知的財産侵害品を「うっかり申告」しても、通関業者が刑事責任を問われた判例があります。

関税法69条の11第1項は、輸入を完全に禁止する貨物を具体的に列挙した条文です。 2024年現在、13の区分が定められており、それぞれに別途の例外規定が設けられています。 customs.go(https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/pdf/FAX2001.pdf)
主な品目は以下の通りです。
- 🚫 麻薬・向精神薬・大麻・覚醒剤・あへん吸煙具(政府輸入など例外あり)
- 🚫 指定薬物(医療等の用途を除く)
- 🚫 拳銃・小銃・機関銃・砲・弾薬・拳銃部品
- 🚫 爆発物
- 🚫 火薬類
- 🚫 化学兵器禁止法が規定する特定物質
- 🚫 感染症法が規定する一種・二種病原体等
- 🚫 偽造通貨・偽造有価証券・偽造カード(生カード含む)
- 🚫 公安または風俗を害すべき書籍・図画・彫刻物その他の物品
- 🚫 児童ポルノ
- 🚫 特許権・商標権・著作権等の知的財産侵害物品(個人名義郵送品の特則あり)
- 🚫 不正競争防止法所定の不正競争を組成する物品
条文が長い、というのが第一印象ですね。ただし、通関業務の現場で日常的に問題になるのは「麻薬等」「知的財産侵害品」「公安・風俗を害する物品」の3区分に集中しています。 それ以外の区分(化学兵器・病原体等)は通常の商業貨物として申告されるケースはほとんどないため、まずこの3区分を優先的に理解するのが原則です。 aog-partners(https://aog-partners.com/kanzeihouzyounohanzainikansurukiteinituite/)
なお、13品目の中には「例外規定」が設けられているものが多い点に注意が必要です。たとえば麻薬は、他の法令に基づき輸入できる者(医療機関等)が適法に輸入する場合は除外されます。 例外の存在イコール"規制が緩い"ではなく、適正な手続きを経た場合に限り認められる仕組みです。例外は限定的、これが基本です。 jyobun(https://jyobun.com/kanzeihou-065-03/)
関税法109条1項は、69条の11第1項第1号〜第6号(麻薬等・銃砲弾・爆発物・火薬類・特定物質・病原体等)を輸入した者に対し、10年以下の懲役または3,000万円以下の罰金(または両方) を科しています。 aog-partners(https://aog-partners.com/kanzeihouzyounohanzainikansurukiteinituite/)
同条2項は、同項第7号〜第10号(公安・風俗を害する物品、児童ポルノ、知的財産侵害品等)への輸入に対して、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金を規定しています。 金額の違いは重大性の差を示すとはいえ、どちらも"軽い"ではありません。 aog-partners(https://aog-partners.com/kanzeihouzyounohanzainikansurukiteinituite/)
重要なのは、刑事責任の主体が「輸入した者」であることです。通関業者は貨物の所有者・荷主に代わって通関手続きを行う立場ですが、禁制品の存在を知りながら申告手続きを行った場合、関税法違反の共同正犯または幇助犯として問われるリスクがあります。 痛いですね。
| 品目区分 | 該当条項 | 最高刑(懲役) | 最高罰金 |
|---|---|---|---|
| 麻薬・覚醒剤・銃砲等(1号〜6号) | 関税法109条1項 | 10年以下 | 3,000万円以下 |
| 公安・風俗害物品・知財侵害品等(7号〜10号) | 関税法109条2項 | 10年以下 | 1,000万円以下 |
「荷主から聞いた内容を申告しただけ」という言い訳は、禁制品の存在を疑うべき具体的事情があった場合には通用しません。これが条件です。通関業者が依頼人の申告内容を鵜呑みにするだけでよいか、という問いに対する答えは実務でも明確ではありません。だからこそ、日常的な確認プロセスの構築が問われています。
輸入してはならない貨物が発見された場合、税関長には複数の行政権限が与えられています。関税法69条の11第2項以下では、廃棄または積戻し(送り返し)の命令を当該貨物の所持者・保有者に対して発することができると規定されています。 customs.go(https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/kinseihin/kinseihincontents_jr.htm)
実際の流れは以下の順序が一般的です。
1. 税関による審査・検査で疑義品が発見
2. 税関長から輸入者(または申告者)へ通知
3. 輸入者側が意見書を提出(弁明機会の付与)
4. 税関長が「認定手続き」を実施(特に知財侵害品の場合)
5. 輸入禁止と判断された場合→廃棄または積戻し命令
6. 命令に従わない場合→税関長が職権で廃棄・没収措置
通関業者として注意すべき場面は「ステップ3」です。貨物が差し止められた段階で、荷主に事情を伝え、意見書・証明資料の準備を迅速にサポートする役割が求められます。 これは使えそうです。
なお、知財侵害品については「認定手続き」という独自のプロセスがあります。権利者と輸入者の双方が意見を述べる機会が設けられており、実際には10日〜数週間の時間がかかることがあります。この期間中、貨物は保税地域に留め置かれるため、通関遅延・保管料の発生という実務上のコストも生じます。コスト面のリスクも見落とせません。
