移転価格事務運営指針金利設定で損失回避

通関業務従事者にとって見過ごせない移転価格事務運営指針の金利設定。2022年の改正で親子ローンの金利算定方法が大きく変わり、従来の方法では課税リスクが高まっています。適正な金利設定を怠ると追徴課税や重加算税のリスクも。あなたの会社は大丈夫ですか?

移転価格事務運営指針の金利設定

親会社の調達金利に少し上乗せするだけで親子ローンの金利設定は問題ないと思っていませんか?

この記事の3つのポイント
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2022年6月の事務運営指針改正

親子ローンの金利設定方法が抜本的に見直され、借手の信用格付評価が必須に

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従来方法のリスク

親会社の調達金利ベースの設定は認められず、最長7年の更正期間で追徴課税の可能性

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適正な対応方法

海外子会社の信用格付評価と客観的データベースを使った金利算定が必要

移転価格事務運営指針とは何か

移転価格事務運営指針は、国税庁が租税特別措置法第66条の4に基づき、移転価格税制の適正で円滑な執行を図るために定めた事務運営上の指針です。この指針は、国外関連者との取引における独立企業間価格の算定方法や、具体的な運用方針を示しています。
参考)https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/010601/00.htm

2022年6月に国税庁がこの指針を一部改正し、特に金融取引に関する取扱いが大きく変更されました。改正の背景には、2022年1月にOECDが公表した移転価格ガイドラインの金融取引に関する新指針があります。国際的なコンセンサスに従う形で日本も指針を改正したということですね。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/3e492cc1ac07ab63c1507d4e765df264eba331f0


通関業務に携わる方々にとって、この指針は輸入申告価格と密接に関連します。移転価格調整金が発生した場合、税関輸入申告価格を構成する価格とみなされ、修正申告が必要になるためです。
参考)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/tax-customs/wms-20240927.html

移転価格金利設定の改正前後の違い

改正前の移転価格事務運営指針では、親子ローンの金利設定に一定の優先順位がありました。具体的には、①借手の銀行調達金利、②貸手の銀行調達金利、③国債の利回りの順で金利を設定する方法が認められていました。​
多くの日本企業は、親会社が外部金融機関から資金調達した際の金利に若干のコストを加えた金利を適用していました。この方法は実務上簡便で、コスト逆ザヤを避けられるため広く採用されていたのです。
しかし改正後は、借手である海外子会社の信用力、貸付期間、貸付の諸条件等に基づいて金利を設定することが求められるようになりました。つまり、親会社の調達コストではなく、借手のリスクを反映した金利が基本です。これは原則論への回帰と言えます。​
比較対象取引を見いだすことが困難な場合は、借手の見做し信用格付を評価し、その格付に基づいて金利を算定する必要があります。同じ信用格付の事業体が発行する債券利回りや貸付金利等を基に独立企業間価格を算定する方法が標準となりました。​

移転価格課税の具体的リスクと影響

移転価格課税の更正期間は最長7年間です。これは通常の法人税の更正期間(5年)よりも長く、遡及的に課税される金額が巨額になる可能性があります。
参考)移転価格課税リスクとその回避方法 |税務トピックス | 辻・…

適正な金利よりも低い金利で海外子会社に貸し付けていた場合、本来得られるべき利息収入との差額について所得金額に加算される更正処分を受けます。さらに、この差額が国外関連者に対する寄附金とみなされるケースもあります。
参考)親子ローン利息取引の判例分析~移転価格税制~ ‣ JGA税理…


実際の判例では、タイバーツ建で年2.5~3.0%の固定金利で海外子会社に貸し付けていた企業が、税務当局から市場金利との差額について課税処分を受けた事例があります。この事例では、スワップレートを用いた長期固定金利の調達コストに信用スプレッドを加算した金利が独立企業間価格とされました。​
税務調査が長期化すると、事務負担と資金負担が多大になります。専門家への相談費用、追徴課税額、延滞税、場合によっては重加算税も発生する可能性があるため、企業の財務に深刻な影響を与えます。3月決算企業の場合、2024年3月期以降の事業年度から改正指針が適用されるため、すでに調査対象期間に入っています。​

移転価格適正金利の算定方法

海外子会社の信用格付を評価する方法は主に3つあります。第一に、第三者信用格付評価機関(S&P、Moody's等)に正式に評価を依頼する方法がありますが、費用が高額なため現実的ではありません。
第二に、第三者データベース会社が提供する簡易的な信用格付評価ツールを利用する方法です。これが事業会社の間で一般的になっています。自社でデータベース会社と直接契約するか、既に契約している外部コンサルティング会社に依頼するかを選択できます。
第三に、親会社が既に第三者信用格付を取得している場合、S&Pが公表する「グループ格付け手法」を使う方法があります。海外子会社のグループ内での重要性を5区分で評価し、「中核」または「戦略的に非常に重要」と判定されれば、追加費用なしで格付評価が可能です。それ以外の区分なら改めて評価ツールを使います。
信用格付評価後は、その結果に基づいて第三者データベースを使用したベンチマーク分析を実施します。借手と同等の信用格付を持つ事業会社が発行する債券の利回りデータを取得し、貸付の諸条件(通貨、期間、担保、オプション等)を考慮して比較可能性を検討したうえで金利を算出します。変動金利の場合はベースレートとスプレッドをそれぞれ適切に設定し、固定金利の場合は契約時点のマーケットデータとの妥当性を検証することが重要です。
参考)移転価格事務運営要領の金融取引に関する改正ポイントについて解…

通関業務への影響と実務対応

移転価格調整金が遡及的に支払われた場合、日本の輸入企業が海外関連会社に支払う調整金のほとんどは、税関輸入申告価格を構成する価格とみなされます。このため、輸入企業は税関修正申告を行い、追加の関税や輸入消費税を支払う必要があります。​
関税の観点では、移転価格調整による価格変更が事前価格合意(APA)の有効性を損なったり、移転価格文書で採用した価格算定方法との矛盾が生じる恐れがあります。通関業務と税務を統合したガバナンス体制の構築が求められます。
参考)トランプ関税への対応と移転価格への影響


実務対応としては、まず既存の親子ローン取引について金利設定の見直しが必要です。短期ローンをロールオーバーしているケースでは、実質的に長期ローンとみなされ、より高い金利が適用される可能性があるため注意が必要です。​
金利設定の根拠を合理的に説明できるよう、信用格付評価結果、ベンチマーク分析のプロセス、使用したデータベース、比較対象取引の選定基準などを文書化しておくことが肝要です。税務調査で抗弁できる準備を整えましょう。​
借手が所在する国の移転価格税制も確認する必要があります。租税条約に関する届出(利子に対する所得税の軽減・免除)において、海外子会社の所在国で移転価格文書や金利ベンチマーク分析の提出が求められるケースも出てきています。関連当事者国での対応を踏まえた検討が理想的です。​
国税庁「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」
移転価格税制の基本的な考え方と具体的な運用指針が記載されています。
東京共同会計事務所「海外子会社への貸付時、金利はどう設定する?」
親子ローンの金利設定方法について実務的な解説が掲載されています。