商工会議所への申請ゼロで特恵税率が使えるが、虚偽申告は500万円以下の罰金になります。
日EU・EPAで採用されている原産地証明の方式は、多くの方が想像する「商工会議所が発行する原産地証明書」とは根本的に異なります。日本が締結しているEPAの多くは、経済産業省の委託を受けた日本商工会議所が原産地証明書を発給する第三者証明制度を採用しています。しかし日EU・EPAはこのルートを採用していません。
つまり、第三者証明制度が使えます。
日EU・EPAでは、輸出者または生産者が自ら原産地に関する申告文を作成する自己申告制度のみが採用されています。商工会議所への申請手続きや発給待ちの時間が一切不要で、インボイスなどの商業文書に定められた申告文を記載するだけで原産品申告書が完成します。この点は、貿易実務の効率化という観点からは大きなメリットです。これは使えそうです。
ただし、第三者によるチェックが介在しないぶん、申告の責任はすべて輸出者・生産者が負う仕組みになっています。下の表で主要EPAの証明制度の違いを確認しておきましょう。
| EPA/FTA | 第三者証明制度 | 認定輸出者自己証明 | 自己申告制度 |
|---|---|---|---|
| 日シンガポール・日タイ・日アセアン等 | ✅ | ー | ー |
| 日メキシコ・日スイス等 | ✅ | ✅ | ー |
| 日オーストラリア | ✅ | ー | ✅ |
| CPTPP(TPP11) | ー | ー | ✅ |
| 日EU・EPA | ー | ー | ✅のみ |
| 日英EPA | ー | ー | ✅ |
上の表からわかるように、日EU・EPAとCPTPP、日英EPAは自己申告制度のみです。これが原則です。
日EU・EPAにおける「輸出者」の定義も独特です。協定上の「輸出者」には、産品を実際に輸出申告する者だけでなく、生産者や商社も含まれます。たとえば、生産者(メーカー)が商社を通じて輸出する場合、生産者が「輸出者」として申告文を作成することも、商社が生産者の情報に基づいて申告文を作成することも、どちらも協定上認められています。
ここが重要なポイントです。「輸出者=輸出申告をする人」という思い込みは危険で、申告の責任者を誰にするかの判断が実務では問われます。
参考:税関による自己申告制度の総合案内ページです。日EU・EPAをはじめ、日豪・CPTPP・RCEPなどの各協定における輸出時の原産地手続きの流れが図解付きで確認できます。
EPAの自己申告制度を利用した日本からの輸出について(税関)
原産品申告書(原産地に関する申告)は、協定附属書3-Dに規定された定型の申告文をインボイスその他の商業文書に記載することで完成します。様式に定めはないため、専用の用紙は不要です。既存のインボイスやパッキングリストに直接申告文を書き込むか、別紙(企業レターヘッド付き用紙など)に記載して添付する方法でも問題ありません。
記載が必要な項目は以下の6つです。
- 🗓️ ①申告適用期間:同一産品が12か月以内に2回以上輸出される場合、期間を記入(1回のみの場合は空欄)
- 🔢 ②輸出者参照番号:日本側輸出者の場合は法人番号(13桁)を記載。番号がない場合は住所を記載
- 🌏 ③原産地:日本(Japan)と記載
- 📊 ④原産性判定基準コード:A〜Eのコードで原産性を満たした根拠を示す
- 📍 ⑤場所および日付:申告文を作成した場所と日付
- ✍️ ⑥輸出者の氏名または名称
原産性判定基準コードの一覧
| コード | 意味 |
|---|---|
| A | 完全生産品 |
| B | 原産材料のみから生産される産品 |
| C1 | 関税分類変更基準を満たす産品 |
| C2 | 付加価値基準を満たす産品 |
| C3 | 加工工程基準を満たす産品 |
| C4 | 自動車のPSR(特定部品関連の生産工程)を満たす産品 |
| D | 累積を適用する場合 |
| E | 許容限度(デミニマスルール)を適用する場合 |
申告文自体は日本語でも作成できますが、EU側税関での確認時に日本語が解読できないケースがあります。現実的には英語で作成するほうが無難です。
また、1枚のインボイスに複数の産品が含まれている場合、協定上は産品ごとに申告文を作成するという明確な規定はありません。ただし、どの産品にどの原産性基準コードを適用したか、また日EU・EPAの対象外の産品はどれかを明確に記載する必要があります。実務上はドラフトを作成して輸入者側に確認してもらうプロセスが推奨されています。
さらに見落とされがちな点として、法人番号の英語表記登録があります。EU側の税関は日本側輸出者の法人番号を、国税庁法人番号公表サイトの英語版で照合します。英語版への登録は自動では行われないため、登録作業を事前に済ませておかないと、EU税関が番号を照合できず手続きが止まる可能性があります。英語版登録は無料で行えます。
参考:税関が公開している自己申告制度の手引き解説書です。申告文の書き方・記載項目・シナリオ別の対応方法など、実務に直結する内容が網羅されています。
自己申告制度には、実務を大幅に効率化できる2つの重要なルールがあります。知っていると手間を大きく削減できる内容です。
①課税価格20万円以下は原産品申告書の提出が免除
協定第3・20条の規定により、1回の輸入申告における課税価格の総額が20万円以下の場合は、原産品申告書(自己申告書類)の提出が不要です。つまり小口貨物であれば、複雑な申告文の作成や書類準備を省略してEPA特恵税率を受けられる可能性があります。20万円という金額は、例えば薄型ノートパソコン1台に満たないような金額感です。