禁制品を含む可能性が高い貨物には、実務上の"サイン"があります。税関の差し止め事例や通関トラブルの事例から、以下のような傾向が指摘されています。 nissin21.co(https://nissin21.co.jp/cat_service/cat_logistics/%E7%A8%8E%E9%96%A2%E3%81%8B%E3%82%89%E8%B2%A8%E7%89%A9%E3%82%92%E3%81%A8%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%EF%BC%81%EF%BC%88%E9%80%9A%E9%96%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%82%E3%82%8C/)
- 📦 品名・重量・申告価格の不整合:インボイス記載の品名と実際の重量が大きく乖離している
- 🌐 仕出し国と品目の組み合わせが不自然:覚醒剤の密輸入仕出し地は、令和4年実績でアジア(101件)・北米(83件)・欧州(40件)の順に多い hakusyo1.moj.go(https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/70/nfm/n70_2_4_2_2_2.html)
- 🏷️ ブランド品の輸入で価格が著しく安い:大手ブランドの正規卸価格を大幅に下回る申告価格は知財侵害品のサイン
- 📮 国際郵便物の急増・小口多発:令和4年の覚醒剤密輸入摘発では国際郵便物経由が127件と急増 hakusyo1.moj.go(https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/70/nfm/n70_2_4_2_2_2.html)
- 📄 依頼人が特定書類の提出を拒む:原産地証明・正規ライセンス証明の提出を求めると急に連絡が取れなくなるケース
大事なのは、「怪しい」と感じたときに依頼人へ追加確認を求めることです。 この一声が、後々の責任追及を免れる根拠になりえます。依頼人への問い合わせと、その記録の保存が条件です。 nissin21.co(https://nissin21.co.jp/cat_service/cat_logistics/%E7%A8%8E%E9%96%A2%E3%81%8B%E3%82%89%E8%B2%A8%E7%89%A9%E3%82%92%E3%81%A8%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%EF%BC%81%EF%BC%88%E9%80%9A%E9%96%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%82%E3%82%8C/)
なお、通関業務で日常的に扱う輸入申告書・インボイスの精査をデジタルツールで補助する方法も広まっています。品名の自動翻訳・コード照合機能を持つ通関管理システムを活用することで、申告内容の矛盾を早期に検知できます。特定のシステム名は荷主の業種・規模によって異なりますが、税関のC-ANSWERやNACCSの入力補助機能を起点に確認する方法が手軽です。
参考リンク(関税法69条の11の条文全文・カスタムスアンサー公式解説)。
税関 カスタムスアンサー「輸出又は輸入してはならない貨物」一覧(財務省税関)
実務でよく見落とされるのが、荷主自身が「知財侵害品と知らずに発注している」ケースです。これは麻薬や銃砲とは異なり、一般的な商業貨物として申告されます。意外ですね。
典型例は、海外EC(主に中国系プラットフォーム)で仕入れた商品のロゴ・デザインが、日本の登録商標に抵触しているケースです。荷主側は「安く仕入れられた正規品」と信じており、インボイスにも堂々と品名が記載されています。通関業者としては一見、正常な輸入貨物に見えます。
しかし税関の知財侵害品摘発は増加傾向にあり、2023年度の差し止め件数は年々高水準で推移しています。 この場合、税関から輸入者への通知が届いた時点で初めて荷主が侵害事実を知ることになり、通関業者も巻き込まれる形で対応が必要になります。 customs.go(https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm)
対策として、荷主が海外EC経由での仕入れを行っている場合は、商標権の照会を事前に促す一言が有効です。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で商標検索が無料でできることを荷主に伝えておくだけで、リスクを大幅に低減できます。荷主への情報提供が条件です。
J-PlatPat(特許情報プラットフォーム):商標の無料検索ができる特許庁の公式ツール。知財侵害リスクの事前確認に活用できる。
通関業者は「申告の代行者」である以上に、貨物のリスク評価を荷主と共に行うアドバイザー的役割が求められる時代になっています。禁制品のリストを暗記することだけでなく、荷主とのコミュニケーションに組み込んだ実務フローの設計こそが、今後の通関業者の競争力に直結します。これが本質です。
参考リンク(税関による輸出入禁止・規制品目の最新情報)。
税関「輸出入禁止・規制品目」公式ページ(財務省税関):最新の禁止・規制品目リストと根拠法令が確認できる。