自己証明制度は「無料で使える」と思って選ぶと、あとで関税差額を全額追徴される危険があります。
第三者証明制度とは、輸出者または生産者の代わりに、第三者機関(日本では日本商工会議所)が産品の原産性を審査・判定し、特定原産地証明書を発給する制度です。「第三者」という名称の通り、当事者以外の機関が証明主体となる点が最大の特徴です。
日本で発給される書類は「第一種特定原産地証明書」と呼ばれます。取得の流れは大きく3段階に分かれており、①企業登録(原則7営業日・無料)、②原産品判定依頼(原則3営業日・無料)、③原産地証明書の発給申請(原則2営業日・有料)の順で手続きを進めます。
発給手数料は「基本料2,000円+産品数×500円(21品目以降は50円)」です。たとえば産品が1種類なら合計2,500円となります。コンビニのコーヒー1杯程度の費用で、関税の大幅削減が実現できるということです。
手数料はかかります。ただし見返りは大きいです。
2025年1月時点では、CPTPP・日EU・日英・日米貿易協定を除く全てのEPA協定で、この第三者証明制度が利用可能です。日タイ、日ASEAN、日インド、日ベトナムなど、アジア向けの輸出ではこの制度が今も主流となっています。
また、日本商工会議所が原産性を審査するため、輸入国税関も信頼性が高いと判断しやすく、特恵関税の否認リスクを抑えられる点も大きなメリットです。結論は「第三者機関に任せる分、安心感が高い」です。
参考:日本商工会議所 EPAに基づく特定原産地証明書発給事業(手数料・手続きの詳細)
自己証明制度(自己申告制度)は、輸出者・生産者または輸入者が、日本商工会議所などの第三者機関を経ずに、自ら原産地申告書(原産品申告書)を作成してEPA特恵税率の適用を求める制度です。
この制度には大きく3つの形があります。
手数料は原則かかりません。これは使えそうです。
ただし、費用ゼロには落とし穴があります。自己証明制度では、申告者が証明責任のすべてを負います。とくに輸入者が自己申告を行う場合、輸出者・生産者への事後確認が行われないため、税関の検認(事後調査)で書類不備が発覚すると、輸入者のみが追徴関税のリスクを抱えます。
輸入者自己申告の場合は注意が必要です。原産品であることを明らかにする書類(BOM・コスト計算書類等)を自社で保管・提出できる体制が整っていることが前提条件となります。書類が揃っていなければ、特恵税率が遡及的に否認され、差額関税が一括で追徴されるケースも実際に起きています。
参考:税関 各証明制度のメリットと留意点【日本へ輸入する場合】
重要なのは、「どちらの制度を選ぶか」ではなく、「協定ごとに使える制度が決まっている」という点です。つまり、選択の余地がない場合が多いということです。
以下に主要EPA協定の証明制度を整理します。
| EPA協定 | 第三者証明 | 認定輸出者制度 | 自己証明 |
|---|---|---|---|
| 日タイEPA | ✅ | - | - |
| 日アセアンEPA | ✅ | - | - |
| 日ベトナムEPA | ✅ | - | - |
| 日インドEPA | ✅ | - | - |
| 日スイスEPA | ✅ | ✅ | - |
| 日メキシコEPA | ✅ | ✅ | - |
| 日オーストラリアEPA | ✅ | - | ✅ |
| CPTPP(TPP11) | - | - | ✅ |
| 日EUEPA | - | - | ✅ |
| 日英EPA | - | - | ✅ |
| 日米貿易協定 | - | - | ✅(輸入者のみ) |
| RCEP | ✅ | ✅ | △(条件付き) |
協定が自己証明制度のみを採用している場合(例:日EU、TPP11、日英など)、商工会議所の証明書は使えません。この点は多くの初学者が誤解しやすいポイントです。
第三者証明制度のみの協定なら、手続きコストはかかります。しかし日本商工会議所が審査してくれるため、原産地規則の解釈ミスを防ぎやすい利点があります。一方、自己証明制度を採用する協定では、社内に原産地規則を理解できる担当者を育てることが現実的な対策になります。
協定の種類が原則を決めます。まず取引先の国との協定を確認するのが第一歩です。
参考:経済産業省 原産地証明書を準備するページ(証明制度の概要)
第三者証明制度を使う場合に見落としやすいのが「ワンシップメントの原則」です。これは、1枚の原産地証明書につき1回の輸送(1船積み)にしか使えないというルールで、たとえば同じ産品を毎月継続的に輸出する場合、発給申請をその都度繰り返す必要があります。船積みのたびに2,500円以上の手数料がかかる計算です。厳しいところですね。
また、第三者証明制度では「有効期限」も重要です。発給から原則1年以内(日フィリピンEPAは6カ月)に輸入国税関に提出しなければ、その証明書は効力を失います。証明書を取得してから輸出が遅延した場合、期限切れで使えなくなるリスクがある点は覚えておきたいところです。
自己証明制度では、書類保存義務が課されます。原産地申告書の作成根拠となった書類(BOM、コスト計算書など)を原則として5年間保管しなければなりません。この保管・管理体制が不十分だと、事後の検認時に証拠書類を提示できず、特恵が否認される事態になりかねません。
実務上は、どちらの制度を使う場合でも「原産地規則をきちんと確認し、根拠書類を整備する」という作業は共通して必要です。これが基本です。書類管理に不安がある場合は、FTA専門コンサルタントや通関士への相談も有効な手段です。
参考:経済産業省 認定輸出者制度(第二種特定原産地証明書)の詳細
2022年1月に発効したRCEP協定(地域的な包括的経済連携協定)は、第三者証明制度・認定輸出者制度・自己証明制度の3つをすべて使える唯一の協定です。これは日本の貿易実務において、証明制度の選択肢を初めて1つの協定の中で横断比較できる貴重な機会を生み出しました。
意外ですね。RCEPは15カ国が参加する世界最大規模のFTAであり、2022年1月1日時点での自己申告制度の実施表明国は日本・オーストラリア・ニュージーランドの3カ国のみと限定的でした。しかし今後の拡張が見込まれており、証明制度の実務的な選択肢が年々広がっています。
RCEPを活用して中国・韓国・東南アジア向けに輸出する事業者にとっては、従来の第三者証明制度(日本商工会議所経由)と、認定輸出者制度(手数料ゼロ)を比較検討する余地が生まれた点は画期的です。
認定輸出者制度が条件です。ただし認定取得には一定の要件をクリアしなければなりません。取得の目安として「半年間で8回以上の発給実績」が挙げられており、継続的にEPAを活用している企業向けの制度と言えます。
証明制度の選択は「どちらが便利か」ではなく、「どの協定を使うか・どれだけ継続的に輸出するか・社内の管理体制がどの程度か」によって変わります。RCEP活用の機会があれば、認定輸出者制度への移行を検討することが、長期的な関税コスト削減の鍵になります。
参考:税関 RCEP「自己申告制度」利用の手引き