純額主義で申告している荷物が、実は総額主義で計算しなければならないケースだった場合、関税の過少申告で追徴課税を受けることがあります。
輸入申告における課税価格の計算方法には、大きく分けて「純額主義」と「総額主義」の2種類があります。この2つの違いを正確に把握することは、通関業従事者にとって非常に基本的かつ重要なスキルです。
純額主義とは、仕入書(インボイス)に記載されている価格そのものを課税価格の基礎とする考え方です。つまり、売主が買主に対して請求する商品代金そのものを課税ベースに使います。運賃や保険料が仕入書価格に含まれていない場合、それらを加算せずにそのまま申告します。
総額主義とは、商品代金に加えて、輸出港から輸入港に到着するまでにかかった運賃・保険料(場合によっては梱包費用なども)を合算した価格を課税価格の基礎とする考え方です。これが関税定率法第4条に基づく「CIF価格」を基礎とする課税方法と深く結びついています。
つまり基本は「CIF価格を課税標準にする」が原則です。
日本の関税制度では、原則としてCIF(Cost, Insurance and Freight)価格ベースで課税価格を算定します。これは総額主義的な考え方に近いと言えます。一方、FOB価格(本船渡し価格)で取引されている場合には、日本の税関に輸入申告する際に別途、運賃・保険料を加算して課税価格を計算し直す必要があります。
この加算計算を正確に行わないと、課税価格が低くなりすぎて過少申告につながります。これは実務上、見落とされがちな落とし穴のひとつです。
関税法・関税定率法に関する税関の公式資料はこちらが参考になります。
税関|関税法・関税定率法等の法令・通達情報(財務省関税局・税関)
純額主義・総額主義の適用を理解するうえで、インコタームズ(Incoterms)との関係を無視することはできません。インコタームズとは、国際商業会議所(ICC)が制定した貿易取引条件の国際規則で、現在はIncoterms® 2020が最新版です。
FOB条件の取引は純額主義的です。売主の責任と費用負担は輸出港で貨物が本船に積み込まれた時点で終わります。そのため、仕入書価格にはその後の運賃・保険料が含まれていません。日本の通関では、このFOB価格に国際運賃と保険料を加算してCIF価格に換算し直す必要があります。
CIF条件の取引は総額主義的です。売主が輸入港までの運賃・保険料を負担するため、仕入書価格にそれらが含まれていることが多く、そのまま課税価格の計算に使用できます。
注意が必要なのはEXW(工場渡し)条件です。EXW条件では売主の費用負担が最小限であるため、仕入書価格には国内搬送費・輸出通関費・国際運賃・保険料がすべて含まれていません。これらすべてを加算しなければ正しいCIF価格に到達できません。意外ですね。
Incoterms® 2020の各条件と費用負担の詳細については以下を参照してください(取引条件ごとの費用区分が整理されています)。
日本商工会議所|インコタームズ2020の解説・各条件の費用負担区分
実務では、仕入書に記載されている取引条件(インコタームズ)を確認することが最初のステップです。そこから「運賃・保険料が含まれているか否か」を判断し、加算が必要かどうかを決定します。インコタームズの確認が条件です。
また、同じCIF条件であっても、仕入書に「運賃込み」とだけ書かれていて実際の金額が不明の場合は、別途輸送会社からの運賃明細書(Freight Invoice)を取り寄せて正確な金額を確認する必要があります。この作業を省略すると課税価格の計算が不正確になります。
概念の理解だけでなく、実際の計算例を見ておくことが実務では欠かせません。
【例1:FOB取引の場合】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 仕入書価格(FOB) | USD 10,000 |
| 国際運賃 | USD 500 |
| 保険料 | USD 50 |
| CIF換算後の課税価格 | USD 10,550 |
FOBで申告した場合、USD 10,000のみを課税価格にしてしまうと、USD 550分(約8万〜9万円相当、為替レートによる)が課税漏れになります。関税率が仮に5%であれば、4,000円〜5,000円程度の関税が不足する計算です。
【例2:CIF取引の場合】
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 仕入書価格(CIF) | USD 10,550 |
| 国際運賃(仕入書に含まれる) | 加算不要 |
| 保険料(仕入書に含まれる) | 加算不要 |
