租税条約は関税や消費税の対象外です。
日本は2026年2月1日現在、90条約等を締結し、157か国・地域に租税条約を適用しています。これは旧ソ連や旧チェコスロバキアとの条約が複数国へ承継されているため、条約数と国・地域数が一致しない仕組みです。
参考)租税条約と日本が租税条約を締結している国について - RSM…
対象国は地域別に以下の通りです。
アジア・大洋州(29か国・地域)
欧州(46か国・地域)
北米・中南米(34か国・地域)
中東(9か国・地域)
アフリカ(15か国・地域)
2025年11月にはアルメニアとの新租税条約が発効し、2025年12月にはキルギスとの新租税協定が署名されるなど、中央アジア諸国との租税条約網が拡充されています。つまり対象国は継続的に増加中です。
参考)租税条約に関するプレスリリース : 財務省
財務省の租税条約ネットワーク資料では、最新の締結状況を地図形式で確認できます。
参考)https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/tax_convention/260201JP.pdf
財務省「我が国の租税条約ネットワーク」では地図形式で対象国を視覚的に確認可能
租税条約は所得税・法人税・住民税を対象としており、関税や消費税は対象外です。したがって、通関業務従事者が日常的に扱う輸出入時の関税や消費税には租税条約の規定は適用されません。
参考)https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/backnumber/journal/08/pdf/08_03.pdf
具体的には以下の税目が対象となります。
参考)https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/glossary/tax-treaty.html
輸入する貨物の納税義務者は、通関業務を委託した者であり、通関業者ではありません。また、輸入取引では事業者免税点制度などの規定も設けられていないため、租税条約の適用を検討する余地がない仕組みです。
どういうことでしょうか?
通関業務で発生する税金と租税条約で軽減される税金は別物ということです。租税条約が関係するのは、海外への支払い時に発生する源泉徴収税(使用料、配当、利子など)や、海外子会社からの所得に対する課税です。
参考)租税条約とは?適用されるための手続きや適用が想定されるケース…
ただし、輸出入業務に関連する取引で海外企業へ使用料や業務委託料を支払う場合には、租税条約の適用が必要になります。例えば、海外のシステム会社にライセンス料を支払う際には、原則20.42%の源泉徴収が必要ですが、租税条約により10%や5%、または免税になることがあります。
参考)【法人税】租税条約の実務で注意すべきポイント4つ
租税条約の軽減税率適用には「租税条約に関する届出書」の提出が必須です。この届出書は支払者(源泉徴収義務者)を通じて税務署に提出します。
提出期限は原則として「最初にその支払を受ける日の前日まで」とされています。しかし、この期限は効力要件ではないため、期限後に提出しても軽減税率の適用を受けることができます。
参考)連載 リスクコンシェルジュ~税務リスク 第37回 租税条約に…
期限後提出の場合の手続きは以下の通りです。
参考)【国際取引の税務〜支払編⑦〜】租税条約届出書を提出しなかった…
この場合、不納付加算税や延滞税などのペナルティが発生するリスクがあります。結局は還付されるので同じに見えますが、納税漏れとして扱われる点に注意が必要です。
源泉徴収を全く行わなかった場合も同様の流れとなり、まず20.42%全額を納付した上で還付請求を行います。
届出書は支払を受ける側(海外企業など)が作成する必要があり、支払者のみで作成することはできません。取引関係が終了している場合には協力が得られない可能性があるため、取引継続中に手続きを完了させることが重要です。
国税庁のウェブサイトでは還付請求の手続き詳細を確認できます。
国税庁「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求」で具体的な還付手続きを解説
一部の租税条約には「特典条項」が設けられており、実体のないペーパーカンパニーによる不当な租税条約の利用を防止しています。特典条項の適用を受けるには、「特典条項に関する付表」という書類の添付が必要になるケースがあります。
参考)租税条約における「特典条項」とは?
特典条項は主に以下の要素で構成されています。
| 条項の種類 | 目的 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| 限定的租税負担者条項(LOB条項) | 実質的な居住者に限定 | 一定割合以上の株主が条約締結国の居住者である企業のみ特典を受けられる |
| 主たる目的テスト(PPT条項) | 租税回避目的の取引を排除 | 条約の恩恵を受けることが主目的の場合は税制優遇を否認 |
| 実体要件 | ペーパーカンパニーの排除 | 事業活動の拠点があるかどうかを判断基準とする |
| ベネフィシャルオーナー要件 | 名義上の受取人を排除 | 実際の受益者のみが租税条約の特典を受けられる |
これは何のためかというと、第三国の企業が租税条約の恩恵を不当に受けることを防ぐためです。
参考)https://premierta.com/knowledge/%E7%89%B9%E5%85%B8%E5%88%B6%E9%99%90%E6%9D%A1%E9%A0%85-%EF%BD%9E%E7%A7%9F%E7%A8%8E%E6%9D%A1%E7%B4%84%E3%81%AE%E6%BF%AB%E7%94%A8%E9%98%B2%E6%AD%A2/
例えば、日本企業がシンガポールに子会社を設立し、その子会社が米国企業から配当を受け取る場合を考えます。特典条項がなければ、シンガポール子会社が単なる「中継会社」となり、日本企業が低税率の恩恵を受けられるよう操作できます。特典条項があれば、シンガポール子会社が実質的な事業活動を行っていなければ、米国の配当に関する軽減税率の適用を受けられません。
厳しいところですね。
ただし、この規定により租税条約が適正に運用され、本来の目的である二重課税の排除と脱税防止が実現されます。通関業務で海外企業と取引する際には、相手企業が実体のある企業かどうかを確認することが、後々のトラブル回避につながります。
租税条約の届出を怠った場合でも、後から還付請求が可能です。還付請求は所轄税務署長に対して行い、必要書類を揃えて提出します。
参考)No.2889 租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求|国税…
還付請求の際に必要となる主な書類は以下の通りです。
通関業務従事者として実務で注意すべき点は、海外企業への支払いが発生する取引形態です。具体的には、海外のシステムライセンス料、技術指導料、コンサルティング料などが該当します。
参考)第85回 「租税条約の基礎と実務上の留意点」|税務会計業務の…
これらの支払いでは原則20.42%の源泉徴収が必要ですが、租税条約により軽減される可能性があります。2026年1月には新興国など一部の国・地域で租税条約の定めを超えた源泉徴収が行われているケースも報告されており、注意が必要です。
参考)新興国など一部の国・地域で租税条約の定めを超えた源泉徴収トラ…
つまり対象国の確認が重要です。
海外子会社からの配当については、租税条約とは別に「外国子会社配当の益金不算入制度」という国内法の特例措置もあります。発行済株式の25%以上を6か月以上保有している場合、配当金額の95%部分につき免税の適用を受けることが可能です。
実務では、取引開始前に相手国との租税条約の有無と内容を確認し、必要な届出書を事前に準備しておくことで、不納付加算税や延滞税のリスクを回避できます。