ただし、この免除はあくまで「提出の免除」であって、原産性の要件を満たさない産品に特恵税率を適用してよいという意味ではありません。原産性の要件は引き続き満たしている必要があります。少額でも要件を満たすことが条件です。
②12か月間の包括申告で毎回の書類作成を省略
同一の産品を12か月以内に2回以上輸出する場合、申告適用期間の欄に「期間(最長12か月)」を記載することで、1枚の申告文を複数回の輸出に包括的に使用できます。毎回インボイスに申告文を新規作成する手間が省けるため、定期的にEU向けに同一商品を輸出している企業にとっては大きな時間節約になります。
2回目以降の輸入通関では、初回の申告文との関連付けのため輸入通関書類への記載が必要なケースもあります。輸入者側と事前に運用を確認しておくことが実務のポイントです。包括申告の活用が原則です。
これら2つのルールを組み合わせることで、特に中小企業が日EU・EPAを活用する際のコスト・手間のハードルを下げることができます。
参考:ジェトロが公開している日EU・EPAの特恵関税利用(輸出時)の留意点資料です。包括申告の運用や複数回輸送時の手続きについて図解で説明されています。
自己申告制度の最大のリスクが、書類保存義務の不履行と虚偽申告による法的制裁です。自己責任の制度であるがゆえに、正確な運用を怠ったときのダメージは大きくなります。
書類保存の期間と対象書類
| 立場 | 保存期間 | 対象書類 |
|---|---|---|
| 輸出者・生産者(日本側) | 作成日から4年間 | 原産品申告書の写し、原産性を示す全記録 |
| 輸入者(日本側) | 輸入許可日の翌日から5年間 | 原産品申告書、原産性を示す全記録 |
輸出者と輸入者で保存期間が異なることに注意が必要です。輸出者は4年、輸入者は5年です。
保存すべき書類には、インボイスのコピーだけでなく、原産性の根拠となる総部品表・製造工程フロー図・原材料一覧表・製造原価計算書なども含まれます。「申告文は書いたが、根拠資料を捨ててしまった」という状態は義務違反になります。
虚偽申告の罰則は非常に重い
関税法では、虚偽の記載を行った場合に5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されると定められています(関税法第111条)。たとえ故意でなくても、原産地要件を満たしていない産品に申告文を記載してEPA税率を適用した場合、過去数年分の差額関税に加えて追徴課税が課される可能性があります。
痛いですね。
また、虚偽申告は輸入時に見逃されたとしても、輸入税関による事後調査で後日発覚するケースが少なくありません。事後調査が入った場合、製造工程・仕入先情報・価格表などを包括的に求められ、証明できなければ過去の輸入分にさかのぼって特恵税率の否認・追徴課税が行われます。追徴課税の金額は複数年分になると高額になり得ます。
もし原産地要件を満たすかどうか不明な産品がある場合は、各税関が提供する事前教示制度を活用することが賢明です。事前に書面で回答を得ておけば、後日の調査でもその回答を根拠として示すことができます。
参考:EPA・FTAを利用した輸入申告で虚偽申告を行った場合の罰則・リスクを、弁護士視点で解説したページです。具体的な典型例も紹介されています。
日EU・EPAの自己申告制度には、多くの実務担当者が見落としている重要な選択肢があります。それが「輸入者自己申告(輸入者の知識)」です。
多くの人は「自己申告=輸出者・生産者が申告文を書くもの」と思っています。
しかし日EU・EPAでは、輸出者・生産者が申告文を作成する「輸出者自己申告」に加えて、輸入者自身がその知識と保有情報に基づいて原産性を申告する「輸入者自己申告」も認められています(協定第3・16条2(b))。たとえばEUから日本に輸入する際、EU側の輸出者から申告文が入手できない場合でも、輸入者側が十分な原産性情報を保有していれば、輸入者自己申告を選択できます。
輸入者自己申告が条件です。
ただし輸入者自己申告の場合、輸入者はすべての原産性証明責任を自ら負うことになります。税関から確認が入った際には、輸入者は3か月以内に必要な情報を集めて提出する義務があります(協定第3・24条)。輸出者に情報提供を求めることができる立場ではないため、サプライヤーとの情報共有体制が整っていない場合には相当のリスクがあります。
検証(確認)手続きの実態
輸出者自己申告に基づいて特恵待遇を要求した場合、EU税関が原産性を確認するプロセスは次の2段階です。
1. 手順1:EU税関が輸入者に対して情報提供を要請する
2. 手順2(a):手順1で情報が不十分な場合、EU税関が日本税関に「運用上の協力」を要請し、日本税関が輸出者に確認する
重要なポイントは、EU税関が直接輸出者に情報を求めたり、輸出者の事務所を訪問したりすることは協定上できないという点です。つまり輸出者は、輸入者経由またはEU税関からの日本税関への協力要請という2つのルートを経て確認される構造になっています。
輸入者自己申告の場合は手順2(a)の「EU税関→日本税関」の経路が使えず、EU税関はすべての確認を輸入者に向けて行います。これが条件です。
参考:トムソン・ロイターによる日EU・EPA原産地規則の証明手順と注意点の解説記事です。輸入者自己申告の手続きや検証プロセスを含め、実務課題を網羅的にまとめています。
日EU経済連携協定(FTA/EPA)原産地規則に基づく証明手順と注意点(トムソン・ロイター)