| 課税価格 | USD 10,550 |
CIF条件ではそのまま使えます。これが基本です。
よくあるミスパターンとして以下が挙げられます。
- FOB価格に運賃を加算したが保険料を忘れる
- 国内の内陸運賃を誤って国際運賃に加算してしまう(輸入港着後の国内搬送費は課税価格に含めない)
- 売主が本来のCIF価格よりも低い価格で仕入書を作成していて、申告価格が実際より低くなっている(いわゆる「アンダーバリュー」)
アンダーバリューは意図的であれ非意図的であれ、税関の審査で発覚した場合は修正申告が必要になり、追徴課税の対象となります。これは法的リスクに直結します。
課税価格の計算に関する税関の実務解説はこちらも参照してください(仕入書価格の取扱いについて詳しく解説されています)。
税関|課税価格の計算方法に関する実務資料(輸入申告価格の評価方法)
通関業従事者が実務上、最も注意すべきリスクのひとつが「過少申告加算税」と「重加算税」です。
過少申告加算税は、申告した税額が本来の税額よりも少なかった場合に課されます。原則として、不足税額の10%が加算されます。ただし、修正申告が税関から指摘される前に自主的に行った場合は加算税が免除または軽減されることがあります。これは知っていると得する情報です。
一方で、申告価格を故意に低く申告した場合(意図的なアンダーバリュー)は、重加算税の対象となります。重加算税の税率は不足税額の35%です。さらに悪質なケースでは関税法違反として刑事事件に発展することもあります。痛いですね。
また、輸入者(荷主)に対してだけでなく、申告を代行した通関業者も行政処分の対象になる可能性があります。具体的には通関業法第35条に基づく業務停止処分(最大30日)や登録取消処分のリスクがあります。通関業者としての信用とライセンスを失うことは、事業存続にかかわる重大な問題です。
自主的な修正申告が条件です。誤りに気づいた時点でできるだけ速やかに税関に申し出ることが、ペナルティを最小限に抑える現実的な対処法となります。
通関業法の条文と行政処分に関する詳細はこちらで確認できます。
なお、課税価格の計算誤りは個人の担当者レベルのミスにとどまらず、会社全体の税関との信頼関係にも影響を与えます。税関は審査履歴を蓄積しており、過去に誤申告が多い輸入者・通関業者には書類審査や貨物検査が増える傾向があります。つまり、次の案件にも影響が出るということです。
理論を理解したうえで、現場でスムーズに判断するための実務的なフローを整理します。
【課税価格算定の判断フロー】
1. 仕入書の取引条件(インコタームズ)を確認する
→ CIF・CIP条件 → 仕入書価格をそのまま課税価格のベースにできる可能性が高い
→ FOB・FCA・EXW条件 → 運賃・保険料の加算が必要
2. 仕入書に運賃・保険料が明示されているか確認する
→ 記載あり → 加算済みか否かを確認
→ 記載なし → 別途、B/Lまたは運賃明細書で金額を確認
3. 国内搬送費・通関費用が含まれていないか確認する
→ 輸入港到着後に発生した費用は課税価格に含めない
4. 仕入書価格が実際の取引価格と一致しているか確認する
→ 親子会社間取引・関連者間取引の場合は移転価格のチェックも必要
このフローを1件ずつ確実に踏むことで、計算ミスの大半は防げます。これは使えそうです。
実務チェックポイントとして以下も押さえておいてください。
- 🗂️ B/L(船荷証券)と仕入書の運賃記載が一致しているかを毎回照合する
- 🔍 保険証券(Insurance Policy)の金額が課税価格に適切に反映されているかを確認する
- 📋 輸入許可書(I/P)の課税価格欄に最終的な計算結果が正確に反映されているかをダブルチェックする
- 🔄 同一取引先との継続取引でも、毎回インコタームズが変更されていないか確認する(過去の申告をそのまま流用しない)
継続取引でのインコタームズ変更は見落とされがちです。意外ですね。
また、関税評価(課税価格の算定方法)については「関税評価に関する協定(WTO協定)」に基づいた日本の国内法である関税定率法第4条〜第4条の9が根拠となっています。複雑なケース(例:ロイヤリティの加算、売主へのキックバックがある場合など)は、事前に税関の事前教示制度を活用することが推奨されます。
事前教示制度については以下で詳細を確認できます(回答事例も掲載されており実務の参考になります)。
事前教示制度は無料です。難しいケースは迷わず活用することで、申告ミスを未然に防ぐことができます。通関業務の品質向上にも直結する手段として、社内での活用フローを整備しておくとよいでしょう。