2017ベースでコードを使っていると品目別規則との整合性が崩れることがあります。税関の事後確認に備え、使用するHSバージョンと協定文のバージョンを揃えておくことが重要です。
実務上の最初の一歩として、自社の主要輸出品目について「①HSコードを確定(6桁)」「②仕向国ごとにPSRを検索」「③CCかCTHか、AND/ORかを確認」という3ステップを実施してみてください。税関の原産地規則ポータルを使えば、HSコードと協定名を入力するだけで品目別規則が検索できます。
参考:日本のEPA原産地規則の概要(協定別のPSR規定方式の違いと具体的な品目別規則が確認できます)。
我が国の原産地規則(EPA別・品目別規則一覧)– 税関 Japan Customs(PDF)
参考:JETRO(日本貿易振興機構)によるEPA活用・原産地規則の概要ページです。